戦地せんちから帰還きかんした祖父そふ、祖母そぼにあてた手紙てがみの内容ないようは…　80年間ねんかん大切たいせつにされ棺かんへ「おじいちゃんが待まってるよ。おばあちゃん、迷まよわず行おこなってね」

「桃もも櫻さくらの花はなを見みる頃ころには」。ソプラノ歌手かしゅのHinaさんがXのアカウント（@Hinasoprano）で、そんなフレーズで始はじまる古ふるい便箋びんせんの写真しゃしんを公開こうかいしました。敗戦はいせん後ご、千葉ちばの療養りょうよう所しょから祖父そふが結婚けっこん前まえの祖母そぼに宛あてた手紙てがみの一節いっせつでした。流麗りゅうれいな筆ふで運はこびもさることながら、5万まん以上いじょうのユーザーの心しんを動うごかしたのは文章ぶんしょうから伝つたわる深ふかい愛情あいじょうでした。

手紙てがみは便箋びんせん4枚まいで、Xに投稿とうこうしたのは締しめの挨拶あいさつの一いち枚まい。「桃もも桜さくらの咲さく頃ころにお会あい出来できればと思おもいます。より一層いっそうご自愛じあいください。写真しゃしんを撮とったので1枚まい送おくります。お母様かあさまによろしくお伝つたえください。」という文意ぶんいです。手紙てがみの日付ひづけは「三さん月がつ三さん日にち」。文中ぶんちゅうに「敗戦はいせん」の言葉ことばもあり、敗戦はいせん翌年よくねんに書かかれたとうかがえます。他たの便箋びんせんには、「手てや足あし、ましてや命いのちを失うしなった人ひとを思おもうと自分じぶんは幸福こうふくだ」「貴女きじょの愛あいの手てにすがってみたい気持きもちで一いち杯はいです」と祖母そぼを強つよく思おもう内容ないようがつづられていました。そして手紙てがみの最後さいごは「最愛さいあいの貴女きじょへ、貴女きじょのY（編へん注ちゅう：祖父そふのイニシャル）」と。

手紙てがみは祖母そぼの棺かんに

受うけ取とった祖母そぼはこの手紙てがみをずっと大切たいせつにして、101歳さいで大だい往生おうじょうしました。手紙てがみは棺かんに入いれられ一緒いっしょに空そらに上のぼりました。「少すこし早はやく天国てんごくへ行いった祖父そふは祖母そぼを待まちに待まっているのでは。二人ふたりが再ふたたび会あえることを願ねがっています」「おばあちゃん迷まよわず行おこなってね」とつぶやいたHinaさんに聞ききました。

ーー孫まごであるHinaさんにとってお二に人にんは。

「祖父母そふぼはとてものどかな田舎いなかの原げん風景ふうけいのような土地とちに住すんでいました。穏おだやかで優やさしく働はたらき者もの。二人ふたりがけんかをしたり不機嫌ふきげんな顔かおを見みせたことは一いち度どもありませんでした。静しずかで幸しあわせな時間じかんを過すごしていました」

ーーこの手紙てがみはHinaさんのお母かあさんに託たくされていたのですか。

「50年ねんも前まえから棺かんに入いれることを祖母そぼと母ははは約束やくそくしており、手紙てがみ自体じたいは10年ねん前まえに祖母そぼが母ははに託たくしたそうです。ですが母ははも私わたしに話はなすことはなく、今回こんかい亡なくなって初はじめて聞きかされました。達筆たっぴつすぎてところどころ読よむことができず、義母ぎぼに手伝てつだってもらいました」

ーー読よみ終おえて。

「義母ぎぼと『まるで小説しょうせつを読よんだようでうっとりするね』と感想かんそうを話はなし合あいました。でも、この手紙てがみに触ふれ、一番いちばんに感かんじたのはもっと祖父母そふぼと話はなしをしておけばという後悔こうかいでした。祖父母そふぼはどちらかと言いえば寡黙かもくで、自分じぶんから話はなす人ひとではありませんでした。これから母ははにゆっくりと二人ふたりについて聞きいてみたいと思おもっています。戦争せんそうで祖父そふは運うん良よく生還せいかんできましたが、帰かえることができなかった方ほうもいます。あらためて愛あいする人ひとを思おもって戦場せんじょうで亡なくなった方ほうが大勢おおぜいいたのだと心しんが痛いたくなりました」

封筒ふうとう裏うらに√３

Hinaさんのお母かあさんが気きになったのは、封筒ふうとう裏うらの〆マークの代かわりに√（ルート）3と書かかれていた点てん。

√（ルート）を計算けいさんすることを「開ひらく」と言いいます。√３は1.7320…とどこまでも続つづく終おわりのない小数しょうすうのため、「開ひらく」ことができません。祖父そふは「この封筒ぶうとうは「開ひらく」ことはありません」というメッセージを込こめたのでしょうか。「祖母そぼに届とどくまでは開あけない、というシャレなんだと思おもいます。粋いきですね」と亡なき祖父そふの胸中きょうちゅうを思おもうHinaさん。「皆みなさまコメントは長年ながねん介護かいごを行おこなって来きた母ははにも伝つたえており、祖母そぼを失うしなった悲かなしみを癒いやしていただいております。ありがとうございます」と話はなしています。