MAPPA 大塚おおつか学まなぶ（代表だいひょう取締役とりしまりやく）

取材しゅざい・文ぶん / はるのおと 撮影さつえい / 武田たけだ真和まさかず

トップクラスのアニメスタジオが参加さんかするレースに乗のる

この秋あきだけでも「呪術じゅじゅつ廻まわり戦せん」「懐ふところ玉だま・玉たま折おり／渋谷しぶや事変じへん」や「『進撃しんげきの巨人きょじん』The Final Season完結かんけつ編へん（後編こうへん）」といったビッグタイトルが放送ほうそうされ、映画えいが「アリスとテレスのまぼろし工場こうじょう」も公開こうかい中ちゅうのMAPPA。アニメファンなら誰だれもが知しるスタジオだが、同社どうしゃはわずか12年ねん前まえの2011年ねんに、マッドハウスを退社たいしゃしたアニメプロデューサーの丸山まるやま正雄まさお氏しが設立せつりつした会社かいしゃだ。

「もともと、MAPPAは丸山まるやまが制作せいさくしたい作品さくひんがあって作つくられた会社かいしゃです。その1つが『この世界せかいの片隅かたすみに』ですが、その頃ころ、丸山まるやまは『ノイタミナ』枠わくで『坂道さかみちのアポロン』をアニメ化かするという企画きかくも持もっていました。その『坂道さかみちのアポロン』の渡辺わたなべ信一郎しんいちろう監督かんとくから『制作せいさくをやらないか』と僕ぼくに声こえがかかったんです。それまで僕ぼくはSTUDIO4℃という劇場げきじょうアニメが中心ちゅうしんのスタジオにいたのですが、自分じぶんの制作せいさく者しゃとしての能力のうりょくを上あげるために、TVシリーズを経験けいけんしたいと思おもっていて。しかも当時とうじの『ノイタミナ』は大人おとなが観みるアニメの最前線さいぜんせんとして勢いきおいがあったので興味きょうみがありました。そういったタイミングが重かさなり、僕ぼくは『坂道さかみちのアポロン』をきっかけにMAPPAの立たち上あげから参加さんかすることになったんです。

MAPPAに入はいって早々そうそうに、丸山まるやまが僕ぼくの自由じゆうにやらせてくれたのはありがたかったです。具体ぐたい的てきには会社かいしゃ経営けいえいの部分ぶぶんで、4℃のときは作品さくひん単体たんたいのことしか考かんがえていませんでしたが、MAPPAではアニメスタジオを経営けいえいするためにはどういうふうにお金かねを集あつめ、どう働はたらくのがいいかといったことに興味きょうみを持もって取とり組くみ始はじめたんです。『社長しゃちょうになりたい』とは考かんがえていませんでしたが、プロデューサーとして作品さくひんを制作せいさくする際さいに会社かいしゃの数字すうじを把握はあくしたうえで臨のぞむようになりました」

そんな大塚おおつか氏しが、2016年ねんの丸山まるやま氏しの会長かいちょう就任しゅうにんに伴ともなってMAPPAの2代目だいめ社長しゃちょうとなる。そのときに大塚おおつか氏しが抱だいていた思おもいは、現在げんざいも変かわらない飽あくなき向上心こうじょうしんだった。

「スタジオ経営けいえいに関かんするいろいろな数字すうじがわかってきて、僕ぼくの興味きょうみの対象たいしょうは『アニメを作つくる会社かいしゃで、企業きぎょうとして存続そんぞくし、どこまで成長せいちょうできるか』になっていました。だから2016年ねんに丸山まるやまから社長しゃちょうをやらないかと言いわれ、引ひき受うけたときにまず『生いき残のこる。そして、創つくり続つづける。』ということを考かんがえました。

それはアニメ業界ぎょうかいという小ちいさな枠わくの中なかではなく、いち企業きぎょうとしての話はなしです。そのために自分じぶんたちが何なにをするべきか考かんがえると、まず必要ひつようだったのは生産せいさん性せいを上あげること。京都きょうとアニメーションさんやufotableさんのクオリティに短期間たんきかんで追おいつくのはなかなか難むずかしいし、20年ねんや30年ねんかけてそこまで辿たどり着つこうとするのは後進こうしんのMAPPAとしては遅おそ過すぎる。だから先行せんこうしているスタジオとは違ちがうアプローチをする必要ひつようがありました。それで、クオリティの高たかさを維持いじしながらたくさん生産せいさんし経験けいけんを積つむ、同時どうじにスタジオをブランディングして、いかに最短さいたんでトップスタジオがいるレースに参加さんかできるかを考かんがえたんです」

アニメファンとしては、MAPPAは初期しょきの時点じてんからクオリティの高たかい作品さくひんを作つくり出だす“トップスタジオがいるレースに参加さんかしている”スタジオだったかもしれない。しかし大塚おおつか氏しの認識にんしきはそうではなかったようだ。

「レースに乗のろうという意識いしきは、2014年ねんに放送ほうそうされた『残響ざんきょうのテロル』や『神かみ撃げきのバハムート GENESIS』『牙きば狼おおかみ〈GARO〉-炎ほのおの刻印こくいん-』を作つくっていた頃ころにはすでにありました。しかし自分じぶんたちにはヒット作さくがない、その作つくり方かたがわからないというコンプレックスがあったんです。その後ごもいろいろ試行しこう錯誤さくごしながら作つくり続つづけ、初はじめて実みを結むすんだのが『ユーリ!!! on ICE』が放送ほうそうされ、『この世界せかいの片隅かたすみに』が上映じょうえいされた2016年ねんでした。“MAPPAという企業きぎょうの運命うんめいが変かわった”と言いっても過言かごんではないくらい、あの2タイトルのヒットはインパクトがあったし、周囲しゅういからの見みえ方かたも明確めいかくに変かわったんです。

特とくに『この世界せかいの片隅かたすみに』に関かんしては、映画えいがで国内外こくないがいのアニメ賞しょうをいただくといった結果けっかを残のこすことができました。正直しょうじき、会社かいしゃとしては早はやすぎるくらいの大おおきな成果せいかで、その後ご、同おなじような成果せいかを出だすプレッシャーがのしかかる感覚かんかくもありました」

ヒット作さくとビジネス規模きぼ

MAPPAにとって念願ねんがんだったヒット作さく。しかしその後ごに待まち構かまえていた現実げんじつは、大塚おおつか氏しの心しんに新あらたな思おもいを生うみ出だした。

「ヒット作さくを出だせたのはよかったけど、単純たんじゅんな制作せいさく業務ぎょうむの受託じゅたくではスタジオに入はいるお金かねが非常ひじょうに少すくなかったんです。何なにを基準きじゅんに少すくないと言いっているかというと、作品さくひん全体ぜんたいのビジネス規模きぼに対たいしてスタジオの収入しゅうにゅうが小ちいさい。そこを改善かいぜんしないと企業きぎょうとして生いき残のこること、そして、力強ちからづよく成長せいちょうするのは無理むりだろうと感かんじました。だから2016年ねん以降いこうはよりスタジオにお金かねが入はいる制作せいさく条件じょうけんにこだわりながら、アニメを作つくり続つづける環境かんきょうの維持いじを目指めざし、2018年ねん頃ごろからはライツやイベントといったアニメ制作せいさく以外いがいの事業じぎょうも始はじめました。

それまでは僕ぼくも業界ぎょうかい内ないでは若わかいほうだったので『こういうもんです』という風習ふうしゅうというか、右みぎにならえみたいな流ながれに乗のってしまっていたのですが、『しょうがない』を続つづけていると何なにも変かわらない。スタジオを取とり巻まくビジネス環境かんきょうが厳きびしくなっていく市場いちば動向どうこうの中なかでも、どうやったら、楽たのしんでもらえるアニメを作つくれるか……そういったことを実現じつげんするために、自分じぶんたちがリスクを取とろうという発想はっそうが生うまれました」

こうした発想はっそうが結実けつじつした例れいで象徴しょうちょう的てきなものは、2022年ねんから放送ほうそうされたTVアニメ「チェンソーマン」へのMAPPAによる100％出資しゅっしだろう。アニメスタジオとしては異例いれいの試こころみだった。

「『チェンソーマン』の原作げんさくを読よんで非常ひじょうに惹ひきつけられ、そのアニメ化かに挑戦ちょうせんしようとする中なかで、うちで最大限さいだいげんやれることは何なにか考かんがえた末すえに生うまれたのが100％出資しゅっしというスキームでした。うちには元もとテレビ局てれびきょくで働はたらいていて、MAPPAに転職てんしょくしてきた木村きむら誠まことという取締役とりしまりやくがいるんですが、彼かれと僕ぼくで企画きかくを作つくって、集英社しゅうえいしゃさんに提案ていあんさせていただいたんです。

木村きむらは『残響ざんきょうのテロル』などで付つき合あいがあったプロデューサーで、今いまはそういったビジネススキームを考かんがえて僕ぼくに提案ていあんする役割やくわりを担になってくれています。アニメを送おくり出だすプラットフォーム側がわといい関係かんけいを築きずいて、適切てきせつなビジネススキームを考かんがえられる人材じんざいがスタジオに欲ほしいと感かんじていたときに、タイミングよく木村きむらが仲間なかまになってくれた。そういう方ほうが、社外しゃがいも含ふくめて協力きょうりょくしてくれたおかげで今いまのMAPPAがあります」