オレンジ 井野元いのもと英二えいじ（代表だいひょう・チーフディレクター）

取材しゅざい・文ぶん / はるのおと 撮影さつえい / ヨシダヤスシ

CG専せん門もんの制作せいさく会社かいしゃがやっていけるかわからなかった

2004年ねんのオレンジ設立せつりつまで、井野元いのもと氏しはフリーランスでCG制作せいさくに携たずさわっていた。当初とうしょはゲーム業界ぎょうかいを中心ちゅうしんに活動かつどうしていたが、1999年ねん開始かいしの「ゾイド -ZOIDS-」でアニメ業界ぎょうかいへ。その後ごは2001年ねん放送ほうそうの「ジーンシャフト」でモデリングやアニメーションといった作業さぎょうだけでなくBETACAMによる納品のうひんも1人ひとりで行おこない、「攻殻機動隊こうかくきどうたい STAND ALONE COMPLEX」でタチコマを動うごかしていた。

「その頃ころ、個人こじんでできることの限界げんかいを探さぐっていました。『ジーンシャフト』で自分じぶんの限界げんかいを突破とっぱしたものの、それでも間まに合あわず終盤しゅうばんの話はなしは他社たしゃさんにお願ねがいすることになって。『ここが個人こじんの限界げんかいかな……』と思おもっているときに、河かわ森もり正治しょうじ監督かんとくのロボットアニメ『創そう聖ひじりのアクエリオン』のCGを話はなし数すう単位たんいで担当たんとうしないかという話はなしが来きたんです。ロボットは全部ぜんぶCGでやるから作業さぎょう量りょうがすごいことになっていて、それでも複数ふくすう人じんでやればなんとかできるんじゃないかという目算もくさんのもと、オレンジを立たち上あげました。

恥はずかしいからあまり言いっていませんが、当初とうしょは自宅じたくで1人ひとりで作業さぎょうしていたので“俺おれん家いえ（おれんち）”……それに濁点だくてんを付つけたのがオレンジという社名しゃめいの由来ゆらいです。当時とうじもCG会社かいしゃはいくつかありましたが、長ながかったり覚おぼえにくい社名しゃめいよりは、一度いちど聞きけばすぐに覚おぼえてもらえる名前なまえにしようと思おもいました」

2004年ねんにもなるとアニメ業界ぎょうかいでもCGの利用りようが進すすんでいた。それでも井野元いのもと氏しは「CG専せん門もんの会社かいしゃがビジネスとしてやっていけるのかわからなかった」という。

「当時とうじのアニメ業界ぎょうかいでは、作画さくがで処理しょりするのが難むずかしい部分ぶぶんを補填ほてんするという観点かんてんでCGの需要じゅようが高たかまっていました。そんな不安定ふあんていな状況じょうきょうだったので、CG専せん門もんの制作せいさく会社かいしゃが継続けいぞく的てきに利益りえきを生うみ続つづけられるか正直しょうじきわかりませんでした。

例たとえばロボットもまだ作画さくがで動うごかすことが多おおく、CGだと異色いしょくというか『なんでCGにするんだよ』なんてアニメファンに言いわれることもあった。だからそう言いわれないようがんばろうって（笑）。『ゾイド -ZOIDS-』をやっているときなんかは『さすがに作画さくがでこれは無理むりだろう』と思おもっていたし、『創そう聖ひじりのアクエリオン』も河かわ森もりさんがCGでしかできないような必殺ひっさつ技わざのアイデアを出だしてくれたので、いい感触かんしょくはあったんですけどね。

あれから20年ねん経たち、ようやく『CGだから』と叩たたかれるようなことがなくなり、『THE FIRST SLAM DUNK』のように大だいヒットするCG作品さくひんも出でてきました。ゲームユーザーを中心ちゅうしんにCGに慣なれていったとか、作つくり手しゅ側がわも技量ぎりょうが上あがり見みせ方かたが多様たようになってきたとかいろんな要因よういんが考かんがえられますが、お互たがいようやくCGに馴染なじんできたんでしょう。いい環境かんきょうになりました。ただ20年ねん前まえには『10年ねんくらいで環境かんきょうが変かわるはず』と言いっていたんですが……結局けっきょく20年ねん経たちましたね（笑）」

初はつ元請もとうけ作品さくひん「宝石ほうせきの国くに」で社内しゃないが激変げきへん

設立せつりつ当初とうしょの井野元いのもと氏しの心配しんぱいに反はんして、オレンジは設立せつりつ後ご、多数たすうのアニメのCGに協力きょうりょくしていく。その中なかで特とくに感謝かんしゃしている作品さくひんとは……。

「キネマシトラスさんと一緒いっしょにやった『.hack//Quantum』は、下請したうけとしてやっていたんですが、先方せんぽうのご厚意こういで元請もとうけ風ふうに連名れんめいでクレジットしていただけました。動画どうが工房こうぼうさんとやった『銀河ぎんが機き攻おさむ隊たい マジェスティックプリンス』もそうですね。下請したうけとしてものすごく努力どりょくはしていたものの、なかなか世間せけんに社名しゃめいを認識にんしきしてもらえなかったので、そんなふうにクレジットして知名度ちめいどを上あげていただけたそれらの作品さくひんは、私わたしとしてはとてもありがたい存在そんざいです。

ちなみに私わたしはモーションキャプチャでアニメを作つくれないかずっと考かんがえていて、今いまも使つかっている『MVN』というシステムを『.hack//Quantum』で導入どうにゅうしました。おそらく、それを国内こくないで買かったのは私わたしが第だい一いち号ごうかもしれません。今いまでこそモーションキャプチャが自社じしゃ内ないでできる会社かいしゃもありますが、20年ねん前まえからモーションキャプチャベースでアニメを作つくろうとしていたのはうちの特徴とくちょうでしょう」

2017年ねん、井野元いのもと氏しがオレンジにとっての大おおきなターニングポイントとして挙あげる「宝石ほうせきの国くに」が放送ほうそうされる。月刊げっかんアフタヌーン（講談社こうだんしゃ）で連載れんさいされたマンガが原作げんさくで、同社どうしゃにとって初はつの元請もとうけ作品さくひんとなるフルCG作品さくひんだ。

「『銀河ぎんが機き攻おさむ隊たい マジェスティックプリンス』をやらせていただいたTOHO animationさんから『次つぎはこういうのをやりませんか』という感かんじでお話はなしをいただきました。オレンジはそれまで下請したうけしかしていなかったので彼かれらにとって冒険ぼうけんだったでしょうし、実際じっさいに私わたしも『本当ほんとうに作つくれるのかな？』と思おもっていたんです。だって当時とうじは下請したうけとして70カット作つくるのも大変たいへんだったのに、1話わ300カットも本当ほんとうにやれるのかと（笑）。ただおかげさまでなんとかうまくいって。元請もとうけとしてやったおかげでそれまでの比ひではないほど多おおくの人ひとにオレンジの名前なまえを覚おぼえていただけたし、今いまでもオレンジの代表だいひょう作さくと挙あげていただける作品さくひんになりました。

経営けいえい者しゃではなく技術ぎじゅつ者しゃとしての視点してんでは、『アニメファンにCGを受うけ入いれてほしい』と思おもいながら作つくってきて、ようやくそれが達成たっせいできた作品さくひんだというのも大おおきかったです。それまでもロボットなどで手応てごたえがありましたが、『宝石ほうせきの国くに』ではCGで描えがいたキャラクターが受うけ入いれられた。それ以降いこう、うちが作つくる作品さくひんはクオリティをアップさせたり表現ひょうげんを少すこし変化へんかさせたりと少すこしずつテイストを変かえていますが、そのベースとなっているのは『宝石ほうせきの国くに』です」

「宝石ほうせきの国くに」によってオレンジの名前なまえは一気いっきに世よに広ひろがった。それと同時どうじに、社内しゃないの体制たいせいも大おおきく変かわったようだ。

「それまでは下請したうけだったので、来きたる設定せっていに合あわせて作つくるという考かんがえ方かたでした。だから設定せっていや脚本きゃくほん、コンテを自分じぶんたち作つくったことはなかったんです。でも元請もとうけするとなると自分じぶんたちでやらなければならない。私わたしにとっても、会社かいしゃにとってもノウハウがなかった分野ぶんやで、そのための人ひとも必要ひつようだし、社内しゃないの体制たいせいも急激きゅうげきに変かわっていきました。

例たとえば社内しゃないに美術びじゅつ部ぶを設もうけることにも挑戦ちょうせんしており、人数にんずうが少すくないのでフリーの方ほうや美術びじゅつ会社かいしゃに頼たよることもありました。しかし彼かれらは作画さくがアニメのスケジュール感かんを基準きじゅんにしていて、それに比くらべるとうちは2～4倍ばいくらいのスケジュールを取とってしまうんですよ。そうなると『そんなに長期間ちょうきかんにわたっての作業さぎょうはできない』ということになりがちだから、作業さぎょうできる人ひとが社内しゃないの美術びじゅつ部ぶに入はいったりして。

美術びじゅつ以外いがいでも、そんなふうに内うち製せいを増ふやす傾向けいこうは強つよまっています。外注がいちゅうさんだと、スケジュール面めんもそうだし、やっぱりリテイクを何なん度どか重かさねてしまう状況じょうきょうになると『勘弁かんべんしてくれ』ってなりますよ。もちろんがんばってうちの意図いとするものに近ちかづけてくれるのですが、そうなるともう妥協だきょうして引ひき上あげて残のこりはこっちでやるしかない。そういうところを詰つめきれるよう、近年きんねんは内うち製せいにこだわっています」