MN氏しの場合ばあい：油絵あぶらえを専攻せんこうしていた広島ひろしま県けん在住ざいじゅうの女性じょせいは如何いかにして映画えいが＆ドラマの刺繍ししゅうにのめり込こんでいったのか

取材しゅざい・文ぶん / 小澤おざわ康平やすひら

雑巾ぞうきんも縫ぬえないくらい不器用ぶきようだった

──Instagramに掲載けいさいされている刺繍ししゅうを最初さいしょに見みたとき、きっと映画えいが・ドラマへの愛あいがすごく強つよい方ほうなんだろうなと感かんじました。それがきっかけで取材しゅざいを申もうし込こんだのですが、最初さいしょは詐欺さぎだと思おもったとか？

そうなんです（笑）。刺繍ししゅうのプロではないですし、素人しろうとの奮闘ふんとう記きとして載のせているだけなので「私わたしに取材しゅざい……？」と。

──こうして受うけていただけてよかったです（笑）。映画えいがやドラマはお好すきなんですか？

詳くわしいわけではないのですが好すきです。最近さいきんだとNetflixの「HEARTSTOPPER ハートストッパー」が、新あたらしい時代じだいが来きたなって感かんじで面白おもしろかったです。

──その“好すき”が刺繍ししゅうと結むすび付ついたきっかけはなんだったんでしょうか？

始はじめたのは2020年ねんのゴールデンウイークあたりでした。高校こうこうや大学だいがくでは油絵あぶらえを専せん門もんに学まなんでいまして、大学だいがく卒業そつぎょう後ごも油絵あぶらえや水彩すいさい画がの個展こてんを細々こまごまとやっていたんです。ただ社会しゃかい人じんになってからは絵えを描えがく時間じかんが減へってしまい、何なにかを作つくりたい気持きもちを持もて余あましていました。そんなときにコロナの影響えいきょうで家いえにいることが多おおくなって、皆みなさん自宅じたくでできることを探さがしていたと思おもうんですが、私わたしはSNSで刺繍ししゅうをしている人ひとたちを見みて「やってみたい」と。雑巾ぞうきんも縫ぬえないくらい不器用ぶきようだったのですが勢いきおいで始はじめました。

──最初さいしょの作品さくひんは「好すきだった君きみへのラブレター」のラナ・コンドルですね。初はつ作さくからすごく上手じょうずに思おもえるのですが、刺繍ししゅうはまったくの未み経験けいけんだったんですか？

そうです、ミシンも手芸しゅげいのために初はじめて買かいました。ラナ・コンドルちゃんの刺繍ししゅうは、手芸しゅげいに詳くわしい人ひとには「ちゃんと縫ぬえていない」と言いわれてしまうような出来できで。それでも「いいね」をいただけたりしたのはうれしかったですね。縫ぬい方かたの種類しゅるいのことを〇〇ステッチと言いうんですが、私わたしの場合ばあいは今いまでも何なん十じゅう通とおりの中なかの3パターンくらいしかできないんです。あまりにも刺繍ししゅうが楽たのしすぎるという気持きもちだけでここまで続つづけられている感かんじです。

──楽たのしいという気持きもちはInstagramを見みていても伝つたわってきます。

ありがとうございます。今いまはだいぶ落おち着ついたんですけど、休やすみの日ひに朝あさから晩ばんまでずーっと縫ぬっている時期じきもありました。夜中よなかに目めが覚さめちゃったときはちょっと縫ぬってからまた寝ねて、夢ゆめの中なかでも縫ぬっているみたいな（笑）。楽たのしすぎるという心しんに体からだが追おいついてなかったと言いいますか、栄養えいようドリンクを飲のんだり腕うでに湿布しっぷを貼はったりして縫ぬったこともあります。

薬くすりのカプセルを50個こ刺繍ししゅう、家族かぞくからは「怖こわい」

──始はじめてすぐに楽たのしかったんですか？ それともやっていくうちに徐々じょじょにハマったんでしょうか？

すぐですね。

──刺繍ししゅうが本当ほんとうに合あっていたんですね。周まわりの人ひとからの「いいね」やコメントもモチベーションにはなっていますか？

見みてもらっている方ほうに飽あきてほしくはないので、ほかの人ひとがやっていないようにあえてごちゃごちゃ縫ぬってみたり、逆ぎゃくにシンプルにしてみたりと工夫くふうはしています。ただ刺繍ししゅうする作品さくひんを決きめるうえでまず頭あたまにあるのは、それを自分じぶんが好すきかどうか。変かわったことをしたほうがInstagramでのリアクションは多おおかったりするんですけど、そこにこだわりたくはなくて、自分じぶん自身じしんが縫ぬっていて楽たのしいという軸じくはぶれないようにしています。

──それは2年ねん以上いじょう続つづけられている理由りゆうの1つなのかもしれないですね。刺繍ししゅうにするシーンは、映画えいがやドラマを観みているときに「ここいいかも」と思おもうんですか？

そうですね。物語ものがたりの起点きてんとなるシーンや面白おもしろい場面ばめんはもちろん縫ぬいたいと思おもうんですけど、ウェス・アンダーソン監督かんとくのように画が作づくりのうまい方ほうの作品さくひんに惹ひかれることが多おおいです。

──ウェス・アンダーソン監督かんとくの「ムーンライズ・キングダム」をはじめ、「ストレンジャー・シングス 未知みちの世界せかい」「ミッドサマー」といった作品さくひんでは細こまかい刺繍ししゅうをちりばめた巾着きんちゃくを作つくっていました。一方いっぽうで、「燃もえゆる女おんなの肖像しょうぞう」「お嬢じょうさん」などの映画えいがでは印象いんしょう的てきなワンシーンを切きり取とっています。そこにはどういった意識いしきがあるんでしょうか？

「燃もえゆる女おんなの肖像しょうぞう」「お嬢じょうさん」に関かんしては、作品さくひんの美うつくしさや世界せかい観かんを大事だいじにしたい気持きもちがあったので、ごちゃごちゃ縫ぬうよりは写実しゃじつ的てきにワンシーンを縫ぬったほうがいいんじゃないかという考かんがえでした。自分じぶんの作風さくふうみたいなこだわりは今いまのところなくて、作品さくひんによって縫ぬい方かたは変かえていますね。

──髪かみの毛けや服ふくの部分ぶぶんを見みると、その細こまかい表現ひょうげんに驚おどろかされます。先さきほど縫ぬい方かたは3パターンくらいしかできないとおっしゃっていましたが、限かぎられた手札しゅさつであれだけの描写びょうしゃができているんですね。

そう言いっていただけるとすごくうれしいです。

──これまでに転機てんきになった刺繍ししゅうはありますか？

「クイーンズ・ギャンビット」のトートバッグです。初期しょきに作つくったもので、薬くすりのカプセルを50個こくらい刺繍ししゅうしたんですけど、たくさんの反応はんのうをいただけて。それまでは刺繍ししゅうってワンポイントのイメージが強つよかったんですが、いっぱい縫ぬってもいいんだと気き付つきを得えることができました。なので感慨深かんがいぶかいですね、この作品さくひんは。

──ちょっと自由じゆうになった感覚かんかくですか？

はい。ただ、この刺繍ししゅうに取とり組くんでいるときは朝あさから晩ばんまで縫ぬいすぎていて、家族かぞくから「怖こわい」と言いわれました（笑）。「上手じょうずだね」とかじゃないのかよ！って（笑）。