“途方とほうもない無意味むいみ”に心しん震ふるえて、小川おがわあんと加納かのう土どが河原かわらで遊あそぶ「石いしがある」初はつ披露ひろう

第だい23回かい東京とうきょうフィルメックスのメイド・イン・ジャパン部門ぶもんに正式せいしき出品しゅっぴんされた「石いしがある」が11月3日にちに東京とうきょう・有楽町ゆうらくちょう朝日あさひホールで初はつ披露ひろう。キャストの小川おがわあん、加納かのう土ど、監督かんとくを務つとめた太田おおた達成たつなりが舞台ぶたい挨拶あいさつに登壇とうだんした。

本ほん作さくは見知みしらぬ街まちを訪おとずれた女性じょせいが河原かわらで水切みずきり遊あそびをしている男性だんせいと出会であい、たわいのない遊あそびの時間じかんを過すごす1日にちを描えがいた物語ものがたり。東京藝術大学とうきょうげいじゅつだいがく大学院だいがくいん映像えいぞう研究けんきゅう科かの修了しゅうりょう制作せいさくとして監督かんとくした初はつ長編ちょうへん「ブンデスリーガ」が、PFFアワード2017に入選にゅうせんした太田おおたの長編ちょうへん2作さく目めとなる。登場とうじょう人物じんぶつに名前なまえは当あてられておらず、小川おがわが主人公しゅじんこうの女性じょせい、加納かのうが仕事しごと帰がえりに河原かわらで水切みずきりをする男性だんせいを演えんじた。編集へんしゅうには「夢ゆめ半なかば」「ケイコ 目めを澄すませて」の公開こうかいを控ひかえる大川おおかわ景子けいこが参加さんか。ミュージシャンの王おう舟ふねが音楽おんがくを手てがけている。

上映じょうえい前まえの舞台ぶたい挨拶あいさつで小川おがわは、観客かんきゃくや映画えいが祭さいへの感謝かんしゃを述のべつつ「ぜひ五感ごかんを研とぎ澄すましてご覧らんいただきたいです」とコメント。ドキュメンタリー映画えいが「沈没ちんぼつ家族かぞく」の監督かんとくとして知しられ、太田おおたとはPFFアワード入選にゅうせん同期どうきの加納かのうは「精一杯せいいっぱい楽たのしく演技えんぎをできたのは、太田おおた監督かんとくや小川おがわあんさん、ほかのスタッフ・キャストの皆みなさんのおかげです」と話はなしつつ「すごくゆったり1つひとつのことに丁寧ていねいに向むき合あったからこそ、いい映画えいがが生うまれたと思おもいます。104分ぶんのゆったりした時間じかんを皆みなさんにも感かんじてほしいです」と思おもいを述のべた。

上映じょうえい後ごのQ&Aには太田おおたが出席しゅっせきした。映画えいがのアイデアが生うまれたのは3年ねん前まえ。友人ゆうじんであり、本ほん作さくの撮影さつえいを務つとめた深谷ふかや祐次ゆうじ、録音ろくおんを担になった坂さか元就もとなりと長野ながのへ旅行りょこうしたことが起点きてんにあるそうで「いわゆる観光かんこう地ちではなくて、本当ほんとうにただ自然しぜんがある場所ばしょでした。早々そうそうにやることがなくなって、この映画えいがと同おなじように川かわ沿ぞいを歩あるくことにしたんです。気付きづいたら1人ひとりが石いしを拾ひろっていて、それに釣つられるように、みんなが石いしを拾ひろい始はじめた」と述懐じゅっかい。お気きに入いりの石いしを探さがす時間じかんが自然しぜん発生はっせい的てきに生うまれ、気付きづいたら日ひが暮くれるほど夢中むちゅうになっていた中なか、友人ゆうじんの1人ひとりが石いしを落おとしてしまい、もう暗くらくなっていたため見みつけるのをあきらめる出来事できごとがあったという。

太田おおたは「翌朝よくあさ、自分じぶんは早はやく目めが覚さめたので、1人ひとりで友人ゆうじんが落おとした石いしを探さがそうと川辺かわべに行いきました。その場所ばしょは夜よると一変いっぺんしていて、朝日あさひに照てらされ、石いしが無限むげんにあるように思おもえた。これは見みつけられるわけがない、そもそも目めつけたところで何なにになるんだ、と。その途方とほうもない無意味むいみさに、なぜか心こころ震ふるえて。そのとき映画えいがでもって個人こじん的てきな体験たいけんを見みつめ直なおす、この実感じっかんを確たしかめたほうがいいんじゃないかと思おもいました。そこから『石いし』と『川かわ』のキーワードが生うまれて、シナリオを書かき始はじめました」と振ふり返かえる。

ロケ地ちとなったのは、神奈川かながわの西方せいほうを流ながれる酒匂川さかわがわ。小川おがわと加納かのうが演えんじる2人ふたりは互たがいに詮索せんさくもせず、目的もくてきもないまま、河原かわはらを歩あるいて川上かわかみに向むかい、やがて、なくしてしまった石いしを探さがそうと来きた道みちを引ひき返かえす。2人ふたりが砂山すなやまを崩くずしたり、枝えだを運はこんだりする独自どくじの遊あそびは事前じぜんに脚本きゃくほんに書かいておらず、太田おおたは「僕ぼくらが実際じっさいに川かわで石いしを見みつけたように、撮影さつえい現場げんばでも発見はっけんしたかった」と回想かいそう。河原かわはらという状況じょうきょうに置おかれた2人ふたりが、目めの前まえの自然しぜんに対応たいおうする中なかで生うまれた遊あそびを映画えいがに取とり入いれていった。そして見知みしらぬ他人たにん同士どうしだからこそ、いつ別わかれてもおかしくない2人ふたりの微妙びみょうな距離きょり感かんを、ささいな感情かんじょうのやり取とりで見みせていく。映画えいがの大半たいはんを占しめる河原かわらでの行いきつ戻もどりつは、9日にちほどかけて撮影さつえい。陽ひが短みじかいため朝あさ8時じ頃ごろから始はじめて15時じ前まえには終おわる、ゆとりを持もった撮影さつえいだったという。

画面がめん比率ひりつを4:3のスタンダードサイズにした意図いとを問とわれた太田おおたは「横よこに広ひろい16:9だと、2人ふたりをずっと2ショットで撮とれてしまう。4:3だと狭せまいので、カメラが2人ふたりの間あいだを行おこなったり来きたり、どちらを撮とるか選えらばなきゃいけない。カット割わりや画がの寄より・引びきの選択せんたくだけじゃなくて、長ちょう回まわしの中なかで何なにを見みせるかを大事だいじにしました」と回答かいとう。参考さんこうにした映画えいがはないそうだが、影響えいきょうを受うけた存在そんざいとして「断片だんぺん的てきなものの社会しゃかい学がく」といった著書ちょしょで知しられる社会しゃかい学者がくしゃの岸きし政彦まさひこの名前なまえを挙あげ「このシンプルな物語ものがたりは本当ほんとうに映画えいがになるのか？この圧倒的あっとうてきな無意味むいみに価値かちはあるのか？という思おもいを支ささえてくれたのは岸きし政彦まさひこさんの本ほん。定期ていき的てきに読よんで勇気ゆうきをもらっていました」と話はなした。

いつ映画えいがになった実感じっかんを得えたか問とわれると、「今いま、ですかね（笑）。大勢おおぜいの人ひとに観みてもらえて、やっと映画えいがになったと思おもいます」と吐露とろ。「ただ撮影さつえいでも『面白おもしろいものが撮とれたぞ』と思おもうことはありましたし、編集へんしゅうでも撮影さつえいと同おなじぐらいの喜よろこび、発見はっけんがあった。『これは映画えいがだぞ』という思おもいを、今日きょうやっと迎むかえられてうれしいです」と胸むねをなでおろす。最後さいごには、会場かいじょうに駆かけ付つけたスタッフ、キャストを1人ひとりひとり紹介しょうかいし、Q&Aの幕まくを閉とじた。

「石いしがある」の配給はいきゅうはまだ決きまっておらず、劇場げきじょう公開こうかいは未定みてい。