「夜は短し歩けよ乙女」「夜明け告げるルーのうた」などで知られるアニメーション監督・湯浅政明の最新作「DEVILMAN crybaby」全10話が、1月5日よりNetflixで配信されている。
永井豪によるマンガ「デビルマン」をもとにした本作は、不動明と飛鳥了の出会いからデビルマン誕生、そしてデビルマンとサタンの戦いまでを描いたもの。明には内山昂輝、了には村瀬歩が声を当て、ラップ監修をKEN THE 390が務めた。
映画ナタリーでは、以前から永井作品のファンである映画監督・園子温にインタビューを実施。「デビルマン」を現代的な感覚で描き直した本作の魅力を語ってもらった。
取材・文 / 大谷隆之 撮影 / 上山陽介
観始めたら、止まらなくてヤバい
──園さんは以前より、永井豪先生から表現者として多大な影響を受けてきたと発言されていますね。そんな特別なファンの目線からご覧になって、湯浅政明監督が完全アニメ化した今回の「DEVILMAN crybaby」はいかがでしたか?
予想以上に引き込まれましたね。このインタビューの依頼を受けたのが、たまたま仕事で海外に行っている時期で。「今夜は疲れてるし、最初の1話だけにしておこう」と思っていたら、止まらなくなって一気にエピソード3まで観てしまった。これはヤバいと、一旦休止した状態なんですが……。もうすでに続きが観たいなと(笑)。
──どういうところに惹かれたんでしょう?
まず面白かったのは、永井先生の原作をきっちり下敷きにしつつ、別の切り口をいろいろミックスしているところです。例えばキャラクターデザインひとつ取っても、オリジナルの劇画調タッチとはかなり違う。どこかフワッとした、今風の柔らかい線なんですよね。僕はアニメーションには詳しくないんですが、友達の星野源くんが主演した湯浅監督の「夜は短し歩けよ乙女」は観せてもらっていて。あのタッチが「デビルマン」の世界観にうまく入ってきているような気もしました。
──確かに前半部では主人公の不動明や、ヒロインの牧村美樹の高校生活なども細かく描かれていますね。
そうそう。どこか可憐だし、最初に想像していたのとは微妙に違う、日常のまったり感もあるんだよね。「デビルマン」の完全アニメ化って聞くと、僕みたいな人間は条件反射で身構えてしまったりするけれど(笑)。いい意味で、意表を突かれました。ちょっと少女マンガ風というのかな。女性も観やすいだろうし。僕自身、たまに自分が「デビルマン」を観ていることを忘れちゃう瞬間もあったくらい。
──美樹の交友関係や内面描写も、実はかなり丁寧で。
うん。ヒロインといっても、少年マンガによくある“主人公の日常に彩りを与えるだけの存在”ではないですよね。ちゃんと心に悩みを抱えた1人のキャラクターとして描かれている。さっき僕が少女マンガ風と言ったのは、そんなニュアンスも含みます。彼女の存在が、このアニメの中で後半どう膨らんでいくのかも楽しみです。ただ、そういった柔らかいタッチの中に時折ハッとする残酷さが混じるでしょう。そこが油断ならない。この繊細な日常がどんどん壊れていく予感がして、かえって怖くなる。
──まさに後半は、オリジナルのエッセンスを忠実に再現したハードな展開になっていきます。デーモンと融合しながらも、人間の心を失っていないデビルマン。その描き方についてはいかがでしたか?
僕は好きでしたね。第1話で、親友の飛鳥了にクラブパーティに連れていかれた不動明が、あるきっかけでデビルマンに覚醒するでしょう。そのアクションがすごいと思った。まず見せ方のメリハリが上手なんですね。僕はアニメの技術論には詳しくないけれど、躍動している部分と静止画とをうまくミックスさせてますよね。例えば鋭い爪が肉を引き裂き、飛沫が飛ぶ描写なんかは細かく描き込む一方で、デビルマンそのものはシルエットでしか見せなかったりする。そのシンプルさがかえって、禍々しい迫力を醸し出したりしていて。こういう演出のリズムは、作り手としても共感できます。
──ああいうシルエットで見せられると、「実体としての悪魔」であると同時に「人間の心が投影された何か」にも見えますね。
うん。少なくとも、コストや手間を惜しんで静止画を多用している作品とはまるで違う。「DEVILMAN crybaby」を観ていると、この止まった絵にあえて尺を与えたいんだなというのが、実感として伝わってくる。それは作家的な使い分けですよね。