「フリースタイルダンジョン」モンスターたちのバトル史し：サイプレス上野うえの＆輪わ入道にゅうどう

取材しゅざい・文ぶん / 高木たかぎ“JET”晋一郎しんいちろう 撮影さつえい / 斎藤さいとう大だい嗣 ヘアメイク（KEN THE 390） / 佐藤さとう和哉かずや（amis）

俺おれはR-指定していにバトルで無敗むはい

サイプレス上野うえの　呑のみながら話はなしていいの？

KEN THE 390　まあ、ほどほどなら。

輪わ入道にゅうどう　じゃあ僕ぼくもいただきます（笑）。

──今いまの会話かいわからもわかる通とおり、今回こんかいは関係かんけい性せいの近ちかい御ご三さん方ぽうですが、まずサ上じょう（サイプレス上野うえの）さんは1980年ねん生うまれ、KENさんは1981年ねん生うまれと、2人ふたりは歳としも近ちかく、活動かつどうの場所ばしょも近ちかかったと思おもいます。バトルで当あたった経験けいけんは？

サ上じょう　実じつはそんなにないよね。「3ON3 MC FREESTYLE BATTLE」とか、数かぞえるくらい。同おなじイベントには出でてたし、フリースタイルで絡からんだ回数かいすうは数かぞえ切きれないけど。

KEN　「ONE」とか「触さわ」みたいなイベントでフリースタイルセッションはひたすらやってたけど、バトルはそんなにないよね。2014年ねんの「戦せん極ごくMCBATTLE第だい8章しょう -新春しんしゅん2day Special-」とか、同おなじ大会たいかいに出でても当あたらなかったり。

サ上じょう　ああ、俺おれが優勝ゆうしょうしたときね。

──急きゅうにマウント取とった（笑）。

サ上じょう　あの日ひはR-指定していにも勝かった。「俺おれはR-指定していにバトルで無敗むはい」これは一生いっしょう言いってく（笑）。「3ON3」のとき、KENはダメレコ（Da.Me.Records）チーム？

KEN　だったと思おもう。

サ上じょう　「3ON3」はISSUGIとのバトルをよく覚おぼえてる。俺おれはZZ PRODUCTIONチームとして、確かくかMIC大将たいしょうとまっちゃん（belama2）と出しゅったんだけど、その2人ふたりがISSUGIに2人ふたり抜ぬきされたんだよね。MIC大将たいしょうからは「ISSUGI お前まえの母かあちゃんの乳首ちくび 右みぎにひねり」というパンチラインも出でたんだけどさ。

──パンチラインなんですか、それは（笑）。

サ上じょう　それで3人にん目めで出でてきた俺おれに、ISSUGIが「先方せんぽうも雑魚ざこなら中堅ちゅうけんも雑魚ざこ」みたいに言いって、俺おれも「そりゃそうだわ！ 負まけてるし！」と思おもったら笑わらっちゃって。

──普通ふつうだったら「仲間なかまになんてこと言いうんだ」と怒おこるところですが。

サ上じょう　それがMCバトルっぽいんだけど、俺おれは「ISSUGI……その通とおりだぜ！ マジであいつらふざけんじゃねえ！」って。

一同いちどう　（笑）。

輪わ入道にゅうどう　仲間なかまを死体したい蹴けりしてどうすんですか（笑）。

サ上じょう　そういう屍かばねの上うえに今いまのMCバトルシーンがある（笑）。結果けっかそれが観客かんきゃくにもめちゃくちゃウケて、そこから俺おれはISSUGI含ふくめて8人にん抜ぬきしたからね。

輪わ入道にゅうどう　お～。

サ上じょう　輪わ入道にゅうどうと当あたったのも1、2回かい？

輪わ入道にゅうどう　チーム戦せんとかではあったかもしれないけど、タイマンで当あたったのは1回かいだけかもですね。

サ上じょう　2017年ねんの「SPOTLIGHT」でしょ。

輪わ入道にゅうどう　その1回戦かいせんでしたよね。お互たがいに「輪わ入いれかよ～」「上野うえのさんかよ～」みたいな感かんじで。

サ上じょう　ちょっと照てれたよね。昔むかしから知しってる間柄あいだがらだし、遺恨いこんも嫌きらいな部分ぶぶんもまったくないから、「純粋じゅんすいにラップとしていい試合しあい」を見みせられればというノリだった。だって「これをバトルでバラされたらやべえな」という話はなしも、戦たたかう前まえにしちゃってるし。

輪わ入道にゅうどう　先さきに弱点じゃくてんをもらってるっていう（笑）。

サ上じょう　でも「これは言いっちゃいけない情報じょうほうだな」みたいなところは止とめる、ある種しゅのモラルや暗黙あんもくのルールはバトルにあるよね。

輪わ入道にゅうどう　でも、噂うわさレベルの話はなしでもバトルで言いうやつもいますよね。それでトラブルにもなるし。

サ上じょう　輪わ入道にゅうどうはそういうことを言いわない信頼しんらい感かんがあるし、もし言いわれたとしても「……その通とおりだ！」と開ひらき直なおる（笑）。

輪わ入道にゅうどう　だからバトルとしてはちょっと困こまるタイプの試合しあいでしたね（笑）。

サ上じょう　やっぱり楽たのしみだったよね。輪わ入道にゅうどうはうまいし、熱あついから、俺おれもそういう熱気ねっきが引ひき出だされる。しかも輪わ入道にゅうどうはエンタテインもできる相手あいてだから、不安ふあんもなにもなく試合しあいに臨のぞめたし。

KEN　輪わ入道にゅうどうは対戦たいせん相手あいてが決きまったときに試合しあい運はこびとかいろいろ考かんがえたりするほう？

輪わ入道にゅうどう　俺おれはめっちゃ考かんがえます。でも「あ、全然ぜんぜん想定そうていとは違ちがったわ」みたいなことも多おおいですよね。特とくに上野うえのさんだと（笑）。

サ上じょう　わはは。

輪わ入道にゅうどう　だから1回かい考かんがえつつ、それは全部ぜんぶ捨すてるみたいな感かんじですね。

サ上じょう　いろいろ考かんがえて、全部ぜんぶ捨すてるというのはすげえわかる。ノープランではステージに上あがれないし、上あがらないけど、考かんがえをゼロにしても、どこかにそのゲームプランが残のこってるんだよね。

輪わ入道にゅうどう　それが結果けっかとして生いきるときはありますよね。

サ上じょう　その見極みきわめがうまいやつが優勝ゆうしょうする気きもするな。

宇多うた丸まるさんに「お前まえはよくやったよ」と褒ほめられた「B-BOY PARK」

──お話はなしはさらにさかのぼると、上野うえのさんが最初さいしょに出でた登竜門とうりゅうもん的てきなイベントはラップコンテストで、MCバトルではなかったんですよね。

サ上じょう　曲きょくを作つくってライブで披露ひろうしてそれを審査しんさされるって感かんじで。それが17歳さいのとき。だから、まず曲きょくがないとそういう場ばにもエントリーできなかった。

KEN　当時とうじはコンテストのほうが多おおかったよね。俺おれも2001年ねんくらいに志こころざし人じんと組くんでたグループでコンテストに出でたし、フリースタイルが登竜門とうりゅうもんになったのは、「B-BOY PARK」（BBP）や「ULTIMATE MC BATTLE」（UMB）でバトルが根付ねついてからだよね。上野うえのはBBPのバトルにはほとんど出でてないよね？

サ上じょう　1回かいだけかな。俺おれ自身じしん「BBPに賭かける」という気きはまったくなかった。ラップに対たいして一番いちばん屈折くっせつしてた時期じきだったのもあるんだけど、友達ともだちに「BBPのMCバトルがすごい」とか言いわれても「なんであんなもんが流行はやってんだよ、しょーもねえな」と思おもってた。

──なぜそう感かんじたんですか？

サ上じょう　“消費しょうひされてる感かん”がすごくあって、加くわわりたい気持きもちが全然ぜんぜん起おきなかった。1回かいだけ出でたのも、BBP予選よせんの前日ぜんじつに韻いん踏合組合くみあいを横浜よこはまのイベントに呼よんだら、COE-LA-CANTHとかアメ村むらの連中れんちゅうもみんな来きて、「明日あしたBBPのMCバトルの予選よせんに出でるから」って。それでじゃあ俺おれもついでに出でてみるかみたいなノリで参加さんかしただけ。だけどそのときの予選よせんのルールが「4人にん同時どうじにラップして、決きめられた枠わく線せんから出でたら負まけ」だったから、「こんな囲がこいを作つくるなんてB-BOYじゃねえだろ！」みたいにガンガンに熱あついこと言いって、線せんを踏ふみ越こえたら当然とうぜん失格しっかくになった。それでふてくされたのと二日酔ふつかよいで会場かいじょうの端はじっこで寝ねてたら、宇多うた丸まるさんに「お前まえはよくやったよ」と謎なぞに褒ほめられるっていう（笑）。

輪わ入道にゅうどう　へー。

KEN　だから上野うえのが本格ほんかく的てきにバトルに出で始はじめたのって、2000年代ねんだいの中盤ちゅうばん以降いこう、CDをリリースしたあと、ライブも評判ひょうばんになってからだったよね。

サ上じょう　確たしかに。

KEN　上野うえののバトルは、サ上じょうとロ吉きち（サイプレス上野うえのとロベルト吉野よしの）のライブのいいところが反映はんえいされてるよね。バトルなんだけどサービス精神せいしんが旺盛おうせいで、相手あいてと戦たたかうだけじゃなくて会場かいじょうを巻まき込こんで、客きゃくをつかんで歓声かんせいを上あげさせて勝かつみたいな。UMB以降いこうのMCバトルは、ファンも含ふくめて基本きほんアングラ志向しこうだったけど、その中なかでも上野うえのは客きゃくを見みてるし、ライブで培つちかった生来せいらいのエンタテインメント性せいがバトルにも反映はんえいされてたのかなって。

サ上じょう　ありがとうございます。酒さけがうまくなる（笑）。あとバトルならではのシステムやイズムを意識いしきしてなかった、そこに比重ひじゅうを置おいてなかったのも大おおきかったかも。例たとえば吉野よしのも「DMC」（世界せかい最大さいだいのDJ大会たいかい「DMC DJ CHAMPIONSHIP」）に出でてるけど、そもそものDJスキルの高たかさに加くわえて、メタルのレコードを使つかったり、レコード割わって破片はへんで腹はら切きったり。

──最後さいごのはDJ関係かんけいない！（笑）

サ上じょう　だからスタンダードなスタイルとは違ちがうアプローチを込こめるし、俺おれもその感覚かんかくだよね。ヒップホップやMCバトルの流儀りゅうぎだけじゃなくて、ほかのジャンルにもいい部分ぶぶんがあるなら、それを取とり込こもう、みたいな。

フリースタイルから始はじめたラップ、お手本てほんは般若はんにゃ

──1990年ねん生うまれの輪わ入道にゅうどうさんは、2007年ねんに千葉ちばのクラブ・BELTで行おこなわれた「REPRESENT MC BATTLE」に出場しゅつじょうしたのが最初さいしょで、しかも優勝ゆうしょうしているんですね。

輪わ入道にゅうどう　そうですね。見様見真似みようみまねでバトルを始はじめましたけど、今いまとそんなに大おおきくスタイルは変かわらないと思おもいます。事前じぜんに内容ないようを決きめたりはしていなかった。

──当時とうじのお手本てほんは？

輪わ入道にゅうどう　般若はんにゃさんですね。ヒップホップを聴きき始はじめたのもそうだし、当時とうじのバトルも振ふり返かえると、般若はんにゃさんの真似まねをしてたなと思おもいます。BBPのバトルを何なん度ども見直みなおしてたんで、無意識むいしきに刷すり込こまれてたというか。

KEN　輪わ入道にゅうどうは最初さいしょの頃ころ、フリースタイルだけでライブをやってたよね。しかもバチバチに盛もり上あげてたのがすごい。フリースタイルだけでショーケースを成なりたせるのはかなり難むずかしいから。

輪わ入道にゅうどう　曲きょくがなかったんで（笑）。

サ上じょう　「あれだけできるならそれを書かけよ」と思おもってた（笑）。

KEN　だから、ラップのスタートもフリースタイルだったってことでしょ？

輪わ入道にゅうどう　そうですね。

KEN　それが世代せだいの違ちがいでもあるよね。俺おれらの世代せだいは自分じぶんでリリックを書かいてみて、それからフリースタイルだけど、輪わ入道にゅうどうの世代せだいからは、その順番じゅんばんが逆ぎゃくの人ひとがけっこう増ふえてると思おもう。

輪わ入道にゅうどう　イベントでも、フリースタイルをフロアでやってたりするのは普通ふつうでしたね。「みんなフリースタイルしすぎだからフロアでは禁止きんし」とかクラブ側がわが決きめることもあったし。

サ上じょう　俺おれらは渋谷しぶや・HARLEMで、イケてるやつらがイチャイチャしてる中なか、隅すみっこのほうで「YO！ 俺おれらはあんなやつらとは違ちがえ！」とかフリースタイルしてたな……「じゃあ来くんなよ！」としか言いえねえ（笑）。

KEN　まあ、どっちの気持きもちもわかるよ。

──ははは！ 勝者しょうしゃ側がわのコメント（笑）。

サ上じょう　KENはモテてたからな（笑）。

KEN　いやいや、クラブならではのナンパしたくなるような空気くうきもわかるし、でもフリースタイルしないと自分じぶんの存在そんざいが証明しょうめいできないし、シンプルに友達ともだちとフリースタイルするのも楽たのしいし、っていうね。