何なにも言いわずに姿すがたを消けした向井むかい太一たいち

──まず、昨年さくねん11月がつに東京とうきょう・豊洲とよすPITで行おこなわれた向井むかい太一たいちとして最後さいごのライブについて聞きかせてください（参照さんしょう：向井むかい太一たいち「THE LAST」ツアーで7年ねんの活動かつどうに終止符しゅうしふ、新名にいな義よし・TAILで再さいスタートへ）。ベストアルバムに収録しゅうろくされた「Last Song」を歌うたったあと、スモークの中なかに姿すがたを消けしていった演出えんしゅつにはどんな思おもいが込こめられていたんでしょう？

名義めいぎをTAILに変かえるにあたって、自分じぶんの音楽おんがくをもっと“アート”として意識いしきしてやっていきたくて。そのうえで、お客きゃくさんに何なにも告つげずに消きえるような終おわり方かたにしたかったので、そういう演出えんしゅつを中心ちゅうしんにライブの内容ないようを考かんがえていきました。あと、やっぱり向井むかい太一たいちとしてのキャリアが7年間ねんかんあって、最後さいごにファンの人ひとたちを盛もり上あげたい気持きもちもありました。ちょっと変へんな方向ほうこうでの盛もり上あげ方かたになりましたが。

──ざわざわしてましたよね。

そういう感かんじでしたね。「最後さいごにめちゃめちゃカッコいいことをやろう」という一心いっしんで、それ以外いがいはあまり考かんがえてなかったんですよね。

──ライブ後ご、豊洲とよすPITのロビーに出でるとTAILのフライヤーが床ゆかや壁かべに敷しき詰つめられていて。

スタッフの方ほうがめちゃくちゃがんばってくれました。あの演出えんしゅつも最初さいしょから考かんがえていたことで、スタッフと会場かいじょう側がわの方かたたちとで「どういうことができてどういうことができないのか」を話はなし合あったうえで実現じつげんしたことですね。

「THE LAST TOUR」東京とうきょう・豊洲とよすPITのロビーに敷しき詰つめられたフライヤー。（撮影さつえい：鳥居とりい洋介ようすけ）

「THE LAST TOUR」東京とうきょう・豊洲とよすPIT公演こうえんの様子ようす。（撮影さつえい：鳥居とりい洋介ようすけ）

向井むかい太一たいちとしての活動かつどうに限界げんかいを感かんじた

──アーティスト名めいを変かえようと思おもったのはどうしてだったんですか？

自分じぶんのキャリアに対たいして何なん年ねんか抱かかえていた悩なやみが2年ねん前まえぐらいに爆発ばくはつしちゃって、精神せいしん的てきに混乱こんらんしていた時期じきがあったんです。そのとき、レーベルの社長しゃちょうに「どうしたらいいかわからない」って相談そうだんしたところ、「自分じぶんの音楽おんがくに対たいして今いま、どう思おもってる？」と聞きかれて。「やりたいこと、やるべきこと、やっていることがごちゃごちゃになってしまって、すごく中途半端ちゅうとはんぱな気きがする。一生懸命いっしょうけんめいやってるんだけど、線せんになってない気きがするんです」と答こたえたら、「アーティスト名めいを変かえちゃえばいいんじゃない？」と言いってくれて、「それってありなんだ」と思おもったんですよね。自分じぶんとしては「音楽おんがくを続つづけるか辞やめるか」と思おもうくらい悩なやんでいたんだけど、社長しゃちょうの言葉ことばが救すくいになって、改名かいめいしてイチからやり直なおすことを考かんがえたら、すごくワクワクしてきたんです。

──1年ねん前まえ、ミニアルバム「CANVAS」発売はつばい時じのインタビューで「今いままでと同おなじことをやっていてもダメだと感かんじたことで、音楽おんがく的てきにもっと自分じぶんを解放かいほうして新あたらしいことをやる方向ほうこうに向むかった」と言いってましたよね（参照さんしょう：向井むかい太一たいち「CANVAS」インタビュー｜塗ぬり重かさねた“キャンバス”から見みえた核かくとなる音楽おんがく性せい）。

「CANVAS」をリリースしたときには改名かいめいすることが決きまっていて、ベストアルバムに向むけて最後さいごまでがんばっていこうと思おもっていた時期じきでした（参照さんしょう：向井むかい太一たいちベスト盤ばんインタビュー｜自身じしんを見みつめ直なおして完成かんせいさせた「Last Song」、その先さきに待まっているのは）。改名かいめいすることをきっかけにチーム編成へんせいがガラッと変かわって、音楽おんがくを作つくることがすごく楽たのしくなっていったんです。1年ねんくらいかけて、向井むかい太一たいちとしての活動かつどうをどう終おわらせて、新あたらしい名義めいぎでの活動かつどうをどう始はじめていくかということやTAILとしてのイメージ作づくりを新あたらしいチームで考かんがえていきました。

──一番いちばんの悩なやみというとなんだったんでしょう？

シンプルに向井むかい太一たいちとしての活動かつどうに限界げんかいを感かんじたんです。自分じぶんがイメージしているものを形かたちにすることが難むずかしく感かんじるようになって。よくも悪わるくもこれまでの結果けっかやイメージがあることで、自分じぶんがどこを向むけばいいかわからなくなった。音楽おんがくだけでなく広範囲こうはんいでいろんな活動かつどうをしている中なかで、すべて自分じぶんでやりたくて一生懸命いっしょうけんめい取とり組くんできたのに、ふと振ふり返かえってみると「結局けっきょく向井むかい太一たいちってなんだったっけ？」と思おもうようになってしまって、音楽おんがくを作つくることがしんどくなってしまいました。

──名義めいぎを変かえることでその悩なやみが解消かいしょうされる予よ感かんがあったんでしょうか？

うーん、今いま、前まえとやってることはそこまで変かわってはいないんですよね。クリエイティブディレクターを立たててはいるんですが、一緒いっしょにビジュアル作づくりやアートワークのアイデアを考かんがえているので。最初さいしょにチームで話はなしたのは、「消費しょうひする音楽おんがくではなく、1つひとつに集中しゅうちゅうして、より丁寧ていねいにやっていきたい」ということでした。まずはチーム内ないで共通きょうつう言語げんごを持もつことから始はじめて、「TAILというアーティストはどういう表情ひょうじょうをしていてどういう色いろを持もっていて……」というざっくりしたTAIL像ぞうをミーティングを重かさねて作つくり上あげていきました。

TAILのコピーは「ARTS & MUSIC EXPRESS」

──改名かいめいを発表はっぴょうしてから約やく2カ月かげつ後ごにTAILの1stシングル「Fundus」がリリースされました。この曲きょくをTAILとしての最初さいしょの楽曲がっきょくにしたのはどうしてだったんでしょう？

「Fundus」はEPに向むけての曲きょく作づくりの後半こうはんにできあがりました。最初さいしょ1stシングルにしようと思おもっていた曲きょくが別べつにあったんですけど、「Fundus」を作つくって急遽きゅうきょ変更へんこうしたんです。「Fundus」は制作せいさくの段階だんかいで最初さいしょの構想こうそうからガラッと変かわっていって、そのスピード感かんと熱量ねつりょうに対たいして、僕ぼくも一緒いっしょに作曲さっきょくとアレンジをやったNOIZEWAVEとLumelも「これだ」というフィット感かんがあったので1stシングルにしました。向井むかい太一たいち名義めいぎのときは曲きょくによって「向井むかい太一たいちは実じつはこういう人間にんげんで、こういう悩なやみがあって……」という内面ないめん的てきな部分ぶぶんがそこまで表ひょうに出でてなかったと思おもうんですが、TAILでは感情かんじょうをストレートに音楽おんがくに出でそうと思おもっています。より人間にんげんらしく、それでいてこれまでやっていたものの精度せいどを上あげていくアーティストになるのかな。僕ぼくはメンタルが不安定ふあんていな人ひとがすごく好すきで、アーティストに関かんしても危あやうさや変へんな部分ぶぶんを持もってる人ひとに魅力みりょくを感かんじるんですが、自分じぶんもよりそういう生々なまなましいアーティストになりたいと思おもっています。

「Fundus」ジャケット

──「Fundus」は歌詞かしがとても抽象ちゅうしょう的てきですが、音像おんぞうで心象しんしょう風景ふうけいを描えがくようなイメージがありました。

向井むかい太一たいち時代じだいはさっきも言いったように1つひとつ自分じぶんで選択せんたくして、それに向むかって全力ぜんりょくでやっていたのに、「結局けっきょく自分じぶんがしっかりコントロールできてたのかな」とか「いいものができたとは思おもうけど、結局けっきょくファンの人ひとたちを引ひっ張ぱっていけるような音楽おんがくを作つくっているのかな」と悩なやんでいたんです。でも、「Fundus」はそうやって自分じぶんが感かんじていたことや人間にんげん関係かんけいについて思おもうことを抽象ちゅうしょう的てきに歌うたっていて、自分じぶんの中なかではすごくリアルな曲きょくです。TAILの方向ほうこう性せいを考かんがえたときに「ARTS & MUSIC EXPRESS」というコピーだけはパッと決きまったんですよね。音楽おんがくにアートを反映はんえいすることを強つよく意識いしきしたこともあって、無意識むいしきにそういう表現ひょうげんになったんだと思おもいます。

──「Fundus」も収録しゅうろくされた初はつのEP「flex」について、全体ぜんたいのイメージはあったんですか？

名刺めいし代かわりになるものにしようと考かんがえてました。TAILはこういう音楽おんがく、というイメージを見みせつけたくて、「flex」という“自慢じまんする”のスラング的てきなタイトルにしました。EP全体ぜんたいのコンセプトというよりは、とにかく自分じぶんを世よに知しらせる1枚まいになればいいなと思おもってます。