怖こわさを感かんじながらも抗あらがえない欲望よくぼうを描えがきたかった

──韓国かんこくのプロデューサーNOIZEWAVEとLumelが5曲きょく中ちゅう4曲きょくに作曲さっきょくとアレンジで関かかわっていますが、NOIZEWAVEは向井むかい太一たいち時代じだいから一緒いっしょに制作せいさくしてきました。TAILを始動しどうさせるにあたって、がっつり組くむ構想こうそうはあったんでしょうか？

ありました。NOIZEWAVEとは「ANTIDOTE」（2022年ねん5月がつ発売はつばいの5thアルバム）以降いこう、ずっと一緒いっしょに制作せいさくをしていますが、新あたらしい音楽おんがくを吸収きゅうしゅうするスピードがすごく早はやくて、アイデアをたくさん出だしてくれるんです。向井むかい太一たいち名義めいぎではフットワーク軽かるくいろんなクリエイターと組くむことが多おおかったですが、今回こんかいはケンモチヒデフミさんとの「Toxic」以外いがいはNOIZEWAVEとLumelと一緒いっしょに作つくっています。彼かれらとは「向井むかい太一たいちだったらありだけど、TAILだと違ちがうかもね」という意見いけんを交かわしながら、一緒いっしょにTAIL像ぞうを意識いしきしつつ曲きょくを作つくっていった感覚かんかくがあります。

──「Toxic」でケンモチさんと組くんだのはどうしてだったんですか？

“少すこし不安定ふあんていな怪あやしさがあるんだけど、その恐怖きょうふに抗あらがえない好奇心こうきしん”を曲きょくにしたかったんです。特とくに思春期ししゅんきに感かんじる“怖こわさを感かんじながらも惹ひかれてしまうような人間にんげんの根本こんぽん的てきな欲望よくぼう”を描えがきたかった。それをチームで話はなし合あっているときに、「ケンモチさんの音楽おんがくって、水曜日すいようびのカンパネラの曲きょくみたいにぶっ飛とんだリリックでも、ビートのローの鳴なりとかに“本物ほんもの”を感かんじるよね」という話はなしになって。僕ぼくとして「Toxic」はツイストして音楽おんがくを表現ひょうげんするような、音楽おんがく的てきに遊あそんでるんだけど本物ほんものを知しってる人ひとと作つくれたらと思おもっていたので、ケンモチさんにお声こえがけさせていただきました。ケンモチさんには「クラブビートだけどちょっと土着どちゃく性せいのある音色ねいろが入はいっていて、でも上じょうものは全然ぜんぜんアッパーじゃなくて」とイメージを伝つたえて。途中とちゅうからトップライナーとしてMONJOEくんとLOARくんに入はいってもらって、リリックはKenzo Martiniという日系にっけいフィリピンのシンガーに頼たのんで共とも作さくしました。Kenzo Martiniとはお茶ちゃをしながら「バッドなバイブスを出だしたいよね」みたいな話はなしをして歌詞かしを書かいていきました。向井むかい太一たいち名義めいぎだったらもうちょっと日本語にほんごが多おおくて、恋愛れんあいの歌詞かしになっていたんじゃないかと思おもいます。

──1曲きょく目めの「Gone」にはWez Atlasがフィーチャーされています。

「Gone」は向井むかい太一たいちとしてのラストライブのあとにYouTubeに公開こうかいしたティザーのトラックを元もとにしているんですが、制作せいさく中ちゅうに「ラッパーに入はいってほしい」と思おもって。だったら軽けいめのラップではなく、タイトなラップがいいなと考かんがえたんです。Wezくんの曲きょくは以前いぜんパーソナリティをしていたラジオで流ながしたこともあってずっと聴きいていたので、「Wezくんがいいんじゃないか」という話はなしになりました。

「ちゃんと届とどいてないんじゃないか」作づくり手しゅとしての苦悩くのう

──ラストの「Cure」には詩人しじんの黒川くろかわ隆介りゅうすけさんが参加さんかされてますが、これはどういう経緯けいいがあったんでしょう？

「Cure」を書かいているときにラッパーをフィーチャーする話はなしが出でたんですが、「この曲きょくはラッパーじゃない気きがする。もっと違ちがうアプローチでやりたい」と言いったら、ディレクターの千葉ちば琢也たくやさんが「最近さいきん知しり合あった詩人しじんですごく面白おもしろい人ひとがいるんだけど、詩しをフィーチャーするのはどう？」って黒川くろかわさんを提案ていあんしてくれたんです。そこから黒川くろかわさんの詩しをたくさん読よみました。言葉ことばと読よみ手ての距離きょりが近ちかくて直接的ちょくせつてきなのに、想像そうぞうできる映像えいぞうがすごく面白おもしろかった。それに、自分じぶんの歌詞かしとも共通きょうつうするところがあると感かんじたんです。その後ご黒川くろかわさんに会あって、ワインを飲のみながら、向井むかい太一たいちとしての活動かつどうやこれから表現ひょうげんしたいこと、自分じぶんの生活せいかつについて話はなして「Cure」の土台どだいができた。今いまの時代じだいにここまで尺しゃくが長ながくて、しかも詩しの朗読ろうどくが入はいっている曲きょくはなかなかないと思おもいますが、変かわったことをやろうというより「聴きいてくれる皆みなさんに一番いちばん響ひびくものってなんだろう」と考かんがえてこの曲きょくを作つくりましたね。

──EPのエンディングにふさわしい曲きょくだと思おもいますが、最後さいごに置おくことを想定そうていして作つくったんでしょうか？

はい。曲きょく順じゅんはわりと最初さいしょから決きまっていましたね。「Cure」はEPの中なかでもボーナストラックのような位置付いちづけで、ほかの楽曲がっきょくとは少すこし脳のうを切きり離はなして聴きけるようなものにしたいと思おもったんです。

──歌うたい出だしの「風ふうも吹ふかない 僕ぼくの歌うたがどこにも 届とどかない そんな晴はれの日ひ」という歌詞かしから、さっき話はなしていただいた向井むかい太一たいち名義めいぎからTAIL名義めいぎに変かわった物語ものがたりを感かんじさせる曲きょくだと感かんじました。

ただ「大丈夫だいじょうぶだよ」と言いって、聴きいている人ひとを癒いやすような曲きょくにはしたくなかったんですね。自分じぶんたちが何なにに苦くるしみ悩なやんでいるかということを表現ひょうげんしたくて、その中なかに救すくいを見出みだせるような曲きょくにしたかった。最初さいしょの一節いっせつは向井むかい太一たいち名義めいぎのときに感かんじていた“すごく明あかるくてパッと開あけているように見みえるかもしれないけど、自分じぶんの音楽おんがくがどこまで届とどいているか見みえなくなった感覚かんかく”を書かきました。

──加くわえて、「Last Song」にも通つうじる、向井むかいさんの音楽おんがく表現ひょうげんに対たいする思おもいがそのまま描えがかれている曲きょくでもあると思おもいました。

そうですね。昔むかしみたいに「どうしていいかわからない」というよりは、TAILという名前なまえにしてまたイチから音楽おんがくができて、曲きょくを作つくることがすごく楽たのしくてうれしくて……それが救すくいになっていることを表現ひょうげんしたくて。黒川くろかわさんとお話はなししながら自分じぶんたちの人生じんせいを紐解ひもといていって、お互たがいに感かんじていたことを言葉ことばにしました。その中なかで、黒川くろかわさんと「人ひととの距離きょり感かんって難むずかしいよね」という話はなしになったんです。大人おとなになるとずっと一緒いっしょにいる友達ともだちでも会あわない時期じきが増ふえていったり、一番いちばん距離きょりが近ちかいはずの家族かぞくにもなかなか会あいに行いけなかったり、会あいに行いけたとしても実家じっかの空気くうきが変かわっていたり、自分じぶんが今いま戦たたかってる環境かんきょうとは全然ぜんぜん違ちがう場所ばしょになっていて、東京とうきょうのほうが落おち着つけるようになっていたり。でも家族かぞくのことは愛あいしていて、一緒いっしょにいるときにうれしさは感かんじるわけで。黒川くろかわさんが書かいてくれた「近ちかくにいるより 遠とおくにいることが優やさしい 近ちかくより 遠とおくで抱だきしめられたら」という歌詞かしは、そういった家族かぞくに対たいする不思議ふしぎな距離きょり感かんを表現ひょうげんしてくれていると思おもいます。矛盾むじゅんしているように感かんじるんだけど、すごく人間にんげんらしい。苦くるしさの中なかから光ひかりに向むかって進すすむことができているような救すくいのある曲きょくです。

──黒川くろかわさんの朗読ろうどく部分ぶぶんで「宛先あてさきのない手紙てがみをずっと書かいていたことを 自分じぶんだけが知しらなかった」という歌詞かしがありますが、これも先さきほど向井むかいさんがおっしゃっていた「自分じぶんの曲きょくがちゃんと届とどいてないんじゃないか」という不安ふあんと重かさなりました。

詩人しじんの世界せかいがどういうものなのか全然ぜんぜん知しらなかったんですが、黒川くろかわさんのように賞しょうを獲えっているような方ほうでもそういうことを感かんじているところに自分じぶんも共感きょうかんしました。お互たがいの「こういう曲きょくにしたい」というイメージを共有きょうゆうしたあと、別々べつべつに歌詞かしを書かいて組くみ合あわせたんですが、不思議ふしぎとちゃんとつながりましたね。

日本語にほんごベースなのは変かわらない

──4曲きょく目めの「Another 13」は唯一ゆいいつ全編ぜんぺん日本語にほんごでバラード調ちょうの楽曲がっきょくですが、向井むかいさんにとってどういう位置付いちづけの曲きょくなんですか？

これはシンプルにラブソングですね。匂においと記憶きおくの結むすび付つきをテーマに書かいたんですが、昔むかし、LE LABOの「ANOTHER 13」という香水こうすいを使つかっていた人ひとが好すきだったんです。「もう全然ぜんぜん平気へいきだな」と立たち直なおっていたある日ひ、街まち中ちゅうで「ANOTHER 13」がぶわっと匂におってきたことがあって、すぐに歌詞かしにしました。匂においを鮮明せんめいに思おもい出だすことってわりと難むずかしいことなのに、そこから紐解ひもとかれるその人ひとの表情ひょうじょうや思おもい出での記憶きおくはすごくクリアなのが不思議ふしぎだなと思おもっていて。記憶きおくをよみがえらせるスイッチ自体じたいはどういう形かたちでどういう感覚かんかくなのか覚おぼえてないんだけど、それに触ふれるとそこにまつわる記憶きおくは思おもい出だせる。

──全体ぜんたいを通とおして生々なまなましい感情かんじょうのイメージが浮うかぶとともに、音像おんぞうがすごく緻密ちみつな印象いんしょうを受うけました。

そこは本当ほんとうに今いままで以上いじょうにこだわりました。音色ねいろのセレクトとかミックス、マスタリングにもかなり時間じかんかけましたね。

──このEPを作つくったことでTAILとしてのビジョンがより明確めいかくになったところはあるのでしょうか？

そうですね。自分じぶんが何なにか表現ひょうげんしたい“引ひっかかり”があったら、それを1個いっこ1個いっこキャッチして、そこにフォーカスすることを大事だいじにしたいと思おもうようになりました。それと、今こんTAILの曲きょくがどこの国くにで多おおく聴きかれているのかというデータをよく見みています。TAILになったときにファンの人ひとたちから「海外かいがい向むけになるんじゃないか」という声こえが多おおく上あがっていましたが、日本語にほんごベースなのは変かわらないです。でも海外かいがいでたくさん聴きかれるような動うごきがあったら、そこにフォーカスしてみようかなという気持きもちもあります。TAILの音楽おんがくを聴きいたときに、コアの部分ぶぶんをキャッチしてもらえるような芯しんを食くったものができたらいいなと思おもっています。音楽おんがく的てきにもっと濃こくしていってむき出だしのものを表現ひょうげんしたいですね。

──7月がつ6日にちにはTAILの初はつライブが行おこなわれる場じょうとして、OtomodatchiやオープニングDJとしてDaBookが出演しゅつえんするキュレーションイベントが東京とうきょう・WALL&WALLで開催かいさいされます。

キュレーションイベントはデビューしたての頃ころはよく開催かいさいしていましたが、ワンマンができるようになってからはやってなかったんですよね。TAILはまだワンマンができるほどの曲きょく数すうがないですし、また自分じぶんが好すきなアーティストを集あつめて遊あそべる場所ばしょを作つくりたいなと。世よの中なかにいいアーティストはたくさんいますし、今回こんかい出でてくれるOtomodatchiは海外かいがいから来きてくれます。

──このイベントのために来日らいにちするんですか？

そうなんです。Otomodatchiの2人ふたりはCIRRRCLEというヒップホップユニットをやっていたときにも僕ぼくが主催しゅさいしたイベントに出でてくれていて。ボーカルのAmiちゃん（Amiide）と話はなしたら「あのときCIRRRCLEをピックアップしてくれたから、今回こんかいも出でたい」と言いってくれた。そういうつながりは、自分じぶんがキャリアを重かさねていく中なかですごく大切たいせつにしていてよかったなと思おもうところですね。

──次つぎのリリースについては、今いまどんなことを考かんがえていますか？

向井むかい太一たいち名義めいぎのときはリリース日びが決きまっていて、そこに向むけて曲きょくを作つくることが多おおかったんですが、今いまはこれぞっていう作品さくひんができてからリリース時期じきを考かんがえていきたいと思おもっています。そして、アートワークなども含ふくめて、線せんになるような流ながれを作つくっていきたいですね。