アナログとテクノロジーの融合ゆうごうが作つくり出だす、エンタメの未来みらい

構成こうせい / 熊井くまい玲れい

人間にんげんのパワーを感かんじたRSC「となりのトトロ」、「キャバレー」

春はるにロンドンを訪おとずれました。久ひさしぶりのロンドンだったので、いろいろショーを観みようと思おもい劇場げきじょうにも足あしを運はこんだのですが、どこもお客きゃくさんがすごく多おおくて熱量ねつりょうも高たかく、パンデミック前まえに戻もどってきているなという感かんじがしました。

まず印象いんしょう的てきだったのは、今回こんかいのロンドンの目当めあてでもあった、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー（RSC）の「となりのトトロ」。まさにザ・アナログという感かんじで、人力じんりきでいろいろなものを動うごかしていく演出えんしゅつにより作品さくひんがフィジカルに立たち上あげられていました。演劇えんげき発祥はっしょうの国くにが作つくり出だすパワーを感かんじました。そして驚おどろいたのはトトロの大おおきさ！ あの大おおきさを実際じっさいに作つくってしまうロンドンカンパニーには脱帽だつぼうです。

そして「キャバレー」のリバイバル公演こうえん。これまでの上演じょうえん版ばんと違ちがい、センターステージがあって立たち見みのお客きゃくさんが舞台ぶたいを取とり囲かこみセットチェンジとともに移動いどうする形かたちなんですけど、その舞台ぶたい空間くうかんや臨場りんじょう感かんが本当ほんとうに面白おもしろかった。この「キャバレー」も完全かんぜんにアナログで、LEDも映像えいぞうも一切いっさい使つかってなく、人間にんげんの放はなつ力ちからに圧倒あっとうされました。

演出えんしゅつの一部いちぶとしてテクノロジーが馴染なじんでいた「ABBA Voyage」

話題わだいの「ストレンジャー・シングス」も観みました。これはNeflixシリーズ「ストレンジャー・シングス 未知みちの世界せかい」の舞台ぶたい版ばんで、僕ぼくがドラマ版ばんを観みていないこともあるかもしれないのですが、舞台ぶたい版ばんはドラマのエピソードゼロみたいな内容ないようで、ストーリーはちょっとわからない部分ぶぶんもありました。ただこの作品さくひんにはLEDや映像えいぞうなどのテクノロジーが多用たようされていて、素晴すばらしいのはどこからLEDや映像えいぞうなのか、まったくわからないんです。テクノロジーを作つくっているのは「ハリー・ポッターと呪のろいの子こ」チームだそうで、「ハリー・ポッターと呪のろいの子こ」でもマジックやイリュージョン的てき演出えんしゅつが印象いんしょう的てきでしたが、「ストレンジャー・シングス」にもそれに通つうじるものを感かんじました。

ただテクノロジーの面めんで一番いちばん衝撃しょうげきを受うけたのは、実じつは「ABBA Voyage」でした。

「ABBA Voyage」は、ABBAのアバターコンサートで、ロンドン郊外こうがいに建たてられた3000人にんくらい収容しゅうようできるABBAアリーナで上演じょうえんされているんですけれど、若わかい人ひとだけでなく、ABBAの衣裳いしょうの要素ようそをどこかに入いれた華はなやかなご年配ねんぱいの方かた達たちが、みんなお祭まつり気分きぶんで集あつまっていました。会場かいじょう自体じたいも素敵すてきで、入はいるとバーやショップがあり、早はやめに来場らいじょうしたお客きゃくさんたちはお酒さけを飲のんだり話はなしをしたりしながら、賑にぎやかに開演かいえんを待まっていました。ちなみに客席きゃくせきは、座席ざせきシートが3分ぶんの2くらいで、残のこり3分ぶんの1はいわゆる立たち見みのダンシングシート。そこに、若わかい人ひとだけじゃなく年配ねんぱいの方かたたちもたくさん入はいって行いきましたね。

ホログラムショーだと聞きいていたので、最初さいしょはこれまで観みてきた、初はつ音おとミク的てきな立体りったい映像えいぞうかなと思おもっていたんです。でも、「ABBA Voyage」は全まったくそういうスタイルではなくて、映像えいぞうは完全かんぜんなるLEDなんですけど、すごく上手じょうずに作つくられているせいか、本当ほんとうに目めの前まえで生身なまみの人間にんげんを本当ほんとうに眼めの前まえで若わかかりし頃ころのABBAのメンバーが歌うたっているとしか思おもえませんでした。僕ぼくも一応いちおうこの仕事しごとをしているので、舞台ぶたいを観みれば「なるほど、こういうことか」とか「こういう映像えいぞうを使つかっているな」ということはある程度ていどはわかるんですが、この舞台ぶたいについては、どう目もくを凝こらしてもどこまでがリアルでどこからが映像えいぞうなのかが全まったくわかりませんでした。ちなみに僕ぼくが観かんに行いった日ひはマシントラブルで10分ふんくらい上演じょうえんが止とまったんですが、それすら「あえてリアルなコンサートであることを感かんじさせるための演出えんしゅつなのかな？」と思おもうくらい、没入ぼつにゅう感かんがありました。しかも再開さいかいを待まつ間あいだ、待まちきれないお客きゃくさんたちがコンサートさながら、みんなでABBAのナンバーを歌うたい出だしたんです。ラストは素敵すてきな演出えんしゅつもあって、本当ほんとうにABBAのライブに参加さんかした満足まんぞく感かんがありました。

中なかでも僕ぼくが一番いちばん素敵すてきだなと思おもったのは、「ABBA Voyage」では、テクノロジーの精度せいどに重おもきを置おいてなくて、演出えんしゅつ上じょう当あたり前まえのこととしてテクノロジーを取とり入いれているところ。「このテクノロジー、すごいでしょ」ではなく、「そこにいるのは実態じったいではなく映像えいぞうだけれど、この“アーティスト”があなたに最高さいこうのショーを観みせますよ」という部分ぶぶんを重視じゅうししているんです。あのショーを観みるだけでもロンドンに行いく価値かちがあると思おもいます。

今回こんかい改あらためて感かんじたのは、ロンドンは実験じっけん的てきなこと、革新かくしん的てきなことに本当ほんとうに積極せっきょく的てきで、新あたらしいことをどんどん生うみ出だす街まちだということ。ロンドンで新あたらしい作品さくひんに出会であえたことはすごく収穫しゅうかくだったなと思おもいます。「となりのトトロ」のようにフィジカルだけで成立せいりつする世界せかいにもやっぱり価値かちがあるなと思おもうし、一方いっぽうで「ABBA Voyage」のようにフィジカルとテクノロジーが溶とけ合あって新あらたな表現ひょうげんを生うむこともできるんだなと。また、新あたらしいことに対たいするロンドン舞台ぶたい界かいのチャレンジ精神せいしんって、それを受うけ入いれる国民こくみん性せいも重要じゅうようだなと思おもうので、改あらためてロンドンの懐ふところの深ふかさみたいなものを感かんじました。

松田まつだ誠まこと（マツダマコト）

演劇えんげきプロデューサー。一般いっぱん社団しゃだん法人ほうじん 日本にっぽん2.5次元じげんミュージカル協会きょうかいの代表だいひょう理事りじ。2022年ねん6月がつにネルケプランニング代表だいひょう取締役とりしまりやく会長かいちょうを退任たいにんし、現在げんざいはフリーとして幅広はばひろく活動かつどう。