野村のむら萬まん斎とき、父ちち・野村のむら万作まんさくから受うけ継つぐ「釣つり狐きつね 白狐びゃっこ之の伝つて」に意気込いきごみ　93歳さいの万作まんさくは三番叟さんばそうを“踏ふみ納おさめ”

京都きょうと・東京とうきょう・愛知あいちで行おこなわれる「狂言きょうげんござる乃座《萬まん斎とき×釣つり狐きつね》」、ならびに、11月に東京とうきょうで行おこなわれる「万作まんさくを観みる会かい 芸歴げいれき九きゅう十じゅう年ねん記念きねん公演こうえん」の上演じょうえんに向むけた野村のむら万作まんさくと野村のむら萬まん斎ときの記者きしゃ懇談こんだん会かいが、昨日きのう8月がつ28日にちに東京とうきょう・野村のむらよいや舞台ぶたいで行おこなわれた。

「狂言きょうげんござる乃座《萬まん斎とき×釣つり狐きつね》」は、「狂言きょうげんござる乃座」の70回かい目めの東京とうきょう公演こうえんを記念きねんし、萬まん斎ときが大曲おおまがり「釣つり狐きつね」の連続れんぞく公演こうえんに挑いどむ公演こうえん。10月19日にちに行おこなわれる東京とうきょう公演こうえん以外いがいは、万作まんさくが1993年ねんに試演しえんした、特殊とくしゅ演出えんしゅつとなる「釣つり狐きつね 白狐びゃっこ之の伝つて」が披露ひろうされ、アドとなる猟師りょうしを、京都きょうと公演こうえんでは野村のむら太一郎たいちろう、東京とうきょう公演こうえんでは野村のむら裕ひろし基もと、愛知あいち公演こうえんでは野村のむら又また三さん郎ろうが勤つとめる。「万作まんさくを観みる会かい 芸歴げいれき九きゅう十じゅう年ねん記念きねん公演こうえん」では、満まん93歳さいを迎むかえた万作まんさくが「翁おう」にて三番叟さんばそうを舞まう。

萬まん斎ときが「釣つり狐きつね」を連続れんぞく公演こうえんで勤つとめるのは、約やく18年ねんぶりのこと。このことについて萬まん斎ときは「『釣つり狐きつね』は、“人間にんげんを演えんじている狐きつね”という、普段ふだん四よつ足あしの狐きつねが身体しんたいを垂直すいちょくに立たてているような身体しんたい性せいが求もとめられるので、演えんじ手しゅの身体しんたいの調整ちょうせいがすごく難むずかしいんです。ですので、『釣つり狐きつね』に挑いどむときには、『釣つり狐きつね』用ように身体しんたいを作つくり直なおさないといけない。そしてせっかく身体しんたいを作つくり直なおすのであれば、『釣つり狐きつね』用ようになっている身体しんたいの状態じょうたいで、同どう時期じきにまとめて上演じょうえんしたい……という思おもいからの、連続れんぞく公演こうえんです（笑）」とちゃめっ気けたっぷりに笑えみを浮うかべる。また「野村のむら家かには、“猿さるに始はじまり狐きつねに終おわる”という言葉ことばがありまして、『釣つり狐きつね』はよく“卒業そつぎょう論文ろんぶん”と呼よばれています。後進こうしんの弟子でしたちや、息子むすこの裕ひろし基もとも『釣つり狐きつね』を披き、“卒業そつぎょう論文ろんぶん”が増ふえてきた中なかで、私わたしは父ちちが示しめしてくれた、1つレベルの違ちがう『釣つり狐きつね 白狐びゃっこ之の伝つて』を踏襲とうしゅうできればと思おもっております。父ちちが工夫くふうしていたことに加くわえ、文献ぶんけんを読よみ新あらたに発見はっけんしたことや、私わたし自身じしんの経験けいけんも含ふくめて上演じょうえんできれば」と意気込いきごみを述のべる。

萬まん斎ときが60歳さいの節目ふしめではなく、58歳さいで「釣つり狐きつね」を勤つとめることについては「（『白狐びゃっこ之の伝つて』は）父ちちが復活ふっかつさせたものですので、父ちちが元気げんきなうちに教おそわりたいという気持きもちがまずあります。そして、60歳さいになると“三さん老ろう曲きょく”という老人ろうじんがシテとなる作品さくひんを勤つとめられるようになるので、60歳さいの節目ふしめの公演こうえんはそちらの曲きょくを演えんじてみたいなと（笑）」と明あかしつつ、「体からだ力任ちからまかせや勢いきおいでやるのではなく、線せんの美うつくしさであったり、白狐びゃっこの美うつくしさや神々こうごうしさを表現ひょうげんできるような、年齢ねんれい相応そうおうの『釣つり狐きつね』を披露ひろうできたら」と語かたった。

万作まんさくは「3歳さいで初舞台はつぶたいを踏ふんでから、90年ねんになりました。これまでも節目ふしめ節目ふしめで三番叟さんばそうを舞まってきましたが、今回こんかいがおそらく最後さいごではないかなと。三番叟さんばそうは、“舞まう”だけではなく、特別とくべつに“踏ふむ”とも申さるせるのですが、今回こんかいは“踏ふみ納おさめ”のつもりで勤つとめさせていただきます」と言葉ことばに力ちからを込こめる。記者きしゃから、93歳さいで三番叟さんばそうを勤つとめることへの感慨かんがいを問とわれると「90歳さいを過すぎて、三番叟さんばそうをやった人ひとはいないんじゃないかな（笑）。90歳さいになっても舞台ぶたいに出でて、お客様きゃくさまに鑑賞かんしょうしていただけるというのは、幸しあわせなこと」と微笑ほほえむ。

なお、本ほん公演こうえんの「翁おう」には、万作まんさくと、シテとなる翁おう太夫たゆうを勤つとめる観世かんぜ流りゅう宗家そうけの観世かんぜ清和きよかずのほか、清和せいわの息子むすこ・観世かんぜ三郎さぶろう太ふとし、そして裕ひろし基もとも出演しゅつえんする。このことに万作まんさくは「偶然ぐうぜんにも、三郎さぶろう太ふとしくんと裕ひろし基もとは同おない年どしでございますので、そういった若わかい方々かたがたと舞台ぶたいを踏ふめることを活力かつりょくにし、若々わかわかしい三番叟さんばそうを舞まい納おさめたい」と笑顔えがおを見みせる。そんな万作まんさくに対たいし、萬まん斎ときが「私わたしが60歳さいを目前もくぜんに老成ろうせいし、90歳さいを過すぎた父ちちが若々わかわかしさを目指めざしているというのは、なんだか面白おもしろいですよね（笑）」と言及げんきゅうすると、万作まんさくは照てれ笑わらいを浮うかべた。

話はなしは、今年ことし1月がつに大阪おおさか・大槻おおつき能楽堂のうがくどうで行おこなわれ、万作まんさく、萬まん斎とき、裕ひろし基もとの3人にんで三番叟さんばそうを舞まった「大槻おおつき能楽堂のうがくどう 創立そうりつ九きゅう十じゅう年ねん記念きねん公演こうえん」に。万作まんさくは「3人にんでの三番叟さんばそうは、萬まん斎ときの『3人にんの翁おうがあるんだから、3人にんの三番叟さんばそうがあってもいいのでは』というアイデアから、彼かれ自身じしんが演出えんしゅつしてくれたもの。私わたしは、2人ふたりの三番叟さんばそうを演出えんしゅつしたことはありますが、3人にんというのは過去かこにない新あたらしい形式けいしきでした。私わたし自身じしん、戦後せんごに武智たけち鉄二てつじさんと新あたらしい試こころみを始はじめたときは、明治めいじ生うまれの方々かたがたに嫌いやがられました。それを乗のり越こえて、今いまがあるわけです。先日せんじつも、中村なかむら鷹たか之の資しさんとうちの裕ひろし基もとが能楽堂のうがくどうで、お能のうの囃子方はやしかたで三番叟さんばそうを舞まいましたが、そういったコラボレーションも、昔むかしならありえないこと。時代じだいの推移すいいを感かんじますし、僕ぼくにとっても、ありがたい時代じだいになりました」と話はなす。萬まん斎ときも「そういった“新あらたな伝統でんとう”は、父ちちたちが開拓かいたくしてくれた」と感謝かんしゃの念ねんを述のべつつ、「親和しんわ性せいや必然ひつぜん性せいがない限かぎり、無理むりやり新あたらしいものを生うみ出だす必要ひつようはないと思おもっています。ただ、シェイクスピア作品さくひんだったり、私わたしが手てがけている『鬼おに滅めつの刃は』だったり、そういった能狂言のうきょうげんと相性あいしょうの良よいコンテンツを、能のうならでは、狂言きょうげんならではのアプローチで立たち上あげて、さまざまな方ほうに関心かんしんを持もっていただくことは大事だいじなこと。私わたし自身じしん、これまでさまざまな領域りょういきで旅たびをしてきましたが、今いまの時代じだいにそういった経験けいけんが生いきているように感かんじています」と述のべた。

「狂言きょうげんござる乃座《萬まん斎とき×釣つり狐きつね》」の京都きょうと公演こうえんとなる「狂言きょうげんござる乃座 in KYOTO 19th」は10月12日にちに京都きょうと・京都きょうと観世かんぜ会館かいかん、東京とうきょう公演こうえんとなる「狂言きょうげんござる乃座 70th Anniversary」は10月19日にち、24日にちに東京とうきょう・国立こくりつ能楽堂のうがくどう、愛知あいち公演こうえんとなる「狂言きょうげんござる乃座 in NAGOYA 27th」は12月15日にちに愛知あいち・名古屋なごや能楽堂のうがくどうにて。「万作まんさくを観みる会かい－芸歴げいれき九きゅう十じゅう年ねん記念きねん公演こうえん－」は、11月17日にちに国立こくりつ能楽堂のうがくどうにて。

※初出しょしゅつ時じ、本文ほんぶんに誤あやまりがありました。訂正ていせいしてお詫わびいたします。