このクオリティであんなくだらないことをやる贅沢ぜいたくさ
松尾まつおスズキインタビュー

松まつさん、長澤ながさわさんの演技えんぎ力りょくが生いかせるコントを

──2021年ねんにスタートした「松尾まつおスズキと30分ぶんの女優じょゆう」シリーズの第だい3弾だんとなる今回こんかいは、「“30分ふん強きょう”の女優じょゆう」として放送ほうそうされます。

今回こんかい、脚本きゃくほんを書かいてから撮影さつえいまですごく時間じかんが空あいたんです。脚本きゃくほん自体じたいは（昨年さくねん11月がつから12月がつにかけて上演じょうえんされた）「ツダマンの世界せかい」（参照さんしょう：滑稽こっけいで、ひたむきで、悲惨ひさんな姿すがたをご堪能たんのうあれ！松尾まつおスズキ「ツダマンの世界せかい」開幕かいまく）の前まえに仕上しあげていたので、いろいろと練ねる時間じかんがありました。

──これまでは4人にんの女優じょゆうさんと30分ふんずつコントする構成こうせいでしたが、今回こんかいは松まつたか子こさんと長澤ながさわまさみさんのお二人ふたりと“30分ふん強きょう”ずつ、という内容ないようです。これまでと違ちがう工夫くふうをしたところはありましたか？

ネタを増ふやしたところはありますが、特とくにはないです。ただ、知しらず知しらずのうちに松まつさんはナンセンス度どが高たかいもの、長澤ながさわさんは「世よにも奇妙きみょうな物語ものがたり」的てきな、ドラマっぽいものが多おおくなりましたね。特とくに意識いしきしたわけではなくて、脚本きゃくほんを振ふり分わけていったらそうなっただけなんですけど。そこに意味いみもあるような気きもします。

──“破天荒はてんこうなストーリーなのにじんわり感動かんどうしてしまう”のは「松尾まつおスズキと30分ぶんの女優じょゆう」シリーズの魅力みりょくの1つです。今回こんかい、その魅力みりょくがさらに強つよまっているように感かんじました。お二に人にんともこれまでにお仕事しごとをご一緒いっしょされている女優じょゆうさんたちですが、松まつさん、長澤ながさわさんだからこそあえて挑戦ちょうせんしたことは？

強つよいて言いえば、松まつさんは歌うたネタを入いれたいなって思おもっていたのと、長澤ながさわさんはやっぱり手足てあしが長ながいので動うごきのあるネタがいいなと。でもそのくらいですね。2人ふたりとも実力じつりょくがある女優じょゆうさんなので、なんでも受うけて入いれてくれるんじゃないかと思おもっていました。もちろん、その演技えんぎ力りょくをちゃんと生いかせるネタにしなきゃいけない、という緊張きんちょうはありましたが……。

コントって世よの中なかにあふれていますし、芸人げいにんさんがやっているコントはやっぱり素晴すばらしい。それに拮抗きっこうするには、俳優はいゆうが役やくを作つくり込こんで、映像えいぞうをしっかり演出えんしゅつしないといけないのがこのシリーズのコンセプトです。

旬しゅんが止とまらないのは、自分じぶんの更新こうしんを怠おこたらない人ひとたちだから

──本ほん作さくの放送ほうそう決定けってい時じに（参照さんしょう：“30分ふん強きょう”にスケールアップ「松尾まつおスズキと30分ふん強きょうの女優じょゆう」に松まつたか子こ・長澤ながさわまさみ登場とうじょう）、松尾まつおさんはお二人ふたりを「旬しゅんが止とまらない女優じょゆうさん」と紹介しょうかいされていました。お二に人にんの“旬しゅんが止とまらない”理由りゆうはどんなところにあると思おもわれますか？

2人ふたりとも“自分じぶんの更新こうしんを怠おこたらない人ひとたち”なんですよね。役やくの取とり組くみ方かたも謙虚けんきょだし、毎回まいかい「初はじめまして」のムードでやって来くるんです。よそよそしいということではなくて、「松尾まつおさんの仕事しごとですよね、わかってます」というような感かんじではなく、すごく緊張きんちょうして来くるんです。長澤ながさわさんは撮影さつえい前まえに個人こじん的てきにメールをくれて、「こうやりたいんですけど、大丈夫だいじょうぶでしょうか？」というやり取とりなんかもしました。

──長澤ながさわさんはデタラメ外国がいこく語ごやコンテンポラリーダンスも披露ひろうしていましたね。何なん回かいかリハーサルを重かさねられたのでしょうか？

いえ。特とくにああしてくれ、こうしてくれとは言いってなくて、長澤ながさわさんが自分じぶんなりにちゃんと作つくり込こんできてくれたんです。そこなんですよね、一流いちりゅうの人ひとって。やってないようでちゃんと準備じゅんびしてくるんです。松まつさんも長澤ながさわさんも、読よみ合あわせの段階だんかいでは探さぐり探さぐりだったんですけど、読よみ合あわせで僕ぼくが「こうしたい」と話はなしたことについて、ちゃんと家いえで準備じゅんびしてきてくれた。やっぱりさすがだなと。現場げんばに行いけばどうにかなるだろうっていう感かんじの人ひともたまにいますけど、そういう人ひとは「30分ぶんの女優じょゆう」では出会であいません（笑）。

──しかも、お二に人にんとも役やくへのギアの入いり方がたがすごく早はやいですね。

あれだけ主演しゅえん映画えいがや主演しゅえんドラマをやっていると背負しょい込こむものの大おおきさが違ちがうんですよね。そうすると瞬発しゅんぱつ力りょくでボンっと自分じぶんの中なかから力ちからを引ひき出だすスピードが早はやいというか。現場げんばでああだこうだともたつくことは一切いっさいなかったですね。

無理むりさせられない松まつさん、無理むりさせたくなる長澤ながさわさん

──今回こんかいの「松尾まつおスズキと30分ふん強きょうの女優じょゆう」では、松まつさん6作品さくひん、長澤ながさわさん4作品さくひんのコントが披露ひろうされます。それぞれに、松尾まつおさんの印象いんしょうに残のこっている作品さくひんは？

地球ちきゅう外がい生物せいぶつスニーキーを描えがいた「スニーキー・ビギニング」の松まつさんはすごく素敵すてきでしたね。普段ふだんの松まつさんにはない毒どくが出でているというか（笑）。自分じぶんが相手あいて役やくを演えんじているときは気きづかなかったんですけど、出来上できあがった映像えいぞうを見みるとけっこう悪わるい目めで僕ぼくの肩かたの傷きずを見みてるんですよね（笑）。あの視線しせんの動うごきが素晴すばらしかったです。

──「スニーキー」は過去かこの「30分ぶんの女優じょゆう」シリーズにも登場とうじょうしていますが、「スター・ウォーズ」のようにどんどん枝葉えだはが広ひろがっていきそうですね。

機会きかいがあれば「スニーキー」だけで1本ほん撮とってみたいですね（笑）。あとは歌うたネタの「ミュージカル友達ともだち旅行りょこう」も良よかったです。あんなふざけた歌うたを松まつさんは歌うたったことがないと思おもいますし、自分じぶんが作つくった歌うたを歌うたってもらえるのは良よい時間じかんでした……っていうかあれ、良よい歌うたじゃないですか？（笑）

──松尾まつおさんが作つくられた歌うただったんですね！（笑） 「シブヤデアイマショウ」（参照さんしょう：「シブヤデアイマショウ」日替ひがわりゲストに生田いくた絵梨えり花はな・石丸いしまる幹みき二に・井上いのうえ芳雄よしお・大野おおの拓朗たくろうら）でも感かんじましたが、良よい曲きょくだなあとき入きいり、歌詞かしの内容ないように後ごから笑わらいが込こみ上あげました。松まつさんが真剣しんけんに歌うたっているからこそおかしい、という面めんもあって。

無理むりはさせないという約束やくそくで始はじめているので、そこはこちらも考かんがえました（笑）。松まつさん、コントをやることに不安ふあんがあって、これまでやる機会きかいがあってもやったことがないんです。今回こんかいも「これが最初さいしょで最後さいご」と言いっていました。

──「タイムスリップ両親りょうしん」は松尾まつおさんと松まつさんが夫婦ふうふ役やくを演えんじていて、掛かけ合あいが素敵すてきでした。

松まつさんもあれくらいの年代ねんだいの母親ははおやがギリギリできる人ひとだから、ということでお願ねがいしました。これまで何なん回かいも共演きょうえんしているので演技えんぎの間合まあいとかは息いきの付つき方かたでわかりますね。

──「WOWOWニュースサテライト・アンド・シングルファーザー」では、どんなにふざけていてもトーンを変かえない、ニュースキャスター役やくの松まつさんに笑わらいました。ニュースキャスターネタは以前いぜん松雪まつゆき泰子やすこさんも挑戦ちょうせんされましたが、今後こんごもさまざまな展開てんかいができそうですね。

ニュースのネタはWOWOWのスタジオですぐに撮とれるので、苦くるしいときはニュースに逃にげる……ってわけではないんですけど（笑）松まつさんがニュースキャスターのコントなんてすごく贅沢ぜいたくじゃないですか。

──長澤ながさわさんの作品さくひんで印象いんしょうに残のこっているものは？

コンテンポラリーダンスの振付ふりつけを自分じぶんで考かんがえてきたのは偉えらいなと思おもいますね。ダンスをやっている友達ともだちに相談そうだんしたりしたそうです。テンション一発いっぱつものでいうと「野良のらキャッツ、捕獲ほかく女おんな」のようなものは、長澤ながさわさんは頭あたまからできるとわかっていたので安心あんしんして任まかせました。「野良のらキャッツ」の撮影さつえいはめちゃくちゃ寒さむかったですけど……（笑）。

──「居心地いごこち最高さいこう」は長澤ながさわさんが、松尾まつおさんとオクイシュージさんがふざけ合あう様子ようすを横目よこめでチラチラと見みている様子ようすが面白おもしろかったです。

ほかのシーンでけっこう大量たいりょうのセリフを渡わたしているので、あのネタくらいは楽らくさせたいなと。ただ一発いっぱつ撮とりだったし（ふざけ続つづける）僕ぼくらは死しぬほど大変たいへんでした（笑）。

──デタラメ語ごの応酬おうしゅうを繰くり広ひろげる「センタア飯店はんてん」や、全身ぜんしんで恐竜きょうりゅうを再現さいげんする「恐竜きょうりゅう最後さいごの日ひ」などは見みるからにハードでした。今回こんかいも松尾まつおさんは自みずから身体しんたいを張はった演技えんぎを見みせてくださいました。

（笑）。特とくに長澤ながさわさんの乱らんのほうが大変たいへんだったかな。長澤ながさわさん、「センタア飯店はんてん」のデタラメ語ごのニュアンスを全部ぜんぶ作つくってきてくれたんですけど、「台本だいほんでは「『○○ガー！』って書かいてあるけど『○○カー！』にしても良よいですか」っていう細こまかな相談そうだんもありました。僕ぼくなんかあんなの覚おぼえられないし、台本だいほんにも「ここのいいはお互たがい単独たんどくカットでカンペ見みながら」と書かいてあったので、実際じっさいにカンペを貼はってもらってやったんですけど（笑）、長澤ながさわさんは完璧かんぺきに覚おぼえてきていました。恥はずかしかったです……。

──共演きょうえん者しゃとしてのお二に人にんの印象いんしょうは？

二人ふたりとも、現場げんばに来くるときの覚悟かくごが違ちがうなと思おもいました。松まつさんは毎回まいかい謙虚けんきょですね。いつも「自信じしんがない」と言いうんです。もちろんいざ動うごけば一流いちりゅうの動うごきをしてくれる人ひとなんですけど、僕ぼくがメールで「これやりましょうよ」って振ふると必かならず“逃にげ出だす”スタンプを押おしてくるし（笑）、松まつさんから「こういうのがやりたい」っていうことは1回かいも聞きいたことがないです。でも演えんじているときはまったくそんな印象いんしょうを感かんじたことがなくて。きっとスイッチがバンって変かわるんでしょうね。どこまでも謙虚けんきょな人ひとです。なので松まつさんには無理むりを言いえない。無理むりしなくて十分じゅうぶんだし。でも長澤ながさわさんには無理むりさせてみたいって思おもいがあります（笑）。

──長澤ながさわさんは松尾まつおさんが演出えんしゅつされた「キャバレー」（参照さんしょう：長澤ながさわまさみ、初はつミュージカル「キャバレー」で大胆だいたんな歌うた＆ダンス披露ひろう）「フリムンシスターズ」（参照さんしょう：長澤ながさわまさみ×秋山あきやま菜津子なつこ×阿部あべサダヲが描えがく“女おんなの友情ゆうじょう物語ものがたり”「フリムンシスターズ」開幕かいまく）に主演しゅえんしていますが、松尾まつおさんの舞台ぶたいで観みる長澤ながさわさんはいつも意外いがいな一いち面めんを見みせてくれる印象いんしょうがあります。

身体しんたいや顔かおがゴージャスな印象いんしょうがあるからかもしれないけど、長澤ながさわさんにはなぜかネガティブなムードの役やくを振ふってみたくなるんですよね（笑）。でも普段ふだんヘラヘラしているように見みえて、すごく役やくを組くみ立たててくるんです。仕草しぐさも計算けいさんしてるし、でも現場げんばで生うまれたものも大事だいじにしている感かんじがある。とにかくセリフがちゃんと腹はらに入はいっていて、「このシーンのどこどこをやります」と言いわれてパッとセリフが出でてくる。僕ぼくなんか「どこだっけ？」って思おもってしまうんだけど（笑）。

──脚本きゃくほんや演技えんぎの面めんはもちろん、美術びじゅつや衣裳いしょうなどもシリーズを重かさねるたびにどんどんクオリティが上あがっている印象いんしょうを受うけます。これまで10人にんの女優じょゆうさんとテレビでコントを創作そうさくされましたが、あらためて、“テレビで、女優じょゆうさんと、コントする”ことの面白おもしろさを感かんじたところはありますか？

もともと僕ぼくは女優じょゆうを主役しゅやくにして舞台ぶたいを作つくることが比較的ひかくてき多おおい作家さっかなので、女優じょゆうとやるからどうこうというのは自分じぶんの中なかで特別とくべつなことではないです。ただやっぱりコントって特とくに芸人げいにんさんの場合ばあいは、女性じょせいが入はいってくるのは稀まれで、男性だんせい社会しゃかいみたいなところがある。でもこのシリーズでは、女優じょゆうさんと作品さくひんを作つくってきた俳優はいゆうであり監督かんとく業ぎょうもやる自分じぶんの、特性とくせいみたいなものが発揮はっきできるのではないかと思おもいます。あとやっぱりコントをやっていても画がが安やすっぽくならないのが良よいですね（笑）。松まつさんや長澤ながさわさんがモニターでアップになると「映画えいがだなあ」って思おもってしまうし、映画えいがのクオリティであんなにくだらないことができるというのは、やっぱり俳優はいゆうとコントをやれる特権とっけんだと思おもいますね。