作家で探検家の角幡唯介は、この冬、北極圏で太陽が昇らない闇の世界の単独行に挑む。
文・写真=角幡 唯介
極夜―。北極で旅をはじめてからこの5年の間、私の心はずっと極夜にたいする憧憬に支配されてきた。北極に通いはじめたのも、北極点とか内陸氷床とかそういう特定の場所に行きたかったからではなく、極夜という現象そのものに関心があったからだ。
2011年3月から7月にかけて、私は友人と二人でカナダ北極圏の雪と氷とツンドラの荒野を1600キロにわたり歩き、初めて北極で本格的な旅を実践したのだが、そもそもこの旅にしても、まずは通常の季節と方法で極地を旅して将来の極夜探検にそなえるという長期的な準備活動の意味合いがつよかった。
極夜とは北極と南極の両極で冬の間に訪れる太陽が昇らない日々のことである。この暗黒の季節は緯度が高くなるほど期間が長くなり、グリーンランドにある最北の村シオラパルクでは10月下旬から2月中旬の4カ月近くもの間、夜の闇につつまれる。
あまりにも長い夜。極夜を単にそう呼ぶことも可能だろう。しかし、それはそう呼ぶにはあまりにも長すぎるのだ。季節と呼ぶには違和感があるし、現象という物理学的な用語や、状況という哲学的表現でも十全ではない。
極夜は、生きる人間の認知活動を定め、精神構造をつくりあげ、視点をはぐくみ、世界観を形成させるという意味において、まさに世界としか呼びようのないものなのかもしれない。
※この続きは、ナショナル ジオグラフィック2015年11月号でどうぞ。
角幡さんはこの原稿の執筆後、在留資格の問題から今期の探検を断念し、計画を練り直すことになりました。なぜ夜が明けない極夜をひとり歩くのか、それはなぜ探検といえるのか、原稿には著者の強い思いと覚悟がつづられています。(編集T.Y)
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