21世紀の旧ソ連諸国を語るにあたって、ひとつの軸となる要素は「民主化」だ。
旧ソ連の国々の民主化の流れの中に、「カラー革命」と呼ばれる一連の「無血革命」がある。それらが、前回までに聞いた「未承認国家」もかかわる紛争の連鎖の中にも織り込まれていくことで、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻への伏線ともなっていることを、ここでは見ておきたい。
旧ソ連の紛争に詳しい慶応大学教授の廣瀬陽子さん。東欧革命とカラー革命の違いとして欧米のかかわりの有無を挙げた。
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「民主化というと、1989年にベルリンの壁が崩壊したことに象徴される東欧革命がよく知られていると思います。一方で、色革命、カラー革命などと呼ばれているものは、まず2003年にジョージアで起きたバラ革命から始まるものです。2003年の議会選挙で不正があったとして反発した市民が、バラの花を持って議会を占領し、結局、大統領は辞任、再選挙が行われることになりました。のちに南オセチア紛争(2008年)を引き起こした側の一人、サーカシビリ大統領がその時、選ばれました。さらに、ウクライナでは、2004年11月の大統領選挙の結果をきっかけにしたオレンジ革命が続きました。民主化への革命とされていますが、東欧革命が自然的につながったのに対して、カラー革命は、欧米が深くコミットしたものだというのが違う点です。なお、2005年のキルギスのチューリップ革命もカラー革命に含める論者もいますが、こちらには欧米の関与が見られないため、区別した方が良いと思います」
カラー革命の帰結として、各国とも、民主化、欧米志向のリーダーを選ぶに至ったが、その後、民主化が進展したという評価は得られていない。例えば、ジョージアのサーカシビリ大統領は、その後、権威主義的な政権に回帰したし、ウクライナでも縁故主義や汚職が跋扈し、2014年には新たに欧米志向を明確にする「マイダン革命」が起きた(と同時に、ロシアによるクリミア併合と、東部における「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」、二つの未承認国家の誕生という事象も、ウクライナの民主化、欧米志向への鋭い応答として起きた)。
これらのカラー革命には、「欧米が深くコミットした」面があるというのも重要な論点になろう。
「ニューヨークに本部を持つソロス財団(オープン・ソサエティ財団)のようなNGO、アメリカ政府までがかかわり、資金面、技術面の援助をしたとされます。技術面というのは、つまり、こういうふうにやれば革命ができるというノウハウで、セルビアの『オトポール!』などが革命を指導したと言われています。オトポールは、2000年、ユーゴスラビア大統領だったミロシェビッチを退陣に追い込んだ運動を主導した団体です。彼らのマークは、『抵抗』を意味する振り上げたこぶしで、ジョージアやウクライナのカラー革命の時にも、オトポールの旗を振っている人が散見されました。自然的な連鎖ではなく、意図的に連鎖させられた部分が大きいのが色革命だったのではないかと考えています」
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