自宅じたくで一人ひとり亡なくなり、誰だれにも気きづかれずに数日すうじつたってから発見はっけんされる「孤独こどく死し」。これまで高齢こうれい者しゃの問題もんだいとされてきたが、20・30代だいの「まだこれから」の世代せだいも孤独こどくに命いのちを絶たっている。若者わかものたちは何なにに絶望ぜつぼうし、この世よを去さってしまうのか。セルフネグレクトに陥おちいり、死しと直面ちょくめんしている人々ひとびとに話はなしを聞きいてみた。 寺園てらぞの翔太しょうたさん（仮名かめい）28歳さい・データ入力にゅうりょく 埼玉さいたま県けん某所ぼうしょ。ワンルームで一人暮ひとりぐらしをする寺園てらぞの翔太しょうたさん（仮名かめい・28歳さい）のもとには、毎日まいにち決きまった時間じかんにLINEが届とどく。その内容ないようは短みじかく、「お元気げんきですか？」。そして、「OK」とタップする。それは、“もしも”に備そなえて探さがした見守みまもりサービスの「生いきていますか」「生いきています」という生存せいぞん確認かくにんだ。 「『20代だいのくせに、何なにが孤独こどく死しだ』と思おもう人ひとも多おおいですよね。でも、そう思おもえるのは、その人ひとが普通ふつうの家庭かていで育そだって、普通ふつうの幸しあわせを享受きょうじゅできたから。僕ぼくだって、この年としから孤独こどく死しに怯おびえたくありませんでした」 生存せいぞんを伝つたえたスマートフォンの画面がめんから光ひかりが消きえる。寺園てらぞのさんは言葉ことばを続つづけた。 「7歳さい離はなれた兄あにと、実みの母ははから毎日まいにち虐待ぎゃくたいを受うけていました。兄あには統合とうごう失調しっちょう症しょうで、僕ぼくと弟おとうとがまだ小ちいさいときから包丁ほうちょうを持もって暴あばれたり、殴なぐってくる。母ははも助たすけてくれるどころか、日々ひびのストレスのはけ口ぐちを僕ぼくと弟おとうとに向むけてきたんです。首くびを摑まれて浴槽よくそうに沈しずめられたことも何なん度どもありました。そして父ちちは我わが関かんせずで、ほとんど家かに帰かえってこない。家いえに殺人鬼さつじんきがいて、常つねに壮絶そうぜつな緊張きんちょう感かんにさらされていたんです」 親戚しんせきらには絶縁ぜつえんされ、頼たよれる大人おとなは皆無かいむだったという。 「僕ぼく自身じしんも、鬱うつ病びょうや発達はったつ障害しょうがい、強迫きょうはく性せい障害しょうがいを抱かかえていたから、高校こうこうを卒業そつぎょうしても仕事しごとが続つづかない。20社しゃ以上いじょう転々てんてんとしました。なんとか3年ねん前まえに家いえを出でられましたが、仕事しごとは完全かんぜん在宅ざいたくワークの事務じむです」 寺園てらぞのさんは「狂くるった人生じんせいは、簡単かんたんには変かわらない」と悄然しょうぜん。 「精神せいしん的てき疾患しっかんだって、あんな家いえに生うまれなければここまでひどくならなかったはず。職しょくを転々てんてんとするから出世しゅっせもできないし、生活せいかつに余裕よゆうがないから結婚けっこんもできない。人生じんせいを好転こうてんさせる術じゅつがわからないんです。今いまは、『死しにたい』と思おもう気持きもちを必死ひっしにごまかすことしかできない。そして、“もしも”のときは早はやく見みつけてもらって、弟おとうとにだけは迷惑めいわくがかからないようにしたいです」 そして、彼かれは今日きょうも淡々たんたんと“生存せいぞんボタン”を押おし続つづける。 内閣ないかく府ふの孤独こどく・孤立こりつ対策たいさく推進すいしん室しつが発表はっぴょうした令れい和わ5年度ねんどの『人々ひとびとのつながりに関かんする調査ちょうさ』によると、孤独こどく感かんが「しばしばある・常つねにある」と回答かいとうした人ひとの割合わりあいは、20代だいから高たかまる傾向けいこうにあった。若者わかものはどのような孤独こどく感かんを覚おぼえているのか。24時じ間あいだ365日にちチャット相談そうだん窓口まどぐちを運営うんえいするNPO法人ほうじんあなたのいばしょ理事りじ長ちょう・大空おおぞら幸みゆき星ほし氏しに聞きいた。 「匿名とくめいチャットに寄よせられる声こえを聞きくかぎり、完全かんぜんに孤立こりつしている若者わかものは少すくない。家族かぞくや友達ともだちといったコミュニティはあるけれど、『心配しんぱいをかけちゃいけない』という思おもいが先行せんこうし、一人ひとりで思おもい詰つめて孤独こどくを感かんじてしまうんです。孤立こりつしていないからこそ、気きを使つかって孤独こどくになるというのは目立めだった傾向けいこうです」 そもそも孤独こどくと孤立こりつはどう異ことなるのか。 「孤独こどくは主観しゅかん的てきなもので、極論きょくろんを言いえば、家族かぞくや友人ゆうじんに看取みとられたとしても、当人とうにんが内心ないしんで孤独こどくを感かんじていれば孤独こどく死しとなる。一方いっぽうで、家族かぞくや地域ちいきとのコミュニケーションがない状態じょうたいで物理ぶつり的てきに一人ひとりで亡なくなった場合ばあいは孤立こりつ死しと言いうべきでしょう。ただ故人こじんが孤独こどくだったかどうかは見みえにくいですし、なかには望のぞんで一人ひとりで亡なくなった方ほうもいるはずで、すべてを“孤独こどく死し”でくくるのはよくない。問題もんだいは、望のぞんでないのに孤独こどくに陥おちいっている人ひとたちにどう社会しゃかい的てき繋つながりを担保たんぽしていくかだと思おもいます」