過去かこにはNHK『バリバラ』などに出演しゅつえんし、舞台ぶたいなどを中心ちゅうしんに活躍かつやくする女優じょゆうがいる。“3本ほん足あしの女優じょゆう”を自称じしょうする、愛澤あいざわ咲さき月げっさんだ。3本ほん目めの足あしは、松葉杖まつばづえ。生うまれ持もって脳性のうせい麻痺まひがあり、14歳さい頃ごろから松葉杖まつばづえを使用しようするようになったという。現在げんざい、日常にちじょう生活せいかつでは、車椅子くるまいすでの移動いどうをメインとしつつ、松葉杖まつばづえも手放てばなさない。 　愛澤あいざわさんはなぜ演技えんぎの世界せかいにのめり込こみ、観みる人ひとに何なにを伝つたえたいのか。壮絶そうぜつともいえる半生はんせいのなか、それでも笑顔えがおでいられる彼女かのじょの活力かつりょくの源泉げんせんに迫せまる。 　愛澤あいざわさんは京都きょうと府ふで生うまれ育そだった。真まっ直すぐな瞳ひとみの印象いんしょうが強つよい女性じょせいだ。切せつないエピソードも、平然へいぜんと笑顔えがおで話はなす。たとえばこれは小学生しょうがくせい時代じだいの話はなしだ。 「小学生しょうがくせいのころは松葉杖まつばづえも使つかっておらず、脚あしに装具そうぐをしていただけでした。たぶん、私わたしの歩あるき方かたがおかしかったんでしょうね。すれ違ちがいざまに、私わたしの歩あるき方かたを真似まねして、大おおきく揺ゆれながら歩あるく子ことかがいて。私わたしは『そこまでへんな歩あるき方かたじゃないわ！』とか言いってましたけど（笑）。でもあのくらいから、道行みちゆく人ひとの目めを気きにして、すれ違ちがいざまに真似まねされているかどうか確認かくにんするくせはついたように思おもいます」 　脳性のうせい麻痺まひを患わずらう愛澤あいざわさんが脚あしに装具そうぐをつけたのは、4〜5歳さいのとき。健常けんじょう者しゃよりも歩あるき方かたがぎこちないことは自覚じかくしつつも、持もち前まえの気丈きじょうさで友達ともだちのからかいを受うけ流ながしていた。だが子こども同士どうしの残酷ざんこくな世界せかいにおいて、異質いしつなことは排除はいじょの対象たいしょうになる。徐々じょじょに孤立こりつを深ふかめた。 「脚あしの疼痛とうつうがひどくなってしまい、10歳さいのころに手術しゅじゅつをすることになりました。でも、期待きたいしていたほど改善かいぜんしなかったんです。結果けっかとして、この頃ころから松葉杖まつばづえを使用しようするようになりました。 　もうその頃ころには、いじめがエスカレートしていたんでしょうね。クラスメイトがわざと手てすりを塞ふさぐように立たっていて『手てすりなしで降おりてみぃや。階段かいだんの練習れんしゅうや』と言いわれました。私わたしは、手てすりがないと階段かいだんを降おりることができません。他ほかにも筆箱ふでばこでぶたれたり、黒板こくばんの前まえに立たたされてスカートを降おろされたこともありましたね。松葉杖まつばづえを隠かくされたこともあります。 　私わたしは、ヘラヘラしながら『やめてぇ』というだけで精一杯せいいっぱいでした。きっと、いじめの被害ひがい者しゃになっている現実げんじつを受うけ入いれられなかったんですね。ただみんなと遊あそんでいるだけだと思おもいたかったのでしょう」