クラムボン・ミトに最新さいしんバンドろん “直販ちょくはんスタイル”でげた創作そうさく活動かつどう純化じゅんか 

 クラムボンの新作しんさくる。タイトルは『モメント e.p. 2』。5きょく新曲しんきょくおさめたミニ・アルバムだ。前作ぜんさくミニ・アルバム『モメント e.p.』(2016ねんリリース)同様どうよう完全かんぜん自主じしゅ原盤げんばん自主じしゅ制作せいさく自主じしゅ流通りゅうつうによるインディーズ作品さくひんである。

クラムボン

 ほんさくは6がつ1にちからはじまるツアー会場かいじょう限定げんていでの販売はんばいだ。7月からはかれらの活動かつどう賛同さんどうみずかもうちょく取引とりひきした全国ぜんこくのジャンルをわないショップ(カフェ、古着ふるぎ、チェーンけい居酒屋いざかや、バー、古本屋ふるほんや寿司すし寺院じいんなどさまざま)でも販売はんばいはじまるが、いずれにしろ通販つうはんでも、配信はいしんでも、一般いっぱん大型おおがたレコードチェーンてんでも、『モメント e.p. 2』はうことができない。ライブ会場かいじょうおもむくか、全国ぜんこくかれらの公式こうしきHPに掲載けいさいされたショップにくしか方法ほうほうがない。いわばかれらの音楽おんがくせっすること自体じたいが、ひとつの日常にちじょうであり稀有けう体験たいけんなのだ。そこには、音楽おんがくがいくらでもタダでけてしまう現状げんじょう音源おんげん価値かち下落げらく際限さいげんなく安売やすうりされている現実げんじつへの、かれらなりのひそかな抵抗ていこう意思いしがあるがしてならない。

 そのありかたは、大量たいりょう宣伝せんでんしてヒットチャート上位じょういはいってTVの大型おおがた音楽おんがく番組ばんぐみて……などという旧来きゅうらいてき音楽おんがく業界ぎょうかいのサクセスのありかたから完全かんぜん離脱りだつしている。プロモーションらしいプロモーションもなく、試聴しちょうようのインターネットじょう音源おんげんリンクさえも用意よういされず、ライブとしょう店舗てんぽでのりだけという状況じょうきょうで、しかし、前作ぜんさくおどろくほどおおきな枚数まいすうげた。そこにはクラムボンという音楽おんがくブランドへの絶対ぜったいてき信頼しんらいかんがある。かれらは「究極きゅうきょく家内かないせい手工業しゅこうぎょう目指めざし」「自分じぶんたちの作品さくひん自分じぶんたちで管理かんりできて、利益りえきかぎりなく100%自分じぶんたちに還元かんげんできるシステム」(ミトだん)をつくげたのである。

 られた利益りえきしげもなくCD制作せいさくそそまれている。小淵沢こぶちざわのスタジオでのプリプロ作業さぎょうて、戸田とだきよしあきら(レコーディング&ミックス・エンジニア)、滝口たきぐちひろしたち(マスタリング・エンジニア)といった国内外こくないがい一線いっせん活躍かつやくするちょう一流いちりゅうのスタッフたちとともに、都内とない伝統でんとうてき大型おおがたスタジオ(サウンドインスタジオ)で完成かんせいさせた。メジャー制作せいさくのアルバムとわらぬ態勢たいせいつくられたほんさくは、音楽おんがくも、録音ろくおんも、有無うむわせぬ圧倒的あっとうてきなクオリティである。そしてりにったデザインの特殊とくしゅパッケージにつつまれた工芸こうげいひんのようなCDジャケットは、メジャーではできない自主じしゅ制作せいさくならではの贅沢ぜいたくだろう。

 リーダーのミトは、作家さっかとしてアニメ、アイドル、声優せいゆうげきともなど、日本にっぽんのポップ・ミュージックの、まさに最前線さいぜんせん活躍かつやくするれっ音楽家おんがくかでもある。またそうしたうまくような世界せかいでのギリギリのたたかいでどうやってくか、冷静れいせい戦略せんりゃくめぐらす緻密ちみつ理論りろんでもある。だが『モメント e.p. 2』には、そんな戦略せんりゃくめいた仕掛しかけはなにひとつとして見当みあたらない。しながあり、うつくしく、堂々どうどうとしている。このうえなくポップなのにありきたりなJ-POPの文脈ぶんみゃくからははずれている。そこにあるのは、ききてとしっかりつながるために音楽おんがくしつげる、という、音楽家おんがくかとしての王道おうどうあゆんでいこうとする意思いしである。だから今回こんかいのインタビューでは、あえて音楽おんがくてきなことのみにフォーカスをしぼっていている。(小野島おのじままさる

最近さいきんぼく、(スマホの)ボイスメモのメロディでしかきょくつくってないんですよ」

ーー『モメント e.p.』(2016ねん)は、『triology』のときにほとんど完成かんせいしていたというはなしですが、今回こんかい当然とうぜんすべて新曲しんきょくなんですよね。

ミト:そうです。

ーー今回こんかいの『モメント e.p. 2』の構想こうそうはどんなところから。

ミト:「2」をつくろうとはおもってたんです。『モメント e.p.』をまとめてるときから、つぎもこれぐらいのペースせるんじゃないか、したほうがいいんじゃないかというのは、なんとなくありました。1ねんで5きょくぐらいつくるのが、いまのクラムボンの3にん体力たいりょく集中しゅうちゅうからするとちょうどいいぐらいかな、とおもってたんです。適度てきどてられ、適度てきど自由じゆうにできる範囲はんいで。これぐらいなら無駄むだ時間じかん予算よさん使つかわず、それなりの計画けいかくせいをもったうえでやれるかなと。もちろん、ぼく1人ひとりだったら年間ねんかんフル・アルバム3まいぐらいせますよ。しゅっせとわれれば。

ーー(笑)でしょうねえ。

ミト:でもそれをほかの2人ふたりしつける必要ひつようはない。3にんがちゃんとカラーをして、自分じぶんなか咀嚼そしゃくして作品さくひんとして昇華しょうかできるのが、5きょく。それでも大変たいへんでしたけどね。歌詞かしなんてどうするんだろうって、れいのごとく(笑)。

ーー『triology』のときのリアルサウンドのインタビュー(クラムボン・ミトがかたる、バンド活動かつどうへの危機きき意識いしき楽曲がっきょく強度きょうどげないとたたかえない」)では、とにかく歌詞かし制作せいさく過程かてい原田はらだ郁子いくこさんを徹底的てっていてきんでつくったというはなしだったんですが、それによって原田はらださんの歌詞かし制作せいさくかう姿勢しせい変化へんかはあったんでしょうか。

ミト:まあってもアーティストさんなんで、あんまわらなかったですね(笑)。あのころわたしは「そのときかたるべきことを歌詞かしきとして一生いっしょう背負せおってやってください」みたいなことをいましたけど、のどもとぎればなんとやらで。でも人間にんげんそんなものだとおもうんです。ずっとやってきた自分じぶんのやりかたをそう簡単かんたんえられるわけないし。なので歌詞かしのディレクションも、あたまからダメだしするんじゃなくて、どうしたら彼女かのじょからいい言葉ことばしてあげられるかみたいな、いわゆるディレクター、コーディネーターてきなやりかたになっていったんです。

ーー彼女かのじょから自然しぜんにいい言葉ことばてくるようにととのえて、お膳立ぜんだてしてあげる。

ミト:そうそうそうそう。でもそうおもったらいろいろれて。いままでは原田はらださんにたいして「つ」だけだったんですよ。ってって自分じぶんがどうにかしたいんだけどどうにもできない、みたいなことでかんがえなくていことに自分じぶんまれちゃうみたいな。そこにまれるのがイヤだったんですけど、そこも全部ぜんぶひっくるめてクラムボンでモノをつくるってことなんだとようやっとづいた。そのために感情かんじょうてて音楽おんがくてきすじトレをするーー技術ぎじゅつりょくとスキルと忍耐にんたいりょくをつけてね。

ーー結果けっかとして彼女かのじょいた歌詞かし満足まんぞくのいくものになりました?

ミト:うん、いったとおもいますよ。「レーゾンデートル」なんかは、最初さいしょ彼女かのじょってきた歌詞かし使つかえたのは全体ぜんたいの1わりもなかった。この一文いちぶんだけ、みたいな。じゃあこの一文いちぶんひろげていってなおしましょうかってって、4あいだ全部ぜんぶげた。

ーーその1ぶんってどれですか。

ミト:なんだったっけなあ……それもなくなっちゃったのかもしれないですねえ……ああ、このよん文字もじ熟語じゅくごつらなっていくかんじ。曲調きょくちょうぼくらからすると「ジャパニーズ・マナー」(アルバム『2010』に収録しゅうろくされた配信はいしんシングル)っていうか、不思議ふしぎ和風わふうかんがあって、しかもグルーヴがつよかんじだったので、よん文字もじ熟語じゅくご一杯いっぱいならべたら面白おもしろいってことになって彼女かのじょがいっぱいいてきてくれたんですけど、ここからかなあ……。

ーーひとつしゅがあって、そこからいろんなものをひろげていって、いろいろいじっているうちにだんだん面白おもしろいものになっていって、でももとたね原型げんけいめていない……というのは歌詞かしかぎらずきょくづくりでもありますよね。

ミト:そうそうそうそう。さいわいなことにわたしはリリックの構造こうぞうについていろんなひとのディレクションさせてもらってるから、そういうふう分解ぶんかいしていちからなおしても絶対ぜったいにできるっていう方法ほうほう自信じしんいまはあるんです。ぎゃくうと、わたし普段ふだん作家さっかとしている現場げんば作詞さくしさんなんかは40ふんで1きょくくとか、そういうレベルの世界せかいにいるので。

ーーああ、げきともとかの世界せかいはね。

ミト:わたしはその時間じかんではけないですけど(笑)、でも2あいだで1きょくとかやらされますよ。まあ歌詞かしはそこまでおおいわけじゃないですけど、リリックのすじトレみたいなものは普通ふつうひとよりはさせてもらっているかもです。これははめやすいとか、っかかるという言葉ことばをいじってるうちに、なんかわからないうちに面白おもしろくなってる。

ーーそれは我々われわれ文章ぶんしょうときおなじですね。なやんでも、ひとつ突破口とっぱこうつかれば、あとはなんとかなる。

ミト:うんうん。ありますよね。いち言葉ことばがあって、辻褄つじつまとかかんがえずどんどんおもいついたことをつらねていくと、いつのまにかつながっていく、みたいなことは今回こんかいもままありました。

ーー今回こんかいきょくさきだったんですよね。

ミト:きょくさきです。それが面白おもしろいんですけど、最近さいきんぼく、(スマホの)ボイスメモのメロディでしかきょくつくってないんですよ。

ーー鼻歌はなうたで。

ミト:そうそう。たとえば「flee」とかは、ゆめなかでTalking Headsがさい結成けっせいして、その音源おんげんがラジオでかかってたのを全部ぜんぶおぼえていた、ていうのがもとなんですよ(笑)。

(スマホをせる。「2016ねんにTalking Headsが復活ふっかつしたら」というタイトル。再生さいせいすると、ギターがたりでミトが鼻歌はなうたうたっている)

ミト:これはもうゆめなか全部ぜんぶ出来できてたんで。そういうのをあつめただけですね、今回こんかいは。

ーーそういうつくかたって、アニソンとか声優せいゆうさんのきょくつくときとはちがうんですか。

ミト:あー、でもそれもあるかも。最近さいきんはとにかくメロがくないとはなしすすまないことがおおいんですよ。ボイスメモに1にち3〜4きょくぐらいれてるんですけど、それをなおすことから作業さぎょうはじまることもあって。鼻歌はなうたうたってるメロって、あとで音源おんげんとかコードにすると、わたし手癖てくせさわったこともないコードがてくるんです。

ーー自分じぶんうたったきょくでも?

ミト:そう、自分じぶんうたったきょくでも。メロも手癖てくせがあるとおもうじゃないですか。でもはなうたってあんまりないんですよね。複雑ふくざつなコードやらシンセのかっこいいおととかでつくるわけじゃないから。おとあふられてつくってないんですよ。潜在せんざいてき欲求よっきゅうからしかてこないっていうか。

ーーそれってすごく伝統でんとうてきなシンガーソングライターのつくかたってがしますね。

ミト:ですよね? でもそれをえるものがいまのところないんですよわたし

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