NEST、鋭するどい批評ひひょう眼めで切きり拓ひらくポップの新しん境地きょうち　バンドの型かたに縛しばられない自由じゆうな創作そうさくの根源こんげんに迫せまる

　今いま、東京とうきょうのライブシーンを中心ちゅうしんに注目ちゅうもくを集あつめているNEST。ラウドロックやポップパンクをルーツに持もちながらも、ジャンルに縛しばられないポップの新しん境地きょうちを次々つぎつぎに開拓かいたくしていくイノベイティブなバンドだ。9月6日にちリリースの最新さいしんEP『The Market on One Intense Sunny Day』では、ゴスペルコーラスをフィーチャーした「Bow!Kiss!Begin!」や、よりエレクトロニックでアンビエントな「Décalcomanie」、歌うたものポップを極きわめた「Young, Cheap, And Helpless feat. うえきさくら」など、NESTのサウンドバラエティがさらに開花かいか。バンドミュージック、ギターロックの範疇はんちゅうから軽かろやかに飛とび出だしていく彼かれらは、逆説ぎゃくせつ的てきに今日きょう的てきなバンドであるとも言いえる。NESTのすべてのナンバーで作詞さくし作曲さっきょくを手てがけるHayato（Gt）、その伸のびやかな歌声うたごえにカリスマを滲にじませるTakuto（Vo）に話はなしを聞きいた。（粉川こかわしの）

NESTがポップスで掲かかげる“生なまと死しの近ちかしさ”

――『The Market on One Intense Sunny Day』は1曲きょく目めの「Bow!Kiss!Begin!」から明あきらかに新しん機軸きじくを感かんじました。NESTのキャリアにおける今回こんかいのEPの位置いちづけを教おしえてください。

Hayato：昨年さくねんリリースした前作ぜんさく『While We Are Sleeping』が初はじめてちゃんと作つくった作品さくひんだったんですけど、そのミニアルバムはバンドの名刺めいし代かわりにしたい、というコンセプトで作つくった作品さくひんだったんです。僕ぼくらは2018年ねん頃ごろから活動かつどうを始はじめて、当初とうしょは少すこし重じゅうめのポップパンクのような音おとでやっていたんですね。でもライブハウスのイベントとかに呼よばれても、ブッカーさんからどのイベントにブッキングしたらいいか悩なやまれるような立たち位置いちにいて（笑）。メロディックパンクやメタルコアの中なかに入いれられたり、歌うたもののイベントになぜか僕ぼくらも呼よばれたり、どこにいっても結構けっこう浮ういているっていう場面ばめんが多おおかったので、いったんNESTの指標しひょうとなるものを作つくりたかった。それが『While We Are Sleeping』です。ポップパンクをさらにポップ寄よりにしたサウンドで、お客きゃくさんのリアクションも良よくて。昨年さくねんの10月がつには『SATANIC PARTY 2022』に呼よんでいただいたりと、反響はんきょうがかなり大おおきかったんですね。

　対たいして今回こんかいは、そこからさらにガラッとイメージを変かえたいと思おもって作つくったEPです。この路線ろせんのままで僕ぼくらを覚おぼえてほしくなかったから。例たとえば、「Bow!Kiss!Begin!」でやっているゴスペルミュージックは今回こんかいのキーとなっていますし、さらにハウスやエレクトロニックなサウンドも聴きいていた時期じきだったので、そうした新あたらしい要素ようそもすぐに取とり入いれて消化しょうかしたかった。そういう意味いみで、新しん展開てんかいを目指めざした作品さくひんだと思おもいます。

――バンドイメージの揺ゆさぶりを意図いとしたものだったと？

Hayato：そうですね。今いま作さくは人ひとによっては芯しんがないと思おもわれるかもしれませんけど、僕ぼくらとしてはバンドの歴れきが浅あさいうちにやりたいことを全部ぜんぶやって、それが自分じぶんたちの強つよみになるならそれでいいし、逆ぎゃくに全部ぜんぶやった中なかから一ひとつでもNESTの芯しんになるものが見みつかるなら、それもそれでいいっていう考かんがえ方かただったんです。

――一気いっきにサウンドバラエティが広ひろがった新曲しんきょく群ぐんを、ボーカルのTakutoさんとしてはどう消化しょうかしましたか？

Takuto：実際じっさいにちゃんとした形かたちの曲きょくを聴きけたのは、ボーカルのレコーディングが終おわってからだったんです。すでに自分じぶんの体からだに馴染なじんだ状態じょうたいで完成かんせいしたバージョンを聴きいたので、意外いがいとすんなり消化しょうかできました。ポップパンク的てきな『While We Are Sleeping』から、さらにポップへっていう流ながれにさほどギャップは感かんじず、僕ぼくもお客きゃくさんも違和感いわかんなく受うけ入いれられたんじゃないかって。

――お二に人にんの意見いけんの不一致ふいっちみたいなことは起おきなかったわけですね。

Hayato：今いまは僕ぼくが作詞さくし作曲さっきょくを担当たんとうしていて、Takutoに聴きかせた曲きょくで「この曲きょくやりたくない」みたいに言いわれたことはほとんどないです。彼かれは飲のみ込こみが早はやいタイプなんです。今後こんご、曲きょくを2人ふたりで作つくるようになったらまた違ちがうだろうし、相乗そうじょう効果こうかでさらに良よくなる可能かのう性せいもあるので、そこは今後こんごの楽たのしみです。

――今いま作さくのタイトルには「輝かがやけるのは一瞬いっしゅんだけ」というテーマを込こめたと、セルフライナーノーツに書かいてらっしゃいました。刹那せつな的てきなテーマとも言いえますが。

Hayato：僕ぼくが書かく曲きょくは明あかるくポップなんだけど、歌詞かしはそんなにポップじゃないんですね。卑屈ひくつな人間にんげんなので（笑）。明あかるい曲きょくで暗くらい歌詞かしを歌うたうという、一種いっしゅのアイロニーがすごく好すきなんです。今回こんかいのタイトルに関かんしてはまず頭あたまに風景ふうけいというかイメージが浮うかんで……そこはヨーロッパ、地中海ちちゅうかいの太陽たいようが照てりつける港町みなとちょうの市場いちばで、色いろとりどりの野菜やさいや果物くだもの、花はなや骨董こっとう品ひんが並ならんでいるっていう。すごく美うつくしいんだけれど、中なかには傷きずがついていて売うれないもの、ゴミ箱ごみばこ行いきになったものもある。それって見みた目めで判断はんだんされて、可能かのう性せいの有無うむに限かぎらず淘汰とうたされていってしまったりする点てんで、人間にんげんや社会しゃかいの有様ありさまと同おなじだなって感かんじて。でも、たとえ傷物きずものであっても……僕ぼくらが何なにか一いち回かい失敗しっぱいしたとしても、そこで人生じんせいが終おわりではないし、一瞬いっしゅん一瞬いっしゅんを自分じぶんにしか出だせない色いろで生いきていく人生じんせいでありたい、という意味いみを込こめたんです。あともう一ひとつヒントとなったのが、ヴァニタスっていう絵画かいが技法ぎほうです。これは静止せいし画がの中なかに骸骨がいこつのような死しを暗喩あんゆするモチーフを描えがき込こむことで、人生じんせいの虚むなしさや儚はかなさを表現ひょうげんする技法ぎほうで。

――人生じんせいにおける生なまと死しの近ちかしさを意識いしきするというか。

Hayato：概念がいねんが大おおきすぎる話はなしかもしれないけれど、死しというものは常つねに僕ぼくらの近ちかくに感かんじられるものだと思おもっていたら、生いき方かたも少すこし変かわるんじゃないかと思おもうので。

――「輝かがやけるのは一瞬いっしゅんだけ」という刹那せつなは、本ほん作さくにおけるポップソングの捉とらえ方かたともリンクしていると思おもいました。普遍ふへん的てきなポップを見みつけるよりも、気きまぐれで移うつろいやすいポップの速度そくどや有様ありさまを、そのまま活写かっしゃしようとしているというか。

Hayato：そうですね。今回こんかいもタイトル先行せんこうで作つくり始はじめたので、そこはリンクしていると思おもいます。収録しゅうろく曲きょくも全部ぜんぶバラバラのテイストにしようと考かんがえて、ダンサブルな曲きょくやゴスペル、かと思おもえば「Young, Cheap, And Helpless feat. うえきさくら」みたいにJ-POP的てきなメロディもあり、もっとオールドスクールなものもあるっていう。まさに市場いちばに並ならんでいる色いろも形かたちも違ちがう品物しなものみたいな感覚かんかくです。それって明日あしたになれば朽くち果はてていくものかもしれないけれど、だからこそ今いまを生いきている感覚かんかくを肌身はだみで感かんじられるものでもあるのかなって。

――そうした本ほん作さくのポップの批評ひひょう性せいを同様どうように持もっているバンドとして、真まっ先さきに連想れんそうしたのがThe 1975でした。

Hayato：僕ぼくもTakutoも、The 1975はめっちゃ聴きいてますね。この前まえの来日らいにち公演こうえん（2023年ねん4月がつの『The 1975 At Their very best - Japan』）も行おこなったし。彼かれらと僕ぼくらでは全然ぜんぜんスケールが違ちがうけれど、ポップの批評ひひょう性せいの点てんや、バンドという形態けいたいで作品さくひんごとに強つよいメッセージを込こめていく点てんとかにおいては、確たしかに影響えいきょうを受うけていると思おもいます。

NEST結成けっせいの経緯けいい　「バンドという意識いしきは希薄きはく」（Hayato）

――そもそもNEST結成けっせいのきっかけは何なにだったんですか。

Takuto：高校こうこうの同級生どうきゅうせいです。

Hayato：中学ちゅうがくの僕ぼくの同級生どうきゅうせいがドラムをやっていて、そこでスリーピースで始はじめたのが最初さいしょですね。この二人ふたりが初はじめて会あったのは高こう3の選択せんたく授業じゅぎょうでお互たがい取とった音楽おんがくだったよね。第だい一いち印象いんしょうでは、仲良なかよくならないでおこうって思おもってた（笑）。

Takuto：（笑）。

Hayato：彼かれはいわゆる陽ひキャで、スクールカーストの上うえのほうにいる人ひとだったから。僕ぼくはギリギリに学校がっこうに来きてすぐ帰かえって地元じもとでバイトしていて、ずっと一人ひとりでいるタイプでした。でも、文化ぶんか祭さいで一緒いっしょにバンドをやることになって、ONE OK ROCKのカバーを2〜3曲きょくやったんだよね。それで僕ぼくは大学だいがくに、彼かれは音楽おんがくの専門せんもん学校がっこうに進学しんがくして、その段階だんかいで、なぜか一緒いっしょに「バンドやるでしょ」みたいなノリになっていて。

Takuto：高校こうこうではHayatoは一番いちばんギターが上手うまい、みたいに言いわれていて、それで一緒いっしょにやりたいと思おもった記憶きおくがあります。実際じっさいにバンドをやるとなったのは卒業そつぎょうしてからですけど、僕ぼくはバンドという形態けいたいにそこまでこだわりもなくて、途中とちゅうまでかなりふわふわした気持きもちでやってたんですよね。最初さいしょから「よし、バンドやろう！」って感かんじではなかったです。他たのバンドが経験けいけんしているような結成けっせいの経緯けいいではなかったなって。

――バンドをやりたいというモチベーションと、音楽おんがくを作つくりたい／歌うたいたいというモチベーションはかなり違ちがうものだと思おもうんですが、NESTの場合ばあいはどちらが強つよかったですか？

Takuto：僕ぼくは、歌うたいたいっていうモチベーションが先さきですね。

Hayato：それは今いまの僕ぼくらのバンド観かんにも通つうじているものかもしれないです。最初さいしょはわかりやすく「バンドで売うれたい」「飯めし食くいたい」みたいなところから始はじまったんですけど、徐々じょじょに自分じぶんの脳のう内ないで鳴なっている音おとと、人ひとに聴きかせるとなった時ときの音おとのギャップを感かんじるようになっていって……ライブやレコーディングで自分じぶんたちが出だしている音おとに全然ぜんぜん満足まんぞくできなくなっていったんです。そこからどんどん、僕ぼくはソングライターとしての意識いしきが強つよくなっていって。次つぎはどんな曲きょくを作つくろうとか、参考さんこうにしているアーティストの作品さくひんを聴きいても、これどうやってミックスしているんだろう、どこでレコーディングしたんだろう、みたいなことばかり気きになるようになっていったんですね。今いまではぶっちゃけ、自分じぶんのことをギタリストだと思おもってやっていないので。

――先日せんじつ拝見はいけんしたライブでも、そこはすごく感かんじました。バンドフォーマットに対たいするこだわりがほとんどないというか（笑）。

Hayato：（笑）。そうですね。楽器がっきを持もってライブハウスに入いり浸びたるようになったからバンドという形態けいたいでやっているだけであって、確たしかにバンドをやっているという意識いしきは希薄きはくなんです。音源おんげんを出だしたらとりあえずツアーをして、20本ほん、30本ほんライブをこなしつつ、いろんな人ひとと出会であって酒さけを飲のんで和気藹々わきあいあいと語かたらい合あう……みたいな（笑）、バンド活動かつどうのそういう側面そくめんにはあまり固執こしつしていないですし。それをやらないと名前なまえが売うれない、みたいな感覚かんかくもわかるけれど、よそはよそ、ウチはウチみたいな。なんだろう……自分じぶんたちがステージで鳴ならしていない音おとを音源おんげんに入いれようという段階だんかいで、バンドという概念がいねんは捨すてているんで。だったら逆ぎゃくに振ふり切きらないと。そういうバンドはいくらでもいるし、バンドの音おとにちょっとしたストリングスが鳴なっているくらいのことをやっていても、仕方しかたがないというか。今回こんかいのEPではギターの音おとが入はいっていない楽曲がっきょくも2曲きょくぐらいありますし、とりあえず録ろくってできる音源おんげんが優先ゆうせんなんです。その後ごでライブでどうやるか考かんがえるっていう。だからめちゃくちゃ大変たいへんなんですけど。

Takuto：NESTはライブと音源おんげんが別物べつものだよね。