SHE'Sが3年ぶりの東阪野音ワンマンライブ『Toward the Blue』を開催した。彼らにとってメジャーデビュー5周年記念公演の一環だった2021年の『Back In Blue』と対照を描くタイトルを持つ今回のライブは、彼らのテーマカラーでもある“青”が意味する初心や初期衝動を胸に前進する清々しさに満ちたものになった。ここでは6月15日の東京・日比谷野外音楽堂の様子を振り返る。
SHE'Sにとって日比谷野外音楽堂はデビューの契機となった「閃光ライオット」ファイナルで立ったステージであり、東京でのライブ初舞台でもある。今回は周年ではないが、やはりどこか現時点でのベストなセットリストになるのも自然なことに思える。そこで冒頭からネタばらしになるが、前回2021年も今回もピックアップされたレパートリーは「Dance With Me」「Ugly」「Your Song」「Letter」「Ghost」「追い風」「The World Lost You」「C.K.C.S.」「The Everglow」の9曲。井上竜馬(Vo/Key)の洋楽ルーツのメロディだったり、ともに時間を分かち合うチアフルなムードだったり、時に人生に深く向き合うシリアスさだったり……が、このバンドのキャラクターとして結実したレギュラーメンバー的な楽曲ばかり。アルバムリリースツアーとは一味違う入り口の広さを感じる。
木村雅人(Dr)のフロアタムのプリミティヴな強さをあらためて思い知った「Blue Thermal」、間奏のアンサンブルで広瀬臣吾(Ba)の頼れるプレイを痛感した「追い風」、アウトロで服部栞汰(Gt)、広瀬、木村が重ねるコーラスの素朴な力強さが気持ちを鼓舞した「The World Lost You」と、序盤は気持ちを飛翔させる楽曲が続いた。ほんのり雨の匂いがする野外で湿った空気を胸いっぱいに吸い込みながら、気持ちは明るい。そのモードをスッと洒脱なポップソング「No Gravity」に繋ぎ、音数を絞ったアトモスフェリックなサウンドで届ける。井上はハンドマイクで歌い、セットのベンチに座ったりして曲のポップネスを彼自身が最も楽しんでいる。
レアな初期ナンバー「フィルム」に驚き、井上がリズムギターを弾き、服部のオブリガートが冴える「Do You Want?」で少しクールダウンして、シームレスに木村の四分キックが鳴らされると、井上がうやうやしい口調で「私のかわいいかわいい愛犬について歌った『「C.K.C.S.』」を」とタイトルコールすると、ポップソウルなグルーヴに乗ってクラップとシンガロングが次第に大きくなっていく。さらにイントロで溜めに溜めることでサビでのクラップの爆発力が増す「Grow Old With Me」。往年のピアノポップスの構成やサウンドを抽出&アップデートしたこの曲が現在の彼らのライブの中軸を担う曲に成長している頼もしさ。それはラブソングの姿を取りながら“ともに歳を取ろう、思い出を残そう”というバンドのメッセージに重なるからだろう。続く「If」は、「もしも自分が先にこの世を去ったら」とか「記憶をなくしたら」という仮定形の歌詞で、そこには切なさもあるけれど消えない愛を信じる主人公の姿がある。この2曲には井上の哲学も感じるし、肩の力の抜けた深みとでもいうべき、ここ最近のスタンスも感じられた。