遺産いさんを独ひとり占じめにされた時ときにすべきこと　取とり戻もどすための方法ほうほうを解説かいせつ

1. 遺産いさんを独ひとり占じめされるパターン

特定とくていの相続そうぞく人じんに遺産いさんを独ひとり占じめされるパターンには、いくつかあります。

1-1. 遺言ゆいごん書しょに「長男ちょうなんに全部ぜんぶ相続そうぞくさせる」と書かいてあった場合ばあい

まずは遺言ゆいごん書しょにより、「長男ちょうなんに遺産いさんを全部ぜんぶ相続そうぞくさせる」と指定していされているケースです。かつての家督かとく相続そうぞく（跡取あととりの長男ちょうなんに遺産いさん全部ぜんぶを相続そうぞくさせるという旧きゅう民法みんぽうの遺産いさん相続そうぞく方法ほうほう）の名残なごりがある地域ちいきでよくあるケースです。

この場合ばあい、まずは遺言ゆいごん書しょが有効ゆうこうかどうかを確認かくにんしましょう。自筆じひつ証書しょうしょ遺言ゆいごんの場合ばあい、要式ようしきを満みたさず無効むこうになるケースがよくあります。また遺言ゆいごん書しょが偽造ぎぞう、変造へんぞうされている恐おそれも。遺言ゆいごん書しょが無効むこうなら、遺言ゆいごん書しょを無視むしできます。

遺言ゆいごん書しょが有効ゆうこうだった場合ばあいには、指定してい通どおりに長男ちょうなんに遺産いさんが相続そうぞくされます。その場合ばあいでも、他たの子こどもや配偶はいぐう者しゃは長男ちょうなんへ「遺留分いりゅうぶん」を請求せいきゅうできます。遺留分いりゅうぶんとは、故人こじんの兄弟きょうだい姉妹しまい以外いがいの相続そうぞく人じんに最低限さいていげん保障ほしょうされた一定いってい割合わりあいの相続そうぞく財産ざいさんがもらえる権利けんりのことを言いいます。

ただ遺留分いりゅうぶん行使こうしには時効じこうがあるので、早はやめの対応たいおうが重要じゅうようです。遺留分いりゅうぶん侵害しんがい額がく請求せいきゅうは、相続そうぞく開始かいしと不公平ふこうへいな遺言ゆいごんを知しってから1年ねん以内いないに行おこなわねばなりません。確実かくじつに証拠しょうこを残のこすため、内容ないよう証明しょうめい郵便ゆうびんで遺留分いりゅうぶんを請求せいきゅうしましょう。

1-2. 親おやと同居どうきょしていた長男ちょうなんが遺産いさん分割ぶんかつ協議きょうぎに応おうじない

遺言ゆいごん書しょがなくても、同居どうきょしていた長男ちょうなんが遺産いさんを抱かかえ込こんで分割ぶんかつに応おうじないケースが多々たたあります。

そういった場合ばあいには、遺産いさん分割ぶんかつには法定ほうてい相続そうぞく分ぶんと呼よばれる分わけ方かたの目安めやすがあることを伝つたえ、
納得なっとくさせましょう。長男ちょうなんが「家いえに住すみ続つづけたいから、不動産ふどうさんを分わけられない」と主張しゅちょうするなら、代償だいしょう金きんの支払しはらいを要求ようきゅうしてみてください。

どうしても合意ごういできない場合ばあいには、家庭かてい裁判所さいばんしょで遺産いさん分割ぶんかつ調停ちょうていを申もうし立たてましょう。調停ちょうていでは調停ちょうてい委員いいんが長男ちょうなんを説得せっとくしてくれます。それでも合意ごういできなければ最終さいしゅう的てきに「審判しんぱん」となり、裁判官さいばんかんが遺産いさん分割ぶんかつの方法ほうほうを決定けっていしてくれます。審判しんぱんでは「法定ほうてい相続そうぞく分ぶん」に応おうじて遺産いさんが分割ぶんかつされるので、独ひとり占じめは認みとめられません。

1-3. 父ちちの遺産いさんを、母ははが独ひとり占じめするケース

親おやが亡なくなるとき、財産ざいさんを持もつ父親ちちおやが母親ははおやよりも先さきに亡なくなるケースが多おおいでしょう。

そんな時ときに、残のこされる母親ははおやの身みを案あんじた父親ちちおやが「妻つまに全部ぜんぶ相続そうぞくさせる」との遺言ゆいごん書しょを残のこすことがあります。子こどもたちがその遺言ゆいごんの内容ないように納得なっとくするなら問題もんだいありませんが、納得なっとくができなければ前述ぜんじゅつのように遺留分いりゅうぶんを請求せいきゅうすることもできます。

遺言ゆいごん書しょがない場合ばあいでも、遺産いさん分割ぶんかつ協議きょうぎで子こどもたち全員ぜんいんが合意ごういした上うえで、すべての財産ざいさんを母親ははおやに相続そうぞくさせることがあります。

しかし、この場合ばあい、母親ははおやが亡なくなった後のちの二に次じ相続そうぞくの段階だんかいで、子こどもたちで争あらそいになる恐おそれがあります。母親ははおやもいる一いち次じ相続そうぞくの段階だんかいであれば、母親ははおやへの配慮はいりょもあって、冷静れいせいな話はなし合あいが可能かのうになりやすいものです。しかし子こどもたちだけで話はなし合あうと、感情かんじょう的てきになってしまいがちです。

また、一いち次じ相続そうぞくで母ははにすべて財産ざいさんを相続そうぞくすると、二に次じ相続そうぞくでの相続そうぞく税ぜいが非常ひじょうに高額こうがくになる恐おそれがあります。一いち次じ相続そうぞくより、相続そうぞく人じんの数かずが減へるので、基礎きそ控除こうじょ（一人ひとりあたり600万まん円えん）が減へりますし、子こどもがほかの場所ばしょに住居じゅうきょを構かまえていたら「小規模しょうきぼ宅地たくち等とうの特例とくれい」も使つかえません。

結果けっか、母親ははおやに遺産いさんをすべて相続そうぞくしたゆえにトータルの相続そうぞく税ぜいが高たかくなってしまう可能かのう性せいがあります。遺産いさん分割ぶんかつでは二に次じ相続そうぞくまで考かんがえた上うえで、判断はんだんする必要ひつようがあるといえるでしょう。

2. すでに独ひとり占じめされ使つかいこまれた場合ばあい

遺言ゆいごん書しょもないのに、特定とくていの相続そうぞく人じんが遺産いさんを使つかい込こんで独ひとり占じめしてしまうケースも多々たたあります。そんなときには、以下いかのように対処たいしょしましょう。

2-1. 銀行ぎんこう口座こうざを凍結とうけつする

預金よきんを使つかい込こまれている場合ばあいには、まずは預金よきん口座こうざを凍結とうけつしましょう。放はなっておくとどんどん出金しゅっきんされる恐おそれがあります。銀行ぎんこうに「名義めいぎ人じんが死亡しぼうした」と通知つうちすれば口座こうざを凍結とうけつしてもらえるので、早はやめに連絡れんらくしましょう。

2-2. 取引とりひき履歴りれきを調しらべる

次つぎに預金よきんの取引とりひき履歴りれき（入にゅう出金しゅっきん履歴りれき）を調しらべましょう。銀行ぎんこうに申請しんせいすれば、指定していした期間きかんの取引とりひき履歴りれきを出だしてくれます。
戸籍こせき謄本とうほんや本人ほんにん確認かくにん書類しょるい等とうの必要ひつよう書類しょるいをもって金融きんゆう機関きかんへ行いき、取引とりひき履歴りれきを出だしてもらってください。自分じぶんで対応たいおうするのが難むずかしければ弁護士べんごしに依頼いらいする方法ほうほうもあります。

2-3. 使つかい込こみの有無うむを判断はんだんする

銀行ぎんこうから受うけ取とった取引とりひき履歴りれきの内容ないようをみて、使つかいこみがあったかなかったかを判断はんだんしましょう。以下いかのような場合ばあい、使つかい込こみがあった恐おそれが高たかくなります。

• 死後しごに出金しゅっきんされている
• 1度どに数すう十じゅう万まん円えん以上いじょうなど、不自然ふしぜんに大おおきな金額きんがくが引ひき出だされている
• 数日すうじつにわたって継続けいぞく的てきに出金しゅっきんされている
• 相続そうぞく人じん名義めいぎのクレジットカードの引ひき落おとしがある

一方いっぽう、生前せいぜんに生活せいかつ費ひレベルの出金しゅっきんがある程度ていどでは「使つかいこみ」とはいいにくいでしょう。自分じぶんで判断はんだんするのが難むずかしければ、弁護士べんごしに相談そうだんしてみてください。

2-4. 使つかい込こまれた分ぶんを取とり戻もどす

使つかいこみが発覚はっかくしたら、使つかい込こまれた財産ざいさんを取とり戻もどしましょう。前述ぜんじゅつのように、一定いっていの相続そうぞく人じんには、最低限さいていげん保障ほしょうされた一定いってい割合わりあいの相続そうぞく財産ざいさんがもらえる権利けんりである遺留分いりゅうぶんがあります。遺留分いりゅうぶんは遺言ゆいごん書しょよりも優先ゆうせんされる権利けんりですので、堂々どうどうと主張しゅちょうしましょう。

まず、任意にんいに返かえしてもらえるなら、話はなし合あいによって返還へんかんを受うけてください。話はなし合あいができない場合ばあい、争あらそいのレベルが小ちいさければ、家庭かてい裁判所さいばんしょの遺産いさん分割ぶんかつ調停ちょうていで解決かいけつできる可能かのう性せいもあります。

一方いっぽう、金額きんがくが大おおきく争あらそいの程度ていどが大おおきければ、「不当ふとう利得りとく返還へんかん請求せいきゅう」「損害そんがい賠償ばいしょう請求せいきゅう」などの訴訟そしょうをしなければ解決かいけつできません。訴訟そしょうになったら弁護士べんごしに依頼いらいしましょう。

2-5. 実家じっかなどの不動産ふどうさんを独ひとり占じめされた場合ばあい

長男ちょうなんが実家じっかの不動産ふどうさんを独ひとり占じめしている場合ばあい、必かならずしも出でていかせることはできません。遺産いさん分割ぶんかつ協議きょうぎや調停ちょうていで実家じっかの分わけ方かたを決きめましょう。

長男ちょうなんが実家じっかを取得しゅとくするなら、他たの相続そうぞく人じんへ「代償だいしょう金きん」を払はらわねばなりません。任意にんいに代償だいしょう金きんを払はらわないなら家庭かてい裁判所さいばんしょで調停ちょうてい、審判しんぱんを申もうし立たててください。長男ちょうなんに代償だいしょう金きんの支払しはらい能力のうりょくがない場合ばあい、家いえを売却ばいきゃくして相続そうぞく人じんが法定ほうてい相続そうぞく分ぶんに従したがってお金かねを受うけ取とることができます。最終さいしゅう的てきに長男ちょうなんが売却ばいきゃくに応おうじなくても「審判しんぱん」になれば家いえの競売きょうばい命令めいれいが出でるので、法定ほうてい相続そうぞく分ぶんに従したがったお金かねを取得しゅとくできるでしょう。

3. 遺産いさんを独ひとり占じめされたら、弁護士べんごしに相談そうだんする

遺産いさんを独ひとり占じめにされて困こまったときには、早はやめに弁護士べんごしに相談そうだんするようお勧すすめします。

3-1. 弁護士べんごしが対応たいおうしてくれること

弁護士べんごしには以下いかのようなことをお願ねがいできます。

• 遺言ゆいごん書しょがあるかどうかの調査ちょうさ
• 遺言ゆいごん書しょが有効ゆうこうか無効むこうかの判断はんだん
• 遺言ゆいごん書しょの無効むこうを確認かくにんするための手続てつづき
• 預金よきんなど遺産いさん内容ないようの調査ちょうさ、取引とりひき明細めいさい書しょの取得しゅとく
• 取引とりひき履歴りれきの解析かいせき、使つかいこみの有無うむや使つかい込こまれた金額きんがくの判断はんだん
• 遺産いさん分割ぶんかつ協議きょうぎの代理人だいりにん
• 遺産いさん分割ぶんかつ協議きょうぎ書しょの作成さくせい
• 遺産いさん分割ぶんかつ調停ちょうてい、審判しんぱんの代理人だいりにん
• 遺留分いりゅうぶん侵害しんがい額がく請求せいきゅうの代理人だいりにん

3-2. 弁護士べんごしに依頼いらいするメリット

弁護士べんごしに各種かくしゅ手続てつづきの代理だいりを依頼いらいすると、各種かくしゅの手続てつづきを有利ゆうりに進すすめられます。

遺産いさんの独ひとり占じめをされたとき、公正こうせいな方法ほうほうで取とり戻もどすには法的ほうてきな知識ちしきやスキルが必須ひっすです。損そんをしないように、自己じこ判断はんだんで動うごく前まえに弁護士べんごしに依頼いらいしてください。

また遺産いさん相続そうぞくでは親族しんぞく同士どうしのやり取とりとなるので、どうしても感情かんじょう的てきになってしまうものです。弁護士べんごしであれば「第三者だいさんしゃ」としての客観きゃっかん的てきな視点してんから動うごけますし、相手あいても冷静れいせいに対応たいおうしやすくなります。自分じぶんたちで話はなし合あうより、穏便おんびんに解決かいけつしやすくなる点てんもメリットとなります。

4. 同意どういのない独ひとり占じめはトラブルのもと、絶対ぜったいに避さけよう

ここまで説明せつめいしてきたことからもわかるように、遺産いさんの独ひとり占じめはトラブルのもとです。特とくに特定とくていの相続そうぞく人じんが独占どくせんすることに他たの相続そうぞく人じんすべての同意どういがない場合ばあいは、なおさらです。

「跡取あととりの長男ちょうなんが遺産いさんすべてを独ひとり占じめするのは当然とうぜん」という家督かとく相続そうぞくの考かんがえ方かたも今いまや昔むかしであり、通用つうようしません。それでも遺産いさんの独ひとり占じめを強行きょうこうしようとすれば、「不当ふとう利得りとく返還へんかん請求せいきゅう」「損害そんがい賠償ばいしょう請求せいきゅう」などの訴訟そしょうを起おこされ敗訴はいそしてしまい、いわば「バチに当あたる」ことになってしまうでしょう。さらに親族しんぞく間あいだの仲なかも引ひき裂さかれるという悲かなしい末路まつろをたどる可能かのう性せいも高たかまります。他たの相続そうぞく人じんの同意どういのない遺産いさんの独ひとり占じめは絶対ぜったいに避さけましょう。

5. まとめ

遺産いさんを独ひとり占じめされてしまったら、まずは遺言ゆいごん書しょがあるかどうかを確認かくにんしましょう。遺言ゆいごん書しょがない場合ばあい、独ひとり占じめしている相続そうぞく人じんに対たいし、公正こうせいに遺産いさん分割ぶんかつするよう求もとめる必要ひつようがあります。

自分じぶんたちで話はなし合あおうとすると、トラブルが悪化あっかしてどうしようもなくなるケースも少すくなくありません。困こまったときには弁護士べんごしに相談そうだんしてみてください。

（記事きじは2022年ねん12月1日にち時点じてんの情報じょうほうに基もとづいています）

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