異例のスピード解散を経て始まった衆院選も中盤戦。一票を投じる10月27日に向け、いま、大事にしたいことは何か、さまざまな社会課題と向き合う立場から考えます。
「地方創生」を旗印に、「まち・ひと・しごと創生法」が安倍政権下で施行されて10年。かつて担当相として推進役を担った石破茂首相はこの選挙でも、地方創生を公約の一つに掲げます。
地方移住政策などを研究する社会学者の伊藤将人さんはその足跡をどう評価するのか。「キーワードは将来世代」という言葉とともに考えます。
10・27を話そう④ 地方移住政策を研究する伊藤将人さん
――地方創生の取り組みをどう見ていますか。
かつての地域政策は、国土計画などで「国土の均衡ある発展」というスローガンが掲げられました。1980年代後半にふるさと創生事業として各市町村に一律に交付された1億円は、国から使い道を指定しないものでした。
それがいまは、「がんばる自治体」とそうでない自治体を選別し、がんばる自治体に予算を集中させていくスキームに変わりました。2000年代半ばごろから顕著になった「全ての地域を維持していくことは難しい」という考え方が背景にあります。
――「がんばる自治体」とは?
国から見たときに、計画性があいまいだったり、国の方針に合致していないと判断されたりすると予算配分は少なくなります。また、国が重視する政策の傾向もあり、いまは移住相談者数や転入者数を評価の指標として重視しています。
それらを指標に、2億円の予算が付くところもあれば、5千万円しかつかないところもある。それが現在の形です。
良い事例「横展開」の問題点
――重視する指標が明確で、達成するための計画に応じた予算がつくのであれば合理的にも感じます。
一見、理にかなっているようにも見えますが、頻発する大災害やコロナ禍を経て、ますます先行きが見通しにくくなっている今日、「これが将来成功しそうだから」という理由で予算をつけることはすごく難しいと思います。
さらに指摘したいのが、政府のいまの地方創生の政策は、いい事例を一つ作り、他の自治体もそれを模倣していきましょうという、「横展開」のスキームが基本だということです。
観光や移住を「みんな」がやる。それは政策の面から言うと、「やらない判断をさせない」、もしくは「やらないと損をする」と感じさせるものです。
――横展開だと問題があるのでしょうか。
地方創生を考えさせるカリキュラムが義務教育などにも入ってきていて、若い世代も課題解決の視点を持つようになっています。ただ、学生たちが地域課題を想定した上で住民にき取りをすると、「実はその課題を住民は課題と思っていなかった」という事例をよく見聞きします。
例えば、「シャッター商店街」。もちろん本当に課題という場合もあるのですが、話を聞くと意外とシャッターが下りた店の人自身は困っていなかったりする。シャッターが下りたままのある八百屋では、実は給食センターや地元の店に卸をしていて、そちらがメインだから経済的には困っていない、などです。
「地域活性化フレーム」というい方をしますが、「地域活性化をすることがいいこと」「地域課題は解決すべきだ」といったフレーム(枠組み)が至る所に広まっているのです。
はたからは問題に見えても当事者からすると課題じゃない、というギャップは、多くの地域で実際にあります。
「移住」増えれば地方創生?
――国が重視する施策には「移住者の促進」もあります。
第2次安倍政権が地方創生を掲げ、2014年には「まち・ひと・しごと創生法」が施行されました。10年の節目となる今年6月、「地方創生10年の取組と今後の推進方向」という報告書が内閣府などから公表されました。地域おこし協力隊や、移住者が増えたことを一つの評価指標にしていますが、それが実際に地方創生につながっているのか、というところも考えどころです。
――なぜでしょう。
移住の相談件数や実際の移住者数など、人数をKPI(目標達成のための指標)に単純に落とし込もうとしているからです。
確かに、移住者増は統計上の…