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ダンスがもたらす幸福感のメカニズム 藤田康人のウェルビーイング解体新書【16】:朝日新聞SDGs ACTION!
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ダンスがもたらす幸福こうふくかんのメカニズム 藤田ふじた康人やすひとのウェルビーイング解体かいたい新書しんしょ【16】

ダンスがもたらす幸福感のメカニズム 藤田康人のウェルビーイング解体新書【16】
インテグレート代表だいひょう取締役とりしまりやくCEO/藤田ふじた康人やすひと

著者_藤田康人さん
藤田ふじた康人やすひと(ふじた・やすと)
株式会社かぶしきがいしゃインテグレート代表だいひょう取締役とりしまりやくCEO。1964ねん東京とうきょうまれ。慶応義塾大学けいおうぎじゅくだいがく文学部ぶんがくぶ卒業そつぎょうあじもと入社にゅうしゃ。ザイロフィンファーイーストしゃげんダニスコジャパン)の設立せつりつ参画さんかくしてキシリトール・ブームを仕掛しかけ、製品せいひん市場いちばをゼロから2000おくえん規模きぼへと成長せいちょうさせた。2007ねん5がつ、IMC(統合とうごうがたマーケティング)プランニングを実践じっせんするマーケティングエージェンシー「インテグレート」を設立せつりつ著書ちょしょに『THE REAL MARKETING―つづける仕組しくみの本質ほんしつ』(宣伝せんでん会議かいぎ)、『ウェルビーイングビジネスの教科書きょうかしょ』(アスコム)、『ウェルビーイングでわる! しょく健康けんこうのマーケティング』(日本経済新聞にほんけいざいしんぶん出版しゅっぱん)など。

ここすうねん中止ちゅうし縮小しゅくしょう余儀よぎなくされていたおまつりや花火はなび大会たいかい。5月8にち新型しんがたコロナウイルス感染かんせんしょう感染かんせんしょうほうじょう位置付いちづけが5るい変更へんこうされたことでこのなつ続々ぞくぞく再開さいかいされています。

なつのおまつりにかせないのが各地かくち開催かいさいされる盆踊ぼんおどりです。徳島とくしま阿波あわおどりや岐阜ぎふ郡上こおりかみおどりは全国ぜんこくてき有名ゆうめいですが、それ以外いがいにも日本にっぽんちゅう津々浦々つつうらうら、だいたいどこの町内ちょうないでも盆踊ぼんおどりはおこなわれます。

この「みなおどる」という行為こういじつは、わたしたちに幸福こうふくかんをもたらす効果こうかがあるという研究けんきゅう結果けっかがいくつか発表はっぴょうされていることは、ごぞんじでしょうか。

おどることで分泌ぶんぴつされるのうないホルモン

おどりはドーパミンやセロトニンの分泌ぶんぴつうながし、多幸たこうかんをもたらすことがおおくの研究けんきゅうあきらかになっています。それにくわえて最近さいきんおどりとウェルビーイングの関係かんけいせいにおいて注目ちゅうもくされているのがエンドルフィンです。

エンドルフィンとは、いわゆる「ハイ」になれるとされるのうないホルモンです。たとえば心肺しんぱい機能きのうたかめる運動うんどうをすると、のうないにエンドルフィンが放出ほうしゅつされます。これはいたみなどのストレスをやわらげ、高揚こうようかん幸福こうふくかんられるといわれています。

エンドルフィンがよりおお分泌ぶんぴつされることでこる代表だいひょうてき現象げんしょうが「ランナーズハイ」です。ただ、ランニングは心拍しんぱくすうげて心肺しんぱい機能きのう負担ふたんをかけてしまうので、ひとによっては危険きけんともないます。からだ負担ふたんなくエンドルフィンの効果こうかることを目指めざすのなら、はげしさにもよりますがダンスのほうてきしているといえるでしょう。

英国えいこくオックスフォおっくすふぉド大学どだいがく心理しんり学者がくしゃBronwyn Tarr博士はかせひきいる実験じっけん心理しんり学者がくしゃとプロダンサーらの合同ごうどうチームは、おどりとエンドルフィンの関係かんけいについて調しらべる実験じっけんおこないました。264にん学生がくせいふたつのグループにけ、一方いっぽうのグループには全身ぜんしん使つかうダイナミックなうごきをおしえ、もうひとつのグループには、うごきだけで表現ひょうげんするダンスをおしえました。

そのおぼえたダンスをまずは個人こじんで、つぎにチーム全体ぜんたいおどったところ、どちらのグループもチーム全体ぜんたいおどったときにのみ、精神せいしんてき健康けんこう状態じょうたい向上こうじょうしました。さらに全身ぜんしんおどるグループは、チームでおどったときにはエンドルフィンを大量たいりょう分泌ぶんぴつしていることもあきらかになったのです。

エンドルフィンは、モルヒネが摂取せっしゅされたときとおな受容じゅようたいむすびつくことで人体じんたい多幸たこうかんあたえるため、「のうない麻薬まやく」とばれることもあります。実際じっさいにエンドルフィンにはモルヒネのやく6.5ばいおよ鎮痛ちんつう作用さようがあるともわれています。エンドルフィンによって陶酔とうすいかんられると、いやなことをわすれるばかりか免疫めんえきりょくたかまることも、各種かくしゅ研究けんきゅうによって確認かくにんされています。

「チームで」おどることの大切たいせつ

このオックスフォおっくすふぉド大学どだいがく研究けんきゅうは、チームでのダンスによるエンドルフィンの分泌ぶんぴつがストレスをやわらげ、精神せいしんてきにも健康けんこうをもたらし、社会しゃかいてき連帯れんたいかんたかめる要因よういんだと結論けつろんづけています。

この研究けんきゅう結果けっかのポイントは、個人こじんおどってもなかったエンドルフィンがチームでおどったときのみに分泌ぶんぴつされ、しかもそれはうごきのダイナミックさに関係かんけいなく、うごきだけでも分泌ぶんぴつされた、というてんです。

運動うんどうやダンスなどからだうごかすことは、自尊心じそんしんたかめるホルモン「テストステロン」を上昇じょうしょうさせ、ぎゃくにストレスホルモンである「コルチゾール」を低減ていげんさせるという研究けんきゅう結果けっか数多かずおおくあります。

今回こんかい研究けんきゅうではそれにくわえて、他人たにん一緒いっしょにシンクロしながらおどることでエンドルフィンも分泌ぶんぴつされることがかりました。一方いっぽうで、ひとりでどんなにはげしくおどっても、エンドルフィンによる幸福こうふくかんられない可能かのうせい示唆しさしています。

スウェーデンの研究けんきゅうしゃが、うつびょう不安ふあん、ストレスなどにくるしむ10代の少女しょうじょ対象たいしょう調査ちょうさおこなったところ、毎週まいしゅうダンスクラスのレッスンに参加さんかすることで、精神せいしんてき健康けんこうになり、気分きぶん高揚こうようする効果こうかがあることがわかりました。

ダンスクラスには、まわりにおおくのダンス仲間なかまがいます。仲間なかまはげましあいながらおどることは孤独こどくかんから解放かいほうされ、かけがえのない仲間なかまることで、心身しんしん影響えいきょうあたえます。仲間なかまとのつながりができると、ダンスをながつづけられるため、さらに効果こうかたかまっていきます。

ウェルビーイングにおいて重要じゅうよう他者たしゃとの関係かんけいせいが、この「おどり」という行為こういかんしてもおおきな意味いみつというのは、非常ひじょう興味深きょうみぶかいとおもいます。

みなおどる」という文化ぶんか風習ふうしゅう世界中せかいじゅういたるところにありますが、それが人々ひとびとのウェルビーイングの実現じつげんおおきな役割やくわりたしていたという事実じじつは、ひと太古たいこよりしあわせをもとめていたということを、あらためてしめしています。

日本にっぽんなつ風物詩ふうぶつしである盆踊ぼんおどりも、まさに町内ちょうない連帯れんたいかんってたのしむ幸福こうふくかんちたであるということです。

みんな「ディスコ」でおどった時代じだい

日本にっぽん好景気こうけいきいたバブルの時代じだい。その象徴しょうちょうひとつである「ディスコ」も、みなおなきょくいておなけやステップで連帯れんたいかんっておどるという、幸福こうふくかんちた場所ばしょでした。

諸説しょせつありますが、日本にっぽんのディスコの歴史れきしは1968ねん東京とうきょう赤坂あかさか開店かいてんした「ムゲン」、おな赤坂あかさかで〈ディスコティック〉を名乗なのり1971ねん開店かいてんした「ビブロス」からはじまったとされています。

ここから東京とうきょうのディスコ文化ぶんか新宿しんじゅく六本木ろっぽんぎ渋谷しぶやへとひろがり、さまざまなスタイルのみせがオープンし、花開はなひらきました。そしてバブル到来とうらいとも日比谷ひびや青山あおやま高級こうきゅうディスコが続々ぞくぞくとオープンし、ディスコは若者わかものあそから大人おとな社交しゃこうじょうへと変貌へんぼう(へんぼう)をげます。1991ねんに、芝浦しばうらに「ジュリアナ東京とうきょう」がオープンすると、高級こうきゅうディスコ文化ぶんかはその頂点ちょうてんをきわめました。

ディスコでながれていた音楽おんがくみっつの系統けいとう大別たいべつされます。ひとつはオールディーズとばれる1970~80年代ねんだいのブラックソウルミュージックで、これはきょくによってまったステップがあり、完璧かんぺきおどれるとディスコ上級じょうきゅうしゃとして、フロアにいる女性じょせいたちからあついまなざしをけることが出来できました。

当時とうじのディスコのメインでかかっていたのは「ハイエナジー」とばれるアップビートのダンスミュージックで、のちに「ユーロビート」とばれるジャンルに進化しんかし、きらびやかなディスコ文化ぶんか中心ちゅうしんになって一気いっきにブレークしました。のちに「ギャルサー(ギャルのサークル)」によってだいブームとなった、くせごとにみなおなけでおどる「パラパラ」の原型げんけいです。

そしてもういち系統けいとうは、米国べいこくはつ音楽おんがく雑誌ざっし「ビルボード」のヒットチャートにランクインしたマドンナ、デュランデュラン、バナナラマといったアーティストたちのメジャーヒットきょくだれもがいちいたことのあるきょくせて、ミラーボールによるきらびやかなライティングのフロアでみなおなけでおど独特どくとく一体いったいかんこそが、ディスコの醍醐だいご(だいご)あじでした。

当時とうじの「ディスコ」は、そのあらわれた「クラブ」とは、ポジショニングがおおきくことなる場所ばしょでした。

風営法ふうえいほう規制きせいによってディスコは深夜しんや12にクローズしてしまうため、終電しゅうでんがなくなりうしなった若者わかものたちのざらとして登場とうじょうしたのが「クラブ」です。85ねん東京とうきょう西麻布にしあざぶ日本にっぽんはつのクラブ「Tools Bar」がオープンすると、連日れんじつ行列ぎょうれつができるほどの盛況せいきょうぶりで、のクラブ文化ぶんかいしずえきずきました。

だれもが気軽きがるたのしめる場所ばしょだったディスコとはことなり、クラブはあそれた大学生だいがくせい、カタカナ職業しょくぎょう、フリーランスの業界ぎょうかいじんたちが深夜しんやにひそかにつどうところ、といったイメージの場所ばしょでした。

ながれているのは「トランス」「ヒップホップ」「R&B」という、当時とうじはまだ普通ふつうひとがあまりいたことがないマニアックなきょく中心ちゅうしんあやしい雰囲気ふんいきくらめの照明しょうめいした、ひたすらおどりに没頭ぼっとうするひともいればソファで会話かいわたのしむグループもいて、一人ひとりひとりがおもおもいのたのしみかたをしていました。

しかし、バブル当時とうじのディスコはちがいました。ながれるメジャーなユーロビートのヒットきょくのいくつかは、荻野目おぎのめ洋子ようこ長山ながやま洋子ようこ日本語にほんごにカバーしてだいヒット。アン・ルイスの「六本木ろっぽんぎ心中しんちゅうの」などのきょくは、テレビの歌謡かよう番組ばんぐみなどをつうじてディスコにえんがなかったひとにもひろがっていきました。

マドンナの「ホリデイ」やバナナラマの「ヴィーナス」といっただいヒットきょくながれると、若手わかて社員しゃいんれられてまれてはじめてディスコに真面目まじめ部長ぶちょう課長かちょうもネクタイをはずし、ダンスフロアにいた全員ぜんいん一体いったいとなってあせまみれになりながらおどり、おおいにがったものです。

人間にんげんしあわせになるための近道ちかみちひと

クラブを自分じぶんきな音楽おんがく世界せかいはいんでたのしむ「個人こじん活動かつどう」だとすると、ディスコはみなおなきょく共有きょうゆうしながら一体いったいかんってたのしむ「団体だんたい活動かつどう」でした。みなおなおどりをすることにより大量たいりょうのエンドルフィンがていたとかんがえると、ディスコが当時とうじあんなにたのしくがっていたのにも納得なっとくがいきます。

人間にんげんのコミュニティーの「祝祭しゅくさい」には、太古たいこむかしからいつも「うたおどり」がありました。有名ゆうめいなオーストリアの作家さっかVicki Baumは「ダンスは、人間にんげんしあわせになるための近道ちかみちひとつだ」とっています。

コロナえ、4ねんぶりに全国ぜんこく各地かくち再開さいかいされるなつまつりの盆踊ぼんおどり。日本にっぽんちゅうおおくの人々ひとびとにきっと、ウェルビーイングをもたらしてくれることでしょう。

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