ソフトウェア開発かいはつにおける課題かだいと対策たいさく(2)～標準ひょうじゅん化か、可視かし化か、情報じょうほう化かの重要じゅうよう性せい

しばしばソフトウェア開発かいはつは、建築けんちくと比較ひかくされ、語かたられることが多おおい。しかし、建築けんちくとソフトウェア開発かいはつには大おおきな相違そうい点てんがある（なお本ほんコラムでも、過去かこに建築けんちくとの類似るいじ性せいに触ふれたものが、ものがいくつかあるので、対比たいひについては最後さいごにまとめておく）。
ソフトウェアは建築けんちくと異ことなり不可視ふかし性せいがあり、また物理ぶつり的てきな実態じったいがない「情報じょうほう」を扱あつかうため、そもそも工法こうほう等とうについて体系たいけいの成熟せいじゅく度どがまだまだ低ひくく、そのため標準ひょうじゅん化かも遅おくれている。
したがって、ユーザとベンダーとの間あいだで出来上できあがりに対たいする認識にんしき相違そういが起おきやすい。この不可視ふかし性せいの克服こくふくが、ソフトウェア開発かいはつの根本こんぽん的てき課題かだいである。

建築けんちくも昔むかしは品質ひんしつや納期のうきに問題もんだいがあったかもしれないが、数すう千せん年ねんにわたる先人せんじんの英知えいちにより解決かいけつされてきている。
一方いっぽう、コンピュータは誕生たんじょうして半はん世紀せいきほどであり、さらに不可視ふかし性せいの克服こくふくという大おおきな課題かだいが存在そんざいするため、ソフトウェア開発かいはつが建築けんちくと同様どうようの完成かんせい度どを持もつには、膨大ぼうだいな学問がくもん的てき研究けんきゅうと時間じかんが必要ひつようであろう。

ならば、現時点げんじてんで未み成熟せいじゅくなソフトウェア開発かいはつを成功せいこうさせるために、我々われわれはどう対応たいおうしたら良よいのだろうか。

重要じゅうようなポイントは、標準ひょうじゅん化か、可視かし化か、情報じょうほう化かの3つである（可視かし化かは、さらに文書ぶんしょ化か・図式ずしき化か・指標しひょう化かの3つに分類ぶんるいできる）。すなわち、設計せっけい書しょの書かき方かたや作業さぎょうの手順てじゅんをまとめ(標準ひょうじゅん化か)、それに基もとづいて情報じょうほうや機能きのうをモデル化かしてしっかり表現ひょうげんし(文書ぶんしょ化か・図式ずしき化か)、それらをプロジェクト関係かんけい者しゃが共通きょうつう認識にんしきを持もてるようにコミュニケーションやグループウェア等とうで情報じょうほう共有きょうゆうする(情報じょうほう化か)。また、システム規模きぼ・作業さぎょう量りょうの見積みつもり、進捗しんちょく度合どあいや生産せいさん性せいを計測けいそくする(指標しひょう化か)…ことに尽つきる。残念ざんねんながら標準ひょうじゅん化か・可視かし化かには、統一とういつ的てきな規格きかくが確立かくりつしていないため、自社じしゃで決きめた基準きじゅんや指標しひょうを実際じっさいのプロジェクトに適用てきようしてみて、実績じっせきデータを丹念たんねんに集あつめ、それらに基もとづいて改善かいぜんを重かさねて精度せいどを上あげていくしかない。

もっとも昨今さっこん、標準ひょうじゅん化かに関かんする動うごきは多おおい。例たとえば、文書ぶんしょ化か・図式ずしき化かについてはUMLがデファクトスタンダードになりそうな勢いきおいである。また標準ひょうじゅん化か・指標しひょう化かについても、昨年さくねん10月がつに発足ほっそくしたIPA(情報処理じょうほうしょり推進すいしん機構きこう)の下部かぶ組織そしき「SEC(ソフトウェアエンジニアリングセンター)」が開発かいはつプロセスや見積みつもり手法しゅほうの標準ひょうじゅん化かに取とり組くんでおり、今年ことし3月がつ末まつで1,009のプロジェクトの実績じっせきを収集しゅうしゅう・評価ひょうかを終おえ、白書はくしょが発行はっこうされている。

体系たいけい化かが未み成熟せいじゅくである以上いじょう、すべてを解決かいけつする唯ただ一いち絶対ぜったいの方法ほうほうはない。ソフトウェア開発かいはつに際さいしては、UMLやSECが公表こうひょうした諸しょデータを大おおいに参考さんこうにし、標準ひょうじゅん化か・可視かし化かを行おこない、改善かいぜんのPDCAサイクルを地道じみちに回まわしていくことが最善さいぜんの道みちである。

■建築けんちくとソフトウェア開発かいはつの比較ひかく

●建築けんちく
【作つくる対象たいしょうが目めに見みえる】
形かたち・大おおきさ・色いろ・質感しつかんなど作つくろうとするモノが目めに見みえる。
【作つくっている間あいだに対象たいしょうが普通ふつうは変かわらない】
よほどの問題もんだいがない限かぎり、着工ちゃっこうしてから部屋へやの広ひろさを変かえる等とうの変更へんこうは行おこなわない。
よって当初とうしょ4LDKの予定よていであったが、完成かんせいしたら8LDKになっていた…等とうの規模きぼの増加ぞうかはありえない。
【工法こうほうがおよそ理解りかいできる】
発注はっちゅう者しゃが素人しろうとでも、玩具おもちゃや模型もけい、過去かこの学校がっこう教育きょういく（「技術ぎじゅつ」）等とうから、作業さぎょうを想像そうぞうできたり、実際じっさいの作業さぎょうを見みて、概要がいようがおよそ理解りかいできる。

●ソフトウェア開発かいはつ
【完成かんせい品ひんを見みる事ことがなかなかできない】
画面がめんや帳票ちょうひょう等とうのユーザインターフェースを通とおしてシステムらしきものが見みえてくる。しかし情報じょうほうやシステムそのもの見みているわけではない（見みる事ことができない）ので全貌ぜんぼうが見渡みわたせない。また、画面がめんや帳票ちょうひょう等とうが見みられるのは、一般いっぱん的てきにはかなり最後さいごの方ほうの工程こうていとなる。
【作つくっている間あいだに作つくる対象たいしょう(範囲はんい)が変かわっていく】
画面がめんや帳票ちょうひょうのテスト結果けっかから、イメージや操作そうさ感かんが違ちがう、当初とうしょは思おもいつかなかったがやはりこういう機能きのうもほしい等とうと要件ようけんの変更へんこうが発生はっせいする。いざ稼動かどうしてみたら、当初とうしょ予算よさんの2倍ばいの規模きぼ・金額きんがくとなっていた…等とうがありえる。
【標準ひょうじゅん的てきな工法こうほうが存在そんざいせず、理解りかいしにくい】
開発かいはつ方法ほうほう論ろんについて統一とういつ的てきな規格きかくが確立かくりつしておらず、ベンダーによって工程こうてい・作業さぎょう・成果せいか物ぶつの名称めいしょうや範囲はんいが異ことなり、発注はっちゅう者しゃが理解りかいしにくい。