インフレが続つづくと政府せいふ債務さいむ残高ざんだか（対たいGDP比ひ）はどうなる？

日本にっぽんの物価ぶっかが上あがっている。2022年ねん4月がつの全国ぜんこく消費しょうひ者しゃ物価ぶっか指数しすう（除のぞく生鮮せいせん食品しょくひん）は前年ぜんねん比ひ＋2.1％と、前月ぜんげつから伸のび率りつが1.3％pt上昇じょうしょうした。前年ぜんねん比ひで＋2％以上いじょうの伸のびを示しめしたのは、消費しょうひ税率ぜいりつ引ひき上あげの時期じきを除のぞけば2008年ねん9月がつ以来いらいで、約やく13年ねん半はんぶりである。

景気けいき低迷ていめい下かの物価ぶっか上昇じょうしょうというスタグフレーションの可能かのう性せいが懸念けねんされているが、ここでは財政ざいせいの持続じぞく可能かのう性せい、とりわけ政府せいふ債務さいむ残高ざんだか（対たいGDP比ひ）への影響えいきょうを考かんがえたい。仮かりに日本にっぽんがインフレ経済けいざいに徐々じょじょに転換てんかんしていくのであれば、多額たがくの政府せいふ債務さいむの負担ふたんが実質じっしつ的てきに軽減けいげんされることで、財政ざいせい運営うんえいに好このましい影響えいきょうを与あたえるかもしれないからだ。

内閣ないかく府ふが2022年ねん1月がつに公表こうひょうした「中長期ちゅうちょうきの経済けいざい財政ざいせいに関かんする試算しさん」（以下いか、内閣ないかく府ふ試算しさん）を用もちいて、インフレが将来しょうらいの政府せいふ債務さいむ残高ざんだか（対たいGDP比ひ）に与あたえる影響えいきょうを見みてみよう。内閣ないかく府ふ試算しさんでは、経済けいざい成長せいちょう率りつとインフレ率りつがともに高たかい成長せいちょう実現じつげんケース（実質じっしつ成長せいちょう率りつが前年ぜんねん比ひ+2％程度ていど、消費しょうひ者しゃ物価ぶっかは同どう＋2％程度ていどで推移すいい）と、両方りょうほうとも高たかまらないベースラインケース（実質じっしつ成長せいちょう率りつが前年ぜんねん比ひ+1％程度ていど、消費しょうひ者しゃ物価ぶっかが同どう＋0.7％程度ていどで推移すいい）が想定そうていされ、それぞれのケースにおける政府せいふ債務さいむ残高ざんだか（内閣ないかく府ふ試算しさんでは「公債こうさい等とう残高ざんだか」）の対たいGDP比ひも示しめされている。

内閣ないかく府ふ試算しさんのデータから、2021年ねんから2031年ねんにかけて、10年間ねんかんの公債こうさい等とう残高ざんだか（対たいGDP比ひ）の変化へんかを寄与きよ度ど分解ぶんかいしてみたのが下図したずである。物価ぶっか要因よういんによる押おし下さげ幅はばは成長せいちょう実現じつげんケースで22%pt、ベースラインケースで4%ptであった。この結果けっかは、日本にっぽん経済けいざいに消費しょうひ者しゃ物価ぶっかで前年ぜんねん比ひ＋2％程度ていどのインフレが生しょうじる場合ばあい、財政ざいせいの持続じぞく可能かのう性せいが一定いってい程度ていど改善かいぜんすることを示しめしている。この点てんについては、バーナンキ元もとFRB（連邦れんぽう準備じゅんび制度せいど理事りじ会かい）議長ぎちょうも、日本にっぽんはインフレ率りつを高たかめることで財政ざいせい赤字あかじをある程度ていどまでファイナンスできると主張しゅちょうしている（※１）。今後こんごの財政ざいせい運営上うんえいじょう、インフレは重要じゅうような論点ろんてんになりそうだ。

もちろん実際じっさいには内閣ないかく府ふ試算しさん通どおりにいくとは限かぎらない。2022年ねん4月がつに発表はっぴょうされた「コロナ禍かにおける『原油げんゆ価格かかく・物価ぶっか高騰こうとう等とう総合そうごう緊急きんきゅう対策たいさく』」のように、政策せいさく対応たいおうが求もとめられ歳出さいしゅつ拡大かくだい圧力あつりょくが強つよまる可能かのう性せいもある。また、足元あしもとで起おきている輸入ゆにゅうインフレは輸入ゆにゅう金額きんがくの増加ぞうかにより名目めいもくGDPを押おし下さげるため、国内こくない物価ぶっかに転嫁てんかできなければ政府せいふ債務さいむ残高ざんだか（対たいGDP比ひ）は逆ぎゃくに上昇じょうしょうしてしまう。さらにインフレが金利きんり高騰こうとうを伴ともなえば、利り払はらい費ひが増加ぞうかして財政ざいせい運営うんえいに支障ししょうをきたす。なお、内閣ないかく府ふ試算しさんでは徐々じょじょに金利きんりが上昇じょうしょうし、利り払はらい費ひも試算しさん期間きかんの後半こうはんになるにつれて緩ゆるやかに増加ぞうかしていく。以上いじょうを考慮こうりょすると、政府せいふ債務さいむ残高ざんだか（対たいGDP比ひ）の安定あんてい的てきな引ひき下さげのためには、やはり基礎きそ的てき財政ざいせい収支しゅうし（PB）の黒字くろじ化かや経済けいざいの成長せいちょう力りょく強化きょうかに向むけた取とり組くみが引ひき続つづき重要じゅうようであろう。

（※１）ベン・S・バーナンキ（2017）「日本にっぽんの金融きんゆう政策せいさくに関かんする一いち考察こうさつ」（日本銀行にっぽんぎんこう金融きんゆう研究所けんきゅうじょ訳やく）、金融きんゆう研究けんきゅう、第だい36巻かん第だい4号ごう、日本銀行にっぽんぎんこう金融きんゆう研究所けんきゅうじょ

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