税制ぜいせい改正かいせいが企業きぎょうの国内こくない回帰かいきを後押あとおしする可能かのう性せい

年末ねんまつに向むけて税制ぜいせい改正かいせいの検討けんとうが佳境かきょうを迎むかえている。来年度らいねんどの税制ぜいせい改正かいせいの主おもな項目こうもくには、NISAの拡充かくじゅう、相続そうぞく税ぜい・贈与ぞうよ税ぜいや研究けんきゅう開発かいはつ税制ぜいせいの見直みなおし、インボイス制度せいどの負担ふたん軽減けいげんなどがあるが、報道ほうどうによれば、国際こくさい課税かぜいではいわゆるミニマムタックス（法人ほうじん最低さいてい税率ぜいりつ）が導入どうにゅうされる見込みこみである（本ほんコラム執筆しっぴつ時点じてんで税制ぜいせい改正かいせい大綱たいこうは未み公表こうひょう）。これが導入どうにゅうされると日本にっぽん企業きぎょうの国内こくない回帰かいきを後押あとおしする可能かのう性せいがある。

ミニマムタックスとは、企業きぎょうが外国がいこくに子会社こがいしゃ等とうを設もうけている場合ばあいに、実際じっさいに負担ふたんしている税率ぜいりつ（実効じっこう税率ぜいりつ）が15％を下回したまわれば、本国ほんごくの親会社おやがいしゃに上乗うわのせ課税かぜいを行おこなうという制度せいどである。収益しゅうえき額がくが7.5億おくユーロ超ちょうの多た国籍こくせき企業きぎょうグループが対象たいしょうである。1980年代ねんだい頃ごろから各国かっこくが企業きぎょう誘致ゆうちのため法人ほうじん税率ぜいりつを引ひき下さげてきた、いわゆる「底辺ていへんへの競争きょうそう」に歯止はどめをかけることが期待きたいされている。

ミニマムタックスの対象たいしょうとなるのは、典型てんけい的てきには、いわゆるタックスヘイブンにペーパーカンパニーを設立せつりつすることで課税かぜい逃のがれを行おこなっている場合ばあいである。欧米おうべいではこのような課税かぜい逃のがれが社会しゃかい問題もんだいとなっており、海外かいがいの研究けんきゅう者しゃ（※１）によるとタックスヘイブンへの利益りえき移転いてんによる失うしなわれた法人ほうじん税収ぜいしゅうの割合わりあいが、米国べいこく16％、英国えいこく32％、ドイツ29％、フランス22％と推計すいけいされている。

一方いっぽう、日本にっぽん企業きぎょうは欧米おうべい企業きぎょうほど積極せっきょく的てきな課税かぜい逃のがれは行おこなっていないといわれ、タックスヘイブンへの利益りえき移転いてんによる失うしなわれた法人ほうじん税収ぜいしゅうの割合わりあいは、先さきほどの推計すいけいによると3％とされている。しかし、ミニマムタックスはタックスヘイブンにペーパーカンパニーを設立せつりつする場合ばあいに限かぎらず、企業きぎょう誘致ゆうちのため低ひくい優遇ゆうぐう税率ぜいりつを設定せっていしている途上とじょう国こく等とうに進出しんしゅつし、実体じったいのある事業じぎょうを行おこなっている場合ばあいでも適用てきようされる（このような場合ばあいは、ミニマムタックスによる税ぜい負担ふたんを軽減けいげんする仕組しくみが設もうけられている）。そのため、日本にっぽん企業きぎょうでも、途上とじょう国こく等とうの優遇ゆうぐう税率ぜいりつが適用てきようされている場合ばあいに、ミニマムタックスの対象たいしょうとなり増税ぞうぜいとなる可能かのう性せいがある。

企業きぎょうが海外かいがい進出しんしゅつする場合ばあい、税ぜい負担ふたんだけでなく、その国くにの人件じんけん費ひ、労働ろうどう力りょくの水準すいじゅん、物流ぶつりゅう、為替かわせリスク等とう、様々さまざまな点てんを考慮こうりょしたうえで意思いし決定けっていが行おこなわれる。そのため、税ぜい負担ふたんが増大ぞうだいしても、直ただちに既存きそんの海外かいがい拠点きょてんの立地りっちを変更へんこうすることには必かならずしもつながらないだろう。ただ、コロナ禍かによる国際こくさい的てきなサプライチェーンの分断ぶんだんや円えん安やす等とうを背景はいけいとして、一部いちぶの日本にっぽん企業きぎょうの間あいだで国内こくない回帰かいきの動うごきが見みられており、中長期ちゅうちょうき的てきにはミニマムタックスもその動うごきを後押あとおしする可能かのう性せいがある。

• （※１）Thomas Tørsløv, Ludvig Wier, Gabriel Zucman によるウェブサイト

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