暮らしや産業を支える宅配便が曲がり角を迎えている。人手不足で運転手を十分に確保できない中、インターネット通販の拡大で取扱量が急増し、配達現場の疲弊が深刻になっているのだ。
業界最大手のヤマト運輸は、取扱量の抑制などの検討を始めた。利便性を高める配達サービスであっても、過剰なものは思い切って見直す必要がある。
ネット通販大手など大口顧客への配達料金の割引で、宅配業者側にしわ寄せが及ぶ実態もある。
適正な料金を受け取りサービスを提供するのが、商取引の原則だろう。宅配網が破綻すれば通販も打撃を被る。社会的影響も考慮し、価格を設定すべきだ。
昨年の宅配便総数は、前年より6%あまり増えて約38億7千万個となった。6年連続で過去最多を更新している。スマートフォンを通じたネット通販が拡大し、小口の荷物が頻繁に配達されるようになったことが大きい。
この半数近くを扱うヤマトでは運転手の確保が追いつかず、長時間労働が常態化しているという。同社の労組が経営側に対し、取扱総数の抑制を求めたのも無理はない。新たに発覚した未払い残業代の問題を含め、労働環境の改善へ労使で協議してもらいたい。
そのためには、一部サービスの廃止もやむを得まい。宅配便全体の2割は、不在だった家に再び届ける再配達が占めるという。度重なる再配達には、一定の手数料の徴収なども検討に値する。
配達時間を指定せず、1回で受け取った人にはポイント付与で優遇するなど、料金メニューの多様化にも工夫を凝らしたい。過疎地を走る路線バスに宅配荷物を載せる規制緩和も必要である。
国内物流の9割を担うトラック業界全体でも、人手不足は大きな問題だ。トラック運転手の賃金が他の業界に比べて安いことが、その傾向に拍車をかける。運転手の高齢化も懸念材料である。
石井啓一国土交通相は「深夜に頼んで翌日に荷物が届くサービスもある。末端の物流業者に相当の負担がかかっている」と述べた。運転手らの長時間労働の是正や、処遇改善の必要性を強調したものである。
宅配便業界の苦境は、消費者の利便性と裏表の関係にある。持続的なサービスのため、官民に加え利用者も一考すべきときだ。