お弁当売り場もコーヒーショップもトイレも…新大阪駅は外国人であふれかえっていた。たまには大阪・湊町の編集局を飛び出して、阪神の横浜移動取材でも手伝おうかと思ったが…。
「◎×※★◇?」
おそらくアジアのどこかの国から来たお兄さんから話し掛けられた。言葉がまったく分からず、またヘコんでしまった。
岡田監督や10日に昇格する井上広大らが新幹線に乗り込んだ。指揮官は出発時刻ギリギリまで虎番キャップの新里公章らに話をしてくれたそうで発車ベルが鳴ると「オッ、この電車か」と、のぞみ号へ。新里も「とても機嫌がよさそうでしたよ」と大満足していた。
駅の雑踏を眺めていると、カメラマン歴30年の安部光翁の「もう時効かなぁ」というエピソードを紹介したくなった。
「赤星憲広さんが現役の頃の話なんだけど」
2001年の入団から5年連続盗塁王で、阪神の球団史で最も足が速いレッドスター。「前の試合でけがをして、翌日、新大阪駅から移動日だったんだよ」。当然、カメラマンは集結した。ところが、治療に時間を要していたのか、なかなか姿を見せなかった。早朝の便から、終わりなき戦いに突入。安部も人間だ。集中力が何時間もキープできるはずがない。他社の記者とバカ話へ発展-。
「撮らなくていいの?」
聞き慣れた声がした。
ハッとわれに返った。
赤星さんが、キョトンとした表情でこちらを見ていた。安部は慌てて追いかけて、冷や汗をかきながらパシャパシャ…。朝一番とか、撮られることを嫌がる選手は昔からいたが、赤星さんはマスコミの仕事をとても理解してくださっていた。安部は20年経っても感謝してもし切れない。