全2052文字
超電導送電は、電気抵抗がゼロになる超電導ケーブルで電力のロスをなくす送電方法である。金属ケーブルは電気抵抗がゼロではないため、送電の途中で電力の一部が熱となって失われる送電ロスが発生する。送電網での送電ロスは先進国で数%であり、日本でも5%程度とされるが、新興国では10%を超える例がしばしばあるといわれる。
(出所:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]
数%の削減でも、超電導ケーブルを冷却して超電導状態を維持するコストよりもメリットが上回る可能性がある。例えば、鉄道総合技術研究所(鉄道総研、東京都国分寺市)が中心となって進めている直流電化の鉄道への応用が有望と見込まれている。鉄道以外でも、液体窒素を扱う工場などでケーブル冷却のコストを抑えてメリットを得る試みが進む。
鉄道での超電導送電実証システム
伊豆箱根鉄道駿豆線の大仁変電所に設置した。(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]
変電所の数を削減可能
鉄道総研が2024年3月に伊豆箱根鉄道と共同で実施した実証実験では、電車が走る電力を超電導ケーブル経由で終日供給した。不具合などは見られず、鉄道総研は実用に適する信頼性を確立できたと位置付けている。始発前や終電後に旅客を乗せない列車での検証は、2015年以来複数の線区で実施されてきたが、終日の実施は初めてとなる。
鉄道総研と鉄道会社による実証実験
(出所:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]
直流電化の鉄道が超電導送電に向くのは、送電ロスが生じやすい状況にあるため。架線電圧が600Vや1500Vなどであり、電力網の超高圧(50万V、27万5000Vなど)や交流電化の鉄道(2万V、2万5000Vなど)よりもはるかに低い。低い電圧で電車を動かすには電流を増やさなければならず(数kA)、電流の大きさに比例して送電ロスが大きくなる。
鉄道総研の試算によると、列車本数が比較的多い繁忙線区ならば初期コストや冷凍機の運用コストを差し引いても、ケーブル長が1km程度以上あればメリットのほうが大きくなるという。導入当初は既存の送電線へ並列に接続すれば、電流は自然に超電導ケーブル側を通り、トラブル時には元の送電線を使えるため、スムーズな移行が可能とされる。
さらに、変電所の削減によって設備と保守のコストを大きく削減できる。繁忙線区では送電ロスに伴って電圧が下がる現象のため2~3kmごとに変電所を設置しているが、超電導ケーブルで遠くまで十分な電力を送れば変電所を集約できる。鉄道総研によれば日本国内の民営鉄道の71%、JR在来線の36.4%が直流での電化区間という。
直流電化の鉄道での変電所削減イメージ
超電導ケーブルを使えば送電距離を伸ばせる。(出所:鉄道総合技術研究所の資料を基に日経クロステックが作成)
[画像のクリックで拡大表示]
液体窒素をケーブルに通す
超電導送電ケーブルには、ビスマス系やイットリウム系の高温超電導体を使う。ケーブルの中にこれらの通電層と、冷却のため液体窒素を流す空隙層を設け、さらに外側を断熱層とする。空隙層は2層設けて、液体窒素をケーブルの一端から送り込み、反対側の端で折り返して往復させる場合が多い。
超電導ケーブルの構造
内部に高温超電導体の通電層と、冷却のため液体窒素が通る層がある。(出所:鉄道総合技術研究所)
[画像のクリックで拡大表示]
鉄道では車両が加速(力行)するときに大きな電流が生じ、惰行時や停止時には電流がなく、ブレーキ時には回生ブレーキで逆方向の大きな電流が生じる。この大きな変動が不具合を引き起こさないかの確認が実証実験でのポイントであり、ほぼ実証できた状況と見られる。残る課題はケーブルの長さだが、1.5km程度のケーブルの検証は進みつつある。
最後に残る課題が、実導入に即した設計検討だ。どの地点に超電導ケーブルを導入するかで冷凍機の規模、ケーブル敷設方法などが変わってくるため、現場が確定しないと詳細の検討に進めない。メリットを評価して鉄道会社が導入へ踏み切れるかがポイント、といえる段階になっている。