隋ずい文獻ぶんけん皇后こうごう

文獻ぶんけん獨どく孤こ皇后こうごう，諱いみな伽羅きゃら，河南かなん洛陽らくよう人ひと，周しゅう大だい司馬しば、河かわ內公信之のぶゆき女じょ也。信しん見み隋ずい文ぶん帝みかど有ゆう奇き表ひょう，故こ以后妻つま焉，時じ年ねん十じゅう四よん。帝みかど與あずか后きさき相しょう得え，誓ちかい無む異こと生せい之子ゆきこ。后きさき初はつ亦また柔順じゅうじゅん恭きょう孝こう，不ふ失しつ婦道ふどう。后きさき姊為周明しゅうめい帝みかど后きさき，長女ちょうじょ為ため周しゅう宣せん帝みかど后きさき，貴き戚之盛もり，莫與為ため比ひ，而后每ごと謙けん卑自守もり，世せい以為賢けん。及周宣せん帝みかど崩くずれ，帝みかど居きょ禁中きんちゅう，總そう百ひゃく揆，后きさき使し人じん謂いい帝みかど曰：「大事だいじ已然いぜん，騎き獸じゅう之の勢いきおい，必不得とく下か，勉つとむ之これ！」帝みかど受禪じゅぜん，立たて為ため皇后こうごう。

突厥嘗與隋ずい交市，有明ありあけ珠たま一いち篋，價か值八百ひゃく萬まん，幽かそけ州しゅう總そう管かん陰かげ壽ことぶき白しろ后きさき市之いちの。后きさき曰：「非我ひが所しょ須也。當今とうぎん戎えびす狄屢寇，將士しょうし罷やめ勞ろう，未み若わか以八百ひゃく萬まん分ふん賞しょう有功ゆうこう者しゃ。」百僚聞而畢賀。帝みかど甚寵憚はばか之これ。上うえ每ごと臨朝，后きさき輒與上方かみがた輦而進すすむ，至いたり閣かく乃止。使つかい中ちゅう官かん伺上，政せい有ゆう所しょ失しつ，隨ずい則そく匡ただし諫，多た所ところ弘ひろし益えき。候こう上じょう退すさ朝あさ而同反はん燕つばめ寢ね，相あい顧欣然きんぜん。后きさき早さ失しつ二に親おや，常つね懷ふところ感かん慕，見み公卿くぎょう有ゆう父母ちちはは者しゃ，每まい為ため致禮焉。有司ゆうし奏そう以周禮れい百官ひゃっかん之の妻つま，命いのち於王后きさき，憲章けんしょう在ざい昔むかし，請依古制こせい。后きさき曰：「以婦人ふじん與あずか政せい，或ある從したがえ此漸，不可ふか開ひらき其源也。」不ふ許もと。后きさき每ごと謂いい諸しょ公主こうしゅ曰：「周しゅう家か公主こうしゅ，類るい無む婦德ふとく，失禮しつれい於舅姑しゅうと，離はなれ薄うす人じん骨肉こつにく，此不順ふじゅん事ごと，爾なんじ等とう當とう誡之。」大だい都と督とく崔ちぇ長ちょう仁ひとし，后きさき之の中外ちゅうがい兄弟きょうだい也，犯はん法ほう當とう斬き。帝みかど以后之の故こ，欲よく免めん其罪。后きさき曰：「國家こっか之の事こと，焉可顧私！」長ちょう仁ひとし竟坐死し。后きさき異母弟いぼてい陀，以猫鬼おに巫みこ蠱，咒詛於后，坐すわ當とう死し。后きさき三さん日にち不ふ食しょく，為之ためゆき請命曰：「陀若蠧政害がい民みん者しゃ，妾わらわ不ふ敢言。今いま坐すわ為ため妾わらわ身み，敢請其命。」陀於是ぜ減げん死し一等いっとう。后きさき每ごと與あずか帝みかど言及げんきゅう政事せいじ，往往おうおう意い合あい，宮みや中稱ちゅうしょう為ため二に聖ひじり。

后きさき頗仁愛あい，每まい聞大理り決けつ囚しゅう，未み嘗不流涕りゅうてい。然しか性せい尤ゆう妬忌，後宮こうきゅう莫敢進すすむ御ご。尉じょう遲おそ迥女おんな孫まご有美ゆみ色しょく，先さき在ざい宮中きゅうちゅう。帝みかど於仁壽ことぶき宮みや見み而悅之の，因いん此得幸こう。后きさき伺帝聽朝，陰かげ殺ころせ之これ。帝みかど由よし是ぜ大だい怒いか，單騎たんき從したがえ苑えん中ちゅう而出，不ふ由よし徑路けいろ，入山にゅうざん谷間たにま二に十じゅう餘あまり里さと。高こう熲、楊素等とう追及ついきゅう帝みかど，扣馬苦く諫。帝みかど太ふとし息いき曰：「吾われ貴とうと為ため天子てんし，而不得どく自由じゆう！」高こう熲曰：「陛下へいか豈あに以一婦人ふじん而輕天下でんか！」帝みかど意い少しょう解かい，駐ちゅう馬うま良久よしひさ，中ちゅう夜よる方ほう始はじめ還かえ宮みや。后きさき俟帝於閣內。及至，后きさき流涕りゅうてい拜はい謝しゃ，熲、素もと等とう和解わかい之の。帝みかど置おけ酒しゅ極ごく歡，后きさき自じ此意頗衰折おり。初はつ，后きさき以高熲是父ちち之の家いえ客きゃく，甚見親おや禮れい。至いたり是ぜ，聞熲謂いい己おのれ為ため一いち婦人ふじん，因いん此銜恨。又また以熲夫人ふじん死し，其妾生せい男おとこ，益えき不善ふぜん之の，漸やや加か譖毀，帝みかど亦また每まい事こと唯ただ后きさき言げん是ぜ用よう。后きさき見み諸王しょおう及朝士し有ゆう妾わらわ孕者，必勸帝みかど斥之。時とき太子たいし勇いさむ多た內寵，妃ひ元もと氏し暴薨，后きさき意い太子たいし愛妾あいしょう雲くも氏し害がい之の。由よし是ぜ諷帝黜高熲，竟廢太子たいし立りつ晉すすむ王おう廣ひろ，皆みな后きさき之の謀はかりごと也。

仁じん壽ことぶき二に年ねん八はち月がつ甲子きのえね，月がつ暈かさ四よん重じゅう，己おのれ巳み，太白たいはく犯はん軒のき轅ながえ。其夜，后きさき崩くずし於永安やす宮みや，時じ年ねん五ご十じゅう。葬そう於「太ふとし陵りょう」。其後，宣せん華はな夫人ふじん陳ちん氏し、容よう華はな夫人ふじん蔡氏俱有寵ちょう，帝みかど頗惑之の，由ゆかり是ぜ發はつ疾やまし。及危篤きとく，謂いい侍者じしゃ曰「使つかい皇后こうごう在ざい，吾われ不ふ及此」云うん。