初夢はつゆめ

縁起えんぎが良よいとされる一いち富士ふじ二に鷹たか三さん茄子なすび

初夢はつゆめ（はつゆめ）とは、新年しんねんのある夜よるに見みる夢ゆめ。この夢ゆめの内容ないようで、1年ねんの吉凶きっきょうを占うらなう風習ふうしゅうがある。

字義じぎどおりに新年しんねん最初さいしょに見みる夢ゆめではあるが、「大晦日おおみそかの夜よるから元日がんじつの朝あさ」「元日がんじつの夜よるから2日にち朝あさ」「2日にち夜よるから3日にち朝あさ」の3つの説せつが混在こんざいする。

日付ひづけ

文献ぶんけんでの初夢はつゆめの初出しょしゅつは、鎌倉かまくら時代ときよの『山家やまが集しゅう』春はる　にある。すなわち「年としくれぬ　春来はるきべしとは　思おもひ寝ねむ　まさしく見みえて　かなふ初夢はつゆめ」。ここでは、暦こよみ上うえの新年しんねんとは無関係むかんけいに、節分せつぶんから立春りっしゅんの夜よるに見みる夢ゆめを初夢はつゆめとしている。この時代じだいは、初夢はつゆめに限かぎらず、立春りっしゅんを新年しんねんの始はじまりと考かんがえることが多おおかった。

その後ご、暦こよみ上じょうの元もと日ひを新年しんねんの始はじまりと考かんがえるようになったが、単純たんじゅんに、大晦日おおみそかから元日がんじつの夜よるに見みる夢ゆめが必かならずしも初夢はつゆめとはならず、江戸えど時代じだいには「大晦日おおみそかから元日がんじつ」「元日がんじつから2日にち」「2日にちから3日にち」の3つの説せつが現あらわれた。「元日がんじつから2日にち」は、大晦日おおみそかから元日がんじつにかけての夜よるは眠ねむらない風習ふうしゅうができたことが理由りゆうとされる。「2日にちから3日にち」の由来ゆらいははっきりしないが、書初かきぞめや初はつ商あきないなど多おおくの新年しんねんの行事ぎょうじが2日にちに行おこなわれるようになったのに影響えいきょうされたためとも言いわれる。

江戸えど時代じだい後期こうきには「2日にちから3日にち」が主流しゅりゅうとなったが、明治めいじの改暦かいれき後ごは、「元日がんじつから2日にち」とする人ひとが多おおくなった。

風習ふうしゅう

宝船たからぶねの絵え

室町むろまち時代ときよごろから、良よい夢ゆめを見みるには、七福神しちふくじんの乗のっている宝船たからぶねの絵えに「なかきよの とおのねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな（長ながき夜よるの 遠とおの眠ねむりの 皆みな目覚めざめ 波乗なみのり船せんの 音おとの良よきかな）」という回文かいぶんの歌うたを書かいたものを枕まくらの下したに入いれて眠ねむると良よいとされている。これでも悪わるい夢ゆめを見みた時ときは、翌朝よくあさ、宝船たからぶねの絵えを川かわに流ながして縁起直えんぎなおしをする。

一富士いちふじ二に鷹たか三さん茄子なすび

初夢はつゆめに見みると縁起えんぎが良よいものを表あらわすことわざに「一いち富士ふじ二に鷹たか三さん茄子なすび（いちふじ にたか さんなすび）」がある。

江戸えど時代じだいに最もっとも古ふるい富士ふじ講こう組織そしきの一ひとつがあった「駒込こまごめ富士ふじ神社じんじゃ」の周辺しゅうへんに鷹匠たかじょう屋敷やしき（現在げんざいの駒込こまごめ病院びょういん)があり、駒込こまごめ茄子なすびが名産めいさんであったため、当時とうじの縁起物えんぎものとして「駒込こまごめは一富士いちふじ二に鷹たか三さん茄子なすび」と川柳せんりゅうに詠よまれた（富士ふじ信仰しんこうも参照さんしょう）。

その他たにこの3つの組くみ合あわせは、『狂歌きょうか・家かつと』、『続ぞく五ご元げん集しゅう』、『狂歌きょうか・巴ともえ人じん集しゅう』、『譬喩ひゆ尽つき』、『黄表紙きびょうし・盧の生なま夢ゆめ魂たましい其前日ぜんじつ』、『笈きゅう埃ほこり随筆ずいひつ』、『嬉うれし遊ゆう笑覧しょうらん』、『甲子きのえね夜話やわ』、『俚言りげん集しゅう覧らん』などの文献ぶんけん資料しりょうに記載きさいされており、江戸えど時代じだい初期しょきにはすでにあり、それぞれの起源きげんは次つぎのような諸説しょせつがある。

• 徳川とくがわ家か縁えんの地ちである駿河するが国こくでの高たかいものの順じゅん。富士山ふじさん、愛鷹山あしたかやま、初物はつもののなすの値段ねだん（『甲子きのえね夜話やわ』）
• 富士山ふじさん、鷹狩たかがり、初物はつもののなすを徳川とくがわ家康いえやすが好このんだことから（『史ふみ疑うたぐ 徳川とくがわ家康いえやす事績じせき』）
• 富士ふじは日本一にっぽんいちの山やま、鷹たかは賢かしこくて強つよい鳥とり、なすは事ことを「成なす」
• 富士ふじは「無事ぶじ」、鷹たかは「高たかい」、なすは事ことを「成なす」という掛かけ言葉ことば
• 富士ふじは曾我そが兄弟きょうだいの仇かたき討うち（富士山ふじさんの裾野すその）、鷹たかは忠臣蔵ちゅうしんぐら（主君しゅくん浅野あさの家かの紋所もんどころが鷹たかの羽わ）、茄子なすびは鍵屋かぎやの辻つじの決闘けっとう（伊賀いがの名産めいさん品ひんが茄子なすび）とする説せつもあるらしいが、茄子なすびは伊賀いがの名産めいさんではない（伊賀いが牛うしやメロンについての文献ぶんけんでの記載きさいはあるが、茄子なすびの記述きじゅつは皆無かいむ）。また、源みなもと頼朝よりともにまで曾我そが兄弟きょうだいの刃はは向むけられており、正月しょうがつの吉事きちじとするには決けっしてめでたくない。また二ふたつ巴ともえ（大石おおいし）なら義挙ぎきょだが、違ちがい鷹たか（浅野あさの）は天皇陛下てんのうへいかからの勅使ちょくしを私怨しえんで饗応きょうおう放棄ほうきしており不敬ふけいで、吉兆きっちょうの対極たいきょくにある。
  • 元禄げんろく赤穂あこう事件じけんに限かぎれば、吉良きら義央よしなかを守まもって討うたれた小林こばやし央ひさし通どおりの曾孫そうそん（葛飾かつしか北斎ほくさい）は富士山ふじさんの浮世絵うきよえで有名ゆうめい。吉良きらの子孫しそんが治おさめた置賜おきたまでは、江戸えど時代じだいから令れい和わの御代みよまで鷹たかの彫刻ちょうこく（上杉うえすぎ鷹山ようざんは「笹野ささの一刀彫いっとうぼり」を魔除まよけけとして推奨すいしょうした。大日本帝国だいにっぽんていこく『国定くにさだ修身しゅうしん教科書きょうかしょ』明治めいじ三さん十じゅう七なな年ねんから）が名産めいさん品ひん。吉良きら町まちを含ふくむ西尾にしお市しには西尾にしお市し茄子なすび組合くみあいがあり、西にし三さん河かわ茄子なすびが古ふるくから生産せいさんされ、毎年まいとし茄子なすび品評ひんぴょう会かいが行おこなわれている。

四よん以降いこう

四よん以降いこうについては地域ちいき・文献ぶんけんなどからいくつか存在そんざいしており、それについても諸説しょせつある。

四よん扇おうぎ（しおうぎ、しせん、よんせん）、五ご煙草たばこ（多た波なみ姑しゅうと）（ごたばこ）、六ろく座頭ざがしら（ろくざとう）

「俚言りげん集しゅう覧らん」に記載きさいがあり、同どう内容ないようを挙あげた辞典じてん類るいの多おおくはこれを出典しゅってんとしている。一説いっせつとして、一富士いちふじ二に鷹たか三さん茄子なすびと四よん扇おうぎ五ご煙草たばこ六ろく座頭ざがしらはそれぞれ対応たいおうしており、富士ふじと扇おうぎは末広すえひろがりで子孫しそんや商売しょうばいなどの繁栄はんえいを、鷹たかと煙草たばこの煙けむりは上昇じょうしょうするので運気うんき上昇じょうしょうを、茄子なすびと座頭ざがしらは毛けが無なく、「毛けがない＝怪我けがない」との連想れんそうから家内かない安全あんぜんを意味いみしているというものがある。

四よん（または五ご）を「葬式そうしき・葬礼そうれい」としたもの

• 四よんそうろう（葬礼そうれい）に五ごせっちん（雪隠せっちん、便所べんじょ） / 四よん葬式そうしき、五ご雪隠せっちん / 四よん雪隠せっちん、五ご葬式そうしき
• 四よん葬礼そうれい、五ご糞くそ
• 四よんに葬式そうしき、五ごに火事かじ / 四よん葬式そうしき、五ご火事かじ

俗信ぞくしんにより、逆夢さかゆめとしたり、予兆よちょうとしたり、内容ないようによって良りょう悪あくが違ちがうなど、いくつかの解釈かいしゃくがある。

七なな以降いこう

七なな丁髷ちょんまげ、八はち薔薇ばら、九きゅう歌舞伎かぶきという説せつがあるが、これは後こう付つけであるという見解けんかいが有力ゆうりょくである。

関連かんれん項目こうもく

• 夢ゆめ占うらない