社会しゃかい的てき入院にゅういん

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OECD各国かっこくの平均へいきん入院にゅういん日数にっすう（急性きゅうせい医療いりょう）。日本にっぽんは一番いちばん左ひだり。[1]

社会しゃかい的てき入院にゅういん （しゃかいてきにゅういん、英語えいご: Social Hospitalisation[2]）とは、入院にゅういんの本来ほんらいの趣旨しゅしを逸脱いつだつして、必かならずしも治療ちりょうや退院たいいんを前提ぜんていとしない長期ちょうき入院にゅういんを続つづける状態じょうたいのことを指さす。

下記かきに列挙れっきょする医療いりょう問題もんだい、社会しゃかい問題もんだいとしての文脈ぶんみゃくで用もちいられる用語ようごであり、一般いっぱんの入院にゅういん治療ちりょうとは趣旨しゅしを異ことにするホスピス等ひとしのターミナルケアに関かんしては範疇はんちゅうに含ふくまない。

概要がいよう[編集へんしゅう]

OECD各国かっこくの人口じんこうあたりベット数すう（機能きのう別べつ）。日本にっぽんは一番いちばん右みぎ。[1]

入院にゅういんは本来ほんらい、病状びょうじょうが継続けいぞく的てきな看護かんごまたは医学いがく的てき管理かんりを要ようするために、医療いりょう機関きかんに留とめ置おく措置そちであり、病状びょうじょうが快復かいふくもしくは安定あんていすれば当然とうぜん退院たいいんし、必要ひつように応おうじて外来がいらい診療しんりょうに移行いこうすることが本来ほんらいのあり方かたであるが、医学いがく的てき観点かんてんからは既すでに入院にゅういんの必要ひつよう性せいが無ないにもかかわらず、患者かんじゃやその家族かぞくの生活せいかつ上じょうの都合つごうにより、介護かいごの代替だいたい策さくとして入院にゅういんが行おこなわれている点てんが、社会しゃかい的てき入院にゅういんの特徴とくちょうである。

社会しゃかい的てき入院にゅういんは、ホスピタリズムにより精神せいしんが荒廃こうはいした為ために、自立じりつした生活せいかつが困難こんなんになり、退院たいいん後ごの生活せいかつが成なりたないため、年とし単位たんいの長期ちょうき入院にゅういんに繋つながり、長期ちょうき入院にゅういんにより社会しゃかい性せいや生活せいかつ習慣しゅうかんの衰退すいたいという社会しゃかい問題もんだいの側面そくめんも持もつ。

また、家族かぞくなどの引ひき取とり手てに拒否きょひされる、自宅じたくで面倒めんどうを見みられないために、惰性だせい的てきに入院にゅういんを継続けいぞくさせられている高齢こうれい者しゃ虐待ぎゃくたい問題もんだいにまで使用しようされる。

また社会しゃかい問題もんだいとして、医療いりょう費ひの増大ぞうだいにつながる[2]。日本にっぽんの年間ねんかん医療いりょう費ひは2002年ねん（平成へいせい15年ねん）度どで31.5兆ちょう円えんに達たっしており、社会しゃかいの高齢こうれい化かとともに更さらなる増加ぞうかは避さけられない。社会しゃかい的てき入院にゅういんは公的こうてき医療いりょう保険ほけんが利用りようできるため、入院にゅういん者しゃの家族かぞくにとって金銭きんせん負担ふたんは比較的ひかくてき小ちいさく、あまり抵抗ていこうなく利用りようされがちであるが、総額そうがくとしての医療いりょう費ひ増額ぞうがくに繋つながり、国家こっか予算よさんも増大ぞうだいする[2]。

不ふ必要ひつような入院にゅういんが招まねく社会しゃかい問題もんだいとして、病床びょうしょうが満まん床ゆかになるために救急きゅうきゅう要請ようせいを受うけ入いれられず、影響えいきょうが救急きゅうきゅう医療いりょうにも波及はきゅうし、「救急きゅうきゅう難民なんみん」を生うみ出だしている問題もんだいもある。大阪おおさか市しのような大都市だいとしでさえ、社会しゃかい的てき入院にゅういん患者かんじゃの増加ぞうかで、救急きゅうきゅう患者かんじゃを断ことわる事態じたいが増ふえている[3]。

経済けいざい協力きょうりょく開発かいはつ機構きこうは2014年ねんに、診療しんりょう報酬ほうしゅうの日数にっすう払ばらい制度せいどは医療いりょう機関きかんの過剰かじょう診療しんりょうを招まねくとして、各国かっこくに対たいし、入院にゅういん日数にっすう制限せいげんや包括ほうかつ払ばらい制度せいどの導入どうにゅうなど、医療いりょう保険ほけんの支払しはらい制度せいど改革かいかくが必要ひつようだと勧告かんこくしている[4]。

日本にっぽんでは2000年ねんから、傷病しょうびょうの治療ちりょうは医療いりょう機関きかんで、要よう介護かいご状態じょうたいの介護かいごはソーシャルワークで、という考かんがえ方かたから介護かいご保険ほけん制度せいどが施行しこうされた[2]。また病院びょういんに対たいしては、入院にゅういんが長期ちょうきに及およぶと診療しんりょう報酬ほうしゅうを減額げんがくすることで、長期ちょうき入院にゅういんの抑制よくせいが図はかられた。しかし未いまだに医療いりょう保険ほけん入院にゅういんは、2009年ねんに介護かいご保険ほけん入院にゅういんの2倍ばいの病床びょうしょう数すうを占しめている[2]。

日本にっぽんの精神せいしん科か病院びょういんにおける事例じれい[編集へんしゅう]

OECD各国かっこくの平均へいきん精神せいしん病院びょういん入院にゅういん日数にっすう[5]。日本にっぽんは水色みずいろ。
人口じんこう当あたり精神せいしん病床びょうしょう数すう (OECD Health Data 2013)
「日本にっぽんの精神せいしん保健ほけん」も参照さんしょう

特とくに精神せいしん障害しょうがい者しゃの場合ばあいは深刻しんこくで、数すう年ねんから十じゅう年ねん以上いじょう、半はん世紀せいき以上いじょうも精神せいしん科かに入院にゅういんしている患者かんじゃも珍めずらしくはない。経済けいざい協力きょうりょく開発かいはつ機構きこうは「日本にっぽんの精神せいしん保健ほけん政策せいさくは、他国たこくに比くらべ『脱だつ施設しせつ化か（英語えいご版ばん）』が遅おくれており、精神せいしん科か病床びょうしょうの多おおさなど悪わるい意味いみで突出とっしゅつしている」と報告ほうこくした[6][7]。

根本こんぽん的てきな原因げんいんとして、

  • 精神せいしん障害しょうがいとされる者ものの両親りょうしんや親族しんぞくが、患者かんじゃの病状びょうじょうの回復かいふくに関かかわらず、患者かんじゃの退院たいいんを望のぞんでいないケースがある。
  • 入院にゅういん中心ちゅうしん主義しゅぎで、障害しょうがい者しゃが地域ちいきで安心あんしんして生活せいかつ出来できる社会しゃかい資源しげんが、ヒト・モノ・カネともに圧倒的あっとうてきに不足ふそくしている。
  • 日本にっぽんの精神せいしん科か病院びょういんの9割わりは私立しりつ病院びょういんであり、病院びょういん経営けいえい上じょうなかなか退院たいいんさせられない。

現状げんじょうが挙あげられる。

そのため「退院たいいんを前提ぜんていとしない治療ちりょう」を行おこなっている病院びょういんもある。こうした状況じょうきょうを見みて、日本にっぽん医師いし会かい会長かいちょう武見たけみ太郎たろうは「精神せいしん医療いりょうは牧畜ぼくちく業ごうだ」と発言はつげんした[8]。

具体ぐたい的てきな事例じれいとして、精神せいしん科か医いの齋藤さいとう正彦まさひこは、2012年ねん（平成へいせい24年ねん）7月がつ1日にちに東京とうきょう都立とりつ松沢まつざわ病院びょういん院長いんちょうに着任ちゃくにんした際さいの挨拶あいさつで「今回こんかい30年ねんぶりに、同おなじ病棟びょうとう（都立とりつ松沢まつざわ病院びょういんの精神せいしん科か病棟びょうとう）に入はいって、旧知きゅうちの患者かんじゃさんから声こえをかけられて愕然がくぜんとしました。30年間ねんかん、退院たいいんすることなく、松沢まつざわ病院びょういんで過すごしていた患者かんじゃさんが何人なんにんもいたのです。私わたしが、医師いしとしてのキャリアを積つみ、家庭かていを作つくり、友人ゆうじんたちと過すごした30年ねん、患者かんじゃさんが松沢まつざわ病院びょういんの病棟びょうとうの片隅かたすみで、１人ひとりで送おくった30年ねん」と驚おどろき、30年間ねんかんも病院びょういんに長期ちょうき入院にゅういんしている精神せいしん障害しょうがい者しゃの患者かんじゃが存在そんざいしている事ことを憂うれいている[9]。

このような場合ばあい特とくに、数すう年ねんから数すう十じゅう年ねん単位たんいで行おこなわれる入院にゅういん生活せいかつや、「薬物やくぶつ療法りょうほう」の副作用ふくさよう、あるいは、数すう年ねんから数すう十じゅう年ねん単位たんいという、極きわめて長ながい入院にゅういん生活せいかつを終了しゅうりょうし、いきなり社会しゃかい生活せいかつを営いとなむ事ことへの不安ふあんや、患者かんじゃ自身じしんが長期間ちょうきかんの精神せいしん科か病院びょういんへの物理ぶつり的てき・精神せいしん的てき拘束こうそくによる拘禁こうきん反応はんのうから、退院たいいんを諦あきらめてしまう事例じれいも多おおい。

中なかには、高齢こうれい者しゃが孤独こどくな独ひとり暮ぐらしに耐たえかねて救急きゅうきゅう外来がいらいで自みずから社会しゃかい的てき入院にゅういんを病院びょういんに頼たのみ、病院びょういん側がわが折おれて入院にゅういんに至いたるケースもある[10]。

経済けいざい協力きょうりょく開発かいはつ機構きこう（OECD）は、多おおくの国々くにぐに（アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく、イギリス、オーストラリア、フランス、イタリア、ノルウェー、スウェーデン）では脱だつ施設しせつ化かを達成たっせいしたが、しかし日本にっぽんや韓国かんこくのような国家こっかでは、未いまだ施設しせつ入院にゅういんが主流しゅりゅうであると報告ほうこくしている[7]。

各国かっこくの状況じょうきょう[編集へんしゅう]

  • ドイツの医療いりょうではFehlbelegung（病院びょういん誤用ごよう）と呼よばれている。政府せいふは介護かいご保険ほけん制度せいどの制定せいていや包括ほうかつ払ばらい制度せいどなどで対策たいさくを講こうじている[11]。
  • スウェーデンの医療いりょうでは、病院びょういんにて医学いがく的てき治療ちりょう完了かんりょう後ごも入院にゅういんし続つづける患者かんじゃは、その費用ひよう支払しはらい義務ぎむがコミューンに課かされる制度せいどのため、コミューンは入院にゅういんよりソーシャルワークに移行いこうするインセンティブを持もっている[12]。
  • イタリアではバザリア法ほうにより単科たんかの精神病せいしんびょう棟とうを設置せっちしないこととなっている。

日本にっぽん[編集へんしゅう]

日本にっぽんの医療いりょう制度せいどに関かんしては、平均へいきん入院にゅういん日数にっすうの長ながさが指摘してきされており、長年ながねんOECD中ちゅう1位いを維持いじしている[1]。

厚生こうせい労働省ろうどうしょうの患者かんじゃ調査ちょうさにおいて、「受うけ入いれ条件じょうけんが整ととのえば退院たいいん可能かのう（退院たいいんは決きまっていないが退院たいいん可能かのうな状態じょうたいにある患者かんじゃ）」と区分くぶんされている入院にゅういん者しゃ数すうは、2011年ねんには18.1万まん人にんで入院にゅういん者しゃ総数そうすうの13.5%を占しめている[13]。

OECDは2009年ねんに「患者かんじゃを入院にゅういんさせたままにすることは病院びょういん収入しゅうにゅうを増ふやす簡単かんたんな方法ほうほうである」と指摘してきし、患者かんじゃの入院にゅういん区分くぶんを正確せいかくに分類ぶんるいし、かつ診療しんりょう報酬ほうしゅうスケジュールを見直みなおすことで、病院びょういんへの長期ちょうき入院にゅういんを減へらす取とり組くみを行おこなうよう勧告かんこくした[14]。厚生こうせい労働省ろうどうしょうは医療いりょう費ひ適正てきせい化か計画けいかくを策定さくていし、療養りょうよう病床びょうしょうについて老人ろうじん保健ほけん施設しせつや居住きょじゅう系けいサービス施設しせつへの転換てんかんを推進すいしんしている[15]。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]
  1. ^ a b c Health at a Glance 2013 (Report). OECD. 21 November 2013. doi:10.1787/health_glance-2013-en。
  2. ^ a b c d e OECD 2009, pp. 112–113.
  3. ^ 産経新聞さんけいしんぶん2009年ねん1月がつ7日にち
  4. ^ OECD 2014, pp. 121–122.
  5. ^ OECD Stat. 日本にっぽんについては厚労省こうろうしょう「医療いりょう施設しせつ（動態どうたい）調査ちょうさ・病院びょういん報告ほうこくの概況がいきょう」より
  6. ^ OECD 2014, Country press releases - Japan.
  7. ^ a b OECD 2014, pp. 15–16.
  8. ^ 長岡ながおか和かず『爆ばく弾だん精神せいしん科か医い』情報じょうほうセンター出版しゅっぱん局きょく、2008年ねん11月5日にち、143頁ぺーじ。ISBN 978-4795849426。 
  9. ^ 齋藤さいとう正彦まさひこ『院長いんちょうコラム Vol.01 着任ちゃくにんのご挨拶あいさつ』（プレスリリース）東京とうきょう都立とりつ松沢まつざわ病院びょういん、2012年ねん7月がつ1日にち。http://www.byouin.metro.tokyo.jp/matsuzawa/aboutus/matsuzawa_voice/column/column20120701.html。2017年ねん6月がつ18日にち閲覧えつらん。 
  10. ^ 「救急きゅうきゅう車しゃはタクシー、ナースはお話はなし相手あいて ?! 」困こまった救急きゅうきゅう患者かんじゃさんに物申ものもうす【ナースが物申ものもうす第だい25回かい】 看護かんごのお仕事しごと 2020年ねん5月がつ12日にち (2021年ねん6月がつ20日はつか閲覧えつらん)
  11. ^ 「ドイツの社会しゃかい的てき入院にゅういん・連携れんけい問題もんだいと関連かんれん法制ほうせい (特集とくしゅう 社会しゃかい的てき入院にゅういんの解消かいしょう)」（PDF）『健保連けんぽれん海外かいがい医療いりょう保障ほしょう』第だい87巻かん、健康けんこう保険ほけん組合くみあい連合れんごう会かい、2010年ねん9月がつ、10-20頁ぺーじ、NAID 40017351301。 
  12. ^ 「"望のぞましくない"入院にゅういんの回避かいひ・解消かいしょう--スウェーデンの試こころみ (特集とくしゅう 社会しゃかい的てき入院にゅういんの解消かいしょう)」（PDF）『健保連けんぽれん海外かいがい医療いりょう保障ほしょう』第だい87巻かん、健康けんこう保険ほけん組合くみあい連合れんごう会かい、2010年ねん9月がつ、29-35頁ぺーじ、NAID 40017351303。 
  13. ^ 平成へいせい２３年ねん（２０１１）患者かんじゃ調査ちょうさの概況がいきょう (Report). 厚生こうせい労働ろうどう省しょう. 2011-10. p. 8. {{cite report}}: |date=の日付ひづけが不正ふせいです。 (説明せつめい)
  14. ^ OECD 2009, pp. 106–108.
  15. ^ 厚生こうせい労働ろうどう白書はくしょ 2013, pp. 310.

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん書籍しょせき[編集へんしゅう]

  • 織田おだ淳あつし太郎たろう「精神せいしん医療いりょうに葬ほうむられた人ひとびと 潜入せんにゅうルポ　社会しゃかい的てき入院にゅういん」 (光文社こうぶんしゃ新書しんしょ) ISBN 978-4334036324
  • 印南いなみ一路かずみち「社会しゃかい的てき入院にゅういんの研究けんきゅう」（東洋経済新報社とうようけいざいしんぽうしゃ）ISBN 978-4492701249

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]

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