牧畜ぼくちく

牧畜ぼくちく（ぼくちく）とは、牛うしや羊ひつじ、兎うさぎなどの家畜かちくを人工じんこう的てきに養育よういくして数かずを増ふやし、その乳ちちや肉にく、それらの加工かこう保存ほぞん食しょく、皮革ひかくや羊毛ようもうなど家畜かちくの身体しんたいに起源きげんする生活せいかつ用具ようぐを主しゅたる生活せいかつの糧かてとする生業せいぎょうを指さす。その中なかでも、特定とくていの居住きょじゅう地ちを定さだめずに季き節ぶしや天候てんこうに応おうじて家畜かちくを引ひき連つれて移動いどうする牧畜ぼくちく生活せいかつを遊牧ゆうぼくと言いう。また、牧畜ぼくちくを主体しゅたいとする社会しゃかいを牧畜ぼくちく社会しゃかいと呼よぶ場合ばあいがある。

牧畜ぼくちく社会しゃかいは人口じんこう密度みつどの低ひくい山岳さんがく部ぶや半はん砂漠さばく地帯ちたい、大だい草原そうげん地帯ちたいなど農耕のうこうでは食糧しょくりょう需要じゅようを満みたせない場所ばしょで盛さかんに営いとなまれる。牧畜ぼくちく民みんは隣人りんじんからの強奪ごうだつなどによって全ぜん財産ざいさんとも言いえる家畜かちくを失うしなう危険きけんを常つねに抱かかえていたために、男おとこらしさや名誉めいよを重おもんじる文化ぶんかや、政府せいふの力ちからを頼たよらない自衛じえいの文化ぶんかがある。スコットランド人じんや地中海ちちゅうかい周縁しゅうえん部ぶの諸しょ民族みんぞくなど、かつて牧畜ぼくちく民みんだった民族みんぞくにもこうした文化ぶんかが多おおく見みられる。

家畜かちく

ヨーロッパの北部ほくぶや中央ちゅうおうアジア・アラビア半島はんとう・サハラ砂漠さはらさばく周縁しゅうえん部ぶなどの乾燥かんそう地ち、アラスカ・シベリアなどの寒冷かんれい地ちで主要しゅような生業せいぎょうとなっている。そのため、乾燥かんそうや寒冷かんれいといった土地とちごとの気候きこうにあった家畜かちくが選択せんたくされる。例たとえば、もっとも乾燥かんそうが激はげしいサハラ周縁しゅうえん部ぶではラクダが、もっとも寒冷かんれいなアラスカ・シベリアなどではトナカイが飼育しいくされる。

牧畜ぼくちくの歴史れきしは古ふるく、農耕のうこうとならんで紀元前きげんぜん5000年ねん頃ころ、新しん石器せっき時代じだいの古代こだいエジプトなどではすでに行おこなわれていた。狩猟しゅりょうも同おなじく動物どうぶつを対象たいしょうとするが、定常ていじょう的てきに動物どうぶつと接せっすることになる牧畜ぼくちくとは文化ぶんか的てき・技術ぎじゅつ的てきに大おおきな隔へだたりがある。最初さいしょに家畜かちく化かされた動物どうぶつはイヌであるが、牧畜ぼくちくのための最初さいしょの家畜かちくはヤギやヒツジであると考かんがえられている。牧畜ぼくちくに特とく化かした犬いぬを牧羊ぼくよう犬けんと言いい、コリーやシェパードなどの品種ひんしゅがつくられている。

牧草ぼくそう地ち

タイ東北とうほく地方ちほうの牧畜ぼくちく。牛うし番ばん(牛追うしおい)は、道路どうろや畦道あぜみちの脇わきに生はえている草くさを牛うしに食たべさせる。このような無償むしょうの牧草ぼくそう地ちは、ローカル・コモンズである。

家畜かちくのエサとなる牧草ぼくそうが生はえている土地とちあるいは栽培さいばいされている土地とちを牧草ぼくそう地ち（ぼくそうち）という。これは、牧場ぼくじょう主ぬしや企業きぎょうの所有しょゆうする私的してきな牧草ぼくそう地ちと、住民じゅうみんに広ひろく開放かいほうされているされている地域ちいきコミュニティの共有きょうゆうの牧草ぼくそう地ちとに二に分ふんできる。後者こうしゃには、自然しぜん地形ちけいをそのまま利用りようした共有きょうゆうの放牧ほうぼく地ちも含ふくまれる。近代きんだい的てきな牧畜ぼくちくあるいは先進せんしん国こくの牧草ぼくそう地ちは、前者ぜんしゃであるが、歴史れきし的てきには後者こうしゃの自然しぜん地形ちけいを利用りようした放牧ほうぼく地ちあるいは地域ちいきコミュニティの共有きょうゆうの牧草ぼくそう地ちが主流しゅりゅうであった。

しかし、現在げんざいの開発途上国かいはつとじょうこくにおける牧畜ぼくちくでも、地域ちいきコミュニティや自然しぜん地形ちけいを利用りようした共有きょうゆうの牧草ぼくそう地ちは無視むしできない。このような牧草ぼくそう地ちは、地域ちいきコミュニティのメンバーが利用りよう、管理かんりするローカル・コモンズといえるものである。

歴史れきし的てきに見みると、自然しぜん地形ちけいを利用りようした放牧ほうぼく地ちあるいは地域ちいきコミュニティの共有きょうゆうの牧草ぼくそう地ちは、利用りよう者しゃが他たの利用りよう者しゃにも配慮はいりょして牧畜ぼくちくを行おこなってきた。共有きょうゆう地ち（コモンズ）を巡めぐっては、利用りよう者しゃが家畜かちくを過剰かじょうに飼育しいくし、共有きょうゆう地ちの牧草ぼくそうを収奪しゅうだつ的てきに利用りようする過か放牧ほうぼくが進行しんこうするとして、「コモンズの悲劇ひげき」が主張しゅちょうされることもある。しかし歴史れきし的てきにみると、コモンズの悲劇ひげきによって牧畜ぼくちくが衰退すいたいした事例じれいはほとんどないと考かんがえられる。

関連かんれん項目こうもく

• 飼育しいく
• 養殖ようしょく