土砂どしゃ災害さいがい

住宅じゅうたく地ちを襲おそった地震じしんによる崖崩がけくずれ（2001年ねん、エルサルバドル）

スイスアルプスの急斜面きゅうしゃめんで起おこった崖崩がけくずれ（2008年ねん撮影さつえい）。この地方ちほうでは"Sturzstrom"（岩がん屑くず流りゅう）と呼よぶ。

大雨おおあめによる土石流どせきりゅう。住宅じゅうたくや車くるまが流ながされ、泥どろに埋うまっている。（2014年ねん8月がつ、広島ひろしま市し）

土砂どしゃ災害さいがい（どしゃさいがい）は、大雨おおあめや地震じしんに伴ともなう斜面しゃめん崩壊ほうかい（がけ崩くずれ・土砂崩どしゃくずれ）、地じすべり、土石流どせきりゅうなどにより人ひとの生命せいめいや財産ざいさんが脅おびやかされる災害さいがい。

定義ていぎ

地表ちひょうの斜面しゃめんを構成こうせいする岩石がんせきや土ど砂すなは重力じゅうりょくを受うけており、何なんらかの要因よういんにより不安定ふあんていになると下方かほうへ移動いどうする。その様式ようしきには、落石らくせき、地じすべり、崩壊ほうかい、流砂りゅうしゃ、土石流どせきりゅうなどいくつかの種類しゅるいがある。これらの現象げんしょうは全すべて一いち括くくりにして、「マスムーブメント（英えい: mass movement）」、または「斜面しゃめん移動いどう（英えい: slope movement）」、あるいは「（広義こうぎの）地じすべり（英えい: landslide）」 という用語ようごで、専門せんもん的てきには定義ていぎされる。

「土砂どしゃ災害さいがい」は、上記じょうきのマスムーブメント（あるいは斜面しゃめん移動いどう、広義こうぎの地じすべり）により発生はっせいする災害さいがい全般ぜんぱんを指さす。ただ、斜面しゃめん崩壊ほうかい・地じすべり・土石流どせきりゅうの3分類ぶんるいが定着ていちゃくしており、この3つが土砂どしゃ災害さいがいであると説明せつめいする場合ばあいがある。特とくに砂防さぼう、防災ぼうさいの場面ばめんでこのような分類ぶんるい・説明せつめいをすることが多おおい。なお、この概念がいねんは世界せかい共通きょうつうではない（cf.#日本にっぽんの特質とくしつ性せい）。

類義語るいぎごに、斜面しゃめんで起おこるという点てんに着目ちゃくもくした「斜面しゃめん災害さいがい」、山地さんちで起おこるという点てんに着目ちゃくもくした「山地さんち災害さいがい」があり、場合ばあいにより同義どうぎとしたり使つかい分わけたりする。このほか、地盤じばんを人為じんい的てきに削けずったり盛もったりした造成ぞうせい地ちで起おこる法ほう面めん崩壊ほうかいなどの災害さいがいも、土砂どしゃ災害さいがいに含ふくめることがある。

日本にっぽんの特質とくしつ性せい

衛星えいせい観測かんそくを基もとに作成さくせいされた世界せかいの土砂どしゃ災害さいがいリスク分布ぶんぷ図ず。紫色むらさきいろは危険きけん性せいが高たかい。

後述こうじゅつ（#原因げんいん）の通とおり、土砂どしゃ災害さいがいは起伏きふくに富とんだ土地とちで起おきやすい。日本にっぽんは、国土こくどの7割わりを山地さんち・丘陵きゅうりょう地ちが占しめ、地殻ちかく変動へんどうが活発かっぱつな変動へんどう帯たい（環太平洋かんたいへいよう変動へんどう帯たい）にあり、火山かざんも多おおいことから土砂どしゃ災害さいがいが起おきやすい。そのうえ、平野へいやが少すくなく土地とち利用りように制約せいやくがあるため、特とくに第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後ごの経済けいざい成長せいちょうや人口じんこう増加ぞうかに伴ともなって郊外こうがいの台地だいちや丘陵きゅうりょう地ちまでもが都市とし化かし、土砂どしゃ災害さいがいが居住きょじゅう地域ちいきに及およびやすくなった経緯けいいがある。

一方いっぽう、国土こくどの広ひろい国くに、例たとえばアメリカやカナダ、ロシアなどでは、こちらも広大こうだいな山地さんちを有ゆうするものの、地じすべりなどが発生はっせいして道路どうろや住宅じゅうたくが被害ひがいを受うけても、場所ばしょを移うつして復旧ふっきゅうするほうが安上やすあがりなため、同おなじ場所ばしょで再建さいけんし更さらに崩壊ほうかいを防止ぼうしする工事こうじなどを行おこなうことは少すくない。例たとえばアメリカの場合ばあい、工事こうじを行おこなう場合ばあいも、政府せいふ・行政ぎょうせいが行おこなう公共こうきょう工事こうじは、道路どうろへの土砂どしゃ流入りゅうにゅうを防ふせぐ、農地のうちなどの土砂どしゃ流出りゅうしゅつ（侵食しんしょく）・土砂どしゃ流入りゅうにゅう（堆積たいせき）を防ふせぐといった目的もくてきが主おもであり、住宅じゅうたくを守まもる目的もくてきでは行おこなわれない。これは、斜面しゃめん崩壊ほうかいなどの災害さいがいについて、リスクを織おり込こんで居住きょじゅうを選択せんたくするという、受益じゅえき者しゃ負担ふたんの原則げんそくを重おもく見みる考かんがえ方かたが根底こんていにあるとみられる。

また学問がくもんにおいても、欧米おうべいでは粘土ねんど質しつ地盤じばんの性質せいしつを扱あつかう土質どしつ力学りきがくが広ひろく受うけ入いれられ、土砂どしゃの粒つぶ径みちや土質どしつ・移動いどう形態けいたい・移動いどう速度そくどなどを基準きじゅんとする細こまかい「地じすべり分類ぶんるい」 が発達はったつし、防災ぼうさいを意識いしきすることが少すくない。対たいする日本にっぽんでは、土木どぼく工学こうがくが岩いわや礫つぶて質しつ地盤じばん、斜面しゃめん安定あんていなどの理論りろんに長たけ、分類ぶんるいも地ち「すべり」と斜面しゃめん「崩壊ほうかい」の区分くぶんを行おこなう独自どくじのものになっている。

原因げんいん

発生はっせい機構きこう

斜面しゃめんにおいて、抵抗ていこう力りょく/滑すべり動力どうりょく=安全あんぜん率りつ(Fs)で表あらわされる。また斜面しゃめんの滑すべり動どうは単純たんじゅん化かすると円弧えんこを滑すべり落おちる運動うんどうである。上うえの図ずは解析かいせき式しきの1つであるフェレニウス法ほうを示しめしたもの。斜面しゃめんを垂直すいちょくに細分さいぶんしてそのスライス片へん毎ごとに抵抗ていこう力りょくと滑すべり動力どうりょくを求もとめ、これを合計ごうけいして安全あんぜん率りつを割わり出だす。

→詳細しょうさいは「斜面しゃめん安定あんてい解析かいせき」を参照さんしょう

斜面しゃめんを構成こうせいする土塊つちくれや岩盤がんばんはふつう、重力じゅうりょくや摩擦まさつ力りょくなどの作用さようの結果けっか、「斜面しゃめんを移動いどうさせようとする力ちから」よりも、それに「抵抗ていこうする力ちから」が大おおきい状態じょうたいで安定あんていしている。ここで、前者ぜんしゃが大おおきくなったり後者こうしゃが小ちいさくなったりすると、バランスが崩くずれて変形へんけいを生しょうじる。土質どしつ力学りきがく上じょう、これは土塊つちくれの剛性ごうせいを超こえる外力がいりょくによるピーク破壊はかいと呼よばれ、破壊はかい時じの外力がいりょくをピーク強度きょうどという。また、斜面しゃめん安定あんていを考かんがえる上うえでは、仮定かていしたすべり面めんにおいて土塊つちくれを滑すべり動どうさせるせん断だん破壊はかいである。

斜面しゃめんを移動いどうさせようとする「せん断だん応力おうりょく」が、それに抵抗ていこうする「せん断だん抵抗ていこう力りょく」を上回うわまわると滑すべり動どうが始はじまる。後者こうしゃに対たいする前者ぜんしゃの比ひを安全あんぜん率りつ Fs といい、斜面しゃめん安定あんていの指標しひょうとする。実際じっさいには、クーロンの破壊はかい規準きじゅんにより求もとめられる土どの強度きょうど定数ていすうなどを組くみ入いれた解析かいせき法ほうを用もちい、計算けいさんを行おこなう。

ピーク破壊はかいの直前ちょくぜんに生しょうじる微小びしょう変形へんけいに対応たいおうして、斜面しゃめん崩壊ほうかいの実験じっけん等とうでは崩壊ほうかい直前ちょくぜんに極きわめて低速ていそくのクリープと呼よばれる変形へんけいが生しょうじることが確たしかめられている。このクリープは土砂どしゃ災害さいがいのいわゆる前兆ぜんちょう現象げんしょうを生しょうじさせる原因げんいんの1つでもある。

斜面しゃめん崩壊ほうかいや地じすべりの発生はっせいは、土塊つちくれに含ふくまれる水みずの作用さようが関かかわる場合ばあいが多おおい。これは、浸透しんとうした水みずが間隙かんげき水圧すいあつを増加ぞうかさせ、土ど粒子りゅうしの有効ゆうこう応力おうりょくが減少げんしょうして、せん断だん抵抗ていこう力りょくが低下ていかしせん断だん破壊はかいに至いたるメカニズムである。土中どちゅうの水みずを抜ぬく、あるいは水みずを浸しみ込こませないような工事こうじにより、間隙かんげき水圧すいあつを減少げんしょうさせることが対策たいさくとして有効ゆうこうである。

素因そいん

地球ちきゅう上じょうにおいて、土砂どしゃ災害さいがいの主おもな素因そいんは、地殻ちかく変動へんどう、火山かざん活動かつどう、寒冷かんれいな気候きこうである。地殻ちかく変動へんどうは、断層だんそう運動うんどうによる地盤じばんの破砕はさい、造山つくりやま運動うんどうによる地盤じばんの隆起りゅうきなどを起おこす。火山かざんは、崩くずれやすい火山灰かざんばいや火砕流かさいりゅうなどの堆積たいせき物ぶつ（火山かざん砕屑物ぶつ）を一いち度どに大量たいりょうに降ふらせ、起伏きふくのある溶岩ようがん地形ちけいを造つくる。高緯度こういどや高山こうざんなどの寒冷かんれい地域ちいきでは、凍結とうけつ融解ゆうかいを繰くり返かえす周しゅう氷河ひょうが作用さようが崩くずれやすい地質ちしつを造つくる。

世界せかいにおける巨大きょだいな崩壊ほうかい・地じすべり（崩壊ほうかい体積たいせき10⁷ - 10⁹ m³）の発生はっせい地域ちいきは、インドネシア、ネパール、中国ちゅうごく、日本にっぽん、台湾たいわん、フィリピン、ニュージーランド、アメリカ、カナダ、ペルーなどが挙あげられ、ほとんどが変動へんどう帯たい（環太平洋かんたいへいよう変動へんどう帯たいあるいはアルプス・ヒマラヤ変動へんどう帯たい）に位置いちする。なお、例外れいがい的てきにノルウェーやスウェーデンなどでは、氷河ひょうがの後退こうたいによる岩盤がんばん地じすべりやクイッククレイ地じすべりが起おこる。

その他たの素因そいんとして、強風きょうふう化か花崗岩かこうがん（真砂まさご土ど）や火山かざん性せい土壌どじょう（シラスなど）、厚あつい堆積たいせき土ど（レス）といった局地きょくち的てきな地質ちしつ、また、過か放牧ほうぼくや大気たいき汚染おせんによる植生しょくせいの破壊はかい、過度かどな採鉱さいこう、山やま沿ぞいや台地だいちの市街地しがいち化かといった人為じんい的てき・社会しゃかい的てき要因よういんも挙あげられる。

誘因ゆういん

土砂どしゃ災害さいがいの誘因ゆういん（引ひき金がね）には、集中しゅうちゅう豪雨ごううや台風たいふうなどによる大雨おおあめ、地震じしん、火山かざん活動かつどう、天然てんねんダムの決壊けっかい、人工じんこう的てきな掘削くっさくなどがある。

日本にっぽんの土砂どしゃ災害さいがいの状況じょうきょう

近世きんせい以降いこう

歴史れきし的てきに見みると、日本にっぽんでは江戸えど時代じだいを通とおして山林さんりんの荒廃こうはいが進行しんこうし続つづけ、江戸えど末期まっきから明治めいじ初期しょきにかけては最もっとも荒廃こうはいした状態じょうたいにあったと考かんがえられる。これは、この時代じだい、日本人にっぽんじんが生活せいかつする上じょうで、生活せいかつに必要ひつような物もの、建材けんざい、船ふねや荷車にぐるま、燃料ねんりょう、肥料ひりょうなどの大だい部分ぶぶんに木材もくざいや草くさを利用りようし、森林しんりんに大おおきく依存いぞんしていたためである。庶民しょみんは、生活苦せいかつくから株かぶや根ねまで掘ほり起おこして燃料ねんりょう等とうに用もちいていた時期じきもあるほどだった。各地かくちで焼やき畑ばたの禁止きんしや植林しょくりん、伐採ばっさい禁止きんし・入山にゅうざん禁止きんしなどの御触おふれが出だされたが、効果こうかは乏とぼしかったと考かんがえられる。集落しゅうらくに近ちかい里山さとやまを中心ちゅうしんに伐採ばっさいされた木きの無ない山林さんりんが広ひろがり、本州ほんしゅうの広ひろい範囲はんい、特とくに西日本にしにほんにはハゲ山やまが多おおく分布ぶんぷしていたと推定すいていされる。これにより、山林さんりんでは激はげしい土壌どじょう浸食しんしょくや表層ひょうそう崩壊ほうかいが多発たはつした。

明治めいじに入はいると、産業さんぎょう革命かくめいにより木材もくざいの代替だいたい品ひんが開発かいはつ・普及ふきゅうし始はじめるが、工業こうぎょう化かや戦争せんそうなどで木材もくざいの需要じゅようは高たかく、山奥やまおくまで森林しんりん鉄道てつどうを敷しいて伐採ばっさいが進すすめられた地域ちいきもあった。一方いっぽう、防災ぼうさいのため明治めいじ政府せいふは治水ちすい三さん法ほう を制定せいていし、国家こっかとして「治山ちさん」や「砂防さぼう」の事業じぎょうを開始かいしした。ヨーロッパからの技術ぎじゅつ導入どうにゅうにより、ハゲ山やまの土砂どしゃを安定あんていさせる山腹さんぷく工こうや砂防さぼうダムの技術ぎじゅつも発達はったつした。

第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後ごには、復興ふっこうのための木材もくざい需要じゅようにより、伐採ばっさいが急速きゅうそくに奥地おくちまで拡大かくだいしてしまう。一方いっぽうで、植林しょくりん政策せいさくにより伐採ばっさい地ちは急速きゅうそくに人工じんこう林りん化かされ、ハゲ山やまはほとんどなくなる。また高度こうど経済けいざい成長せいちょう期きには、安価あんかな輸入ゆにゅう木材もくざいが国産こくさんに取とって代がわり、伐採ばっさいは急速きゅうそくに減少げんしょうする。しかし、崩壊ほうかい防止ぼうし機能きのうが弱よわい若齢じゃくれい林りん（若わかい人工じんこう林りん）などで、表層ひょうそう崩壊ほうかいや土石流どせきりゅうが多発たはつした。さらに、都市とし化かにより市街地しがいちのがけ崩くずれが顕在けんざい化かした。1960年代ねんだい後半こうはんから1970年代ねんだい前半ぜんはんには、毎年まいとし100名めい以上いじょうが土砂どしゃ災害さいがいの犠牲ぎせいとなり、自然しぜん災害さいがい犠牲ぎせい者しゃの半数はんすう以上いじょうを占しめる状況じょうきょうとなった。これに対たいし、がけ崩くずれ防止ぼうしや砂防さぼうダムなどのハード対策たいさくが進すすめられる。その後ご、戦後せんご大量たいりょうに植林しょくりんされた森林しんりんが成長せいちょうして崩壊ほうかい防止ぼうし機能きのうが高たかまり、ハード対策たいさくの進展しんてんも相あいまって犠牲ぎせい者しゃは次第しだいに減少げんしょうしてきた。

現代げんだい

1979年ねん - 2008年ねんまでの30年間ねんかんには、平均へいきんすると、およそ年間ねんかん1,000件けん程度ていどの土砂どしゃ災害さいがいが発生はっせいしている。また、2009年ねん - 2013年ねんまでの5年間ねんかんも同おなじく年間ねんかん1,000件けん程度ていどである。ただし、気象きしょう条件じょうけんなどにより200件けん位いから2,000件けん超ちょうと大おおきく変動へんどうがある。例たとえば、2004年ねんは新潟にいがた・福島ふくしま豪雨ごううや福井ふくい豪雨ごうう、多数たすうの台風たいふう上陸じょうりくなどにより土砂どしゃ災害さいがいが多発たはつし、2,537件けんに上のぼった。

死者ししゃ数すうも年としにより変動へんどうがあり、例たとえば2003年ねん - 2013年ねんの11年間ねんかんでは、2007年ねんは0人にん、2010年ねんは11人にんだった一方いっぽう、上記じょうきのように各地かくちで土砂どしゃ災害さいがいが多発たはつした2004年ねんは62人にん、台風たいふう12号ごうによる紀伊半島きいはんとう大だい水害すいがいで犠牲ぎせい者しゃが多おおく出でた2011年ねんは85人にんに上のぼった。

自然しぜん災害さいがい全体ぜんたいで見みても、土砂どしゃ災害さいがい被害ひがいの比率ひりつは低ひくくない。1980年代ねんだいから2000年代ねんだいまで、年とし変動へんどうは大おおきいものの、1割わりから4割わりあり、年としによっては6割わりに達たっしている。

斜面しゃめん崩壊ほうかい・地じすべり・土石流どせきりゅうの形態けいたいと被害ひがい

種類しゅるい /(主おもな別名べつめい)	特徴とくちょう	被害ひがいの様相ようそう
斜面しゃめん崩壊ほうかい /(山崩やまくずれ、崖崩がけくずれ、土砂崩どしゃくずれ、岩いわ崩くずれ、急きゅう傾斜地けいしゃち崩壊ほうかい)	傾斜けいしゃ20度ど以上いじょうの急斜面きゅうしゃめんで、土塊つちくれが突発とっぱつ的てきに崩くずれて下方かほうに押おし出だされ、1日にち当あたり10mm以上いじょうの速はやさで移動いどうする。 斜面しゃめんの表層ひょうそう2 - 3m程度ていどが崩くずれるもの（表層ひょうそう崩壊ほうかい）は頻度ひんどが高たかく、風化ふうかした斜面しゃめんではどこでも起おこりうる。特とくに水みず成なり堆積岩たいせきがんや火山灰かざんばい、花崗岩かこうがんの風化ふうか土ど（真砂まさご土ど）が分布ぶんぷする地域ちいきや雨量うりょうの多おおい地域ちいきで起おこりやすい。 斜面しゃめんの下した深ふかくの岩盤がんばんまで崩くずれるもの（深層しんそう崩壊ほうかい）は頻度ひんどが低ひくい。大量たいりょうの雨水あまみずの浸透しんとうにより地下水ちかすい脈みゃくの水圧すいあつが上昇じょうしょうして起おこると考かんがえられ、大雨おおあめや地震じしんなどを引ひき金がねに発生はっせいする。	崩くずれ落おちる時間じかんはごく短みじかいため、住宅じゅうたくの近ちかくで発生はっせいすると、逃にげ遅おくれるなどして死者ししゃが出でることも多おおい。 土塊つちくれの重量じゅうりょうが重おもいほど、また斜面しゃめんの傾斜けいしゃが急きゅうなほど、崩壊ほうかいの力ちからが大おおきい。 災害さいがいの規模きぼは地じすべり・土石流どせきりゅうに比くらべると小ちいさいものが多おおい。ただし、深層しんそう崩壊ほうかいなどの大おおきなものは、土石流どせきりゅうを誘発ゆうはつしたり、天然てんねんダムを形成けいせいしその決壊けっかいが下流かりゅうの広範囲こうはんいに影響えいきょうするなど、災害さいがいの規模きぼが大おおきい。
地じすべり	傾斜けいしゃ5度ど - 20度ど程度ていどの緩ゆるい斜面しゃめんで、地下ちかの特定とくていの層そう（すべり面めん）を境さかいにして、土塊つちくれが形状けいじょうを保たもちながらずれる。1日にち当あたり10mmに満みたないくらいのゆっくりとした速はやさで移動いどうし、数日すうじつ以上いじょう動うごき続つづける。 斜面しゃめん崩壊ほうかいに比くらべてすべり面めんが深ふかく、規模きぼが大おおきい傾向けいこうがある。 主おもに粘性ねんせい土ど（地じすべり粘土ねんど）がすべり面めんとなる。地じすべり粘土ねんどが分布ぶんぷする地域ちいきに多発たはつする。 日本にっぽんでは3種しゅの地じすべり地帯ちたいが知しられている。1.第だい三さん紀き層そうの風化ふうか粘土ねんどが丘陵きゅうりょう地ちに分布ぶんぷする長崎ながさき県けん北松きたまつ地域ちいきや北陸ほくりく地方ちほう、2.断層だんそう運動うんどうによる破砕はさい帯たいや過去かこの造山つくりやま運動うんどうによる結晶けっしょう片岩かたいわが分布ぶんぷする中央ちゅうおう構造こうぞう線せん沿ぞいの徳島とくしま県けん・愛媛えひめ県けんなど、3.温泉おんせんの化学かがく成分せいぶんにより風化ふうかが進すすんだ温泉おんせん余あまり土どが分布ぶんぷする箱根はこね、霧島きりしま、別府べっぷ、鳴子なるこなどの温泉おんせん地帯ちたい である。 寒冷かんれい地ちでは、雪解ゆきどけに伴ともない発生はっせいする周しゅう年ねん性せいの地じすべり、周しゅう氷河ひょうが作用さようによる地じすべりが起おこりやすい地帯ちたいがある。 継続けいぞく性せい、再発さいはつ性せいがある。始はじめゆっくりと動うごいていたものが一転いってんして速はやくなったり、停止ていしした後のち再ふたたび動うごいたりすることがある。発生はっせい地ちの多おおくが過去かこに近辺きんぺんで地じすべりが発生はっせいしたところである（過去かこの地じすべりの「二に次じすべり」である場合ばあいが多おおい）。 過去かこの地じすべり発生はっせい地ちには、馬蹄ばてい型がたの崖がけ、階段かいだん状じょうの斜面しゃめん、斜面しゃめん下方かほうの隆起りゅうきなど、特徴とくちょう的てきな「地じすべり地形ちけい」が現あらわれる場合ばあいが多おおく、これを判別はんべつすることによって地じすべりの起おこりやすい所ところを特定とくていできる。	進行しんこうが遅おそく、前兆ぜんちょうが捉とらえられやすいため、人的じんてき被害ひがいはあまり出でないことが多おおい。ただし、1985年ねんに長野ながの県けん長野ながの市し地ち附ふ山さんで26人にんが死亡しぼう・55棟むねが全壊ぜんかいした地じすべり災害さいがいのように、大おおきな人的じんてき被害ひがいが出でた例れいもある。 土塊つちくれの移動いどう規模きぼが大おおきいため、物的ぶってき被害ひがいは大おおきい。
土石流どせきりゅう /(鉄砲水てっぽうみず、山津波やまつなみ、泥どろ流りゅう)	斜面しゃめんや川床かわどこの土砂どしゃが流動りゅうどう化かし、谷たに沿ぞいに流ながれ出だす。土砂どしゃと水みずとが同どう程度ていど混合こんごうしたものを指さし、土砂どしゃの割合わりあいが少すくなければ河川かせんの洪水こうずい流りゅうとなる。しばしば大おおきな岩いわや流木りゅうぼくを含ふくみ、段だん波はとなって何なん度ども押おし寄よせることがある。 3つの形態けいたいがある。1.渓流けいりゅう内ない（川床かわどこ）の不安定ふあんていな土砂どしゃが大雨おおあめで流動りゅうどう化かするもの、2.大雨おおあめなどによる斜面しゃめん崩壊ほうかい・地じすべりの土砂どしゃが、大量たいりょうの湧水わきみずや表おもて流水りゅうすいとともに流動りゅうどう化かするもの、3.斜面しゃめん崩壊ほうかい・地じすべりが河川かせんを塞ふさいで天然てんねんダムを形成けいせい、その後ご水位すいいが上昇じょうしょうして決壊けっかいし流ながれ下くだるもの である。 山間さんかん部ぶや火山かざん地帯ちたいなど土砂どしゃ生産せいさんが活発かっぱつな土地とちに多おおい。また、傾斜けいしゃ約やく15度ど以上いじょうの渓流けいりゅう付近ふきんで発生はっせいしやすい。平地ひらちに流ながれ出でて緩ゆるやかになり、傾斜けいしゃ2度どの付近ふきんで停止ていしし堆積たいせきする例れいが多おおい。ただし、運動うんどう量りょうが大おおきく、カーブを曲まがらずに直進ちょくしんする傾向けいこうがある。	地質ちしつ条件じょうけんに依よらず突発とっぱつ的てきに（ゲリラ的てきに）発生はっせいするため、いつどこで発生はっせいするのか予測よそくが難むずかしい。土質どしつ力学りきがくでは流動りゅうどう性せいが非常ひじょうに高たかい「土砂どしゃ流りゅう」に分類ぶんるいされる。流ながれはふつう時速じそく20 - 40kmと速はやく、ときに時速じそく60kmを超こえる場合ばあいもあり、逃にげるのは困難こんなん。斜面しゃめん崩壊ほうかい・地じすべりに比くらべて、居住きょじゅう地ちに発生はっせいしたとき、死者ししゃが出でるなど人命じんめいに関かかわる被害ひがいになりやすい。 その土地とちにおける過去かこの雨量うりょうと土石流どせきりゅう発生はっせいの有無うむから導みちびき出だされる、下限かげんの累加るいか雨量うりょう（数すう十じゅう分ふんから数日すうじつ単位たんい）を求もとめておくことで避難ひなんの目安めやすとなる。

その他たの土砂どしゃ災害さいがい

落石らくせき防止ぼうしのための鋼はがね製せいフェンスと注意ちゅうい喚起かんきの標識ひょうしき（スイス）

落石らくせき・崩落ほうらく

傾斜けいしゃの急きゅうな崖がけから岩いわ塊かたまりが剥離はくりして落下らっかするもの。雨あめによる地盤じばんの緩ゆるみや地震動じしんどうなどの自然しぜん要因よういんだけでなく、交通こうつうによる振動しんどうなどの人為じんい的てき要因よういんも作用さようする。過去かこの事例じれいでバスや列車れっしゃの被害ひがいが多おおいのは、乗用車じょうようしゃよりも振動しんどうが大おおきいためと考かんがえられる。なお、危険きけん箇所かしょが絞しぼりやすい一方いっぽう、前兆ぜんちょうが乏とぼしく予測よそくが難むずかしいとされる。

→「落石らくせき (自然しぜん災害さいがい)」も参照さんしょう

地震じしんによる崩壊ほうかい・地じすべり

地震動じしんどうによる力ちからは斜面しゃめんに対たいし、角度かくどが急きゅうになったり重量じゅうりょうを増ましたりしたような効果こうかを及およぼす。これにより、雨あめによる崩壊ほうかいはあまり起おこらない傾斜けいしゃ10 - 20度どの緩ゆるい斜面しゃめんでも崩壊ほうかいを起おこし、大雨おおあめの時ときよりも広ひろい範囲はんいで崩壊ほうかいが起おこる。表土ひょうどがない急きゅうな崖がけでも崩壊ほうかいを起おこす。周囲しゅういより盛もり上あがった部分ぶぶんは地震動じしんどうが増幅ぞうふくされやすく、大雨おおあめで通常つうじょう崩くずれないような、山やまの尾根おねや稜線りょうせん部分ぶぶんなども崩壊ほうかいする。また、崩壊ほうかいの規模きぼが大おおきくなりやすく、土砂どしゃの移動いどう距離きょりも長ながくなりやすい。なお、突発とっぱつ的てきなため避難ひなんすることが難むずかしい。

流木りゅうぼくによる被害ひがい

土石流どせきりゅうや洪水こうずいでは、河川かせん上流じょうりゅうの崩壊ほうかいに伴ともない発生はっせいした流木りゅうぼくが一緒いっしょに流下りゅうかし、被害ひがいを拡大かくだいさせることがある。特とくに、流木りゅうぼくが直撃ちょくげきして家屋かおくや橋はしなどを破壊はかいする被害ひがいや、土石流どせきりゅうが流ながれ下くだる途中とちゅう、橋はしや水路すいろなどに流木りゅうぼくが詰つまり、土砂どしゃや泥水どろみずが溢あふれて周辺しゅうへんの家屋かおくに及およぶ被害ひがいは、危険きけん性せいが高たかい。なお、樹き種しゅでは広葉樹こうようじゅ林りんよりも針葉樹しんようじゅ林りんの方ほうが、面積めんせき当あたりの流木りゅうぼく体積たいせきが大おおきい傾向けいこうにある。

造成ぞうせい地ちの災害さいがい

法ほう面めん崩壊ほうかいなどの災害さいがい。切きり土どや盛土もりつち、谷たに埋うめや腹はら付づけなど人工じんこう的てきに盛もられた地盤じばんは地質ちしつ的てきに若わかく緩ゆるい状態じょうたいにあるため、自然しぜんに形成けいせいされた地盤じばんに比くらべると崩壊ほうかいや流動りゅうどう化かを起おこしやすい。更さらに、住宅じゅうたく地ちなどに利用りようされることが多おおく、災害さいがいが発生はっせいすれば人命じんめいや財産ざいさんに大おおきな影響えいきょうを及およぼし得えるため、造成ぞうせい後ごに起おこりうる現象げんしょうを想定そうていして工事こうじを行おこなわなければならない。日本にっぽんでは、宅地たくち造成ぞうせい及および特定とくてい盛土もりつち等とう規制きせい法ほう（1961年ねん制定せいてい）が宅地たくちなどにおける地盤じばんの安全あんぜん性せいに基準きじゅんを設もうけ、崖がけへの擁よう壁かべの設置せっちや排水はいすい施設しせつの設置せっちなどを定さだめている。

山やま体たい崩壊ほうかい・岩いわ屑くずなだれ

地震じしんや噴火ふんかにより山地さんちの一部いちぶが大だい規模きぼに崩壊ほうかいするもの。落差らくさが大おおきいため、崩くずれた土砂どしゃは高速こうそくで長距離ちょうきょりを流ながれ下くだる（岩いわ屑くずなだれ）。大おおきなものでは厚あつさ100m以上いじょうの土砂どしゃが時速じそく100km以上いじょうで谷たにを流ながれ下くだり、水平すいへいの移動いどう距離きょりは高低こうてい差さの10倍ばい程度ていどに達たっする。火山かざん地帯ちたい、特とくに成層せいそう火山かざんで起おこりやすい。海うみに流ながれ下くだると津波つなみを発生はっせいさせる。

対策たいさく

傾かたむきのある斜面しゃめんの崩壊ほうかいを防ふせぐ構造こうぞう物ぶつを擁よう壁かべという。写真しゃしんは古典こてん的てきな石垣いしがき方式ほうしきの擁よう壁かべの工事こうじの様子ようす。

被害ひがいを防ふせぐため、初歩しょほ的てきには危険きけんな土地とちの利用りようを避さけること、やむを得えず利用りようする場合ばあいには、崩壊ほうかいなどを防ふせぐ土木どぼく設備せつびを設もうけたり、前兆ぜんちょう現象げんしょうや雨あめの降ふり方かたなどを参考さんこうに適切てきせつなタイミングで避難ひなんを行おこなうことが有効ゆうこうである。

危険きけん地帯ちたいは、特とくに法律ほうりつに基もとづく土砂どしゃ災害さいがい警戒けいかい区域くいきに指定していされているところやその基礎きそ調査ちょうさが行おこなわれているところ、また都道府県とどうふけんが調査ちょうさした土砂どしゃ災害さいがい危険きけん箇所かしょに含ふくまれているところなどである（cf.#行政ぎょうせいが公表こうひょうしている危険きけん地帯ちたい）。ただし、これらに該当がいとうしなくても、山間さんかん部ぶや、周まわりに斜面しゃめんや崖がけのある土地とちでは注意ちゅういが必要ひつようである。

危険きけん地帯ちたいにおいて土砂どしゃ災害さいがいを避さけるためには、雨あめの降ふり方かたと各種かくしゅの前兆ぜんちょう現象げんしょうに注意ちゅういし、前兆ぜんちょうに気付きづいたときは、速すみやかに市町村しちょうそんや近隣きんりん住民じゅうみんなどに知しらせるとともに、自みずからも率先そっせんして避難ひなんすることが有効ゆうこうである。

注意ちゅういすべき時期じきは、雨あめの量りょうが多おおいとき、雨あめが長期間ちょうきかん続つづいているとき、さらに雨あめが止やんだ後のちしばらくの間あいだである。また、大おおきな地震じしんの後のちもしばらくの間あいだ注意ちゅういが必要ひつようである。日本にっぽんでは、気象庁きしょうちょうがこれまでの雨量うりょうと数時間すうじかん先さきまでの予想よそう雨量うりょうを基もとに大雨おおあめ警報けいほうや土砂どしゃ災害さいがい警戒けいかい情報じょうほうなどを発表はっぴょうしており、これが目安めやすになる（cf.#土砂どしゃ災害さいがいが起おきやすくなっていることを知しらせる情報じょうほう）。

対策たいさくの要点ようてん

日本にっぽんは、前述ぜんじゅつした国土こくどの特性とくせいから住宅じゅうたくや公共こうきょう施設しせつなどが被災ひさいする可能かのう性せいのある地域ちいきを多おおく抱かかえ、2020年ねんの時点じてんでその数かずは約やく60万まんを超こえている。日本にっぽんの政府せいふ広報こうほうのページでは、土砂どしゃ災害さいがいから身みを守まもる基本きほん的てきな方法ほうほうとして以下いかの3つを挙あげている。

1. 普段ふだんから自分じぶんが住すんでいる場所ばしょが土砂どしゃ災害さいがい警戒けいかい区域くいきか確認かくにんしておくこと。
   • 参考さんこう外部がいぶリンク:国土こくど交通省こうつうしょう 土砂どしゃ災害さいがい警戒けいかい区域くいき・土砂どしゃ災害さいがい危険きけん箇所かしょ
2. 雨あめが降ふりだしたら土砂どしゃ災害さいがい警戒けいかい情報じょうほうに注意ちゅういすること。
   • 参考さんこう外部がいぶリンク:気象庁きしょうちょう 土砂どしゃ災害さいがい警戒けいかい情報じょうほう
3. 土砂どしゃ災害さいがい警戒けいかい情報じょうほうが発表はっぴょうされたら早はやめに避難ひなんすること。

また東京とうきょう都とが2015年ねんに発行はっこうした防災ぼうさいハンドブック「東京とうきょう防災ぼうさい」では、土砂どしゃ災害さいがいから身みを守まもるための「普段ふだんからの備そなえ」として3つのポイントを挙あげている。

1. 危険きけん箇所かしょを確認かくにんしておくこと（上記じょうき1.）。
2. 避難ひなん場所ばしょを確認かくにんしておくこと。
   • 市区しく町村ちょうそんは避難ひなん場所ばしょを指定していしている。これを参考さんこうに、避難ひなんする場所ばしょ、そこへ移動いどうする経路けいろ、また家族かぞく間あいだの連絡れんらく方法ほうほうについて、家族かぞくで話はなし合あっておく。
   • 参考さんこう外部がいぶリンク:防災ぼうさいポータルサイト 全国ぜんこくハザードマップ
3. 非ひ常用じょうよう持もち出だし袋ぶくろの用意よういをしておくこと。

このほか、同書どうしょでは以下いかも挙あげている。

• がけ地ち周辺しゅうへんや山間さんかん部ぶでは、警報けいほうが発表はっぴょうされなくとも、土砂どしゃ災害さいがいの前兆ぜんちょうが見みられたら、安全あんぜんを確保かくほした上うえで避難ひなんすること。
• 土砂どしゃ災害さいがいの危険きけんを感かんじたら、早はやめのうちに、活動かつどうしやすい服装ふくそうに着替きがえていつでも避難ひなんできるようにしておくこと。
• 避難ひなんする時ときは、持もち物ものを最小限さいしょうげんにして、両手りょうてが使つかえるようにしておくこと。

森林しんりんとの関係かんけい

森林しんりんは土壌どじょう侵食しんしょくや表層ひょうそう崩壊ほうかいを抑止よくしする

深ふかさ数すうmの表層ひょうそう崩壊ほうかいに対たいしては、樹木じゅもくが存在そんざいすることで斜面しゃめんを安定あんていさせる効果こうかがある。特とくに、急斜面きゅうしゃめんにおいて高たかい効果こうかがある。土壌どじょう中ちゅうに広ひろがった樹木じゅもくの根ねが、土ど層そうのずれを受うけ止とめて変形へんけいしたり、摩擦まさつ力りょくにより引ひき抜ぬきに抵抗ていこうしたりして、斜面しゃめんを滑すべらせようとするせん断だん力りょくに抵抗ていこうする、あるいは根ねが土ど層そうの変形へんけいを防ふせぐ配はい筋すじとして働はたらき、土壌どじょうの滑すべりに抵抗ていこうするアーチ構造こうぞうを保たもつ などと考かんがえられている。

更さらに、土壌どじょう表面ひょうめんの浸食しんしょくを防ふせぐ高たかい効果こうかも持もつ。

ただし、抑止よくし効果こうかには限界げんかいがあり、異常いじょうな豪雨ごううに見舞みまわれると、森林しんりんがあっても表層ひょうそう崩壊ほうかいが起おこりうる。このようにして森林しんりんが失うしなわれた場合ばあい、できるだけ早期そうきに森林しんりんを復元ふくげんすることが、更さらなる崩壊ほうかいの抑止よくしとなる。

深層しんそう崩壊ほうかいの抑止よくし効果こうかは乏とぼしい

一方いっぽう深層しんそう崩壊ほうかいに対たいしては、すべり面めんが深ふかいため地表ちひょうの植生しょくせいの影響えいきょうを受うけにくく、管理かんりが行いき届とどいた森林しんりんでも発生はっせいする。崩壊ほうかい抑止よくしの効果こうかは乏とぼしいと考かんがえられている。

伐採ばっさいは崩壊ほうかいを促進そくしんさせる

森林しんりんの樹木じゅもくを伐採ばっさいした斜面しゃめんは、土ど層そうを支ささえる根ねが弱よわくなるため、表層ひょうそう崩壊ほうかいが起おきやすい。ただし、伐採ばっさい直後ちょくごよりも数すう年ねん - 十じゅう数すう年ねん後ごのほうが崩壊ほうかいに弱よわい。これは、伐採ばっさい後ごに根ねの腐朽ふきゅうが次第しだいに進行しんこうしていくことによる。ただし、樹き種しゅや環境かんきょうにより程度ていどは異ことなる。

また林業りんぎょうにおいては、樹木じゅもくの根ね系けいを強つよく保たもつために、伐採ばっさい間隔かんかくをより長ながくして十分じゅうぶん生育せいいくさせることや、根ねが発達はったつしていない伐採ばっさい時じや若齢じゃくれい・壮齢そうれい林りんの時期じきでも林はやし床ゆかを土どむき出だしにさせない（落葉らくようや下草したくさに覆おおわれた状態じょうたいに保たもつ）ことが望のぞましいとされる。

樹齢じゅれいが長ながいほど抑止よくし効果こうかが高たかい

樹齢じゅれいの長ながい森林しんりんほど、表層ひょうそう崩壊ほうかいは起おきにくい。樹齢じゅれい40-50年ねんを超こえる森林しんりんに比くらべると、若わかい森林しんりん（幼よう齢よわい林りん）は崩壊ほうかいを起おこしやすい。

間伐かんばつの影響えいきょう

人工じんこう林りんにおいて、間伐かんばつは病虫害びょうちゅうがいや強風きょうふう害がいなどを防ふせぎ、良好りょうこうな生育せいいくを助たすける効果こうかがある。日本にっぽんでは、林業りんぎょうの経営けいえい環境かんきょうの悪化あっかなどから間伐かんばつの遅おくれる森林しんりんが増加ぞうかする傾向けいこうにあり、森林しんりんの持もつ崩壊ほうかい防止ぼうし機能きのうの低下ていかが懸念けねんされている。ただしいくつかの研究けんきゅうでは、間伐かんばつ林りんでは根ねの量りょうが増ふえるため崩壊ほうかいへの抵抗ていこう力りょくが増ますという報告ほうこくもあれば、逆ぎゃくに低下ていかしたという報告ほうこくもあるなど、効果こうかは明確めいかくではない。

工事こうじなどの発生はっせい防止ぼうし策さく

斜面しゃめん崩落ほうらくの後のち、コンクリートまたはモルタルを格子こうし状じょうに成形せいけいして斜面しゃめんを支ささえる「法ほう枠わく工こう」が行おこなわれている様子ようす（2012年ねん、大阪おおさか府ふ）

その土地とちの地質ちしつや土地とち利用りようの目的もくてきなどに応おうじた、さまざまな工法こうほうがある。

斜面しゃめん崩壊ほうかいや岩盤がんばん崩落ほうらくの危険きけん地帯ちたいでは、斜面しゃめんへのコンクリート吹ふき付つけやプレキャストコンクリート枠わくの設置せっち（法ほう枠わく工こう）、法ほう面めんアンカーの埋うめ込こみなどの法ほう面めん工こう（法ほう面めん保護ほご工こう）をはじめ、斜面しゃめんへの植樹しょくじゅ（播種はしゅ）や芝生しばふ張ばりといった植生しょくせい工こうなどが有効ゆうこうである。

水みずの作用さようが原因げんいんとなりうる斜面しゃめん崩壊ほうかいや地じすべりの危険きけん地帯ちたいでは、水みずを排除はいじょするため、水路すいろの暗渠あんきょ化か、横よこ方向ほうこうのボーリング、集あつまり水すい井いの設置せっちなどの地下水ちかすい排除はいじょ工こう、地表ちひょうの排水はいすい路ろ設置せっち、雨水あまみず浸透しんとう防止ぼうしなどの地表ちひょう水すい排除はいじょ工こうが有効ゆうこうである。

地じすべり地ちでは、地じすべり面めん上部じょうぶの土どを取とり除のぞく上部じょうぶ排はい土工どこうと末端まったんに盛土もりつちし擁よう壁かべで抑おさえる抑おさえ盛土もりつち工こうの併用へいようという方法ほうほうもある。盛土もりつち部ぶは公園こうえんとして利用りようされることが多おおい。

土石流どせきりゅうの危険きけん性せいが高たかい渓流けいりゅうでは、構造こうぞう物ぶつを設もうけて土砂どしゃを堆積たいせきさせる砂防さぼう堰堤えんてい・治山ちさんダムの設置せっちも有効ゆうこうである。ただし、その容積ようせきが限かぎられ、時間じかん経過けいかにより埋うまってしまうため、効果こうかは限かぎられる。

小規模しょうきぼで突発とっぱつ的てきな崩壊ほうかい・崩落ほうらくに対たいしては、危険きけん地帯ちたいの道路どうろ沿ぞい・鉄道てつどう沿ぞいに落石らくせきシェッドや落石らくせき防止ぼうし網もう、落石らくせき防止ぼうし壁かべを取とり付つける方法ほうほうもあるが1989年ねんに福井ふくい県けんの越前えちぜん海岸かいがんで発生はっせいした崩落ほうらく事故じこのように、稀まれに予想よそうを超こえる規模きぼの崩壊ほうかいが発生はっせいして被害ひがいが生しょうじる場合ばあいもある。これを補おぎなうものとして、衝撃しょうげきや移動いどうを検知けんちする落石らくせき検知けんち器きや地じすべり計けい、土石流どせきりゅうセンサーなどを設置せっちして道路どうろの管理かんり事務所じむしょの警報けいほう装置そうちと連動れんどうさせるようなシステムもある。

日本にっぽん以外いがいでも、急峻きゅうしゅんな国土こくどを持もち土砂どしゃ災害さいがいの被害ひがいが多おおいインドネシア、ネパールなどで、日本にっぽんの砂防さぼう技術ぎじゅつを導入どうにゅうした対策たいさくが行おこなわれているところがあり、主おもにJICAを通つうじた技術ぎじゅつ支援しえんにより進すすめられている。

ただし、砂防さぼうダムが設もうけられていてもふもとで土石流どせきりゅうの被害ひがいが発生はっせいしてしまった例れいは少すくなくないことなどから、対策たいさく工事こうじが行おこなわれたから安全あんぜんだ、と思おもい込こむことは危険きけんである。

主おもな前兆ぜんちょう現象げんしょう

• 土石流どせきりゅう
  • 川かわの中なかでゴロゴロという音おと（石いしがぶつかり合あう音おと）がしたり、火花ひばなが見みえたりする。
  • 山やま全体ぜんたいが唸うなっているような音おと（山鳴やまなり）がしたり、地震じしんのように震ふるえたりする。異常いじょうなにおい（腐くさった土どのにおい）がする。
  • 川かわの水みずが濁にごり、水みずと一緒いっしょに倒たおれた木き（生なまの木き）が流ながれてくる。
  • 雨あめは降ふり続つづいているのに、川かわの水みずが減へる。
• 地じすべり
  • 崖がけや斜面しゃめんから水みずが噴ふき出だす。湧わき水みずが増ふえる。
  • 風ふうもないのに山やまの木きがザワザワする。木きが裂さける音おとや木きの根ねが切きれる音おとがする。地鳴じなりや山鳴やまなりがする。
  • 沢さわや池いけ、井戸いどの水みずが濁にごったり、急きゅうに増ふえたり減へったりする。
  • 地面じめんにひび割われや段差だんさ、陥没かんぼつができる。
• 斜面しゃめん崩壊ほうかい（崖崩がけくずれ）
  • 崖がけから新あたらしく水みずが湧わき出でる。また、湧わき水みずが濁にごったり、量りょうが増ふえたり、急きゅうに止とまったりする。
  • 崖がけにひび割われができる。あるいは、崖がけが膨ふくらむ。
  • 崖がけの上うえの木きが揺ゆれたり傾かたむいたりする。地鳴じなりがする。
  • 崖がけから小石こいしがパラパラと落おちてくる。※崖崩がけくずれは、前兆ぜんちょうもなくいきなり起おこることもある。

なお、これらの前兆ぜんちょう現象げんしょうは、発生はっせいの前まえに必かならず現あらわれるわけではない。また、周囲しゅういが暗くらく寝ねている人ひとが多おおい夜間やかんや、雨あめが激はげしい時間じかん帯たいなどは、前兆ぜんちょう現象げんしょうがあっても発見はっけんするのが難むずかしい。少すこしでもおかしいと感かんじたら対処たいしょすることや、早はやめの避難ひなんをすることが、土砂どしゃ災害さいがいの回避かいひに有効ゆうこうである

行政ぎょうせいが公表こうひょうしている危険きけん地帯ちたい

• 土砂どしゃ災害さいがい警戒けいかい区域くいき・特別とくべつ警戒けいかい区域くいき - 土砂どしゃ災害さいがい防止ぼうし法ほうに基もとづいて都道府県とどうふけんが調査ちょうさ・指定してい・公表こうひょうしている。土砂どしゃ災害さいがいのおそれがある区域くいきの住民じゅうみんの避難ひなんを促うながし、特とくに危険きけんな区域くいきは開発かいはつ制限せいげんを行おこなうもの。2020年ねん末まつ時点じてんで、指定してい済ずみが約やく64万まん箇所かしょでうち約やく52万まん箇所かしょ（約やく81%）が特別とくべつ警戒けいかい区域くいき、今後こんご指定していされる見込みこみの区域くいきが約やく3万まん箇所かしょ。
  • 土砂どしゃ災害さいがい警戒けいかい区域くいき - 市町村しちょうそんの地域ちいき防災ぼうさい計画けいかくにおいて、区域くいきごとに警報けいほうの伝達でんたつや避難ひなんの体制たいせいを定さだめる。
  • 土砂どしゃ災害さいがい特別とくべつ警戒けいかい区域くいき - 警戒けいかい区域くいきの措置そちに加くわえて、建築けんちく規制きせいや開発かいはつ行為こういの制限せいげんを定さだめる。
  • 基礎きそ調査ちょうさ後ご公表こうひょうされる、土砂どしゃ災害さいがい警戒けいかい区域くいきに相当そうとうする区域くいき - 警戒けいかい区域くいきの指定していには調査ちょうさなどで期間きかんがかかる。その間あいだの被害ひがいを防ふせぐため、基礎きそ調査ちょうさの後のちに都道府県とどうふけんは速すみやかにその区域くいきを公表こうひょうすることが定さだめられている。
• 土砂どしゃ災害さいがい危険きけん箇所かしょ - 旧きゅう建設省けんせつしょう・国土こくど交通省こうつうしょうが定さだめる調査ちょうさ要領ようりょうに基もとづいて都道府県とどうふけんが調査ちょうさし、公表こうひょうしている。土砂どしゃ災害さいがいにより人家じんかや公共こうきょう施設しせつ等とうに被害ひがいのおそれがある区域くいき。1966年ねんから2000年代ねんだいにかけて行おこなわれ、調査ちょうさの進展しんてんと開発かいはつの進行しんこうにより年々ねんねん増加ぞうかし、2003年ねん3月がつ時点じてんで約やく53万まん箇所かしょを数かぞえる。
  • 急きゅう傾斜地けいしゃち崩壊ほうかい危険きけん箇所かしょ - 傾斜けいしゃ30度ど以上いじょう、高たかさ5m以上いじょうの急きゅう傾斜地けいしゃちで、人家じんかや公共こうきょう施設しせつに被害ひがいを及およぼすおそれのある急きゅう傾斜地けいしゃちおよびその近接きんせつ地ち。
  • 土石流どせきりゅう危険きけん区域くいき - 渓流けいりゅうの勾配こうばいが3度ど以上いじょう（火山かざん砂防さぼう地域ちいきでは2度ど以上いじょう）あり、土石流どせきりゅうが発生はっせいした場合ばあいに被害ひがいが予想よそうされる危険きけん区域くいきに、人家じんかや公共こうきょう施設しせつがある区域くいき。
  • 地じすべり危険きけん区域くいき - 空中くうちゅう写真しゃしんの判読はんどくや災害さいがい記録きろくの調査ちょうさ、現地げんち調査ちょうさによって、地じすべりの発生はっせいするおそれがあると判断はんだんされた区域くいきのうち、河川かせん・道路どうろ・公共こうきょう施設しせつ・人家じんか等とうに被害ひがいを与あたえるおそれのある範囲はんい。
• 山地さんち災害さいがい危険きけん地区ちく - 林野庁りんやちょう（農林水産省のうりんすいさんしょうの外局がいきょく）が定さだめる調査ちょうさ要領ようりょうに基もとづき都道府県とどうふけんの森林しんりん担当たんとう部局ぶきょくが調査ちょうさし、市町村しちょうそんに伝達でんたつしている。山地さんち災害さいがい（山腹さんぷく崩壊ほうかい、崩壊ほうかい土砂どしゃ流出りゅうしゅつ、地じすべり）により人家じんかや公共こうきょう施設しせつ等とうに被害ひがいのおそれがある地区ちく。森林しんりん（国有こくゆう林りんまたは民有みんゆう林りん）を対象たいしょうとしたもの。2012年ねん時点じてんで計けい約やく18万まん箇所かしょ。
  • 斜面しゃめん崩壊ほうかいや落石らくせきのおそれがある山腹さんぷく崩壊ほうかい危険きけん地区ちく、土石流どせきりゅうのおそれがある崩壊ほうかい土砂どしゃ流出りゅうしゅつ危険きけん地区ちく、地じすべりのおそれがある地じすべり危険きけん地区ちくの3種類しゅるい。
• 砂防さぼう三さん法ほうによる指定してい区域くいき - 排水はいすい工こうや擁よう壁かべ工こう、砂防さぼうダム設置せっちなどの対策たいさく工事こうじ（砂防さぼう事業じぎょう）を行おこなうことを前提ぜんていに、土砂どしゃ災害さいがいのおそれがあり工事こうじの必要ひつよう性せいが高たかい地域ちいきを指定していするもの。土砂どしゃ災害さいがい危険きけん箇所かしょに比くらべると件数けんすうが少すくない。
  • 砂防さぼう指定してい地ち - 砂防さぼう法ほうに基もとづいて国土こくど交通こうつう大臣だいじんが指定していしている。掘削くっさくや盛土もりつち、竹たけ木きの伐採ばっさいや土石どせきの採取さいしゅなどの開発かいはつが制限せいげんされる。
  • 地じすべり防止ぼうし区域くいき - 地じすべり等とう防止ぼうし法ほうに基もとづいて国土こくど交通こうつう大臣だいじんが指定していしている。掘削くっさくや盛土もりつち、土石どせきの採取さいしゅなどの開発かいはつが制限せいげんされる。
  • 急きゅう傾斜地けいしゃち崩壊ほうかい危険きけん区域くいき - 急きゅう傾斜地けいしゃち法ほうに基もとづいて都道府県とどうふけんが指定していしている。掘削くっさくや盛土もりつち、土石どせきの採取さいしゅなどの開発かいはつが制限せいげんされる。

土砂どしゃ災害さいがいが起おきやすくなっていることを知しらせる情報じょうほう

大雨おおあめ警報けいほうや土砂どしゃ災害さいがい警戒けいかい情報じょうほうなどは気象庁きしょうちょうが災害さいがいの危険きけん度どが高たかまっていることを知しらせ、避難ひなん指示しじなどは市町村しちょうそんが危険きけんな地域ちいきの住民じゅうみんに避難ひなんを強つよく促うながすものである。土砂どしゃ災害さいがいは、発生はっせいしてから逃にげるのは困難こんなんで、木造もくぞう住宅じゅうたくを流失りゅうしつ・全壊ぜんかいさせるほどの破壊はかい力りょくを有ゆうし、人的じんてき被害ひがいが出でやすい。その反面はんめん、危険きけんな区域くいきは事前じぜんに調しらべれば絞しぼり込こむことができ、危険きけんな区域くいきから少すこしでも離はなれれば人的じんてき被害ひがいを軽減けいげんできるため、各種かくしゅ情報じょうほうを手てがかりにして早はやめの避難ひなんを行おこなうことは有効ゆうこうである。

しかし、こうした情報じょうほうは市町村しちょうそんなどの広ひろい範囲はんいに画一かくいつ的てきに出だされるため、住民じゅうみんが個々ここの場所ばしょの危険きけん度どの大小だいしょうを認識にんしきしないまま、「警報けいほうや避難ひなん指示しじが出だされていないこと」を「安全あんぜん」と捉とらえる場合ばあいがある。例たとえば、山間さんかんの1つの集落しゅうらく内ないにおいても、段丘だんきゅう面めんの上うえにある建物たてものは下したにある建物たてものより土石流どせきりゅうの危険きけん度どが低ひくい、他方たほうでは段丘だんきゅう面めん上じょうにあっても近ちかくに山やまの斜面しゃめんが迫せまっていれば斜面しゃめん崩壊ほうかいの危険きけん度どが高たかい。そのため、「警報けいほうや避難ひなん指示しじが出だされていないこと」を安全あんぜんと捉とらえることは好このましくなく、個々ここの場所ばしょの危険きけん度どの大小だいしょうに応おうじて避難ひなんの是非ぜひを判断はんだんするべきとされる。

なお、土砂どしゃ災害さいがいの前兆ぜんちょうがあった場合ばあいは警報けいほうなどが出だされていなくても避難ひなんし市町村しちょうそんなどに連絡れんらくするべきとされる。

ただし、地震じしんによる崩壊ほうかいは、突発とっぱつ的てきである上うえ、場所ばしょを特定とくていできず大だい規模きぼになりやすい。そのため、避難ひなんの余地よちがほとんどなく、有効ゆうこうな対処たいしょとしては危険きけんな土地とちの利用りようをあらかじめ避さけるしかない。

大雨おおあめ警報けいほうなどは、土砂どしゃ災害さいがいの危険きけん度どを段階だんかい的てきに示しめすものである。市町村しちょうそん単位たんい。累積るいせき雨量うりょうや予想よそう雨量うりょうなどにより求もとめられ、気象庁きしょうちょうが発表はっぴょうする。

• 大雨おおあめ注意報ちゅういほう（土砂どしゃ災害さいがい） -  レベル2 - 大雨おおあめによって災害さいがいが起おこるおそれがある。
• 大雨おおあめ警報けいほう（土砂どしゃ災害さいがい） -  レベル3相当そうとう - 大雨おおあめによって重大じゅうだいな災害さいがいが起おこるおそれがある。市町村しちょうそんが避難ひなん準備じゅんび情報じょうほうの発令はつれいを判断はんだんする要素ようその1つ。
• 土砂どしゃ災害さいがい警戒けいかい情報じょうほう -  レベル4相当そうとう - 大雨おおあめ警報けいほう発表はっぴょう後ご、土砂どしゃ災害さいがいの危険きけん度どがさらに高たかくなっている。市町村しちょうそんが避難ひなん勧告かんこくの発令はつれいを判断はんだんする要素ようその1つ。
• 記録きろく的てき短時間たんじかん大雨おおあめ情報じょうほう - 数すう年ねんに一いち度どしかないような大雨おおあめが降ふった。急激きゅうげきに雨量うりょうが増まし、災害さいがいの危険きけん度どが高たかまっている。
• 大雨おおあめ特別とくべつ警報けいほう（土砂どしゃ災害さいがい） -  レベル5相当そうとう - 大雨おおあめによって重大じゅうだいな災害さいがいが起おこるおそれが著いちじるしく大おおきい。
• 土砂どしゃ災害さいがいの危険きけん度ど分布ぶんぷ「土砂どしゃキキクル」 -  注意ちゅうい、 警戒けいかい、 非常ひじょうに危険きけん、 極きわめて危険きけん - 地図ちず上じょうに1km四方しほう単位たんい、10分ふんごと更新こうしんで土砂どしゃ災害さいがいの危険きけん度どを示しめす。気象庁きしょうちょうが公開こうかいし、防災ぼうさい機関きかん向むけ情報じょうほうシステムに提供ていきょうされるほか、気象庁きしょうちょうのホームページ上じょうで閲覧えつらんできる。地域ちいき差さを反映はんえいした細こまかい危険きけん度どを示しめす。また2時じ間あいだ後ごまでの予想よそう雨量うりょうを根拠こんきょにするため予報よほう的てき要素ようそも含ふくむが、急激きゅうげきに発達はったつする局地きょくち的てき大雨おおあめは予想よそうできない場合ばあいがある。
• 土砂どしゃ災害さいがい緊急きんきゅう情報じょうほう - 速度そくどが比較的ひかくてき遅おそい地じすべり、火山かざん噴火ふんか後ごの降灰こうかいが引ひき起おこす火山かざん泥どろ流りゅう、天然てんねんダム決壊けっかいなどによる災害さいがいの危険きけん度どが高たかまったことを知しらせる情報じょうほう。都道府県とどうふけんが発表はっぴょうする。

市町村しちょうそんが発令はつれいする避難ひなん指示しじなどは、対象たいしょう区域くいきの住民じゅうみんに対たいして避難ひなんを強つよく促うながすもので、警報けいほうや雨量うりょうなどを参考さんこうに市町村しちょうそん長ちょうが発令はつれいする。この意味いみするところは、「立たち退のき避難ひなん」 = 避難ひなん場所ばしょへの避難ひなん（指定してい緊急きんきゅう避難ひなん場所ばしょへの移動いどう）あるいは安全あんぜんな親戚しんせき・友人ゆうじんの家いえなどへの避難ひなんを基本きほんとし、それがかえって危険きけんな場合ばあいや緊急きんきゅうの場合ばあいは、「緊急きんきゅう的てきな待避たいひ」 = 近隣きんりんの高たかい建物たてもの、強度きょうどの強つよい建物たてもの、公園こうえんなどへの移動いどうや、「屋内おくないでの安全あんぜん確保かくほ措置そち」 = 建物たてもの内ないのより安全あんぜんな場所ばしょに留とまることである。内閣ないかく府ふの『避難ひなん情報じょうほうに関かんするガイドライン』（2021年ねん）によると、水害すいがい等とうにおいて、要よう配慮はいりょ者しゃを除のぞく住民じゅうみんは、高齢こうれい者しゃ等とう避難ひなんの段階だんかいでまず避難ひなんの準備じゅんびをして情報じょうほうに注意ちゅういを向むけ、避難ひなん指示しじを受うけて避難ひなんを始はじめるよう推奨すいしょうされている一方いっぽう、土砂どしゃ災害さいがいにおいては、対象たいしょう区域くいきのすべての住民じゅうみんが「高齢こうれい者しゃ等とう避難ひなんの段階だんかいで避難ひなんを始はじめる」ことが推奨すいしょうされている。これは、突発とっぱつ的てきで予測よそく困難こんなんな土砂どしゃ災害さいがいの性質せいしつを考慮こうりょしたもので、2019年ねんの令れい和わ元年がんねん東日本ひがしにっぽん台風たいふうの教訓きょうくんから改あらためられたものである。

• 高齢こうれい者しゃ等とう避難ひなん - 対象たいしょう地域ちいきの災害さいがい時じ要よう配慮はいりょ者しゃ（高齢こうれい者しゃ、障害しょうがい者しゃ、乳幼児にゅうようじなど）は避難ひなんを始はじめる。その他たの住民じゅうみんは、準備じゅんびが整ととのい次第しだい、避難ひなんを始はじめる。
• 避難ひなん指示しじ - 対象たいしょう地域ちいきのすべての住民じゅうみんは避難ひなんを始はじめる。避難ひなんに急きゅうを要ようする。
• 緊急きんきゅう安全あんぜん確保かくほ - 既すでに災害さいがいが発生はっせいし、安全あんぜんな避難ひなんが困難こんなんとなり、人命じんめいに危険きけんが及およぶ可能かのう性せいのある状態じょうたい。

土砂どしゃ災害さいがいの避難ひなんにおいて留意りゅういすべき点てんは以下いかの通とおり。

• 避難ひなん指示しじなどが出でていなくても、身みの危険きけんを感かんじたら、避難ひなん指示しじを待またず、自発じはつ的てきに避難ひなんすべきこと。
• 土砂どしゃ災害さいがいの前兆ぜんちょう現象げんしょうを発見はっけんしたら、率先そっせんして自発じはつ的てきに避難ひなんし、すぐ市町村しちょうそんにも連絡れんらくすべきこと（前兆ぜんちょうの報告ほうこくは避難ひなん勧告かんこくなどの発令はつれい基準きじゅんの1つであり、他たの住民じゅうみんの安全あんぜんにも資しする）。
• 特とくに木造もくぞう家屋かおくは土砂どしゃ災害さいがいにより倒壊とうかいしたり埋没まいぼつしたりする危険きけん性せいが高たかく、その住民じゅうみんは高齢こうれい者しゃ等とう避難ひなん開始かいしの段階だんかいで早はやめに避難ひなん場所ばしょへ移動いどうしておくことが勧すすめられる。
• 屋外おくがい行動こうどうの危険きけん性せいが高たかい、夜間やかんや、暴風ぼうふう・豪雨ごううの最中さいちゅうであっても避難ひなん指示しじ等とうは出だされる。この場合ばあい、離はなれた避難ひなん場所ばしょへの移動いどうの危険きけん性せいや周囲しゅういの状況じょうきょうを見極みきわめる必要ひつようがあり、近隣きんりんの待避たいひ場所ばしょへの移動いどうや屋内おくないでの安全あんぜん確保かくほなどを考慮こうりょすべきこと。さらに、このような事態じたいが予想よそうされる場合ばあい、明あかるいうちに・風雨ふううが弱よわいうちに、避難ひなん場所ばしょへ避難ひなんしておくことが望のぞましい。
• 避難ひなんしようとした時点じてんで既すでに水害すいがいや土砂どしゃ災害さいがいがまわりで発生はっせいしているなど、避難ひなん場所ばしょまでの移動いどうがかえって危険きけんな場合ばあい、土石流どせきりゅうの予よ想到そうとう達たち区域くいきや急きゅう傾斜地けいしゃちからできるだけ離はなれたところ、できるだけ高たかいところ、あるいは頑丈がんじょうな建物たてものの上層じょうそう階かいといった緊急きんきゅう的てきな待避たいひ場所ばしょへの移動いどうも考慮こうりょすべきこと。例れいとして、近隣きんりんにあるコンクリート造づくりのビル上層じょうそう階かい、山やまから離はなれた小高こだかい場所ばしょなど。
• 小規模しょうきぼながけ崩くずれが予想よそうされる地区ちくでは、避難ひなん場所ばしょまでの移動いどうがかえって危険きけんな場合ばあい、自宅じたくの2階かい以上いじょうに移動いどうするといった、緊急きんきゅう的てきな屋内おくないでの安全あんぜん確保かくほも考慮こうりょすべきこと。ただし、通常つうじょうの木造もくぞう家屋かおくは土石流どせきりゅうによって全壊ぜんかいする恐おそれがあり、土石流どせきりゅうが予想よそうされる地区ちくでは自宅じたく外がいの緊急きんきゅう的てきな待避たいひ場所ばしょへの移動いどうが望のぞましい。自宅じたくの2階かいなどへの避難ひなんはやむを得えない場合ばあいの選択肢せんたくしであり、そうならないように早はやい段階だんかいから避難ひなん場所ばしょへと避難ひなんしておくことが望のぞましい。

警報けいほうや避難ひなん情報じょうほうは、災害さいがいの「見逃みのがし」がないように出だされる。そのため、発表はっぴょうされたにもかかわらず災害さいがいが発生はっせいしない、いわゆる「空振からぶり」はつきものとなる。住民じゅうみん側がわの意識いしきとして、空振からぶりだったけれど「被害ひがいがなくて良よかった」・避難ひなんしたけれど「何なにもなくて幸運こううんだった」と考かんがえ、警報けいほうや避難ひなん情報じょうほうを軽視けいししないよう心掛こころがけることが、自みずからの被害ひがい回避かいひや、行政ぎょうせい側がわが避難ひなん指示しじ発令はつれいに躊躇ちゅうちょしてしまう事態じたいの抑止よくしにつながると考かんがえられる。

事例じれい

ユンガイの埋没まいぼつした旧きゅう市街しがい（白しろ囲がこい部分ぶぶん、2008年ねん撮影さつえい）

Category:各国かっこくの土砂どしゃ災害さいがいも参照さんしょう

アンカシュ地震じしんによる山崩やまくずれ（1970年ねん）【地震じしん・山やま体たい崩壊ほうかい・岩いわ屑くずなだれ・市街地しがいち埋没まいぼつ】

ペルー北部ほくぶでM7.7の大だい地震じしんが発生はっせい、6,000m級きゅうのワスカラン山やまで山頂さんちょう付近ふきんの急きゅう崖がけが大だい規模きぼに崩落ほうらく。岩いわ塊かたまりは崖がけの下したにあったモレーン を削そぎ取とって巨大きょだい化かし、岩いわ屑くずなだれや土石流どせきりゅうとなって流ながれ下くだった。岩いわ屑くずなだれは高たかさ230mの尾根おねを乗のり越こえ、10km程ほど離はなれたふもとの都市としユンガイを襲おそった。同市どうしは人口じんこう25,000人にんのうち18,000人にんが犠牲ぎせいとなる壊滅かいめつ的てき被害ひがいとなった。崩壊ほうかいの規模きぼは0.5-1.0×10⁸m³、速はやさは推定すいてい時速じそく280kmという超ちょう高速こうそくだった。

島原しまばら大変たいへん肥後ひご迷惑めいわく（1792年ねん）【山やま体たい崩壊ほうかい・岩いわ屑くずなだれ・津波つなみ】

島原半島しまばらはんとうにある雲仙岳うんぜんだけの1峰ほう・眉山びざんが崩壊ほうかい、岩いわ屑くずなだれとなって流ながれ下くだった。ふもとの集落しゅうらくや田畑たはたを押おし流ながし埋没まいぼつさせた後のち、なお勢いきおいのある土砂どしゃは有明海ありあけかいに流ながれ込こんで津波つなみを引ひき起おこし、沿岸えんがんを襲おそった。津波つなみの高たかさは対岸たいがんの熊本くまもと県けん沿岸えんがんで最大さいだい23mに達たっした。死者ししゃは島原半島しまばらはんとうで10,000人にん、熊本くまもとと天草あまくさで5,000人にんに達たっした。崩壊ほうかい規模きぼは推定すいてい2.2×10⁸m³。

ネバド・デル・ルイス山さん噴火ふんかによる泥どろ流りゅう（1985年ねん）【噴火ふんか・氷河ひょうが融解ゆうかい・火山かざん泥どろ流りゅう】

コロンビアのネバド・デル・ルイス山やまが噴火ふんか、山頂さんちょうの氷河ひょうがが融解ゆうかいして発生はっせいした火山かざん泥どろ流りゅうが下流かりゅうを襲おそった。火口かこうから45kmにあった都市としアルメロでは人口じんこう30,000人にんのうち21,000人にんが死亡しぼう、その他たの地域ちいきでも2,000人にんが死亡しぼうした。泥どろ流りゅうは火口かこうから最大さいだい80kmまで到達とうたつした。

長野ながの県けん西部せいぶ地震じしんによる山崩やまくずれ（1984年ねん）【地震じしん・斜面しゃめん崩壊ほうかい・山間さんかん部ぶ】

長野ながの県けん西部せいぶで発生はっせいしたM6.8の地震じしんにより、震源しんげんに近ちかい御嶽山おんたけさんの南側みなみがわ山腹さんぷくで大おおきな斜面しゃめん崩壊ほうかいが起おきた。崩壊ほうかいの大おおきさは長ながさ1,300m×幅はば400m×深ふかさ140m・体積たいせき3.4×10⁷m³、速はやさは平均へいきんで時速じそく70-80kmと推定すいてい。川かわ沿ぞいの谷たにを約やく12km流ながれ下くだり、付近ふきんにいた15人にんが巻まき込こまれて死亡しぼうした。

繁藤しげとう災害さいがい（1972年ねん）【集中しゅうちゅう豪雨ごうう・斜面しゃめん崩壊ほうかい・二に次じ災害さいがい・山間さんかん部ぶ】

1972年ねん（昭和しょうわ47年ねん）7月がつ5日にち早朝そうちょう、豪雨ごううにより高知こうち県けん土佐山田とさやまだ町まち（現げん 香美かがみ市し）繁藤しげとうの谷たに沿ぞいの集落しゅうらくで山崩やまくずれが発生はっせい。この復旧ふっきゅう作業さぎょう中ちゅうに2回かい目めの崩壊ほうかいが起おき、消防しょうぼう団だん員いん1人にんが生いき埋うめとなった。他たの団員だんいんや住民じゅうみんら多数たすうが団員だんいんの救出きゅうしゅつ作業さぎょうを行おこなっていた所ところに、更さらに体積たいせき10万まんm³、幅はば130mという大だい規模きぼな崩壊ほうかいが襲おそい、集落しゅうらくや繁藤しげとう駅えきに停車ていしゃしていた列車れっしゃを押おし流ながした。救出きゅうしゅつに当あたっていた者もの多数たすうが犠牲ぎせいになる二に次じ災害さいがいとなり、60人にんが死亡しぼうした。また、高知こうち県けんと香川かがわ県けんを結むすぶ幹線かんせんの国道こくどう32号ごうと国鉄こくてつ土讃線どさんせんがともに埋没まいぼつし、20日はつか余あまりに亘わたって不通ふつうとなり、道路どうろは大幅おおはばな迂回うかいを余儀よぎなくされた。

針原はりはら土石流どせきりゅう災害さいがい（1997年ねん）【集中しゅうちゅう豪雨ごうう・斜面しゃめん崩壊ほうかい・土石流どせきりゅう（崩壊ほうかい型がた土石流どせきりゅう）・山間さんかん部ぶ】

1997年ねん6月がつ9日にち、鹿児島かごしま県けん出水いずみ市し針原はりはら地区ちくの針原はりはら川がわ上流じょうりゅうで豪雨ごううにより山崩やまくずれが発生はっせい、川かわに突入とつにゅうした土砂どしゃは土石流どせきりゅうとなって川かわ沿ぞいを流ながれ下くだった。崩壊ほうかいは風化ふうかの進すすんだ斜面しゃめんの深層しんそう崩壊ほうかいで、崩くずれ落おちた後のち流動りゅうどう化かする崩壊ほうかい型がた土石流どせきりゅうであった。扇おうぎ頂いただき部ぶ（扇状地せんじょうちの山やまに近ちかい部分ぶぶん）では家屋かおくのほとんどが押おし流ながされ全壊ぜんかい、21人にんが死亡しぼう、13人にんが負傷ふしょうした。扇おうぎ央ひさし部ぶや扇おうぎ端はし部ぶでは、家屋かおくやみかん畑はたけが泥どろに埋うずもれたり浸水しんすいしたりする被害ひがい、平野ひらの部ぶの中なか下した流域りゅういきでは、橋はしに流木りゅうぼくや損壊そんかい家屋かおくが引ひっかかり川かわから溢あふれた水みずが浸水しんすい被害ひがいをもたらした。発生はっせい時間じかんは豪雨ごううのピークを過すぎて数時間すうじかん後ごでかつ多おおくの人ひとが寝ねている深夜しんや1時じ前まえだったこと、この地域ちいきでは土砂どしゃ災害さいがいの経験けいけんがなく多おおくの人ひとは洪水こうずいに注意ちゅういを向むけていたこと、川かわの水位すいい低下ていかが目撃もくげきされていたがそれが土石流どせきりゅうの前兆ぜんちょうだと知しる者ものがいなかったことなどが、被害ひがいが大おおきくなった要因よういんと分析ぶんせきされている。

タジク共和きょうわ国こくの地震じしんによる斜面しゃめん崩壊ほうかい（1989年ねん）【地震じしん・液状えきじょう化かと斜面しゃめん崩壊ほうかいの複ふく合あい災害さいがい・素もと掘ほり水路すいろ】

旧きゅうソ連それんタジク共和きょうわ国こく（現げんタジキスタン）でM5.5の中規模ちゅうきぼ地震じしんが発生はっせい。震源しんげん付近ふきんのギッソールという町まちで、高たかさ数すう十じゅうmで傾斜けいしゃの緩ゆるい黄土おうどの斜面しゃめんが、流動りゅうどう化かした泥土でいどに変化へんかしながら、あちこちで同時どうじに崩壊ほうかいした。この地域ちいきの表土ひょうどは水みずを含ふくむと脆もろくなりやすい黄土おうどであり、町まちの周まわりに素もと掘ほりの用水路ようすいろ が網羅もうらされていたため、その水みずの作用さようで地盤じばんの液状えきじょう化かが起おきたと考かんがえられる。最もっとも犠牲ぎせい者しゃが多おおいシャララ地区ちくでは、住じゅう家か100棟むねが埋うまり220人にんが死亡しぼうした。また最もっとも大おおきな崩壊ほうかいは幅はば800m×3,600mに亘わたっていたが、その頂点ちょうてんから末端まったんまでの傾斜けいしゃはわずか1度どに過すぎない緩ゆるい斜面しゃめんだった。

黄土おうど地帯ちたいの地震じしんによる崩壊ほうかい災害さいがいは、窰洞（ヤオトン）と呼よばれる洞穴どうけつ式しき住居じゅうきょが多おおい中国ちゅうごくの黄土おうど高原こうげんを襲おそった1920年ねんの海原うなばら地震じしん(中国ちゅうごく語ご)でも発生はっせいしたと考かんがえられている。

長崎大ながさきだい水害すいがいにおける土砂どしゃ災害さいがい（1982年ねん）【集中しゅうちゅう豪雨ごうう・斜面しゃめん崩壊ほうかい・土石流どせきりゅう（崩壊ほうかい型がた土石流どせきりゅう）・都市とし部ぶ・急斜面きゅうしゃめんの宅地たくち化か】

記録きろく的てきな大雨おおあめにより、長崎ながさき市し周辺しゅうへんで斜面しゃめん崩壊ほうかいや土石流どせきりゅうが多数たすう発生はっせいした。崩壊ほうかいの種類しゅるいとしては、表層ひょうそう崩壊ほうかいや、風化ふうかした地盤じばんのやや大おおきな規模きぼの崩壊ほうかいが多おおく見みられたが、土砂どしゃ災害さいがいの犠牲ぎせい者しゃ299人にんの多おおくはやや大おおきな規模きぼの崩壊ほうかいによるものだった。山やまに囲かこまれ、谷たに底そこの限かぎられた平地ひらちでは土地とちが足たりず、急斜面きゅうしゃめんにも宅地たくちが広ひろがっているという、地形ちけいが要因よういんとなった。谷たに底そこや急斜面きゅうしゃめんに都市としが形成けいせいされている土地とちは、土砂どしゃ災害さいがいに弱よわいことを露呈ろていした。

昭和しょうわ39年ねん7月がつ山陰さんいん北陸ほくりく豪雨ごううによる島根しまね県内けんないの斜面しゃめん崩壊ほうかい（1964年ねん）【集中しゅうちゅう豪雨ごうう・斜面しゃめん崩壊ほうかい・土石流どせきりゅう（崩壊ほうかい型がた土石流どせきりゅう）】

大雨おおあめにより、島根しまね県けん加茂かも町まち・大東だいとう町まち（ともに現げん雲南うんなん市し）で斜面しゃめん崩壊ほうかいや土石流どせきりゅうが多数たすう発生はっせい。崩壊ほうかいの数かずは合計ごうけい10,000箇所かしょを超こえ、同時どうじ多発たはつ的てきな崩壊ほうかいや、崩壊ほうかいに端はしを発はっし川床かわどこの土砂どしゃを巻まき込こんで拡大かくだいした土石流どせきりゅうにより、109人にんが亡なくなった。

地ち附ふ山さん地じすべり（1985年ねん）【地じすべり・高速こうそく化か・災害さいがい弱者じゃくしゃ】

長野ながの県けん長野ながの市しの地ち附ふ山さんで、数すう年間ねんかん続つづいていたゆっくりとした地じすべりが突然とつぜん加速かそくした。山腹さんぷくの亀裂きれつなどが発見はっけんされたため数すう年ねん前まえから監視かんしが続つづけられていたところ、数日すうじつ前まえより亀裂きれつの拡大かくだいが目立めだつようになり、7月がつ26日にち夕方ゆうがた、突如とつじょとして高速こうそくですべり始はじめ、押おし出だされた土砂どしゃがふもとの建物たてものを埋没まいぼつさせた。老人ろうじんホームにいた寝ねたきりの高齢こうれい者しゃ26人にんが死亡しぼうしたほか、住じゅう家か55棟むねが全壊ぜんかいした。

地じすべり前ぜんと後ごのバイオントダム

バイオントダム地じすべり（1963年ねん）【地じすべり・山間さんかん部ぶ・津波つなみ・ダム建設けんせつによる地下水ちかすい位い上昇じょうしょう】

イタリア北部ほくぶのバイオントダムで地じすべりが発生はっせい。1960年ねんに竣工しゅんこうしていたダム堤つつみの岩盤がんばんは固かたかったが、貯水池ちょすいち左岸さがんに地じすべり地形ちけいと考かんがえられる緩なる斜面しゃめんが広ひろがっていた。貯水ちょすいを始はじめてしばらくすると、その緩なる斜面しゃめんで地じすべりの開始かいしを示しめす亀裂きれつやクリープが発見はっけんされたため、監視かんしが続つづけられ、水みずを抜ぬく排水はいすいトンネルも設もうけられた。中断ちゅうだんされていた貯水ちょすいは、試行錯誤しこうさくごの末すえ、小刻こきざみに昇降しょうこうさせつつ水位すいいを上あげていくと地じすべりの速度そくどが遅おそくなったことから、この方法ほうほうを採用さいようして再開さいかいされた。ところが1963年ねん秋あき、途中とちゅうで再ふたたび地じすべりの速度そくどが速はやくなったため、水位すいいを下さげる対策たいさくを取とろうとしていた時とき、雨あめが降ふり続つづいて水位すいいが更さらに上昇じょうしょうしてしまう。10月9日にち深夜しんやに高速こうそくの地じすべりが発生はっせい、土砂どしゃは貯水池ちょすいちに突入とつにゅうして高たかい津波つなみを発生はっせいさせ、対岸たいがん（右岸うがん）や上流じょうりゅうの集落しゅうらくを襲おそった。更さらに、津波つなみはダム堤つつみを乗のり越こえて下流かりゅうの集落しゅうらくも襲おそった。犠牲ぎせい者しゃは2,600人にんに上のぼった。津波つなみは湖面こめんから240m高たかい地点ちてんにまで到達とうたつ、土砂どしゃに押おし出だされた水みずの体積たいせきは1.2×10⁸m³と推定すいていされている。

エルム地じすべり（1881年ねん）【岩盤がんばん地じすべり・山間さんかん部ぶ・採掘さいくつ】

スイスの山間さんかん部ぶにあるエルム(ドイツ語ご)という村むらで地じすべりが発生はっせい。急斜面きゅうしゃめんの中腹ちゅうふくでスレート屋根やねの材料ざいりょうである粘板岩ねんばんがんが深ふかさ50mほど採掘さいくつされていたが、これが大だい規模きぼに滑すべり落おちて2km下かの村むらを直撃ちょくげき、115人にんが亡なくなった。崩壊ほうかい規模きぼは1×10⁷m³。

参考さんこう文献ぶんけん

• 水谷みずたに武司たけし『自然しぜん災害さいがいの予測よそくと対策たいさく -地形ちけい・地盤じばん条件じょうけんを基軸きじくとして-』朝倉書店あさくらしょてん、2012年ねん。ISBN 978-4-254-16061-1
• 高谷たかや精二せいじ『技術ぎじゅつ者しゃに必要ひつような地じすべり山やまくずれの知識ちしき』鹿島かしま出版しゅっぱん会かい、2008年ねん。ISBN 978-4-306-02401-4
• 渕ふち田た邦彦くにひこ 他た『防災ぼうさい工学こうがく』コロナ社しゃ ＜環境かんきょう都市としシステム工学こうがく系けい教科書きょうかしょシリーズ 20＞、2014年ねん。ISBN 978-4-339-05520-7
• 公益社こうえきしゃ団だん法人ほうじん地盤じばん工こう学会がっかい（編へん）『全国ぜんこく77都市としの地盤じばんと災害さいがいハンドブック』丸善まるぜん出版しゅっぱん、2012年ねん。ISBN 978-4-621-08477-9
• 公益社こうえきしゃ団だん法人ほうじん地盤じばん工こう学会がっかい『地盤じばん工学こうがく用語ようご辞典じてん』丸善まるぜん出版しゅっぱん、2006年ねん。ISBN 978-4-88644-073-0
• 大石おおいし道夫みちお『微ほろ地形ちけい砂防さぼうの実際じっさい 微ほろ地形ちけい判読はんどくから砂防さぼう計画けいかくまで』鹿島かしま出版しゅっぱん会かい、2014年ねん。ISBN 978-4-306-02457-1
• 防災ぼうさい科学かがく技術ぎじゅつ研究所けんきゅうじょ 自然しぜん災害さいがい情報じょうほう室しつ（編へん）『防災ぼうさい科学かがくテキスト -自然しぜん災害さいがいの発生はっせい機構きこう・危険きけん予測よそく・防災ぼうさい対応たいおう（改訂かいてい版ばん）』、防災ぼうさい科学かがく技術ぎじゅつ研究所けんきゅうじょ、2013年ねん2月がつ。
• 矢野やの義男よしお『山地さんち防災ぼうさい工学こうがく』山海さんかい堂どう、1973年ねん。全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:69014061
• 土岐とき憲三けんぞう、河田かわた恵めぐみ昭あきら『防災ぼうさい事典じてん』築地つきじ書しょ館かん、2002年ねん。ISBN 978-4-8067-1233-6
• 萩原はぎはら幸男ゆきお（編へん）『災害さいがいの事典じてん』＜初版しょはん＞、朝倉書店あさくらしょてん、1992年ねん。ISBN 978-4-254-16024-6
• 東京とうきょう都と総務そうむ局きょく総合そうごう防災ぼうさい部ぶ防災ぼうさい管理かんり課か（編集へんしゅう・発行はっこう）『東京とうきょう防災ぼうさい』、2015年ねん9月がつ。
• 内閣ないかく府ふ防災ぼうさい担当たんとう（編集へんしゅう・発行はっこう）『避難ひなん勧告かんこく等とうの判断はんだん・伝達でんたつマニュアル作成さくせいガイドライン』、2015年ねん8月がつ。
• 塚本つかもと良則よしのり「I章あきら 日本にっぽんの土砂どしゃ災害さいがいと対策たいさくの歴史れきし (<特集とくしゅう>土砂どしゃ災害さいがいと森林しんりん)」、『森林しんりん科学かがく』47巻かん、pp. 4–9、日本にっぽん森林しんりん学会がっかい、2006年ねん6月がつ。NAID 110004758631
• 五味ごみ高志たかし「II章あきら 土壌どじょう侵食しんしょくと森林しんりん : 森林しんりん斜面しゃめんから流域りゅういきの視点してんへ (<特集とくしゅう>土砂どしゃ災害さいがいと森林しんりん)」、『森林しんりん科学かがく』47巻かん、pp. 10–14、日本にっぽん森林しんりん学会がっかい、2006年ねん6月がつ。NAID 110004758632
• 三森みもり利昭としあき「III章あきら 山地さんちにおける斜面しゃめん崩壊ほうかい (<特集とくしゅう>土砂どしゃ災害さいがいと森林しんりん)」、『森林しんりん科学かがく』47巻かん、pp. 15–21、日本にっぽん森林しんりん学会がっかい、2006年ねん6月がつ。NAID 110004758633
• 佐藤さとう創はじめ「IV章あきら 表層ひょうそう崩壊ほうかいと森林しんりん (<特集とくしゅう>土砂どしゃ災害さいがいと森林しんりん)」、『森林しんりん科学かがく』47巻かん、pp. 22–27、日本にっぽん森林しんりん学会がっかい、2006年ねん6月がつ。NAID 110004758634
• 石川いしかわ芳治よしはる「V章あきら 流木りゅうぼく災害さいがいと森林しんりん (<特集とくしゅう>土砂どしゃ災害さいがいと森林しんりん)」、『森林しんりん科学かがく』47巻かん、pp. 28–32、日本にっぽん森林しんりん学会がっかい、2006年ねん6月がつ。NAID 110004758635
• 太田おおた猛彦たけひこ「VI章あきら 土砂どしゃ災害さいがいと今後こんごの森林しんりん管理かんりのあり方かた (<特集とくしゅう>土砂どしゃ災害さいがいと森林しんりん)」、『森林しんりん科学かがく』47巻かん、pp. 33–38、日本にっぽん森林しんりん学会がっかい、2006年ねん6月がつ。NAID 110004758636

関連かんれん項目こうもく

• 砂防さぼう/治山ちさん
• 土石流どせきりゅう
• 鉄砲水てっぽうみず
• 斜面しゃめん崩壊ほうかい
• 地じすべり
• 山やま体たい崩壊ほうかい
• 雪ゆき泥どろ流りゅう
• 液状えきじょう化か現象げんしょう

外部がいぶリンク

土砂どしゃ災害さいがいから身みを守まもるための情報じょうほう（日本にっぽん）

• 土砂どしゃ災害さいがいから身みを守まもる3つのポイント - 政府せいふ広報こうほう
• 各かく都道府県とどうふけんが公開こうかいしている土砂どしゃ災害さいがい危険きけん箇所かしょと土砂どしゃ災害さいがい警戒けいかい区域くいき - 国土こくど交通省こうつうしょう 砂防さぼう部ぶ
• 土砂どしゃ災害さいがい警戒けいかい情報じょうほう 土砂どしゃ災害さいがい警戒けいかい判定はんていメッシュ情報じょうほう - 気象庁きしょうちょう
  • 土砂どしゃ災害さいがいに関かんする防災ぼうさい気象きしょう情報じょうほうの活用かつよう - 情報じょうほう活用かつようの手引てびき
• 国土こくど交通省こうつうしょうハザードマップポータルサイト - 国土こくど交通省こうつうしょうがリンク集しゅうとして取とりまとめている各かく市町村しちょうそんの土砂どしゃ災害さいがいハザードマップ

基礎きそ知識ちしき・防災ぼうさい広報こうほう

• 土砂どしゃ災害さいがい防止ぼうし広報こうほうセンター
• 風水害ふうすいがいの基礎きそ知識ちしき - 消防しょうぼう防災ぼうさい科学かがくセンター 消防しょうぼう防災ぼうさい博物館はくぶつかん

土砂どしゃ災害さいがいの事例じれい

• 土砂どしゃ災害さいがい年表ねんぴょう（日本にっぽん） - 土砂どしゃ災害さいがい防止ぼうし広報こうほうセンター
• 災害さいがい事例じれいデータベース・災害さいがい年表ねんぴょうマップ（日本にっぽん・市町村しちょうそんごと） - 防災ぼうさい科学かがく技術ぎじゅつ研究所けんきゅうじょ
• Disasters - Type:Land Slide, Mud Slide（世界せかい） - リリーフウェブ(ReliefWeb)による直近ちょっきん・過去かこの人道じんどう支援しえんを必要ひつようとする（した）土砂どしゃ災害さいがい事例じれい

土砂どしゃ災害さいがい・砂防さぼう関連かんれん組織そしき

• 砂防さぼう学会がっかい（日本にっぽん）、砂防さぼうリンク集しゅう
• 日本にっぽん地じすべり学会がっかい
• 国土こくど交通省こうつうしょう 砂防さぼう部ぶ、砂防さぼう関係かんけい法人ほうじんリンク集しゅう