表層ひょうそう地盤じばん増幅ぞうふく率りつ

表層ひょうそう地盤じばん増幅ぞうふく率りつ（ひょうそうじばんぞうふくりつ）とは、地表ちひょう面めん近ちかくに堆積たいせきした地層ちそう（表層ひょうそう地盤じばん）の地震じしん時どきの揺ゆれの大おおきさを数値すうち化かしたもので、地震じしんに対たいする地盤じばんの弱よわさを示しめす。いわば地震じしんの力ちからを割わり増ましする係数けいすうであり、数値すうちが大おおきいほど地盤じばんは弱よわく揺ゆれは大おおきくなる。一般いっぱんに「1.5」を超こえれば要注意ようちゅういで、「2.0」以上いじょうの場合ばあいは強つよい揺ゆれへの備そなえが必要ひつようであるとされる^[1]。防災ぼうさい科学かがく技術ぎじゅつ研究所けんきゅうじょの分析ぶんせきでは、1.6以上いじょうで地盤じばんが弱よわいことを示しめすとしている^[2]。

概要がいよう

地震じしんの際さいの地盤じばんの揺ゆれの大おおきさは、震源しんげんの特性とくせい、地震じしん波はの伝播でんぱの特性とくせいとともに、土地とちの表層ひょうそう近ちかくの浅あさい部分ぶぶん（表層ひょうそう地盤じばん）の性質せいしつや堆積たいせき層そう厚あつとも関係かんけいしている。つまり、地震じしん波はは地下ちか深部しんぶの岩盤がんばんから、地表ちひょう近ちかくの比較的ひかくてき固かたい地層ちそうを伝つたって、さらに浅あさい表層ひょうそう地層ちそうを伝播でんぱし地表ちひょう面めんに達たっするが、この際さいの表層ひょうそう地盤じばんによって振動しんどう振幅しんぷくが大おおきく増幅ぞうふくされるからである。そこで、この表層ひょうそう地盤じばんの増幅ぞうふくの度合どあいを数値すうち化かしたものが表層ひょうそう地盤じばん増幅ぞうふく率りつであり、地盤じばん増幅ぞうふく率りつが大おおきいほど相対そうたい的てきに揺ゆれ易やすいことになる^[3]。

日本にっぽんの全国ぜんこく各地かくちの表層ひょうそう地盤じばん増幅ぞうふく率りつについては、政府せいふの地震じしん調査ちょうさ研究けんきゅう推進すいしん本部ほんぶが約やく250m四方しほう単位たんいに細分さいぶん化かした数値すうちを公表こうひょうしており、独立どくりつ行政ぎょうせい法人ほうじん防災ぼうさい科学かがく技術ぎじゅつ研究所けんきゅうじょが運営うんえいする「地震じしんハザードステーション」のウェブサイト^[4]から確認かくにんできる。

計算けいさん方法ほうほう

ボーリングによって得えられる地盤じばん情報じょうほうから地層ちそうごとの各種かくしゅ物理ぶつり定数ていすうを推定すいていし計算けいさんしたり、平均へいきん的てきな地盤じばんのS波なみ速度そくどから計算けいさんするのが一般いっぱん的てきであるが、微ほろ地形ちけい区分くぶんから統計とうけい分析ぶんせきに基もとづいた方法ほうほうで評価ひょうかすることもできる。「地震じしんハザードステーション」のデータは、微ほろ地形ちけい区分くぶんから算出さんしゅつされた表層ひょうそう地盤じばんの層そう厚あつ30mの平均へいきんS波なみ速度そくど（AVS30）を用もちいたものであり、工学こうがく的てき基盤きばん（Vs=400m/s）から地表ちひょうに至いたる最大さいだい速度そくどの増幅ぞうふく率りつを示しめしたものである^[5]。2009年版ねんばんから算出さんしゅつ方法ほうほうが変かわり、増幅ぞうふく率りつの幅はばが広ひろがっている。

主おもな地域ちいきの地震じしん増幅ぞうふく率りつ

2010年ねんの国勢調査こくせいちょうさに基もとづいた防災ぼうさい科学かがく技術ぎじゅつ研究所けんきゅうじょの分析ぶんせきによれば、「特とくに揺ゆれやすい」増幅ぞうふく率りつ2.0以上いじょうの地域ちいきには約やく2200万まん人にん、1.6以上いじょう 2.0未満みまんの「揺ゆれやすい」の地域ちいきには約やく1700万まん人にんが居住きょじゅうしており、1.4以上いじょう 1.6未満みまんの「場所ばしょによっては揺ゆれやすい」地域ちいきにも約やく2200万まん人にんが居住きょじゅうしている。増幅ぞうふく率りつ1.6以上いじょうの軟弱なんじゃく地盤じばんは全ぜん国土こくど面積めんせきの6%を占しめるに過すぎないが、関東かんとう、大阪おおさか、濃こ尾お、福岡ふくおかなど人口じんこう密度みつどの高たかい平野へいや部ぶに集中しゅうちゅうしており、大都市だいとし部ぶの過密かみつ地域ちいきでは住民じゅうみんの半数はんすう以上いじょうが軟弱なんじゃくな地盤じばんで生活せいかつしている^[2]。

「地震じしんハザードステーション」のデータ^[4]に基もとづく、日本にっぽん全国ぜんこくの主要しゅよう地域ちいきの表層ひょうそう地盤じばん増幅ぞうふく率りつは次つぎの通とおりである。

山手やまて線せん内ない主要しゅよう駅えき

首都しゅと直下ちょっか地震じしんが懸念けねんされる首都しゅと圏けんについて、とりわけ人口じんこうの集中しゅうちゅうしている東京とうきょう都心としん部ぶの山手やまて線せん内側うちがわ主要しゅよう駅えき（二に線せん以上いじょうの接続せつぞく駅えき）に限定げんていし、2008年版ねんばんデータから、数値すうちの高たかい駅えきと低ひくい駅えきを見みると表ひょうのようになる。増幅ぞうふく率りつの低ひくい（地盤じばんの強つよい）駅えきは、西側にしがわの山やまの手てに位置いちしているのに対たいして、増幅ぞうふく率りつの高たかい（地盤じばんの弱よわい）駅えきは、東側ひがしがわの旧きゅう下町したまちや湾岸わんがんエリアに位置いちしていることがわかる。

増幅ぞうふく率りつの低ひくい（地盤じばんの強つよい）駅えき			増幅ぞうふく率りつの高たかい（地盤じばんの弱よわい）駅えき
順位じゅんい	駅名えきめい	増幅ぞうふく率りつ	順位じゅんい	駅名えきめい	増幅ぞうふく率りつ
1位い	東新宿ひがししんしゅく駅えき（新宿しんじゅく区く）	1.31	1位い	秋葉原あきはばら駅えき（千代田ちよだ区く）	1.85
1位い	代々木よよぎ駅えき（渋谷しぶや区く）	1.31	1位い	水道橋すいどうばし駅えき（千代田ちよだ区く）	1.85
3位い	池袋いけぶくろ駅えき（豊島としま区く）	1.32	3位い	浜松町はままつちょう駅えき（港みなと区く）	1.74
4位い	新宿しんじゅく駅えき（新宿しんじゅく区く）	1.33	3位い	東京とうきょう駅えき（千代田ちよだ区く）	1.74
5位い	四ツ谷よつや駅えき（新宿しんじゅく区く）	1.34	5位い	神田かんだ駅えき（千代田ちよだ区く）	1.69

増幅ぞうふく率りつの幅はばが広ひろがった2010年版ねんばんデータでも同様どうように、増幅ぞうふく率りつの低ひくい駅えきは、新宿しんじゅく駅えき(1.46)、四ツ谷よつや駅えき(1.47)、東新宿ひがししんしゅく駅えき(1.48)など山やまの手てに位置いちしているのに対たいして（ただし池袋いけぶくろ駅えきは1.64）、増幅ぞうふく率りつの高たかい駅えきは、秋葉原あきはばら駅えき(2.39)、浜松町はままつちょう駅えき(2.27)、水道橋すいどうばし駅えき(2.15)など旧きゅう下町したまちや湾岸わんがんエリアに位置いちしている。

東京とうきょう都内とない全域ぜんいき

対象たいしょうを東京とうきょう都内とない全域ぜんいきに広ひろげ、2010年版ねんばんデータから区役所くやくしょ、市役所しやくしょの所在地しょざいちの数値すうちをみると、「強つよい揺ゆれへの備そなえが必要ひつようであるとされる」2.0を超こえているのは、江戸川えどがわ区く(2.41)、葛飾かつしか区く(2.39)、荒川あらかわ区く(2.38)、江東こうとう区く(2.30)、中央ちゅうおう区く(2.28)、港みなと区く(2.27)、千代田ちよだ区く(2.15)、足立あだち区く(2.06)となっており、やはり下町したまちと湾岸わんがんエリアの増幅ぞうふく率りつが高たかい。

地質ちしつ学がく的てきにみると、山やまの手ては標高ひょうこうの高たかい洪ひろし積せき台地だいち（山やまの手て台地だいち、武蔵野台むさしのだい地ち）であるのに対たいして、下町したまちは海うみに近ちかく標高ひょうこうの低ひくい沖積ちゅうせき低地ていちであり、実際じっさい、1923年ねんの関東大震災かんとうだいしんさいの際さいには、都心としん部ぶの下町したまちエリアの被害ひがいが大おおきく人口じんこうが激減げきげんし、復興ふっこうとともに地盤じばんの強つよい山やまの手ての人口じんこうが急増きゅうぞうし、新宿しんじゅくや渋谷しぶやなど被害ひがいの小ちいさかった山やまの手てのターミナル駅えき周辺しゅうへんが新あらたに繁華はんか街がいとして発展はってんすることになった^[6]。

首都しゅと圏けん

東京とうきょう圏けん（南関東みなみかんとう）の各かく県けんの県庁けんちょう所在地しょざいちの数値すうちを確認かくにんすると、千葉ちば市し（千葉ちば県けん）が2.23、横浜よこはま市し（神奈川かながわ県けん）が2.19、さいたま市し（埼玉さいたま県けん）が1.63となっており、東京とうきょう都心としん部ぶの山やまの手てエリアよりも高たかい。他方たほうで、北関東きたかんとうでは、水戸みと市しが1.86、宇都宮うつのみや市しが1.30、前橋まえばし市しが1.19となっており、全般ぜんぱん的てきに南関東みなみかんとうよりも低ひくい値ねを示しめしている。