バイオベンチャー

バイオベンチャー（Bio-Venture,Biotech Venture）とは、バイオテクノロジーを主しゅたる事業じぎょうとする新興しんこう中小ちゅうしょう企業きぎょうを指さす（定義ていぎは後述こうじゅつ）。欧米おうべいでは一般いっぱんにバイオテクノロジーを扱あつかう企業きぎょうをBiotech Companiesと呼よび、設立せつりつ時期じきの新あたらしい企業きぎょうに言及げんきゅうする際さいはStart-ups、中小ちゅうしょう企業きぎょうを表あらわす際さいはSMEs(Small and Medium Enterprises)を使用しようして大だい企業きぎょうと区別くべつしている^[1]。医薬品いやくひんの開発かいはつを行おこなうものは創そう薬やくベンチャーとも呼よぶ^[2]。

定義ていぎ[編集へんしゅう]

バイオインダストリー協会きょうかいでは、下記かきの4つの条件じょうけんを満みたすものを「バイオベンチャー」と定義ていぎしている^[3]。

バイオテクノロジーを手段しゅだんまたは対象たいしょうとして事業じぎょうを行おこなうもの
中小ちゅうしょう企業きぎょう基本きほん法ほうによる中小ちゅうしょう企業きぎょうの定義ていぎのうち、従業じゅうぎょう員数いんずうに関かんする条件じょうけんに当あてはまるもの
設立せつりつから20年ねん未満みまんのもの
研究けんきゅう開発かいはつ、受託じゅたく研究けんきゅうサービス、製造せいぞう、先端せんたん科学かがく関連かんれんコンサルティング等とうを主しゅたる事業じぎょうとするもの

事業じぎょう[編集へんしゅう]

医薬品いやくひん、医療いりょう・健康けんこう（医薬品いやくひんを除のぞく）、農林のうりん水産すいさん業ぎょう、環境かんきょう・エネルギー、研究けんきゅう支援しえんなどの分野ぶんやが相当そうとうする。2014年度ねんどの調査ちょうさでは研究けんきゅう支援しえん分野ぶんや117社しゃ、医療いりょう・健康けんこう86社しゃで、この2分野ぶんやで日本にっぽんのバイオベンチャーの約やく7割わりを占しめる。医薬品いやくひんの39社しゃがこれに次つぐ。大学だいがくからコア技術ぎじゅつを得えている「大学だいがく発はつベンチャー」が過半数かはんすうを占しめる^[4]。非ひ創そう薬やく系けいの中なかには畜産ちくさんやバイオ燃料ねんりょう、廃棄はいき物ぶつ処理しょり技術ぎじゅつの開発かいはつを行おこなう企業きぎょうもある。

従来じゅうらいの低てい分子ぶんし医薬品いやくひんは開発かいはつに多額たがくの費用ひようと長ながい時間じかんを要ようすため大だい企業きぎょうによる開発かいはつが一般いっぱん的てきであったが、バイオ医薬品いやくひんではアイデアを生いかした開発かいはつが可能かのうとなり、大学だいがくやベンチャー企業きぎょうの参入さんにゅうが容易よういになった^[5]。製薬せいやく業界ぎょうかいでは、1990年ねん前後ぜんこうに開発かいはつされた大型おおがた医薬品いやくひん（ブロックバスター）の特許とっきょが切きれる2010年ねん問題もんだいを控ひかえ、後発こうはつ医薬品いやくひん進出しんしゅつによる売上うりあげ減少げんしょうをカバーする必要ひつように迫せまられた。社内しゃないでの新薬しんやく開発かいはつでは間まに合あわず、外部がいぶからの技術ぎじゅつ導入どうにゅうが必要ひつようとなる。大手おおて製薬せいやく会社かいしゃでは従来じゅうらい有効ゆうこうな治療ちりょう法ほうのなかった疾患しっかん（アンメット・メディカル・ニーズ）に重点じゅうてん疾患しっかん領域りょういきを移うつしつつあった。抗こうがん剤ざいなどもこれにあたるが、バイオ医薬品いやくひんの実用じつよう化かによりベンチャーが得意とくいとする分野ぶんやとなっていた。このことから、製薬せいやく会社かいしゃではバイオベンチャーとの提携ていけいや買収ばいしゅうを積極せっきょく的てきに進すすめる動うごきが加速かそくしていった^[6]。

創そう薬やくベンチャーは製薬せいやく会社かいしゃとライセンス契約けいやくし、パイプライン（新薬しんやく候補こうほ物質ぶっしつ）の開発かいはつを行おこなう。アップフロント（契約けいやく時じの一いち時じ金きん）、マイルストーン・ペイメント（開発かいはつの進捗しんちょくに応おうじて段階だんかい的てきに支払しはらわれる）、ロイヤリティ（製品せいひん上市うわいち後ごに、売上うりあげ実績じっせきから支払しはらわれる）の3種類しゅるいの契約けいやく条項じょうこうを締結ていけつすることが一般いっぱん的てきである^[7]。治験ちけんにおいて副作用ふくさようが確認かくにんされる、あるいは有効ゆうこう性せいが確認かくにんされないなどの理由りゆうにより製品せいひん化かに到達とうたつできないリスクも小ちいさくはない^[8]。パイプラインを一ひとつしか有ゆうしていない場合ばあいには、その事業じぎょうの失敗しっぱいにより企業きぎょうとしての存続そんぞくが困難こんなんになる場合ばあいがある^[9]。

歴史れきし[編集へんしゅう]

1976年ねんに遺伝子いでんし組くみ換かえの大腸菌だいちょうきんを利用りようしたインスリン製剤せいざいの大量たいりょう生産せいさんに成功せいこうしたジェネンテックがアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくで創業そうぎょう。これがバイオベンチャーの第だい一いち号ごうである^[10]。これに次ついで1970年代ねんだい後半こうはんから1980年代ねんだいにかけてアムジェン、バイオジェンなどのバイオベンチャーが創業そうぎょう。製薬せいやく会社かいしゃとのアライアンスを構築こうちくし、大だい企業きぎょうに成長せいちょうしていった^[11]。1990年代ねんだいにはヒトゲノム計画けいかくの進展しんてんに合あわせ、ゲノム関係かんけいのベンチャーが数多かずおおく創業そうぎょうした^[12]。日本にっぽんでバイオベンチャーの設立せつりつが盛さかんになったのは1990年代ねんだい後半こうはんから2000年代ねんだい前半ぜんはんにかけてで、2002年ねんがピークであった。この背景はいけいには、政府せいふのバイオテクノロジー振興しんこう策さくや、マザーズやヘラクレスなどベンチャー向むけ株式かぶしき市場いちばが開設かいせつされたことがある^[13]。株式かぶしき公開こうかいは2000年ねん12月のインテック・ウェブ・アンド・ゲノム・インフォマティクスが第だい一いち号ごうであった（2011年ねんにインテックに吸収きゅうしゅう合併がっぺい）^[14]。

2006年ねんには「バイオバブル崩壊ほうかい」が起おき、2008年ねんのリーマン・ショックによるリスクマネー供給きょうきゅう抑制よくせいの動うごきが追おい打うちをかけて企業きぎょう数すうは減少げんしょうに転てんじた^[15]。また、2008年ねんには創そう薬やくベンチャーと製薬せいやく会社かいしゃとの提携ていけい件数けんすうが増加ぞうかし、研究けんきゅう支援しえん型がたから創そう薬やく型がたへと主流しゅりゅうが移うつっていった^[14]。

主おもなバイオベンチャー[編集へんしゅう]

日本にっぽんのバイオベンチャーで時価じか総額そうがくの大おおきい企業きぎょうには下記かきの例れいがある^[16]。

ペプチドリーム（2013年ねん上場じょうじょう東証とうしょう一部いちぶ 4587）4043億おく円えん
タカラバイオ（2004年ねん上場じょうじょう東証とうしょう一部いちぶ4974）1820億おく円えん
ネクセラファーマ（2004年ねん上場じょうじょうマザーズ 4565）1501億おく円えん
ユーグレナ（2012年ねん上場じょうじょう東証とうしょう一部いちぶ2931）960億おく円えん

上場じょうじょう時期じきの古ふるい企業きぎょうには、下記かきの例れいがある^[17]

アンジェスMG（2002年ねん9月がつ25日にち上場じょうじょうマザーズ4563）
メディネット（2003年ねん10月がつ8日にち上場じょうじょうマザーズ2370）
オンコセラピー・サイエンス（2003年ねん12月8日にち上場じょうじょうマザーズ4564）

アメリカにはアムジェンやギリアド・サイエンシズなど時価じか総額そうがく10兆ちょう円えんを越こえるバイオベンチャー企業きぎょうも存在そんざいする^[18]。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

^ 『2015年ねんバイオベンチャー統計とうけい・動向どうこう調査ちょうさ報告ほうこく書しょ（概要がいよう）』p9
^ “創そう薬やくベンチャーとは”. 知恵ちえ蔵ぞう. 2017年ねん9月がつ16日にち閲覧えつらん。
^ 『2015年ねんバイオベンチャー統計とうけい・動向どうこう調査ちょうさ報告ほうこく書しょ（概要がいよう）』p10
^ 『2015年ねんバイオベンチャー統計とうけい・動向どうこう調査ちょうさ報告ほうこく書しょ（概要がいよう）』p4-5
^ 『創そう薬やくを中心ちゅうしんとした医薬品いやくひん産業さんぎょうの現状げんじょうとバイオベンチャーの発展はってんに向むけて』
^ 『IPOから見みたバイオベンチャーの現状げんじょうと課題かだい』p45
^ 『具体ぐたい事例じれいから学まなぶ創そう薬やく系けいバイオベンチャー経営けいえいの要点ようてん』p101
^ “バイオベンチャー株かぶ投資とうしのリスクはこうして減へらそう”. 会社かいしゃ四季しき報ほうオンライン. (2016年ねん8月がつ31日にち) 2017年ねん9月がつ17日にち閲覧えつらん。
^ “パイプライン”. 株式会社かぶしきがいしゃラルク. 2017年ねん9月がつ17日にち閲覧えつらん。
^ 『IPOから見みたバイオベンチャーの現状げんじょうと課題かだい』p42
^ 『日本にっぽんのバイオイノベーション』p238
^ 『日本にっぽんのバイオイノベーション』p242
^ 『日本にっぽんのバイオイノベーション』p241
^ ^a ^b 『IPOから見みたバイオベンチャーの現状げんじょうと課題かだい』p44
^ 『具体ぐたい事例じれいから学まなぶ創そう薬やく系けいバイオベンチャー経営けいえいの要点ようてん』p1
^ 2017年ねん9月がつ15日にち終値おわりね
^ “創そう薬やく系けいバイオベンチャー企業きぎょうについて” (PDF). 東京とうきょう証券しょうけん取引とりひき所しょ (2017年ねん). 2017年ねん9月がつ17日にち閲覧えつらん。
^ “出でてこい5000億おく円えんバイオベンチャー”. 日経にっけいバイオテクオンライン. (2016年ねん1月がつ3日にち) 2017年ねん9月がつ17日にち閲覧えつらん。

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

元もと橋はし一之かずゆき『日本にっぽんのバイオイノベーション―オープンイノベーションの進展しんてんと医薬品いやくひん産業さんぎょうの課題かだい―』白桃はくとう書房しょぼう、2009年ねん11月16日にち。ISBN 978-4-561-26522-1。
“具体ぐたい事例じれいから学まなぶ創そう薬やく系けいバイオベンチャー経営けいえいの要点ようてん” (PDF). コーポレイトディレクション (2011年ねん3月がつ). 2017年ねん9月がつ16日にち閲覧えつらん。
“2015年ねんバイオベンチャー統計とうけい・動向どうこう調査ちょうさ報告ほうこく書しょ（概要がいよう）” (PDF). バイオインダストリー協会きょうかい (2017年ねん10月がつ). 2017年ねん9月がつ16日にち閲覧えつらん。
山崎やまざき清一せいいち「IPOから見みたバイオベンチャーの現状げんじょうと課題かだい」（PDF）『月刊げっかん資本しほん市場いちば』第だい318巻かん、資本しほん市場いちば研究けんきゅう会かい、2012年ねん2月がつ、40-47頁ぺーじ。
“創そう薬やくを中心ちゅうしんとした医薬品いやくひん産業さんぎょうの現状げんじょうとバイオベンチャーの発展はってんに向むけて～バイオベンチャーによる関西かんさい発はつの創そう薬やくを目指めざして～” (PDF). 日本にっぽん政策せいさく投資とうし銀行ぎんこう関西かんさい支店してん (2012年ねん7月がつ). 2017年ねん9月がつ16日にち閲覧えつらん。