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折笠美昭
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折笠おりかさ 美昭よしあき

おりがさ・よしあき



東京とうきょう新聞しんぶん記者きしゃ

1981ねん 発症はっしょう
1982ねん 

折笠おりかさ 智津子ちづこ 19861220 『つまのぬくもり らんべに
 主婦しゅふ友社ともしゃ,226p.,1200 ※

pp.10-13

「 おしぼりをって、すぐに部屋へやもどってみますと、こえをかけても返事へんじがありません。かおさおです。白目しろめして、咽喉いんこうから奇妙きみょうおとれています。「呼吸こきゅう出来できないのだ」とおもいました。
 アキは次第しだいむね筋肉きんにくおかされ、いつか呼吸こきゅう困難こんなんになることを予測よそくしておりましたから、そのときそなえてかれは、長男ちょうなんふゆこう人工じんこう呼吸こきゅう練習れんしゅうをしていました。
 咄嗟とっさに、そのことをおもし、「おにいちゃん、きて!パパがおかしいのよ」。
 ふゆこう口移くちうつしの人工じんこう呼吸こきゅうつづけ、そのあいだに119ばんし、さらにアキとわたし両方りょうほう肉親にくしん電話でんわをしてきゅうらせました。救急きゅうきゅうしゃむかえるため美帆みほそとしましたが、アキは意識いしきもど様子ようすもなく、「おかしいなあ、おなかにばかり空気くうきはいっちゃうんだ」とふゆこう
 正視せいししていられないほど、くるしそうなアキ。ああ、もう駄目だめなのかしら、とおもいました。

      *

 アキに、このやまい≠ェあらわれはじめたのは、じゅうろくねんはるごろのことです。ゆびふるえにはじまり、やがて親指おやゆびから次第しだいちからうしない、うでがだるく、おもくなってゆきました。
 なつには、よく「かたがこる」とうったえるようになり、ほそいボールペンでくことが困難こんなん(p.11)になってきました。小石こいしなどもとおくへげることが出来できず、「おかしいなあ」とくびかしげておりました。
 ふゆになるころには、庭木にわきやっとこ使つかえず、くるまのハンドルもまわしきれなくなりました。ある電車でんしゃかわつかもうとして、そこまでうでがらず、とてもショックをけた様子ようすでした。れには、食事しょくじのときおはし使つかいづらそうで、わたしわたしたお茶碗ちゃわんとしたりしました。
 じゅうななねんのお正月しょうがつやすみに、ある大学だいがく病院びょういんきましたが、よんじゅうかた五十肩ごじゅうかたという診断しんだんでした。
 でも、わるくなるばかりで、くびまわらないほどになりました。やはりおかしいと、五月ごがつ北里大学きたさとだいがく病院びょういん精密せいみつ検査けんさのため入院にゅういんしたところ、「すじ萎縮いしゅくせいがわさく硬化こうかしょう」とのことでした。
 家庭かてい医学いがくほんによると、この病気びょうき筋肉きんにくうごかす神経しんけい系統けいとうおかされ、ゆびうで脱力だつりょく、さらにあしおよんで歩行ほこう不能ふのうになり末期まっきにはした萎縮いしゅく嚥下えんかくだし)困難こんなんなどをこし、おおくは発病はつびょうすうねん以内いない死亡しぼう――と説明せつめいされていました。
 「はやければいちねんほどで……」という先生せんせいのおはなし。このことは、わたしたち家族かぞく会社かいしゃってからも、アキにはげずにおりました。
 次第しだい不自由ふじゆうになるからだをおして通勤つうきんつづけましたが、あきには息苦いきぐるしく歩行ほこう困難こんなんとなって休職きゅうしょくいえゆかきました。(p.12)
 としけてからは、食事しょくじもほとんどとることが出来できず、はなしをするものくるしそうです。「はるになればらくになるかなあ」と本人ほんにんもうしておりますうちに、このがつじゅうさんにち出来事できごととなったのでした。
        *
 到着とうちゃくした救急きゅうきゅうしゃひとは、一目いちもく切迫せっぱくした容態ようだいとわかったようで、「北里きたさとへおねがいします」というわたしたのみに、「とても北里きたさとまでは無理むりです。もちませんよ!」。酸素さんそ吸入きゅうにゅうをほどこしながら、途中とちゅう休日きゅうじつ診療しんりょうしょ紹介しょうかいじょうり、至近しきん昭和大学しょうわだいがく病院びょういん急行きゅうこうしました。
 そこであいだほど救急きゅうきゅう処置しょちけました。酸素さんそおく呼吸こきゅうくちけられ、点滴てんてきなどもして、ようやく血圧けつあつも50から60、70までがり、「なにとかうごかせそうです」。
 二人ふたり医師いしってくださって、相模原さがみはら北里大学きたさとだいがく病院びょういん転送てんそう、ICU(集中しゅうちゅう治療ちりょうしつ)にはいりました。」

◆p.170
「 危篤きとく状態じょうたい緊急きんきゅう入院にゅういんしたアキは、「なんともえません。ここ一両日いちりょうじつがヤマです」という先生せんせいのおはなしでしたが、手術しゅじゅつ可能かのうなまで意識いしき体力たいりょくもどし、入院にゅういんろくにち気管きかん切開せっかいして、くちからんでいた人工じんこう呼吸こきゅうかんを、直接ちょくせつ咽喉いんこうけました。」

折笠おりかさ よしあき 1989 死出しでころもは』富士見書房ふじみしょぼう [4]



「 ×つき×にち あさかん午後ごご日射ひざつよし。田崎たさき義昭よしあき部長ぶちょう教授きょうじゅほんいんよりってくれる。「顔色かおいろいですね」。ねんまえALSとの診断しんだんけた教授きょうじゅ病気びょうき真相しんそうわたし本人ほんにんには匿され、つまだけが苦悩くのうつづけたあの時期じき――。」(p.56)



「 ここ旬日じゅんじつ泥沼どろぬまうようなパニック状態じょうたいつづき、日記にっき体裁ていさいをなさぬものとなった。じつは、先日せんじつまつ、「(おなかの)くすり種類しゅるいりょうえてみます」とのことで、あたらしいくすり服用ふくようはじまったが、強烈きょうれつ副作用ふくさようあらわれた。そのひとつは全身ぜんしん倦怠けんたいかんきどころつよいだるさの一方いっぽう、とてもあたまおもく、ひらかず、かお筋肉きんにくうごかないので会話かいわ出来できなくなってしまった。

 こまったことに、ものくだせなくなった。ちいさな固形こけいぶつ勿論もちろん液体えきたいまでがはなから有様ありさまで、胃液いえきくちのぼって始末しまつだった。栄養えいようれないので、たちまちからだ(p.214)じゅうがガタッとちたが、「心配しんぱいいりません」とわれた。

 くすり中止ちゅうしをおねがいしたが、なんとかべつくすりえてもらうには日数にっすうがかかった。くだしのほうはやや改善かいぜんされ、流動りゅうどうしょくだけはれるようになったが、今度こんど排尿はいにょう困難こんなんとなり、かんしるべ尿にょうしてもらわねばならなくなった。そのため。くすりりょうらしてもらえたが、昼夜ちゅうやわからない心身しんしん混沌こんとんまれるような睡魔すいまなどは解消かいしょうされていない。さいやく中止ちゅうしえをおねがいしているのだが・・・・・・。

 こうした状態じょうたいると、一番いちばん注意ちゅういしなくてはいけないのは、くら厭世えんせいてき気分きぶんおちいこと。「こんな有様ありさまで、文章ぶんしょう言葉ことばつたえられないならば、きている甲斐かいい」。さらには、わたしもとうとう「はやなせてしい」とうったえてしまった。どれほどつま裏切うらぎ失望しつぼうさせる言葉ことばだったことか。「はやなせてしい。だけど、だれなせてくれること出来できないんだよね。きるしかないんだ。けないできるよ」――。」(pp.214-215)


 「玉川たまがわさんの場合ばあいわたしとはぎゃくに、ひらかなくなってからもうごきが比較的ひかくてき最後さいごまでのこったので、ゆびうごきで五十音ごじゅうおんしめすなど、コミュニケーションには様々さまざま工夫くふうらされるが、ついからだちゅうのどんなところもピクともうごかなくなり、意志いし伝達でんたつ手段しゅだんまったうしなわれる。しかし、のう知能ちのう正常せいじょうはたらき、外部がいぶからのすべてを理解りかいし、あちらからも懸命けんめいかたりかけ(p.216)ているにちがいないと、おくさんは熱心ねっしんに”会話かいわ”しつづける――。
 この病気びょうきでは、呼吸こきゅうかんはずれて窒息ちっそくしてしまう事故じこおおいと、このほんにもかれており、玉川たまがわさんも、看護かんごが抜管に気付きづかず、それでくなってしまう。なげれない
 げんに、抜管の危険きけんせい日常にちじょうことで、たんのどから吸引きゅういんするなどのために、呼吸こきゅうはずし、いったんかりめしたまま、しっかりなおことわすれてしまうケースがすくなくない。はずやすいので、その都度つどくち使つかって「きつくめて」となんとか合図あいずつたえ、なおしてもらっているが、やがてくちうごかなくなり、「はずれそうだ」とわかっていながら、注意ちゅうい喚起かんきする手段しゅだんよう。当然とうぜんそのときは、たとえはずれても、これまでのようにナースコールをいてらせるちからせていようし……。」(pp.216-217)*
 *玉川たまがわ志子しこわりに言葉ことばなきことがあり』(未見みけん


 
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立岩たていわ『ALS――不動ふどう身体しんたいいきする機械きかいにおける言及げんきゅう

 [8]いちきゅうはちねん・「「はやければいちねんほどで……」という先生せんせいのおはなし」(北里大学きたさとだいがく病院びょういんで、つまに。折笠おりかさ[1986:12])
 [22]いちきゅうはちねん・「筋肉きんにくうごかす神経しんけい系統けいとうおかされ、ゆびうで脱力だつりょく、さらにあしおよんで歩行ほこう不能ふのうになり末期まっきにはした萎縮いしゅく嚥下えんかくだし)困難こんなんなどをこし、おおくは発病はつびょうすうねん以内いない死亡しぼう――と説明せつめいされていました。」(「家庭かてい医学いがくほん」、折笠おりかさ[1986:12])
 [65]いちきゅうはちねん・「お正月しょうがつやすみに、ある大学だいがく病院びょういんきましたが、よんじゅうかた五十肩ごじゅうかたという診断しんだんでした。/でも、わるくなるばかりで、くびまわらないほどになりました。やはりおかしいと、五月ごがつ北里大学きたさとだいがく病院びょういん精密せいみつ検査けんさのため入院にゅういんしたところ、「すじ萎縮いしゅくせいがわさく硬化こうかしょう」とのことでした。」(折笠おりかさ[1986:12])いちきゅうはちいちねん発症はっしょうつまげられ医学いがくしょ[22]をみ、医師いし説明せつめいく。北里大学きたさとだいがく病院びょういん入院にゅういんした本人ほんにんしょ折笠おりかさ[1989]。
 [168]折笠おりかさ智津子ちづこによるおっと美昭よしあき[65]のいちきゅうはちねん入院にゅういん前後ぜんごについての記述きじゅつ。「おしぼりをって、すぐに部屋へやもどってみますと、こえをかけても返事へんじがありません。かおさおです。白目しろめして、咽喉いんこうから奇妙きみょうおとれています。「呼吸こきゅう出来できないのだ」とおもいました。/アキは次第しだいむね筋肉きんにくおかされ、いつか呼吸こきゅう困難こんなんになることを予測よそくしておりましたから、そのときそなえてかれは、長男ちょうなんふゆこう人工じんこう呼吸こきゅう練習れんしゅうをしていました。/咄嗟とっさに、そのことをおもし、「おにいちゃん、きて!パパがおかしいのよ」。/ふゆこう口移くちうつしの人工じんこう呼吸こきゅうつづけ、そのあいだいちいちきゅうばんし[…]/到着とうちゃくした救急きゅうきゅうしゃひとは、一目いちもく切迫せっぱくした容態ようだいとわかったようで、「北里きたさとへおねがいします」というわたしたのみに、「とても北里きたさとまでは無理むりです。もちませんよ!」。酸素さんそ吸入きゅうにゅうをほどこしながら、途中とちゅう休日きゅうじつ診療しんりょうしょ紹介しょうかいじょうり、至近しきん昭和大学しょうわだいがく病院びょういん急行きゅうこうしました。/そこであいだほど救急きゅうきゅう処置しょちけました。酸素さんそおく呼吸こきゅうくちけられ、点滴てんてきなどもして[…]相模原さがみはら北里大学きたさとだいがく病院びょういん転送てんそう、ICU(集中しゅうちゅう治療ちりょうしつ)にはいりました。」(折笠おりかさ[1986:10-13])「危篤きとく状態じょうたい緊急きんきゅう入院にゅういんしたアキは、「なんともえません。ここ一両日いちりょうじつがヤマです」という先生せんせいのおはなしでしたが、手術しゅじゅつ可能かのうなまで意識いしき体力たいりょくもどし、入院にゅういんろくにち気管きかん切開せっかいして、くちからんでいた人工じんこう呼吸こきゅうかんを、直接ちょくせつ咽喉いんこうけました。」(折笠おりかさ[1986:170])
 [270]折笠おりかさよしあき[168]が玉川たまがわ志子しこわりに言葉ことばなきことがあり』(未見みけん)に言及げんきゅうしながら。「この病気びょうきでは、呼吸こきゅうかんはずれて窒息ちっそくしてしまう事故じこおおいと、このほんにもかれており、玉川たまがわさんも、看護かんごが抜管に気付きづかず、それでくなってしまう。なげれない。/げんに、抜管の危険きけんせい日常にちじょうことで、たんのどから吸引きゅういんするなどのために、呼吸こきゅうはずし、いったんかりめしたまま、しっかりなおことわすれてしまうケースがすくなくない。はずやすいので、その都度つどくち使つかって「きつくめて」となんとか合図あいずつたえ、なおしてもらっているが、やがてくちうごかなくなり、「はずれそうだ」とわかっていながら、注意ちゅうい喚起かんきする手段しゅだんよう。当然とうぜんそのときは、たとえはずれても、これまでのようにナースコールをいてらせるちからせていようし……。」(折笠おりかさ[1989:216-217])


※おことわり
・このページは、公開こうかいされている情報じょうほうもとづいて作成さくせいされた、ひと組織そしき「について」のページです。そのひと組織そしき作成さくせいしているページではありません。
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