1ゴールを、そして1勝かち点てんを巡めぐってしのぎを削けずるＪじぇいリーグの試合しあい。1個いっこのボールを巡めぐる「デュエル」と呼よばれる一対一いちたいいちの争あらそいは熾烈しれつを極きわめます。

特とくに激はげしいバトルが繰くり広ひろげられるのは、マークし合あう選手せんしゅたち間あいだの争あらそいです。センターバックとセンターフォワード、サイドバックとウイング、そしてミッドフィルダー同士どうし…。自由じゆうに動うごいていいサッカーといっても、「基本きほん的てきなポジション」はあります。そして自然しぜんに、ぶつかり合あうことが多おおくなる選手せんしゅ同士どうしがいます。

しかし彼かれらは「敵てき」ではありません。互たがいにチームを勝利しょうりに導みちびくために技術ぎじゅつや知力ちりょくを尽つくす選手せんしゅ同士どうしです。そして注意深ちゅういぶかく見みていると、互たがいに「仲間なかま」であることが試合しあいの中なかでも表現ひょうげんされるシーンがたくさんあります。

9月13日にちに行おこなわれたＪじぇいリーグ第だい30節せつの川崎かわさきフロンターレ対たいサガン鳥栖とすにもそんなシーンがありました。前半ぜんはん11分ふんにホームの川崎かわさきFが先制せんせいし、33分ふんにMF脇坂わきさか泰斗たいと選手せんしゅが2点てん目めを決きめたかと思おもわれましたが、ビデオアシスタントレフェリー（VAR）がオフサイド判定はんてい。1点てん差さのまま前半ぜんはん終盤しゅうばんを迎むかえます。

パスを受うけた鳥栖とすのMF西にし矢や健けん人じん選手せんしゅが当あたりにきた脇坂わきさか選手せんしゅをかわして前進ぜんしん。脇坂わきさか選手せんしゅはすぐに追つい走そうして体からだをつけ、西にし矢や選手せんしゅの前進ぜんしんを止とめようとします。この二人ふたりは、攻撃こうげき的てきMF（脇坂わきさか選手せんしゅ）と「アンカー」（西にし矢や選手せんしゅ）というポジションの関係かんけいから、試合しあい開始かいし時じからよくぶつかり合あっていました。

西にし矢や選手せんしゅも負まけていません。得意とくいの左足ひだりあしでボールをキープして脇坂わきさか選手せんしゅに妨害ぼうがいを許ゆるさず、味方みかたとの短みじかいパス交換こうかんから前線ぜんせんにパス。しかしこのとき、ボールを守まもるために踏ふみ込こんだ右足みぎあしが、タックルにきた脇坂わきさか選手せんしゅの左ひだり足首あしくびを踏ふみつけてしまったのです。

倒たおれて痛いたみを訴うったえる脇坂わきさか選手せんしゅ。ゴール前まえで鳥栖とすの攻撃こうげきが続つづいている間あいだも、西にし矢や選手せんしゅは脇坂わきさか選手せんしゅのところに歩あゆみ寄より、だいじょうぶですかと背中せなかを叩はたきます。ようやくプレーが切きれ、長峯ながみね滉ひろし希まれ主審しゅしんが試合しあいを止とめて脇坂わきさか選手せんしゅのところに走はしり寄よって状態じょうたいを確認かくにんします。

西にし矢や選手せんしゅはすぐ近ちかくの川崎かわさきFのテクニカルエリアに走はしり、置おいてあった水みずのボトルを開あけてひと口くち飲のみます。川崎かわさきFの鬼木おにき監督かんとくは、脇坂わきさか選手せんしゅを心配しんぱいそうに見みつめていますが、西にし矢や選手せんしゅをとがめるそぶりは見みせませんでした。

どちらのチームが用意よういした水みずでもかまわず飲のむ――。これはＪじぇいリーグではごく一般いっぱん的てきに行おこなわれていることで、私わたしはとても好このましいことだと思おもっています。

すると西にし矢や選手せんしゅはボトルを持もったまま脇坂わきさか選手せんしゅのところに歩あゆみ戻もどります。長峯ながみね主審しゅしんと話はなしながらようやく立たち上あがった脇坂わきさか選手せんしゅ。西にし矢や選手せんしゅは背中せなかを叩はたきながら声こえをかけ、ボトルを渡わたしました。脇坂わきさか選手せんしゅはそれを素直すなおに受うけ取とってひと口くちのみ、両手りょうてに振ふりかけてからもうひと口くち。空そらになったボトルを川崎かわさきFのスタッフに投なげると、プレーに戻もどっていったのです。

この間あいだ、脇坂わきさか選手せんしゅにも西にし矢や選手せんしゅにも、そして鬼木おにき監督かんとくにも大おおげさな動作どうさはなく、すべてがさりげなく過すぎた1分間ふんかん。私わたしは、とても素敵すてきな時間じかんを見みた気きがしました。

西にし矢や選手せんしゅは神戸こうべ市し出身しゅっしんの24歳さい。大阪桐蔭おおさかとういん高校こうこうから明治大学めいじだいがくに進すすみましたが卒業そつぎょう時じにはプロになれず、当時とうじJFLのFC大阪おおさかに加入かにゅう。2年ねん目めの昨年さくねんにFC大阪おおさかはＪ3に昇格しょうかくし、そこでの活躍かつやくを認みとめられて8月がつにＪ2の藤枝ふじえだMYFCに期限きげん付つき移籍いせき。ここでようやくプロ契約けいやくとなりました。そして今年ことし7月がつにＪ1のサガン鳥栖とすに移籍いせきしたのです。この川崎かわさきF戦せんは移籍いせきしてＪじぇいリーグで2試合しあい目めの先発せんぱつ。初はじめてフル出場しゅつじょうし、見事みごとなプレーで中盤ちゅうばんを支ささえました。

試合しあいは後半こうはんに鳥栖とすが追おいつき、川崎かわさきFが突つき放はなし、アディショナルタイムに鳥栖とすがPKで2-2としましたが、その10分ふんに川崎かわさきFが劇的げきてきな決勝けっしょう点てん。スペクタクルな展開てんかいに、スタジアムは沸騰ふっとうしました。

しかし同時どうじに、目立めだたなくても、西にし矢や選手せんしゅと脇坂わきさか選手せんしゅのような美うつくしい光景こうけいがあった試合しあいでもありました。あなたもＪじぇいリーグの試合しあいでそれを探さがしてみたらどうでしょう。

寄稿きこう：大住おおすみ良之よしゆき（サッカージャーナリスト）

※このコラムは、公益こうえき財団ざいだん法人ほうじん日本にっぽんサッカー協会きょうかい機関きかん誌し『JFAnews』2024年ねん10月がつ号ごうより転載てんさいしています。

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