WEBアニメスタイル_アニメの作画を語ろう

■井上いのうえ俊之としゆき（１）
■井上いのうえ俊之としゆき（２）
■井上いのうえ俊之としゆき（３）
■井上いのうえ俊之としゆき（４）
■井上いのうえ俊之としゆき（５）
■主要しゅよう作品さくひんリスト

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animator interview
井上いのうえ俊之としゆき（１）

　井上いのうえ俊之としゆきは、デビュー当時とうじの『ＧU‐ＧUガンモ』で業界ぎょうかいの注目ちゅうもくを集あつめ、以来いらい、『ＡＫＩＲＡ』、『ＭＥＭＯＲＩＥＳ』、『ＧＨＯＳＴ　ＩＮ　ＴＨＥ　ＳＨＥＬＬ』、『人ひと狼おおかみ』、『ＢＬＯＯＤ　ＴＨＥ　ＬＡＳＴ　ＶＡＭＰＩＲＥ』、『千せん年ねん女優じょゆう』と、次々つぎつぎと話題わだい作さくに参加さんかし、素晴すばらしい仕事しごとを残のこしてきた。その作画さくがの質しつの高たかさ、仕事しごとの確実かくじつさから、「パーフェクトなアニメーター」とまで言いわれている。
　キャラクターデザイナーや作画さくが監督かんとくになるよりも、むしろ、１人ひとりの原画げんがマンとして「動うごき」を追究ついきゅうしていきたいと考かんがえているのだそうだ。現在げんざいは、より人間にんげんの動作どうさを忠実ちゅうじつに再現さいげんした、リアルな芝居しばいを描えがく事ことを目標もくひょうにしている。
　また、彼かれのアニメに対たいする愛情あいじょうと造詣ぞうけいは、大変たいへんに深ふかく、後進こうしんに対たいする指導しどうにも力ちからを注そそいでいる。「animator interview」第だい２回かいでは、そんな彼かれの足跡あしあとと、作画さくがに対たいする考かんがえについてうかがう事ことにしよう。

2000年ねん12月5日にち
取材しゅざい場所ばしょ／東京とうきょう・スタジオ雄ゆう
取材しゅざい／小黒おぐろ祐一郎ゆういちろう
構成こうせい／小川おがわびい、小黒おぐろ祐一郎ゆういちろう

ＰＲＯＦＩＬＥ

井上いのうえ俊之としゆき（Inoue Toshiyuki）

1961年生ねんせい。大阪おおさか府ふ出身しゅっしん。アニメーター。専門せんもん学校がっこうからスタジオジュニオを経へて、現在げんざいフリー。『ＧU‐ＧUガンモ』で頭角とうかくを現あらわし、その後ご、『ＡＫＩＲＡ』、『魔女まじょの宅急便たっきゅうびん』、『ＭＥＭＯＲＩＥＳ』、『ＧＨＯＳＴ　ＩＮ　ＴＨＥ　ＳＨＥＬＬ』等とうの作品さくひんに参加さんか。昨年さくねん話題わだいとなった『人ひと狼おおかみ』では副ふく作画さくが監督かんとくを務つとめた。押井おしい守まもるをして「演出えんしゅつ家か要いらず」「パーフェクトなアニメーター」と言いわしめる実力じつりょく者しゃである。現在げんざいは、なかむらたかし監督かんとくの新作しんさく劇場げきじょう作品さくひんに参加さんか中ちゅう。
　現在げんざい、Production I.Gで若手わかてアニメーターを指導しどうする「井上いのうえ塾じゅく」を主宰しゅさい。その講義こうぎの一部いちぶはProduction I.Gのホームページで読よむ事ことができる。アドレスは以下いかの通とおり。
http://www.production-ig.co.jp/

【主要しゅよう作品さくひんリスト】

小黒おぐろ　昔むかしの話はなしから訊きかせてください。そもそも、井上いのうえさんがアニメーターを志こころざしたきっかけは、何なにになるんですか。
井上いのうえ　『未来みらい少年しょうねんコナン』を観みた事ことだね（注ちゅう１）。
小黒おぐろ　なるほど。
井上いのうえ　それまでも、『ルパン三さん世せい』や『ハイジ』や『ど根性こんじょうガエル』を観みて、いいな、とは思おもっていたんだけど、それは単たんにＴＶてれびでやっている漫画まんがを観みているというだけで、好すきでアニメを観みているというわけではなかったんだよね。画がを描えがく事ことも嫌きらいではなかったけど、別べつに美術びじゅつ部ぶに入はいって画がを描えがくというほどではなかったし。今いま考かんがえると、非常ひじょうに淡々たんたんとした高校こうこう生活せいかつを送おくっていた。ところが、高校こうこう２年ねんの時ときに、ＮＨＫが、今度こんど初はじめて漫画まんが――まだアニメという言葉ことばはなかったと思おもうんだけど――をやるというので、観み始はじめたんだ。もう、最初さいしょから惹ひきつけられて、本当ほんとうにあれほど毎週まいしゅうが楽たのしみなＴＶてれび番組ばんぐみっていうのは、後のちにも先さきにもあれだけだったな。
小黒おぐろ　そうでしょうね。

（注ちゅう1）『未来みらい少年しょうねんコナン』
1978年ねん４月がつから同年どうねん10月がつまで放送ほうそう。制作せいさく／日本にっぽんアニメーション、監督かんとく／宮崎駿みやざきはやお、キャラクターデザイン・作画さくが監督かんとく／大塚おおつか康生やすお。本文ほんぶん中ちゅうにもあるように、ＮＨＫ初はつの30分ふん連続れんぞくシリーズのアニメである。

井上いのうえ　それで、ちょうど同おなじ頃ごろに、「アニメージュ」が創刊そうかんされる（注ちゅう２）。創刊そうかん号ごうに、『コナン』の設定せってい資料しりょうが小ちいさく載のっているんだけど、それを見みて、「これは一体いったい、ナンダ!?」と思おもったんだよね（笑）。ＴＶてれびで放映ほうえいしているものと同おなじ絵柄えがらで、いろんなポーズや表情ひょうじょうが描えがいてある。その頃ころは、キャラクター設定せっていというものがあるという事ことすら知しらなかったからね。「これ、なんだろう、誰だれが描えがいたものなんだろう」と思おもった。それで、「アニメージュ」の創刊そうかん号ごうで、アニメーターという職業しょくぎょうの事ことを知しって、アニメーションの世界せかいに急速きゅうそくに興味きょうみを持もってしまった。あの時とき、「アニメージュ」がなかったら、『コナン』を観みても、ただ、面白おもしろかったで済すんでしまったかもしれない。
　それから、確かくか創刊そうかん当時とうじの「アニメージュ」で『ホルス』の特集とくしゅうも組くまれていたと思おもうんだ。そこで、『コナン』を作つくっている人ひとと同おなじ名前なまえを見みつけるんだよ。「え？　あの人ひとがこれも作つくってんの？」って。さらに、そこに掲載けいさいされている『ホルス』の絵柄えがらにも惹ひかれる事ことになる。「岩いわの崩くずれ方かたが気持きもちいいな」「塗ぬり分わけが潔いさぎよよくていいな」とか。
小黒おぐろ　早熟そうじゅくですね。もう、すでにそういう感想かんそうを（笑）。

（注ちゅう2）「アニメージュ」
徳間書店とくましょてんが発行はっこうしているアニメ雑誌ざっし。1978年ねん６月がつに、日本にっぽん最初さいしょの月刊げっかんアニメ専門せんもん誌しとして創刊そうかんされた。

井上いのうえ　うん（笑）。そうやって、大塚おおつか（康生やすお）さん達たちの仕事しごとに急速きゅうそくに傾倒けいとうしていくんだ（注ちゅう３）。すでに、アニメーターの引ひく線せんやフォルムに、凄すごく惹ひかれていたんだよね。
小黒おぐろ　ちょっと待まってください。今いま、その『ホルス』の記事きじが載のっている「アニメージュ」を探さがしてみますね。

（本棚ほんだなから当時とうじの「アニメージュ」を引ひっ張ぱり出だす）

小黒おぐろ　ありました。これですね。
井上いのうえ　ああ、これだ。これ。懐なつかしいなあ。『ホルス』も創刊そうかん号ごうだったか。そう、この特集とくしゅうを見みて「波なみのフォルムがかっこいいな」とか思おもったんだ。他たのアニメよりも、自分じぶんの趣味しゅみに合あうというかね。（パラパラと「アニメージュ」をめくりつつ）今いまから見みると、本編ほんぺんスチールじゃなくて、宣伝せんでん用ように描えがきおろした画がが多おおいね。……このマンモスのフォルムとかにググッとくるものがあってね（笑）。それから、確たしかファンがアニメの作つくり方かたを質問しつもんするみたいな記事きじがあって……ああ、あった、あった。これなんかも記憶きおくに残のこってるな。ああ、創刊そうかん号ごうにこういう記事きじがあるんだなあ。……それから、創刊そうかん号ごうに……ああ、これだ。

（注ちゅう3）大塚おおつか康生やすお
東映動画とうえいどうが発足ほっそく時じより活躍かつやくするアニメーター。代表だいひょう作さくに『太陽たいようの王子おうじホルスの大だい冒険ぼうけん』、『ルパン三さん世せい［第だい１作さく］』等とうがある。現在げんざいは、テレコム・アニメーション・フィルム等とうで後進こうしんの育成いくせいにあたっている。

小黒おぐろ　「アニドウ」の紹介しょうかい記事きじですね（注ちゅう４）。
井上いのうえ　うん。ここに「ＦＩＬＭ１／24」の誌面しめんも掲載けいさいされているでしょ（注ちゅう５）。そこに、小田部おたべ羊ひつじ一いちさんの画がが載のっていて……（注ちゅう６）。この小田部おたべさんの画がにも凄すごく惹ひかれた。ここに載のっているページの続つづきが読よみたいと思おもった。「ＦＩＬＭ１／24」という本ほんに、俺おれの知しりたい事ことがぎっちり詰つまってるような気きがしてね。凄すごく手てに入いれたかったんだけど、当時とうじの俺おれには、手てに入いれる術じゅつがなかった。
　それから３、４年ねん経たって、上京じょうきょうする前まえに、アニメアールの毛利もうり和昭かずあきさんのところに遊あそびに行いった事ことがあってね。毛利もうりさんがその「ＦＩＬＭ１／24」を持もっていたんだよ。その時ときには「これだ」って飛とび上あがって喜よろこんだ。その時ときの嬉うれしさたるや、人生じんせいの中なかで最もっとも嬉うれしかった事ことのひとつに挙あげられるくらい（笑）。その時ときにコピーをとらせてもらったその記事きじは、今いまでも大事だいじにしてあって時々ときどき、読よみ返かえすよ。
小黒おぐろ　なるほど（笑）。いや、その気持きもちは分わかります。
井上いのうえ　アニメに関かんする情報じょうほうがまだ少すくない時代じだいだったから、そういう情報じょうほうのひとつひとつが凄すごく嬉うれしくて。最初さいしょの頃ころのロマンアルバムを手てに取とった時ときも、凄すごく嬉うれしかった。最近さいきんは、あれほどの感動かんどうがなくて（笑）。
小黒おぐろ　イカンですね。
井上いのうえ　イカンですね。……まあ、そういう時代じだいなのかも知しれないけど。
小黒おぐろ　アニメの情報じょうほうに関かんしても、豊ゆたかな時代じだいになったという事ことですね（笑）。
井上いのうえ　そうね。初はじめて『ホルス』を観みた時ときには、凄すごく嬉うれしかった記憶きおくがある。ＴＶてれびで放映ほうえいされた、画面がめんの左右さゆうがカットされた放映ほうえいだったけど。
小黒おぐろ　『コナン』でアニメに目覚めざめて、「アニメージュ」の創刊そうかんでアニメの情報じょうほうを得えるようになって、その後ごはいろんなアニメをチェックしまくったんですか。
井上いのうえ　いや、アニメならなんでもいいわけじゃなくて、俺おれが反応はんのうするアニメは、その頃ころからはっきり限定げんていされていてね。「アニメージュ」で、大塚おおつかさん達たちが関連かんれんした記事きじを覚おぼえて、関かかわったスタッフの仕事しごとを、あれこれ観みていくわけ。その頃ころは、よく、東映とうえい長編ちょうへんを夏休なつやすみなんかにＴＶてれびで放映ほうえいしていたから。そうやって確認かくにんしながら、どんどん追おいかけるべき人ひとを限定げんていしていったんだ。「あ、この人ひとは『ホルス』に関かかわっているけど、自分じぶんが惹ひかれている部分ぶぶんには貢献こうけんしていないんだな」とね。
小黒おぐろ　そうやって決きまった追おいかけるべき人ひとは、どなただったんです？
井上いのうえ　大塚おおつかさん、宮崎みやざき（駿しゅん）さん、小田部おたべさん……あとは、森もりやすじさん。それから小松原こまつばら一男かずおさんと……劇場げきじょう版ばん『銀河ぎんが鉄道てつどう９９９』って何なん年ねんだっけ？
小黒おぐろ　1979年ねんの夏なつですね。『コナン』の次つぎの年としです。

（注ちゅう4）アニドウ
プロのアニメーターの親睦しんぼく団体だんたいとして発足ほっそくした、日本にっぽんでも有数ゆうすうの歴史れきしをもつアニメファン組織そしきのひとつ。

（注ちゅう5）「ＦＩＬＭ１／24」
アニドウの発行はっこうしている機関きかん誌し。「アニメージュ」創刊そうかん号ごうには、「ＦＩＬＭ１／24」の『母ははをたずねて三さん千里せんり』の記事きじの誌面しめんの一部いちぶか小ちいさく掲載けいさいされていた。

（注ちゅう6）小田部おたべ羊ひつじ一いち
東映動画とうえいどうが出身しゅっしんのアニメーター。『アルプスの少女しょうじょハイジ』『母ははをたずねて三さん千里せんり』等とうのキャラクターデザイン・作画さくが監督かんとくで知しられる。

井上いのうえ　じゃあ、その時ときに金田かねだ（伊い功こう）さんと友永ともなが（和秀かずひで）さんも知しったのかな（注ちゅう７）。特とくに友永ともながさんには惹ひかれてね。何なにしろ、大好だいすきな大塚おおつかさんと一緒いっしょに仕事しごとまでしているわけだから。で、その頃ころ公開こうかいされた、『龍りゅうの子こ太郎たろう』には、小田部おたべさんの仕事しごととして意識いしきして、劇場げきじょうに行いったから……。
小黒おぐろ　『龍りゅうの子こ太郎たろう』は、同おなじく79年ねんの春はるですよ。そりゃ、知識ちしきの進すすみ具合ぐあいが早はやい。相当そうとうなものですね（笑）。
井上いのうえ　そうやっていっぱい観みて、「これのこのカットがいいのは、きっとこの人ひとだろう」と想像そうぞうしたんだよね。いっぱい観みると、よいと思おもった作品さくひんに共通きょうつうしたスタッフが参加さんかしている事ことが分わかってくるじゃない？　そうやって推理すいりを重かさねつつ、「きっと、この人ひととこの人ひとが、俺おれの好すきな部分ぶぶんを描えがいているんだろうな」って。
　そうやっているうちに、もう高２こうにの終おわりぐらいには、「アニメーションの仕事しごとをするんだ」って決きめていたんじゃないかな。受験じゅけん勉強べんきょうを始はじめる時期じきだったから、周囲しゅういに反対はんたいされたはずなんだけど、もう目めもくれなくてね（笑）。こう言いうと生意気なまいきみたいだけど、不思議ふしぎと、「絶対ぜったいにアニメーターとして上手うまくいくんだ」っていう、盲目的もうもくてきな確信かくしんみたいなものがあったね。
小黒おぐろ　『カリ城じょう』が1979年ねんの暮くれにありますけど、それは井上いのうえさんに影響えいきょうしていないんですか？
井上いのうえ　うん。それはもうあんまり大おおきな事ことじゃない。大塚おおつかさん達たちがやったら素晴すばらしいものになる、っていうのは当あたり前まえの事ことだから、「相変あいかわらず素晴すばらしい」というふうに観みてて（笑）。むしろ、テンションが落おち着ついてしまったな、とすら思おもってた（苦笑くしょう）。
小黒おぐろ　確認かくにんしておきますけど、それは映画えいがとしてではなくて、アニメーションとして、なんですよね。
井上いのうえ　あ、勿論もちろん、作画さくがの事ことですよ。『カリ城じょう』よりも、俺おれのアニメーター心しんをくすぐったのは、むしろ劇場げきじょうの『９９９』。友永ともながさん達たちの執着心しゅうちゃくしんや活気かっきを感かんじたなあ。だから、『コナン』と『９９９』で、きっかけとしてはもう充分じゅうぶんだった。
小黒おぐろ　なるほど（笑）。
井上いのうえ　俺おれは金田かねださんよりは、どちらかと言いえば、友永ともながさんに惹ひかれていたね。東映とうえい長編ちょうへん時代じだいの人達ひとたちはすでに雲くもの上うえの人ひとという感かんじがあったから、若わかい自分じぶんとしては、今いままさに脂あぶらが乗のろうとしているエネルギッシュな人ひととして、友永ともながさんに憧あこがれていた。凄すごい作画さくがをするんだっていう熱意ねついが画面がめんから滲にじみ出でていてね。今いまでも、心しんの師匠ししょうと言いうか、ずっと追おい求もとめている人ひとではあり続つづけている。
小黒おぐろ　なるほど、そうやって、アニメの知識ちしきを深ふかめると同時どうじに、アニメーターとしてのステップアップも始はじまっていたんですね。

（注ちゅう7）金田かねだ伊い功こう、友永ともなが和秀かずひで
共ともに当時とうじ、派手はでなアクション作画さくがでファンを魅了みりょうしたアニメーター。金田かねだ伊い功こうの代表だいひょう作さくは『大空おおぞら魔ま竜りゅうガイキング』、劇場げきじょう『幻魔げんま大戦たいせん』、『銀河ぎんが旋風せんぷうブライガー』のオープニング等とう。現在げんざいはハワイでＣＧによる劇場げきじょう作品さくひんの制作せいさくに参加さんか。友永ともなが和秀かずひでの代表だいひょう作さくは『マグネロボ　ガ・キーン』、『ルパン三さん世せい　カリオストロの城しろ』、『名めい探偵たんていホームズ』等とう。最近さいきん作さくに『ＣＹＢＥＲＳＩＸ』がある。

井上いのうえ　その後ご、専門せんもん学校がっこう行いってからだね、なかむらたかしさんを知しるのは（注ちゅう８）。周囲しゅういで『Ｇライタン』は凄すごい、って言いわれていたんだけど、俺おれにとっては目標もくひょうは大塚おおつかさんとか友永ともながさんとかで充分じゅうぶんで（笑）、「それより凄すごい人ひとがいるわけがない」って、どっか高だかを括くくってるとこがあって、目めに入はいらなかった。ところが、たまたま「大だい魔神まじんの涙なみだ」の回かいを観みたんだよ。その時ときの驚おどろきたるや、もう、「ちょっと一旦いったん、友永ともながさんは置おいといて」って思おもうぐらいのものだったね（笑）。しかも、あれは丸々まるまる１本ほん、１人ひとりで原画げんがを描えがいているじゃない。その頃ころは、既すでにそれがいかに凄すごい事ことか、その意味いみも分わかるから。それがちょうど上京じょうきょうする直前ちょくぜんで、アニメへの熱意ねついも、さらにはっきりと深ふかまった。

（注ちゅう8）なかむらたかし
前回ぜんかいの「animator interview」を参照さんしょう。

　俺おれがアニメに目覚めざめてからそれまでの３、４年ねんの間あいだに接せっした事ことのない、「アニメの快感かいかん」みたいなものが、そこにはあったんだよね。それは大塚おおつかさん達たちが持もっていない、作画さくがの快感かいかんだった。とにかくもの凄すごく興奮こうふんした覚おぼえがある。周囲しゅういのみんなにも「観みろ！　観みろ！」って熱心ねっしんに勧すすめたし。アニメを観みて、あれほど興奮こうふんするのは多分たぶん、次つぎは、磯いそ（光雄みつお）君くんを観みるまでないんじゃないかなぁ（笑）。（注ちゅう９）
小黒おぐろ　確たしかに、なかむらさんの作画さくがは、それまでに観みた事ことのないアニメーションでしたね。で、上京じょうきょうされて？
井上いのうえ　入はいるプロダクションは、俺おれが好すきな人達ひとたちと関連かんれんがあるところと決きめていたんだよ。だから、オープロとスタジオジュニオのどちらかに入はいろうと思おもっていたんだ。そのふたつが、元もとはひとつのプロダクションだと知しっていたからね。

（注ちゅう9）磯いそ光雄みつお
劇場げきじょう『おもひでぽろぽろ』、『新しん世紀せいきエヴァンゲリオン』などで知しられるアニメーター。

小黒おぐろ　ハテナプロですね（注ちゅう10）。
井上いのうえ　そう。人的じんてき交流こうりゅうもあるだろう、友永ともながさんにも会あえるかな、なんて甘あまい事ことを考かんがえていたんだよね。オープロは、先さきに就職しゅうしょく活動かつどうした同期生どうきせいから、すでに席せきがないようだという話はなしを聞きいていたから、それならば、ジュニオにしよう、と。それでジュニオにクロッキー帳ちょうを持もっていったんだ。
　当時とうじは、俺おれはいわゆるアニメっぽい画がはほとんど描えがいてなくて、クロッキーばかりやっていたんだよ。クロッキーも好すきだったんだよね。それは多分たぶん、なかむらさんが好すきな心しんとどこかでつながっているんだろうけど。後ごから分析ぶんせきすればね、なかむらさんも、クロッキーとかエゴン・シーレのデッサンとか、そういうもののいい部分ぶぶんをアニメに巧たくみい具合ぐあいに持もち込こんでいたと俺おれは思おもうんだよ。勿論もちろん、当時とうじはそんな事ことは考かんがえもしなかったけど、アニメにはクロッキーが必要ひつようだな、とどこかで感かんじていたのかもしれないね。アニメはいろんな画がを描えがかなきゃいけないから、何なにかの色いろに染そまっちゃいけないんだ、とは意識いしきしていたな。だから、当時とうじから、あまり顔がおは描えがかないようにしていたしね。今いまでも顔かおを描えがきたいとは思おもわないんだけど。
小黒おぐろ　ああ、そうなんですか。へえ。
井上いのうえ　ともかく、ジュニオの社長しゃちょうにクロッキー帳ちょうを見みせたら、ひどく感心かんしんされた。もっとも、こちらは、それにそれほど感激かんげきする事ことなく、「そんなのは当然とうぜん」なんて思おもっていたんだけどね。生意気なまいきだよね（笑）。それで、ジュニオに入はいる事ことになって、同期どうきの４人にんぐらいで上京じょうきょうするんだよ。ちなみに、それが、梶島かじしま正樹まさき、佐藤さとう豊ゆたか、三宅みやけ和彦かずひこと、後のちに海洋かいよう堂どうに入はいるボーメ（注ちゅう11）。
小黒おぐろ　初はつの原画げんがは何なにになるんですか。
井上いのうえ　『ストップ!!ひばりくん！』。それを３本ほんやって、そのあと『伊賀野いがのカバ丸まる』をちょっと手伝てつだって、それから『ＧU‐ＧUガンモ』をやるんだよ（注ちゅう12）。
小黒おぐろ　もう活字かつじにしてもいいですよね？　キャラデザインの話はなしは。

●「animator interview　井上いのうえ俊之としゆき（２）」へ続つづく

(01.03.29)

（注ちゅう10）ハテナプロ
永えい樹いつき凡人ぼんじん、香西こうざい隆男たかお、小泉こいずみ謙三けんぞう、我妻あづま宏ひろしの４人にんが東映動画とうえいどうがを退社たいしゃして1964年ねんに設立せつりつした、外注がいちゅうスタジオの草分くさわけ的てき存在そんざい。オープロダクションやスタジオジュニオはここをルーツとするスタジオ。そのため、井上いのうえ俊之としゆきは、ジュニオと、友永ともなが和秀かずひでが所属しょぞくしていたオープロとが当時とうじでも交流こうりゅうがあるのではないかと思おもったのだ。

（注ちゅう11）梶島かじしま正樹まさき、佐藤さとう豊ゆたか、三宅みやけ和彦かずひこ、ボーメ
梶島かじしま正樹まさきは『天地無用てんちむよう！』シリーズの原案げんあん・キャラクターデザインで知しられるアニメーター。佐藤さとう豊ゆたかは『それいけ！　アンパンマン』などで活躍かつやくする演出えんしゅつ家か。三宅みやけ和彦かずひこは『Ｂｕｇってハニー』などで活躍かつやくしたアニメーター。また、ボーメは海洋かいよう堂どうの造形ぞうけい師しとして有名ゆうめいである。

（注ちゅう12）『ＧU‐ＧUガンモ』
1984年ねん３月がつから翌年よくねん３月がつまで放送ほうそうされた、東映動画とうえいどうが制作せいさくのＴＶてれびアニメ。原作げんさくは細野ほその不二ふじ彦の同名どうめい漫画まんが。スタジオジュニオ、スタジオジャイアンツの若手わかてアニメーターが腕うでを競きそい、傑作けっさく、異色いしょく作さくを残のこしている。取材しゅざい中ちゅうで話題わだいになっている北きた久保くぼ弘之ひろゆきも原画げんがで参加さんか。85年ねん春はるに公開こうかいされた同名どうめい劇場げきじょう作品さくひんは、井上いのうえ俊之としゆきが作画さくが監督かんとくを務つとめ、原画げんがにはイキのいい若手わかてアニメーターが多おおく参加さんかし、画が的てきな見応みごたえのあるフィルムとなった。

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