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animator interview
井上いのうえ俊之としゆき(4)


小黒おぐろ ここで、フル3コマということをもうすこし、このインタビューをんでいる人達ひとたちにもかりやすくしたいんですけれど、3コマのうごきを、ちゅうりなしで、全部ぜんぶ原画げんがえがくということですよね。そうやると、ちゅうりのある2コマよりも、1びょうたりの原画げんが枚数まいすうおおくなる。
井上いのうえ そうだね。うごきの密度みつどというてんうと、多分たぶん最高さいこうのものだろうね。2コマでちゅうりなし、というのは、ちょっとうごきをコントロールしにくいし、それでえがけるうごきは、フル3コマとそんなにがない。1コマフルということ原理げんりてきにはかんがえられるけれども、それは実際じっさいには、自分じぶん自分じぶん原画げんがなかるだけの作業さぎょうになってしまうだろうから、意味いみがないし、そもそもそんなにたくさんえがけないし、スケジュールもない。だから、3コマおきに、全部ぜんぶをコントロールすれば、ほぼ、えがきたいうごきのすべてがえがけるだろうね。
小黒おぐろ すくなくとも、現状げんじょうイメージできる最高さいこう方法ほうほうとして、フル3コマがあるわけですね。
井上いのうえ うーん、だろうね。それにはまず、あたまなかに、えがうごきのイメージがないとダメなんだけどね。イメージがないのにやっても、自分じぶん自分じぶん原画げんがなか作業さぎょうにしかならないから。そういう意味いみで、いそくんは、原画げんが発想はっそううか、うごきの発想はっそうてんで、革命かくめいだったね。もっともかれつづひともいないんだけど。
小黒おぐろ でも、フル3コマという手法しゅほう極端きょくたんにしろ、なるべく全部ぜんぶ原画げんがえがいてしまって、無駄むだなかりはらない、という発想はっそうは、いま目指めざすべきリアルな作画さくがのひとつの方向ほうこうせいにはなっているんじゃないですか?
井上いのうえ そうだね。ちゅうりでへんさないようにするという意味いみでも、なるべく原画げんがえがこうとはするようになったね。
小黒おぐろ つまり、うごきの曖昧あいまいさをてていって、イメージしたうごきそのものをえがこうとしていきたい、ということなんですよね。
井上いのうえ そうしていきいたいね。勿論もちろん、そのためには、その労力ろうりょく匹敵ひってきするイメージをこと大前提だいぜんていなんだけど。たくさん原画げんがえがくのは大変たいへんことだから、それを維持いじするだけのデッサンりょくとか、りょくとか、色々いろいろなものが必要ひつようではあるけれど、まずはイメージが大事だいじだよね。
小黒おぐろ 一方いっぽうで、かつては、リアルな芝居しばいやよくうごいているアニメを目指めざときに、ちゅうりをたくさんれればいい、という発想はっそうもあったわけですよね。
井上いのうえ あったし、いまもあるでしょう。
小黒おぐろ いまはなしは、そうではない、ちが方法ほうほうろんとして、原画げんがをいっぱいえがいて、無駄むだなかりをらす。そうやって、うごきやかたち緻密ちみつにしていこう、という方法ほうほうろんてきた、ということですよね。
井上いのうえ そうだね。
小黒おぐろ そのルーツのひとつが、井上いのうえさんなんじゃないですか?
井上いのうえ そうかなあ。そんなことはないんじゃない?
小黒おぐろ 勿論もちろん、そのまえにはなかむらさんの仕事しごともあるとはおもうんですが。
井上いのうえ ああ、なるほど。勿論もちろんおれたちはそういうこと目指めざして意識いしきてきにやっていたわけではないんだけれど、なかむらさんや、おれたちがいなければ、いそくん仕事しごとというのはまれなかったのかもしれないね。がこのぐらいリアルならば、うごきもこのぐらいリアルでなければ……という発想はっそうが、いそくんしたんだろうから。たとえば、稲野いなのさんの素晴すばらしいけれど、そのうごかすことをイメージしたときに、いそくん手法しゅほう辿たどいた、ということはあるのかも……。
小黒おぐろ いそさんの登場とうじょうで、リアルな作画さくが方向ほうこうせいわった、とっていいんでしょうか。
井上いのうえ どうかな。おおくのアニメーターたち衝撃しょうげきあたえただろうけれど、それで、きゅうにアニメ全体ぜんたいわるというわけではないよね。なにしろ、いそくんがやりはじめたことというのは、自分じぶんなかにイメージがないと、模倣もほうすらできないことだったからね。
小黒おぐろ ああ、それぐらい革命かくめいてきだったんですね。
井上いのうえ だから、しばらくは真似まねするひとすらてこなかった。おれにしても、「そんなこと表現ひょうげんできるのか」って衝撃しょうげきけたけれどね。多分たぶん才能さいのうのあるひとはじたばたしただろうけれど、おれいたっては、じたばたするどころか「ほほーっ」と傍観ぼうかんするしかなかった(笑)。
 おそらく、そうしてじたばたした結果けっか徐々じょじょはじめたのが、大塚おおつか伸治しんじさんの『おもひでぽろぽろ』の仕事しごとなんかになるんだろうねちゅう29)。これは大塚おおつかさんに直接ちょくせつたしかめたわけではないんだけれど、『おもひで〜』のような、せいっぽい、写実しゃじつてき芝居しばいえがこうという発想はっそうは、いそくん影響えいきょうなしではまれてこなかった、とおれおもう。
小黒おぐろ 大塚おおつかさんが『おもひで〜』でやられたのは、どこの場面ばめんなんですか?
井上いのうえ えきでの出迎でむかえのシーンだよ。それから、橋本はしもとすすむおさむくん大平おおひらすすむ也君も、『おもひで〜』をやりながら、平行へいこうして「骨董こっとう」をやっているから、あきらかにあのころからわりはじめているちゅう30)大平おおひらくんは、それまでは「人間にんげん芝居しばいえがきたい」なんていうおとこじゃなかった。それが、人間にんげん芝居しばいえがこうとおもしたのは、いそくん影響えいきょうがあるんじゃないかとおもう。人間にんげんうごき――日常にちじょう仕草しぐさですらえがくにあたいするのだ、ということは、いそくん作画さくがなければ、ぼくらの世代せだいや、それにちか世代せだいのアニメーターはづかなかったんじゃないかな。
小黒おぐろ 具体ぐたいてきには、なにわったんでしょうか。「ちゅうりをやせばよくうごくのだ」みたいな思想しそうっていうのは、古臭ふるくさくなりましたよね。ここ10ねんぐらいで。
井上いのうえ そうだね。いまは、極端きょくたんえば、ちゅうりなど存在そんざいしないのだ、という方向ほうこうになりつつあるかな。人間にんげんうごきを再現さいげんするのに、ちゅうりなど存在そんざいするはずがない、と(笑)。
小黒おぐろ なるほど。ディズニーにちかづいたのか、とおのいたのか、よくからないけど。
井上いのうえ うーん、多分たぶん、ディズニーの原点げんてんにはちかづいているのかな。
小黒おぐろ あ、そうですか。
井上いのうえ ディズニーの作品さくひんというのは、とくむかし作品さくひんは、3コマで再現さいげんするとすると、多分たぶん、ほとんど原画げんがえがかざるをないようなうごきをやっぱりえがいてるんだよね。
 本来ほんらい人間にんげんは、ちゅうりをれたのでは再現さいげんできないようなうごきをしているんだよね。そのことに、いそくん作画さくがときに、みんなづいたということなんだとおもうんだよ。
小黒おぐろ 井上いのうえさんも当然とうぜんづいたわけですね。
井上いのうえ うん。でも、そういううごきをイメージできない自分じぶんにもづいた。そこがくるしむところだよね。勿論もちろんいまでもあきらめずに、そうした理想りそうちかづこうとやってきてはいるわけだけれども。
 アニメーションを元々もともとはじめたひとにしても、人間にんげんうごきをえがきたいとおもってえがいてるわけだから、いまちかいようなえがかたをしてたはずなんだけれども、商業しょうぎょうすすなかで、独特どくとくの「アニメてきうごき」をしていくことになったんだろうね。そうやって、だんだんけずられていった部分ぶぶんを、もう一度いちどもどそうとしているんじゃないかな……。そういう意味いみでは、あるしゅもともどったとえるかも。
小黒おぐろ つまり、元々もともとアニメーションというのは、人間にんげんちか芝居しばいをそのままえがくべきだったんだろうけど、その途中とちゅうにアニメてきうごきというものがまれてしまった。
井上いのうえ そうだね。そのあらわれは、くにによって様々さまざまなんだろうけれど。たとえば、ディズニーのちぢみなんかもね、発明はつめいしたとき意味いみがあったとおもう。それが、最近さいきんのものは、記号きごうとしてえがいている部分ぶぶんがあるんじゃないかな。
小黒おぐろ なるほど。ここで、はっきりさせておきたいんですけれど、たとえば井上いのうえさんがふく作画さくが監督かんとくとして参加さんかした『ひとおおかみ』は、3コマが基本きほんになっていますけど、あれはリミテッドアニメではないんですね?
井上いのうえ うん、リミテッドアニメではないよ。勿論もちろん経済けいざいてき事情じじょうがあって、リミテッドにした部分ぶぶんもあるけれどね。あたまなかのイメージどおりにはとてもえがれないから、ある程度ていど妥協だきょうしてえがいてるっていう部分ぶぶんはあるけれどもね。
小黒おぐろ でも、必要ひつよう芝居しばいはちゃんとえがいている。
井上いのうえ 理想りそうとしてはね、ちゃんとえがこうとしている。えがれているかどうかはべつだけどね。えがれていない部分ぶぶんおおいとはおもうけれども。
小黒おぐろ でも、思想しそうとしては「フルアニメ」、なんですね。
井上いのうえ うん、勿論もちろん勿論もちろん。イメージしたものを忠実ちゅうじつ再現さいげんしたいと、スタッフみんなおもっているから。
小黒おぐろ ここで、のためにも、もう一度いちどはっきり断言だんげんしてもらいたいんですけれど、1コマや2コマだからフルアニメ、3コマだからリミテッドだっていうことでは「ない」んですね?
井上いのうえ そうです。まあ、2コマで綺麗きれいうごいてるものをフルアニメとってるひともいるみたいだから、みんながどういう意味いみ使つかっているのかは、からないけれども。2コマでうごいているのをフルアニメとうのであれば、そんなものはいますぐにでもできるわけで。
小黒おぐろ たしかに、そういう意味いみでフルアニメとぶのならば、タイムシートにてんてば、いくらでもフルアニメになるわけですからね(笑)。
 本当ほんとうに1コマで正確せいかくにものがうごくっていうのはどういうことかっていうのは、CGがせてくれたわけですよね。立体りったいとしての空間くうかん計算けいさんして、うごかしてみせてくれた。でも、それはぼくらがおもっている手書てがきのフルアニメのうごきとは、全然ぜんぜんちがうものだった。
井上いのうえ そうだね。だから、アニメ本来ほんらい魅力みりょくというのはべつのところに秘密ひみつがあるようながする。『ひとおおかみ』でも、であること大事だいじにしたいと、スタッフ全員ぜんいんおもっていたからね。それが、生身なまみ人間にんげんのようにうごくからなにかしらの魅力みりょくしょうじているのだとおれしんじたい。そこは、「自分じぶんがなんでここまでアニメにんでるのか」っていう、根本こんぽんてき部分ぶぶんだよね。おれは、なぜここまで苦労くろうしてアニメをやるのか。その理由りゆうははっきりとはからないけど、でもそのあたりなに秘密ひみつがあるんだろう、とはおもっている。
小黒おぐろ そうですね。CGがてきたところで、あらためて、では手書てがきのアニメの魅力みりょくとはなんだろうか、っていうことえてくるんじゃないですかね。
井上いのうえ そうだね。だから、『ひとおおかみ』が、アニメ本来ほんらいの、表現ひょうげんするという原点げんてんかえろうとしたとき商業しょうぎょうアニメのなかでそうならざるをなかったえがかた一旦いったんてるとうか、原点げんてんかえろうとするのも当然とうぜんだよね。





ちゅう29)大塚おおつか伸治しんじ
歴代れきだいのジブリ作品さくひん劇場げきじょう天使てんしのたまご』、劇場げきじょうひとおおかみとう参加さんかしているアニメーター。劇場げきじょうそう天然色てんねんしょく漫画まんが映画えいが 平成へいせいたぬき合戦かっせんぽんぽこ』では作画さくが監督かんとく、イメージ・ビルディング、キャラクターデザインを担当たんとう

ちゅう30)「骨董こっとう
夢枕ゆめまくらばく とわいらいと劇場げきじょう』という連作れんさくの1ほん。OVA『レンタマン』というオムニバスビデオのなかの1へんとして1991ねんリリース。脚本きゃくほんコンテ、キャラクターデザイン、作画さくが監督かんとく監督かんとく大平おおひらすすむ也がつとめている。

●「animator interview 井上いのうえ俊之としゆき(5)」へつづ

(01.02.05)


 
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