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animator interview
井上いのうえ俊之としゆき(3)


小黒おぐろ うつのみやさんは、具体ぐたいてきにはどうたくみかったんですか?
井上いのうえ うごかすということかんして、本当ほんとう才能さいのうがあった。はしからていると、なんの苦労くろうもなく、にすることができるんだ。まず普通ふつうなら「どんなうごきにしようか」と試行しこう錯誤さくごしたり、1まいまいくるしんだり、あるいはえがいてみてから、タイミングがちがうとか、えがくべきじゃなかったとかづくんだけど、そういうことがない。えがはじめるまえにほぼ全部ぜんぶつかんでるようなえがかたをする。よどみなくえがくんだよ。しかもえがかれたうごきはあざやか。「このがまずかった」としてなおすようなこともない。で、はや仕上しあがるかっていうと、そうでもなくて、おれおなじか、むしろおそいぐらいで。それはなぜかというと、えがいてから、もっと面白おもしろことおもいつくと、それまでにえがいたものをてちゃうんだ。
 本当ほんとう才能さいのうがあるひとは、そんな芸当げいとうができるのか、とおもったね。それまで、身近みぢかにそんなえがかたをするひとはいなかった。「えがけないうごきはないんだ」みたいな自信じしんあふれているし、実際じっさいえがく。もっとも、キャラはない。ないどころかかおなんて、まるなんだけど(笑)、でも、アニメーターに必要ひつような、ありとあらゆるアングルをものにできる、という、そういう才能さいのうあふれていた。
 はっきり、おれは「けている」っておもったし、それで、なんとかうつのみやをびっくりさせるような原画げんがえがいていくんだ、っておもったね。
小黒おぐろ そうなんですか。
井上いのうえ うつのみやはジュニオをすぐにめてしまうんだけど、その交流こうりゅうのこるんだ。それでしばらくは、うつのみやのこと意識いしきしながら仕事しごとをした。正直しょうじきおとこで、辛辣しんらつなんだ。ちょっとでもおれいた原画げんがえがくと、いた部分ぶぶんするど指摘してきしてくる。だから、うつのみやのまえではけない。また、ひと原画げんがたがるし、自分じぶん原画げんがせたがるんだよ。ぎゃくに、いい原画げんがえがくと、本当ほんとうめてくれるおとこでね。だから、すご刺激しげきになった。
 うつのみやは、その梅津うめづたいしん)さんと出会であい、『アリオン』で稲野いなの義信よしのぶ)さんと出会であって、感銘かんめいけて、それまで漫画まんがチックだった絵柄えがら急速きゅうそくわっていくんだけど。そうやってすご進歩しんぽげるのを間近まぢかて、いていかれないように、ってこちらも頑張がんばった。
小黒おぐろ 本当ほんとうにライバルとして意識いしきされていたんですね。
井上いのうえ うん、意識いしきしていた。ああ、それで、いまおもしたんだけど、原画げんがになったばかりのころ、これまでのはなしとはべつに、意識いしきしていたひとがいたんだよ。それが森本もりもと晃司こうじ)さんちゅう19)
 『スペースコブラ』の放映ほうえいをかなり衝撃しょうげきってていた記憶きおくがあるよ。森本もりもとさんが、専門せんもん学校がっこう先輩せんぱいだってっていたから、余計よけい意識いしきした。『コブラ』の1で、一番いちばんになったところは、森本もりもとさんの仕事しごとだったんだちゅう20)。そんなわけで、うつのみやに出会であうまでは、いつきたいとおもって、森本もりもとさんたち、あんなぷるの仕事しごと熱心ねっしんていた。
小黒おぐろ 森本もりもとさんのどういうところがよかったんですか。
井上いのうえ おれきな、大塚おおつかさんとか、友永ともながさんとか、なかむらたかしさんの仕事しごとを、ものすごくいいがたれて、原画げんがえがいてたっていう印象いんしょうがあった。おれのやりたい、おれ理想りそう原画げんがを、森本もりもとさんがさきえがいちゃっているというかんじがあったんだ。
 当時とうじ森本もりもとさんは、『コブラ』をればかるけど、すごねばっこくて、ハッスルした原画げんがえがいていたんだよ。いまおもかえすと、『ガンモ』をやってがっかりしたのは、森本もりもとさんのようにえがけなかったということもあったのかな。
小黒おぐろ なかむらさんの仕事しごとれて、とおっしゃいましたが、井上いのうえさん自身じしんが『ガンモ』ですでに、ちょっとリアルなかんじでえがいてますよね。


ちゅう19)森本もりもと晃司こうじ
かつてはトリッキーなアクションを得意とくいとするアニメーター。近年きんねんでは監督かんとくとして、ミュージッククリップとうがけている。代表だいひょうさくは、劇場げきじょう音響おんきょう生命せいめいたいノイズマン』、ミュージッククリップ『GLAY サバイバル』とう現在げんざいは、STUDIO4゚Cに所属しょぞく

ちゅう20)『コブラ』の1
『スペースコブラ』だいだい 復活ふっかつ!サイコガン」。
井上いのうえ それはもう、そうだよね。もう『ウラシマン』も『幻魔げんま大戦たいせん』もているんだから。あの洗礼せんれい当時とうじ若手わかてが、けてとおことはできないよ(笑)。まあ、なかむらさんてきなフルアニメ志向しこうは、現実げんじつてき枚数まいすう制約せいやくがあって、不可能ふかのうだから、そこはAプロてきなタイミングにえて(笑)。ちゅう21)
小黒おぐろ あと、『ガンモ』のころ森山もりやま(ゆうじ)さんの影響えいきょうもあります?ちゅう22)
井上いのうえ あるね。『うるせいやつら』をかなり意識いしきしているよね。表情ひょうじょうなんかは、すごく『うるせいてきだとおもう。
小黒おぐろ ということは、なかむらさんのリアルかんと、Aプロてきなタイミングと、森山もりやまさんてきなキャラクターの処理しょりが、井上いのうえさんの『ガンモ』だったんですね。
井上いのうえ うん……だったし、それをなしなかったのも『ガンモ』だね。
 結局けっきょく、ずいぶんまでコンプレックスがあったな。自分じぶんきだったひと――大塚おおつかさん、宮崎みやざきさん、小田部おたべさん、それをいだ友永ともながさんとか、全然ぜんぜんべつのとこからてきたなかむらさんとか、それらをたくみれて消化しょうかした森本もりもとさんとか、あるいは森山もりやまさんとか――そうした人達ひとたち作画さくがには、いつもおよばないっていうかんじが、ずうっとあったね。
小黒おぐろ それが払拭ふっしょくできるのは、いつごろなんですか。
井上いのうえ うーん。『くじらのピーク』かなあちゅう23)。そのころになると、そういうことがあまりにならなくなるんだよ。
小黒おぐろ ということは、『AKIRA』のころは、まだコンプレックスがあった。
井上いのうえ そう。あのころも、まだ「なかむらさんや森本もりもとさんのようにえがけないな」とおもっていた。ただ、そのころになると、たとえばなかむらさんの『迷宮めいきゅう物語ものがたり』の「工事こうじ中止ちゅうし命令めいれい」をて、不満ふまんかんじるようになっていた。すごいクオリティではあるけど、「なにけてるな」っていうかんじは、はっきりときおもった。大好だいすきな、なかむらさんと森本もりもとさん、お2人ふたり仕事しごとだからね、それまでなら「なかむらさんまんさい」「森本もりもとさんまんさい」だけだったんだろうけど、そのコンビの仕事しごとはじめて不満ふまんおぼえる自分じぶんがいたんだ。
小黒おぐろ 具体ぐたいてきにはどういうところが不満ふまんだったんですか?
井上いのうえ これはその時点じてんではからなくて、のちにはっきりするんだけど、キャラクターの仕草しぐさ芝居しばいについてなんだ。芝居しばいのリアリズムみたいなてんについて、不満ふまんかんじていたんだよ。技術ぎじゅつりょくたかさやたくみさはみとめるし、当時とうじおれには到底とうていあんなものはえがけるわけがないんだけど、それでも、違和感いわかんがあったんだよね。だから、そのころ、やっと自我じが芽生めばえたんだろうね。
 そのころ、アニメーターになって、6、7ねんってたとおもうんだけど、ようやく自分じぶんかってきたということかな。いままでは自分じぶんのできないことでもやってみたいとおもっていたけれど、できないこともはっきりかってきた。そのわり、自分じぶんのよさみたいなものにもづきしたのかな。それで、そういう観点かんてんからて、ようやく自分じぶんきだった人達ひとたち仕事しごとにも、不満ふまんてるようになってきた。
 そういう意味いみでは、『AKIRA』をたのもおおきいね。じっくり1年間ねんかんかけてえがいてみたおかげで、いままできだったアニメにりないもの、自分じぶんにできることできないこと努力どりょくすればなんとかなるそうでないこと、その見極みきわめがついたとおもう。
 いまわかひとにはね、「TVてれびをやってたくさんえがきなさい」ってすすめているんだよ。はやかんがえをめて、はやにするっていうのは大事だいじことだからね。でも、それとはべつに、こしえて、自分じぶん限界げんかいさぐるということもどこかでやらないとダメだとおもう。それが、自分じぶんにとっては『AKIRA』だったんだろうね。自分じぶん本気ほんきえがいたらどのぐらいになるのか、ってさっしがついた。
小黒おぐろ 自分じぶんかってきたというのは、具体ぐたいてきにはどんなことなんでしょうか。
井上いのうえ  うーん、それは言葉ことばにはしにくいな。やりたいことがはっきりしてきたというか。その当時とうじに、それを具体ぐたいてきおもっていたわけじゃないけど。
 たとえば、人間にんげんなにげなくはなのところにっていく動作どうさって、意識いしきてきうごかしたとき動作どうさとはあきらかにちがうよね。だけど、いままでたくみいとわれているひとでも、それをおなじものとしてうごかしていたようにおもうんだ。「アニメてきなタイミング」としてね。多分たぶん、そういった、さりげなさみたいな部分ぶぶんふくめて、人間にんげんせいっぽい芝居しばいえがきたいとおもうようになったということかな。
小黒おぐろ じゃあ、できないとかったというのは?




ちゅう21)Aプロダクション
Aプロダクションは、東京とうきょうムービーの作画さくが部門ぶもんとして設立せつりつされた制作せいさく会社かいしゃで、シンエイ動画どうが前身ぜんしん。Aプロダクションがかかわった代表だいひょうてき作品さくひんに、『巨人きょじんほし』『ルパンさんせいだいさく]』『ど根性こんじょうガエル』『ガンバの冒険ぼうけんとうがある。

ちゅう22)森山もりやまゆうじ
まぼろしそうつて さいゆう』のキャラクターデザインやOVA『GEOBEEDERS』の監督かんとくなどでられるアニメーター、演出えんしゅつ当時とうじは『うるせいやつら』で活躍かつやくしていた若手わかてアニメーターの中心ちゅうしんてき人物じんぶつだった。森山もりやま雄治ゆうじ、もりやまゆうじと表記ひょうきすることもある。

ちゅう23)『くじらのピーク』
『とべ! くじらのピーク』は1991ねん公開こうかい劇場げきじょう作品さくひん監督かんとく森本もりもと晃司こうじ、キャラクターデザイン・作画さくが監督かんとくをうつのみやさとるがつとめた。
井上いのうえ それも言葉ことばにするのはむずかしいんだけど……たとえば、あんなぷる時代じだい森本もりもとさんというのは、非常ひじょう意表いひょうをついた原画げんがえがかたをするんだよ。そういうひとおどろかすような原画げんがえがかた自分じぶんにはできない。勿論もちろん、その思想しそうというか、姿勢しせいいまでも見習みならおうとしているんだけどね。つまり……発明はつめいというか、ひらめきだよね。どんなにたくみくとも、スタンダードな原画げんがえがひともいるわけ。そういうひとくらべると、森本もりもとさんは、なんでそこにそういう原画げんがはいるのかからないようなれるんだよ。言葉ことばにすれば、「こっちのほうが、快感かいかんがあるじゃない」としかえないような理由りゆうでね。それは才能さいのうがそうさせているから、真似まねしようがない。勿論もちろん、エフェクトのかたとかおくかたとか、些末な技術ぎじゅつ真似まねできるよ。でも、「こう(うごきを)ったら、面白おもしろいでしょ」という大本おおもと発想はっそう真似まねできないんだよ。おれおもうに、大平おおひらすすむ也君とか、いそくんだとか、そういうひらめきのあるひとかぎられているちゅう24)
小黒おぐろ いそさんのお名前なまえがさっきからていますよね。ここで、井上いのうえさんのいそさんについての印象いんしょうについてはなしてもらえますか。
井上いのうえ 最初さいしょいそくん仕事しごと出会であったのは、『鬼太郎おにたろうだい]』の「魔女まじょジニヤー」のかいかなちゅう25)
小黒おぐろ はいはい。当時とうじ「アニメージュ」で記事きじになっていますよね。
井上いのうえ あ、それでおれいそくん名前なまえったのかな。『魔女まじょ宅急便たっきゅうびん』をやっているときに、なかむらさんから『ピーターパンの冒険ぼうけん』を手伝てつだってくれとたのまれたんだよね。いそがしくてことわったんだけど、そのときに、「だれかいい原画げんがはいないか」とかれて、いそくん名前なまえしたおぼえがある。まだ、1ほんしかことなかったのに(笑)。
小黒おぐろ あのときいそさんの仕事しごとは、井上いのうえさんにていましたよね。自分じぶんているとはおもわなかったんですか?
井上いのうえ ちょっとかんじた。でも、おれよりたくみいとおもった(笑)。おれれようとおもってもれられなかった稲野いなのさんのテイスト――あれは、本当ほんとうたくみくないとれられないんだよね――をたくみにれていて、うごきにれとえがあった。しかも、いまった、ひらめきがあったね。でも、まだそのときはそんなにはおどろかなかった。
小黒おぐろ あのときいそさんは、リミテッド志向しこうがありましたからね。











ちゅう24) 大平おおひらすすむ
OVA『THE八犬伝はっけんでんあたらしあきら]』4監督かんとくとしてられる鬼才きさい近年きんねん作品さくひんにOVA『フリクリ』(原画げんが)がある。

ちゅう25) 「魔女まじょジニヤー」のかい
『ゲゲゲの鬼太郎おにたろうだい]』102「おてんば魔女まじょジニヤー」。
井上いのうえ うん。そのに、『ガンダム0080』を、うつのみやのいえことになる(笑)ちゅう26)。ちょうど『先祖せんぞさま万々歳ばんばんざい!』の1ができたというので、せてもらったんだよ。それにあわせて、あいつもすごおとこで、『ガンダム』のいそくんのところだけをダビングしていてね(笑)。「『ガンダム』ですごいのがあったからる?」ってって、せてくれたんだ。そのときにはいそくん名前なまえたかどうかはおぼえていないんだけど、はっきり衝撃しょうげきけたおぼえがある。「すご天才てんさいてきたな」って。
 その多分たぶん時間じかんはそんなにへだてないで、いそくんのやった『ピーターパン』をことになるんだよちゅう27)。それはもう、はっきりと、リミテッドじゃなくなってたね。あるキャラクターがこわがってなにぶたのようなものをあたまこうむるという芝居しばいだったんだけど、いままでおれえがいてきたようなやりかたではえがきえないようなうごきになっていた。
 どうやってえがいているのかとおもって、ちょうどそのかいさくかんだった沖浦おきうら啓之ひろゆきくんいたんだけど、「なんか全部ぜんぶ原画げんがえがいていたよ」とうんだ(笑)ちゅう28)。それをいて、「そんなえがかたがあったのか!?」とおもったね。と同時どうじに「そんなやりかたうごきをコントロールできるのか? 本当ほんとうえがけるのか?」ともおもった。
小黒おぐろ それについては当時とうじいそさんに直接ちょくせつうかがったことがありますよ。それをいそさんは「自分じぶん発明はつめいした『フル3コマ』だ」ってっておられたと記憶きおくしています。『おもひでぽろぽろ』のドン・ガバチョも、おな手法しゅほうじゃないですか。
井上いのうえ ああ、そうなんだ。たしかに、あれは一種いっしゅ発明はつめいちかい。それ以前いぜんにはどんなにたくみじんでもそういう発想はっそうはなかったからね。それに、そもそもフル3コマでえがくべきうごきをイメージしていないから、フル3コマである必要ひつようがなかった。あたまなかにあるイメージが、ぜん原画げんが必要ひつようとするうごきじゃなかった。さかのぼれば、むかしのディズニーにはあるとおもうんだけど、それをのぞけば、そういう複雑ふくざつうごきをだれもイメージしてなかった。それまではみんな、ちゅうりをれた、ある程度ていどリズムのあるうごきだった。

ちゅう26) 『ガンダム0080』
『MOBILE SUIT GUNDAM 0080 ポケットのなか戦争せんそう』は1989ねんリリースのビデオシリーズ。いそ光雄みつおは、だい南極なんきょく基地きち攻略こうりゃくシーンを担当たんとうしている。

ちゅう27) いそくんのやった『ピーターパン』
『ピーターパンの冒険ぼうけんだい20絶体絶命ぜったいぜつめい! ウェンディがきりたにえた」。



ちゅう28)沖浦おきうら啓之ひろゆき
劇場げきじょうはしれメロス』の作画さくが監督かんとくとうられるアニメーター。はつ監督かんとく作品さくひんひとおおかみ』が昨年さくねん劇場げきじょう公開こうかいされ、話題わだいあつめた。

●「animator interview 井上いのうえ俊之としゆき(4)」へつづ

(01.02.05)


 
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