店内てんないにクラシック音楽おんがくを流ながすと客きゃくの購入こうにゅう額がく増ぞう？BGM、客きゃくの購買こうばい行動こうどうを大おおきく左右さゆう

「Thinkstock」より

　マーケティング学者がくしゃとして有名ゆうめいなフィリップ・コトラーは、1973年ねんに発表はっぴょうした論文ろんぶんで「アトモスフェリックス（atmospherics）」という概念がいねんを提唱ていしょうしました【註1】。アトモスフェリックスは、消費しょうひ者しゃから快適かいてきな感覚かんかくや感情かんじょうを引ひき出だせるように、買かい物ものや消費しょうひの環境かんきょうをデザインすることと定義ていぎされます。コトラーは、消費しょうひ者しゃが製品せいひんに対たいしてだけでなく、パッケージ、広告こうこく、サービスなどの関連かんれん特性とくせいにも反応はんのうすること、そして、その重要じゅうような特性とくせいのひとつが購入こうにゅうや消費しょうひが行おこなわれる場所ばしょの「雰囲気ふんいき」であることを主張しゅちょうしました。

　魅力みりょく的てきな雰囲気ふんいきを醸かもし出だしている店みせは、消費しょうひ者しゃの注意ちゅういを引ひき、ポジティブな感情かんじょうを喚起かんきするので、商品しょうひんの購入こうにゅう意欲いよくを高たかめることができます。また、適切てきせつな雰囲気ふんいきを創つくり上あげている店みせは、言葉ことばや文字もじを使つかわなくても店みせのコンセプトをしっかりと消費しょうひ者しゃに伝つたえることができます。

　この店みせの雰囲気ふんいきを構成こうせいする要素ようそのひとつにBGM（バックグラウンド・ミュージック）があります【註2】。音楽おんがくにはリラックスしたり、やる気きを高たかめたりするなどさまざまな効果こうかが確認かくにんされていますが、BGMがもたらす効果こうかとはどのようなものなのでしょうか。

　先行せんこう研究けんきゅうからは、スーパーでの買かい物ものを終了しゅうりょうした直後ちょくごの買かい物もの客きゃくにBGMを思おもい出だせるか尋たずねたところ、思おもい出だせると回答かいとうした顧客こきゃくは3割わり程度ていどで、多おおくの買かい物もの客きゃくがBGMを意識いしきしないことが報告ほうこくされています【註3】。この割合わりあいは平日へいじつに測定そくていした結果けっかなので、週末しゅうまつなどの混こみ合あっている状況じょうきょうではさらに低ひくくなると思おもわれます。慣なれたスーパーでの買かい物もの客きゃくは効率こうりつよく買かい物ものをすることに集中しゅうちゅうしていますし、店内てんないには多おおくの刺激しげき（商品しょうひん、価格かかく、値引ねびき、特別とくべつ陳列ちんれつなど）があるため、それらの取捨選択しゅしゃせんたくは積極せっきょく的てきに行おこなわれます。時間じかん限定げんていセールなどのアナウンスでもなければ、重要じゅうよう度どの低ひくいBGMにき耳きみみを立たてることは稀まれでしょう。そうなると果はたして、スーパーではBGMを流ながすことに意味いみはあるのでしょうか。

　反対はんたいに、初はじめて訪おとずれる店みせ、たまにしか訪おとずれない店みせ、あるいは長時間ちょうじかん滞在たいざいする店みせでは、店みせのさまざまな側面そくめんに注意ちゅういが向むけられるので、BGMにも気きづく可能かのう性せいは高たかくなると考かんがえられます。この場合ばあい、そのBGMによって購買こうばいや消費しょうひに変化へんかはあるのでしょうか。

　これらの疑問ぎもんにこたえるべく、消費しょうひ者しゃ行動こうどう研究けんきゅうではかなり昔むかしからBGMと消費しょうひ者しゃ行動こうどうとの関係かんけいについて調しらべてきています。そこで以下いかでは、実在じつざいする店みせにおいてBGMの実験じっけんを行おこなった研究けんきゅうをとりあげ、BGMの効果こうかについて確認かくにんしたいと思おもいます。