ボケ老人ろうじんと接せっするのは案外あんがい楽たのしい！ボケ老人ろうじんは本当ほんとうに不幸ふこうなのか？

「Thinkstock」より

　認知にんち症しょうに対たいする最大さいだいの問題もんだいのひとつは、認知にんち症しょうそのものではなく、認知にんち症しょうに対たいする不安ふあん、心配しんぱいであると、本ほん連載れんさいでは繰くり返かえし書かいてきました。今いまの生活せいかつにそれほど不自由ふじゆうはないのだけれども、明日あしたの生活せいかつが心配しんぱい。ピンピンコロリで死しんでしまうのならいいけれど、ボケて生いき続つづけるのは心配しんぱい。明日あしたの心配しんぱいを今いまから心配しんぱいしている、そういう状況じょうきょうです。

　この心配しんぱいは普遍ふへん的てきな心配しんぱいのひとつといっていいものでしょう。「明日あしたのことがわからない不安ふあん」とでもいえば、わかりやすいかもしれません。明日あしたも今日きょうと同おなじような日々ひびが訪おとずれればいいけれど、何なにかよからぬ変化へんかが現あらわれたらどうしよう。特とくによくない変化へんかについての心配しんぱいです。昨日きのうより物忘ものわすれが進すすんでいる、お釣つりの計算けいさんが今いままでのようにさっさとできない――。明日あしたもっと進すすんだら、1年ねん後ごは、5年ねん後ごはどうなってしまうのか、という心配しんぱいです。

　つまり「認知にんち症しょうに対たいする不安ふあん、心配しんぱい」とは、「変化へんかすることに対たいする不安ふあん、心配しんぱい」といいかえることができるでしょう。

　しかし、よく考かんがえてみてください。変化へんかしないとなったら、どういうことになるでしょう。ずっと同おなじ生活せいかつが続つづくとしたら、それもまた耐たえ難がたいことではないでしょうか。「いや、今いまの幸福こうふくが延々えんえんと続つづいてくれたら、そんないいことはない」と考かんがえる人ひとがいるかもしれません。しかし、それは今いま幸福こうふくでない人ひと、あるいはその人ひとを支ささえている人ひとが幸福こうふくになるチャンスをも奪うばっている面めんがあるのではないでしょうか。

「変化へんか」には、「良よい変化へんか」も「悪わるい変化へんか」もあります。変化へんかの悪わるい面めんだけでなく良よい面めんにも目めを向むけてみると、案外あんがい解決かいけつの道筋みちすじが見みえてくるかもしれません。そういった方向ほうこうは、以下いかのように一般いっぱん化かできます。

「変化へんかすることに対たいする希望きぼう、期待きたい」

　老化ろうかということは、希望きぼうや期待きたいよりも、不安ふあんや心配しんぱいのみを増大ぞうだいさせやすい、そういう面めんがあるでしょう。認知にんち症しょうに対たいする気持きもちも、そうだと思おもいます。しかし、必かならずしもそうではないと思おもいます。実際じっさいに認知にんち症しょう患者かんじゃが不幸ふこうなのは、認知にんち症しょうではない人ひとがその負まけの面めんばかりに焦点しょうてんを当あて、不安ふあんや心配しんぱいばかりを語かたるからではないでしょうか。認知にんち症しょう患者かんじゃ自身じしんは実際じっさいのところどうなのでしょう。そういう視点してんで認知にんち症しょうの人ひとを見みてみると、意外いがいなものが見みえてくるかもしれません。