介護かいご現場げんばがノータッチの“死後しご”のこと…“死しの質しつ”を高たかめることこそ重要じゅうようではないか

「Getty Images」より

　社会しゃかい福祉ふくし士しの吉川よしかわ美津子みつこです。福祉ふくしといっても、高齢こうれい者しゃ・障害しょうがい者しゃ・児童じどう・地域ちいき・低てい所得しょとく者しゃ等とう、さまざまな領域りょういきがあり、社会しゃかい福祉ふくし士しは日常にちじょう生活せいかつに課題かだいを抱かかえている人ひとなどに対たいし、社会しゃかい資源しげんを活用かつようして相談そうだん・支援しえんを行おこなうことを業ごうとしますが、私わたしは「生せい」と「死し」の間あいだに大おおきな狭間はざまがあることを課題かだいとして掲かかげ、「生せい」と「死し」をつなぐ支援しえんに着目ちゃくもくして活動かつどうしています。長年ながねん、葬儀そうぎ業界ぎょうかいに身みを置おいてきた経験けいけんと、現役げんえきの福祉ふくし職しょくとしての現場げんばの実情じつじょうを踏ふまえ、実際じっさいの事例じれいを紹介しょうかいしながら、情報じょうほうをお伝つたえしていきたいと思おもっています。

「看取みとり」の環境かんきょうは整備せいびされつつある

　昨年さくねん、厚生こうせい労働ろうどう省しょうでは11月30日にちを「人生じんせい会議かいぎの日ひ」として定さだめた。「人生じんせい会議かいぎ」とは、もしものときに備そなえて、望のぞむ医療いりょうやケアについて前まえもって考かんがえ、家族かぞく等とうや医療いりょう・ケアチームと話はなし合あい共有きょうゆうする取とり組くみのこと。背景はいけいにあるのは、ACP（アドバンス・ケア・プランニングの略りゃく）という考かんがえ方かただ。厚生こうせい労働ろうどう省しょうではこれまでもACPの普及ふきゅう・啓発けいはつをしてきたが、「イメージがつかみにくい」等とうの意見いけんもあり、より馴染なじみやすい言葉ことばとなるよう愛称あいしょうを一般いっぱん公募こうぼし、「人生じんせい会議かいぎ」となった。

　医療いりょう保険ほけん、介護かいご保険ほけんでも「ターミナルケア」「看取みとり」に関かんする加算かさんが制度せいど化かされ、どこでどのように最期さいごを迎むかえたいか、ACPの概念がいねんが広ひろまっている。

　特別とくべつ養護ようご老人ろうじんホームに入居にゅうきょ中ちゅうの森田もりた由美子ゆみこさん（90歳さい）は、数すう年ねん前まえに発症はっしょうした脳出血のうしゅっけつの後遺症こういしょうで、寝ねたきりになっていた。肢体したい不自由ふじゆうで、身体しんたいは硬直こうちょくし、首くびも自力じりきで動うごかすことができない。食事しょくじは高こうカロリー流動りゅうどう食しょくを口くちから飲のんでいるが、飲のんでいるというより無理むりやり流ながし込こんでいる状況じょうきょう。表情ひょうじょうも乏とぼしく、常つねに半はん目めでありながらも、好このみの味あじではない流動りゅうどう食しょくを入いれると口くちを真一文字まいちもんじにぐっと閉とじる。ときどき様子ようすを見みにいく子こどもたちは、「いつまでこの状況じょうきょうが続つづくのか、母はははこれで本望ほんもうなのだろうか」と心しんの中なかで葛藤かっとうしていた。

　施設しせつに入居にゅうきょして5年ねん目めを迎むかえた頃ころだっただろうか、由美子ゆみこさんの嚥下えんかの状態じょうたいがかなり悪わるくなり、流動りゅうどう食しょくを口くちにすることも難むずかしくなってきた。胃いろう点滴てんてきをするという選択肢せんたくしも医療いりょう機関きかんから提示ていじされたが、家族かぞくの答こたえは一致いっちしていた。

「食たべられなくなったら、何なにもせず自然しぜんに逝いかせてあげたい」

　もはや生命せいめいの質しつを向上こうじょうさせる可能かのう性せいがなく、回復かいふくする見込みこみがないと判断はんだんされたとき、そしてこれ以上いじょうの治療ちりょうや人工じんこう的てき栄養えいよう補給ほきゅう等とうを望のぞまない場合ばあいは、終末しゅうまつ期きへの移行いこうと捉とらえられ、看取みとりの体制たいせいに入はいる。もちろん、本人ほんにんの推定すいてい意思いしを尊重そんちょうしたうえで、本人ほんにんにとって最善さいぜんの治療ちりょう・ケア方針ほうしんを、医療いりょう・ケアチームで慎重しんちょうに判断はんだんすることを前提ぜんていとしている。由美子ゆみこさんの家族かぞくは以前いぜんより施設しせつと「看取みとり同意どうい書しょ」を交かわしてはいたが、改あらためて医師いしの診断しんだんのもと、施設しせつと家族かぞくの間あいだで十分じゅうぶんな話はなし合あいを持もち、看取みとりについての説明せつめいを受うけ再度さいど意思いしを確認かくにんした。実施じっしにあたっては、医師いしの指示しじを得えながら生活せいかつ相談そうだん員いん、介護かいご支援しえん専門せんもん員いん、看護かんご師し、介護かいご士し、管理かんり栄養士えいようし等とうと連携れんけいし、「看取みとり介護かいご計画けいかく書しょ」を作成さくせいした。

　こうして、由美子ゆみこさんはその時ときを迎むかえる。水分すいぶん摂取せっしゅができなくなり、やがて排尿はいにょうがなくなり個室こしつへ移うつり看取みとりの体制たいせいへ。そして家族かぞくと、数すう年間ねんかん由美子ゆみこさんの暮くらしをサポートしてきた施設しせつの職員しょくいんに見守みまもられ、安やすらかに旅立たびだった。

　ご遺体いたいは霊安室れいあんしつに移動いどうし、枕まくら飾かざりがセットされる。そんななか、家族かぞくの口くちからこんな言葉ことばが出でた。

「葬儀そうぎ社しゃがまだ決きまっていない」