卒論そつろんで大学生だいがくせい「ネット検索けんさくで見みつからない」→教員きょういんが即そく見みつける…若者わかものの検索けんさく能力のうりょく低下ていか

　大学だいがく4年生ねんせいが卒論そつろん提出ていしゅつに向むけて大詰おおづめを迎むかえている時期じきだが、近年きんねんでは卒論そつろん執筆しっぴつの際さいの情報じょうほう収集しゅうしゅうに問題もんだいがあると指摘してきする声こえが少すくなくない。たとえば、11月にはある大学だいがく教員きょういんがTwitterに投稿とうこうした以下いかツイートが1万まん6000「いいね」を集あつめ話題わだいになっていた。

＜卒論そつろん指導しどうをしていると、学生がくせいの検索けんさく能力のうりょくが意外いがいに低ひくいのに驚おどろくことがある。全然ぜんぜん見みつかりません〜とよく泣なきつかれるが、私わたしが検索けんさくしてみたらすぐ見みつかることが多おおい。実じつは検索けんさくしてなかったんじゃないかと疑うたがったが、そうでもないようだ。不思議ふしぎだ。うちだけの現象げんしょうだろうか＞

　このユーザーのツイートのリプライには

「こうした若者わかものには心当こころあたりがある」
「専攻せんこう関係かんけいなくそういう学生がくせいは増ふえた」
「素人しろうとのブログやまとめサイトを根拠こんきょにするなと言いったのに……」

などと多おおくの共感きょうかんの声こえが寄よせられていた。そこで今回こんかいは、ITジャーナリストで成蹊大学せいけいだいがく客員きゃくいん教授きょうじゅの高橋たかはし暁子あきこ氏しに、本当ほんとうに今いま、若者わかものの検索けんさく能力のうりょくが下さがっているのかについて解説かいせつしてもらった。

検索けんさく能力のうりょくの低下ていかには、SNSが大おおいに関係かんけいあり？

　高橋たかはし氏しは若者わかものを大学生だいがくせいと仮定かていした上うえで次つぎのようにいう。

「検索けんさくサービス上じょうに限定げんていすれば、若者わかものの検索けんさく能力のうりょくが下さがっているという見解けんかいには概おおむね賛同さんどうできます。たとえば、誰だれでも編集へんしゅうできるがゆえに情報じょうほうの正確せいかく性せいが低ひくいと指摘してきされる『Wikipedia』を出典しゅってん元もとにしてしまう、検索けんさく上位じょういのものを信頼しんらい度どの高たかい情報じょうほうだと受うけ取とってしまう、出典しゅってん元もとを1つ2つ程度ていどしか参照さんしょうしないとか、信頼しんらい性せいの高たかくないサイトのみを出典しゅってん元もととしてしまうなどですね。もちろん複数ふくすうのメディアを見比みくらべて、正確せいかくな情報じょうほうを得える若者わかものも大勢おおぜいいますが、そうではない不正確ふせいかくな情報じょうほうを鵜呑うのみにする割合わりあいは増ふえてきたと感かんじます。ちなみに私わたしが教鞭きょうべんを取とる大学だいがくでも、話題わだいのツイートと同おなじように感かんじる場面ばめんが多々たたありますね」（高橋たかはし氏し）

　なぜ若者わかものの検索けんさく能力のうりょくが下さがっているのか。

「今いまの若者わかもののネット活動かつどうがほぼSNS中心ちゅうしんだからではないでしょうか。SNSには検索けんさく窓まどやハッシュタグ検索けんさくなどの機能きのうがあり、検索けんさくそのものはしやすい仕組しくみになっています。ただそれはあくまで『他人たにんの投稿とうこうをメインに表示ひょうじする』ものであって、Googleなどの検索けんさくエンジンのようにリンクをたどって情報じょうほうの深ふか掘ほりを行おこなうのは難むずかしく、検索けんさく性せい自体じたいも高たかいわけではありません。

　もちろん、投稿とうこうに外部がいぶサイトのリンクは貼はれるので、一応いちおう情報じょうほうの深ふか掘ほりはできます。しかし、現在げんざいのSNSの動向どうこうを見みると、出典しゅってん元もとを見みないユーザーが増ふえているのも事実じじつでしょう。たとえば、Twitterでは記事きじリンク付つきのツイートをリツイートするときに、『まず記事きじを読よんでみませんか？』とTwitter側がわから提案ていあんされることがあります。それだけ一いち次じ情報じょうほうを見みずに情報じょうほうを拡散かくさんしてしまうユーザーが多おおいということではないでしょうか。

　また、SNSはレコメンド機能きのうが充実じゅうじつしているので、おすすめされた投稿とうこうだけで満足まんぞくしてしまうユーザーも少すくなくなくありません。SNSは情報じょうほうを深ふか掘ほりしようという意識いしきが育そだちづらいメディアになっていると考かんがえられますね」（同どう）

「情報じょうほうを深ふかく調しらべなくていいじゃん」という若者わかもの

　高橋たかはし氏しいわく、「どんなネットサービスに触ふれ合あい、検索けんさくしてきたのか」も検索けんさく能力のうりょくの習熟しゅうじゅく度どの差さに関係かんけいしてくるという。

「ネットサービス黎明れいめい期きの2000年代ねんだい初頭しょとうは、ネットサーフィンと呼よばれる検索けんさくエンジンを使つかって面白おもしろいブログやサイトを巡めぐることが、ネットの楽たのしみ方かたのひとつでしたよね。無数むすうのサイトや情報じょうほうを調しらべるうちに、『こういうタイプのサイトはあまり信用しんようならないな』とか、『このサイトは信頼しんらいできそうだ』といった感覚かんかくが次第しだいに磨みがかれていくので、検索けんさくエンジン世代せだいはある程度ていどの情報じょうほうリテラシーが身みに付つけいているんです。

　ですが、2010年代ねんだいに入はいり、スマホの普及ふきゅうと共ともにSNSが爆発ばくはつ的てきに広ひろまった後のちは、SNSというひとつのサービスに多おおくの人々ひとびとが集あつまりました。情報じょうほう収集しゅうしゅうの手段しゅだんとしては便利べんりすぎるので、若者わかものからすれば基本きほん的てきにSNSだけで十分じゅうぶんなんです。ですが、SNSは情報じょうほうが自動的じどうてきに流ながれてくる『受うけ身みのメディア』なので、自分じぶんからネット上じょうで情報じょうほうを辿たどっていく必要ひつようがありません。そのため情報じょうほうを積極せっきょく的てきに精査せいさしていく傾向けいこうは下さがったと感かんじますね」（同どう）

　ツイートの投稿とうこう主ぬしは、「情報じょうほうを見みつけたからそれで終おわりじゃないんだよと言いったらみんな目めをそらす」という投稿とうこうもしていた。情報じょうほうを深ふかく検索けんさくすることは、今いまの若者わかものたちにとってあまり関心かんしんがないことなのか。

「検索けんさく上位じょういで得えられる情報じょうほうで満足まんぞくしがちな面めんはあるように感かんじます。若者わかものたちからしてみれば、『これでだいたいわかるし、ここからさらに何なにを調しらべろというの？』と疑問ぎもんを抱いだくようですね。先述せんじゅつしたSNSの特徴とくちょうも相あいまって、過去かこを掘ほり返かえす行為こういが若わかい子こにとってあまり興味きょうみを持もてなくなったのかもしれません。

　SNSで重視じゅうしされるのは情報じょうほうの鮮度せんどなので、SNS慣なれした世代せだいは出来でき立だてホヤホヤの情報じょうほうを手てに入いれることには長たけているんです。ただSNSは新あらたな情報じょうほうを集あつめるのに適てきしたメディアではあるものの、グーグルなどの検索けんさくエンジンのように積つみ重かさなった情報じょうほうから任意にんいの情報じょうほうを抜ぬき取とることには不向ふむき。結果けっか的てきに『表面ひょうめん的てきな情報じょうほうだけで問題もんだいないのでは？』という思考しこうにいきついてしまうのではないでしょうか」（同どう）

加速かそくする情報じょうほう化か社会しゃかいを生いきるために必要ひつようなスキル

　こうした情報じょうほうを深ふかく検索けんさくする能力のうりょくの低下ていかが、卒論そつろん執筆しっぴつには如実にょじつに影響えいきょうが出でると高橋たかはし氏しは指摘してきする。

「現在げんざい、多おおくの大学生だいがくせいは、卒論そつろんで初はじめて『検索けんさくスキルを問とわれる場面ばめん』に立たたされています。彼かれらはそれまでSNSや検索けんさく上位じょういのサイトを中心ちゅうしんに気きになる情報じょうほうを得えてきており、普段ふだんの生活せいかつレベルではそれで十分じゅうぶんだったのでしょう。

　しかし卒論そつろんとなると一いち次じ情報じょうほうや、より深ふかい専門せんもん知識ちしきを必要ひつようとするので、それだけでは不十分ふじゅうぶん。特とくに検索けんさく上位じょういのサイトというのは、あくまで検索けんさくサービスのアルゴリズムに沿そっており、検索けんさくしたキーワードに有用ゆうような情報じょうほうが多おおい可能かのう性せいが高たかいと判断はんだんされた情報じょうほうというだけ。『万まん人にんが物事ものごとのあらましを理解りかいできる広ひろく浅あさめな情報じょうほう』が多おおく、しっかりと根拠こんきょのある参考さんこう文献ぶんけんにできる可能かのう性せいは低ひくいです。

　私わたしは学生がくせいに対たいして『ネット検索けんさくの上位じょういに来くる情報じょうほうだからといって、必かならずしも正確せいかく性せいが高たかかったり、専門せんもん性せいが高たかかったりするわけではありません』と釘くぎを刺さしています。あくまでSEO（検索けんさく上位じょういに表示ひょうじさせるようサイト内ないの設計せっけいや記述きじゅつを調整ちょうせいすること）対策たいさくがしっかりしているからこそ上位じょういに表示ひょうじされるだけなので、鵜呑うのみにしてはいけないんです、と」（同どう）

　では、若者わかものが検索けんさく能力のうりょくを上あげるにはどうしたらよいのだろう。

「基本きほん的てきなことですが、異ことなるメディアで情報じょうほうをいくつも見比みくらべたり、新聞しんぶん社しゃといった情報じょうほう発信はっしんの精度せいどが高たかいメディアを自分じぶんなりに参考さんこうにしたりすることですね。ですが、一番いちばんは『身みを置おく環境かんきょうで情報じょうほう精査せいさの必要ひつように迫せまられる』ことだと思おもいます。それは大学だいがくだったり、初はじめての職場しょくばだったりするでしょうが、まわりから受うけた指摘してきを受うけとめ、その重要じゅうよう性せいに気きがつき、情報じょうほうの比較ひかくと精査せいさの意識いしきを持もつことが一番いちばんの近道ちかみちです。

　今いまの社会しゃかいでは情報じょうほうの鮮度せんどが重視じゅうし視しされているので、新あたらしいネタに関かんして高たかい検索けんさく能力のうりょくを持もつ若者わかものの存在そんざいは貴重きちょうです。しかし、デマ情報じょうほうを誤読ごどくしてしまって、それが一気いっきに拡散かくさんし、社会しゃかい問題もんだいになることも多おおくなってきました。そんな社会しゃかいを生いき抜ぬくうえで、情報じょうほうの質しつを高たかめる検索けんさく能力のうりょくを訓練くんれんすることはデマに踊おどらされないことにも直結ちょっけつするので、ぜひ若者わかもののみなさんには心掛こころがけてみてほしいですね」（同どう）
（文ぶん＝A4studio）