新宿しんじゅく署しょ、痴漢ちかん冤罪えんざいめぐる証拠しょうこ隠蔽いんぺい・改竄かいざん工作こうさくが発覚はっかく…違法いほう捜査そうさ受うけた男性だんせいは直後ちょくごに死亡しぼう

信助しんすけさんの遺影いえいを抱いだき控訴こうその意志いしを弁護べんご団だんに伝つたえる原田はらだ尚美なおみさん

「原告げんこくの訴うったえを棄却ききゃくする。裁判さいばん費用ひようは原告げんこくの負担ふたんとする」

　3月15日にち午後ごご1時じ10分ふん、東京とうきょう地裁ちさい709号ごう法廷ほうていに小海こかい隆則たかのり裁判さいばん長ちょうの抑揚よくようのない声こえが響ひびいた。その瞬間しゅんかん、傍聴ぼうちょう席せきは水みずを打うったように静しずまり返かえった。5年ねんをかけた母親ははおやの願ねがいはわずか1分ふんで打うち砕くだかれた。

　09年ねん12月10日にち午後ごご11時じ過すぎ、転職てんしょく先さきの職場しょくばの歓迎かんげい会かいを終おえて帰宅きたくを急いそいでいた原田はらだ信助しんすけさん（当時とうじ25歳さい）は東京とうきょう・新宿しんじゅく駅えき構内こうないの階段かいだんで酔客すいきゃくらにすれ違ちがい様よういきなり殴なぐりかかられ、階段かいだんから引ひき落おとされる。さらに男性だんせいらは馬乗うまのりになって信助しんすけさんの頭あたまを床ゆかに打うち付つけた。「階段かいだんですれ違ちがい様さまに痴漢ちかんされた。お腹なかを触さわられた」という女性じょせいの一声いっせいで騒さわぎに駆かけつけた駅員えきいんからも暴行ぼうこうを受うけ、信助しんすけさんは警察けいさつに助たすけを求もとめて110番ばん通報つうほうする。しかし信助しんすけさんを待まっていたのは、「痴漢ちかんの容疑ようぎ者しゃ」としての取とり調しらべだった。

　携帯けいたい電話でんわの充電じゅうでんが切きれるなどの不運ふうんが重かさなり、信助しんすけさんは外部がいぶとの連絡れんらくが取とれないまま、新宿しんじゅく西口にしぐち交番こうばんで1時じ間あいだ半はんにわたり取とり調しらべを受うける。外部がいぶとの連絡れんらくを認みとめない取とり調しらべは「逮捕たいほ・監禁かんきん状態じょうたい」であり、違法いほう捜査そうさそのものだ。信助しんすけさんは警官けいかんから「新宿しんじゅく署しょへ行いけば電話でんわを貸かす。あなたの話はなしを聞きくから」と新宿しんじゅく署しょへ連行れんこうされた。

　しかし、信助しんすけさんは新宿しんじゅく署しょでも徹底的てっていてきに痴漢ちかんの被疑ひぎ者しゃとしての扱あつかいを受うける。刑事けいじは所持しょじ品ひん検査けんさや指紋しもん押捺おうなつを行おこない、信助しんすけさんが拒否きょひしているにもかかわらず無理矢理むりやりに全身ぜんしん写真しゃしんを撮とるなど、人権じんけんを無視むしした違法いほう捜査そうさを行おこなった。これらはすべて信助しんすけさんが所持しょじしていたICレコーダーに記録きろくされている。

被害ひがい者しゃが存在そんざいしない痴漢ちかん事件じけん

　新宿しんじゅく署しょで「痴漢ちかんの被害ひがい者しゃ」と自称じしょうした女性じょせいは、信助しんすけさんの供述きょうじゅつとは違ちがう服装ふくそうをしており、当とう日本人にっぽんじんが書かいた上申じょうしん書しょでは「人違ひとちがい」ということで信助しんすけさんへの被害ひがい届とどけを出ださずに立たち去さっていた。新宿しんじゅく署しょには当日とうじつの取とり調しらべについて、「痴漢ちかんの事実じじつなく相互そうご暴行ぼうこうとして後日ごじつ呼よび出だしとした」とするメモが残のこされている。

　新宿しんじゅく署しょの刑事けいじはその事実じじつを信助しんすけさんに伝つたえていない。それどころか、ICレコーダーには信助しんすけさんが痴漢ちかんの容疑ようぎ者しゃだと誤解ごかいさせる暴言ぼうげんが記録きろくされている。信助しんすけさんは刑事けいじに「僕ぼくはこれから冤罪えんざい被害ひがい者しゃとして生いきていかなくてはならないのでしょうか」と問といかけ、「それは相手あいての出方でかた次第しだいだな」と事こともなげに答こたえる刑事けいじのやり取とりが残のこされている。この時とき、刑事けいじが痴漢ちかんの容疑ようぎが晴はれたことを伝つたえていれば、信助しんすけさんが将来しょうらいを悲観ひかんする必要ひつようもなかったのだ。