死刑しけい判決はんけつの工藤くどう会かいトップ「生涯しょうがい、後悔こうかいするよ」発言はつげんの裏側うらがわ…山口組やまぐちぐみは銃じゅうの使用しようについて指示しじ

　8月がつ24日にち、福岡ふくおか地裁ちさいは五ご代目だいめ工藤くどう會かいの野村のむら悟さとる総裁そうさいに求刑きゅうけい通どおりの死刑しけい、田上たうえ文雄ふみお会長かいちょうに無期むき懲役ちょうえきの判決はんけつをい渡いわたした。足立あだち勉つとむ裁判さいばん長ちょうは、審理しんりされた4つの事件じけんについて野村のむら総裁そうさいらの関与かんよを認定にんてい、「組織そしき的てきに市民しみんを襲撃しゅうげきした犯行はんこうの動機どうき、経緯けいいに酌くむべき余地よちは皆無かいむ」と判はんじた。判決はんけつを受うけて、野村のむら総裁そうさいと田上たうえ会長かいちょうは翌よく25日にちに控訴こうそしている。

　指定してい暴力団ぼうりょくだんのトップに死刑しけい判決はんけつが下くだされたのは、史上しじょう初はつの事態じたいだ。以前いぜんから工藤くどう會かい関係かんけい者しゃの冤罪えんざい事件じけんなどを取材しゅざいし、四よん代目だいめ工藤くどう會かいの溝みぞ下か秀男ひでお総裁そうさい（故人こじん）との共著きょうちょもある、作家さっかの宮崎みやざき学まなぶさんに話はなしを聞きいた。

※前編ぜんぺんはこちら

「あんた生涯しょうがい、後悔こうかいするよ」

――判決はんけつい渡いわたし後ごに、野村のむら総裁そうさいと田上たうえ会長かいちょうが裁判さいばん長ちょうに不規則ふきそく発言はつげんをしたことが報ほうじられました。野村のむら総裁そうさいは「なんだこの裁判さいばんは。全然ぜんぜん公正こうせいやない。全部ぜんぶ推認、推認。あんた生涯しょうがい、このこと後悔こうかいするよ」と言いったそうで、脅迫きょうはくとも取とれる内容ないようでした。

宮崎みやざき学まなぶさん（以下いか、宮崎みやざき）　傍聴ぼうちょうしていた知しり合あいの記者きしゃによると、総裁そうさいはいつも通とおり入廷にゅうていのときに裁判官さいばんかんと弁護べんご団だんに一礼いちれいするなど、2人ふたりとも落おち着ついた様子ようすだったそうですが、判決はんけつのい渡いわたし後ごに急きゅうに態度たいどが変かわったそうです。

　弁護べんご団だんは釈明しゃくめいに追おわれて「公正こうせいな裁判さいばんを要望ようぼうしていたのに、こんな判決はんけつを書かくようじゃ、裁判さいばん長ちょうとして職務しょくむ上じょう、『生涯しょうがい、後悔こうかいするよ』という意味いみで言いった」としていますが、この発言はつげんで総裁そうさいと会長かいちょうは接見せっけん禁止きんし処分しょぶんを受うけました。

　弁護べんご団だんや若わかい衆しゅは頭あたまを抱かかえていることでしょうが、私わたしなら総裁そうさいと同おなじことをしていたと思おもいます。それだけ判決はんけつはひどい内容ないようでしたし、不良ふりょうたるもの、このタイミングで啖呵たんかを切きらないでいつ切きるのだ、とも思おもいます。

　ちなみに、判決はんけつの当日とうじつはまだ接見せっけん禁止きんし処分しょぶんを受うけていなかったので、若わかい衆しゅは心配しんぱいしながら様子ようすを見みに行いっています。そこで総裁そうさいは「俺おれの心配しんぱいはしなくてよい。無実むじつやけ（無実むじつだから）がんばって戦たたかう。それよりもお前まえらは大丈夫だいじょうぶなんか？」と、若わかい衆しゅを気遣きづかっていたそうです。

　本気ほんきで裁判さいばん長ちょうに「後悔こうかいさせる」つもりであれば、若わかい衆しゅにそんな態度たいどは取とらないでしょう。すでに控訴こうそ審しんへの意欲いよくを見みせていたと聞ききました。

　一方いっぽうで、「週刊しゅうかん実話じつわ」（日本ジャにほんじゃーナル出版なるしゅっぱん）で連載れんさいされていた総裁そうさいの手記しゅきには、自身じしんの逮捕たいほについて「以前いぜんから噂うわさがあり、あまり気きにしてはいなかった。カッコつけるわけではないが、ヤクザたるもの座すわる（＝収監しゅうかんされる）ことを嫌いやがったり、怖こわがったりしたらおしまいである」と、ヤクザとして逮捕たいほを受うけ入いれる姿勢しせいも示しめしています。

山口組やまぐちぐみは銃じゅうの使用しようについて指示しじ

――世論せろんには「野村のむら総裁そうさいに死刑しけいは当然とうぜん」という空気くうきもあるようです。

宮崎みやざき　推認だろうが死亡しぼう者しゃ1人にんだろうが「工藤くどう會かいだから死刑しけいだ」という空気くうきは、近代きんだい国家こっかとは思おもえません。工藤くどう會かいが悪わるくないとはいいませんが、工藤くどう會かい「だけ」が善良ぜんりょうな一般いっぱん市民しみんに銃口じゅうこうを向むけている最さい凶きょう集団しゅうだんなのでしょうか？

　今回こんかいの裁判さいばんでいうと、被害ひがい者しゃの元もと漁協ぎょきょう組合くみあい長ちょうは元もとヤクザでした。1950年ねんに、当時とうじの工藤組くどうぐみ幹部かんぶであった草野くさの高明こうめい親分おやぶんの実弟じっていを刺殺さしころした人物じんぶつです。最近さいきんは、そうした事実じじつはあえて報道ほうどうされていません。

　犯罪はんざいは、常つねにいろいろなシチュエーションで起おきています。「工藤くどう會かいだから」の一言ひとことで刑事けいじ裁判さいばんの手続てつづきまでねじ曲まげてしまうのは、司法しほうが崩壊ほうかいしている証拠しょうこです。

　近年きんねん、犯罪はんざいの数すう自体じたいは減へっています。たとえば殺人さつじん事件じけんは1954年ねんの3081件けんをピークに減少げんしょう傾向けいこうにあり、2013年ねんには939件けんと戦後せんご初はじめて1000件けんを切きり、その後ごも1000件けん未満みまんで推移すいいしています。また、殺人さつじん事件じけんの被害ひがい者しゃと加害かがい者しゃの関係かんけいは半数はんすう以上いじょうが「親族しんぞく」であり、これは世界せかい的てきな傾向けいこうとされています。つまり、実際じっさいはヤクザの犯罪はんざいというのはそれほど多おおくないんです。

――今回こんかいの判決はんけつを受うけて、山口組やまぐちぐみ総本部そうほんぶが傘下さんか組織そしきに対たいして「公共こうきょうの場ばで銃じゅうを使つかわないように」と指示しじしたことが報道ほうどうされています。

宮崎みやざき　事件じけんが起おこったときに、「組織そしきとしては銃じゅうの使用しようを禁きんじていた」と主張しゅちょうするためでしょう。特殊とくしゅ詐欺さぎについても、主おもだった組織そしきは組員くみいんらに禁止きんしの方針ほうしんを示しめしています。権力けんりょくがそれをどう判断はんだんするかは別べつの問題もんだいですが、もし工藤くどう會かいが「カタギを襲撃しゅうげきするな」と明確めいかくな通達つうたつを出だしていたら、死刑しけいの判決はんけつは出でなかったでしょうか？　私わたしにはそうは思おもえません。

警察けいさつの“壊滅かいめつ作戦さくせん”で住すみやすい街まちになるか？

――9月2日にちには、工藤くどう會かい幹部かんぶが再ふたたび逮捕たいほされました。元もと組員くみいん所有しょゆうの自動車じどうしゃへの放火ほうかを指示しじしたとする容疑ようぎで、これで北九州きたきゅうしゅう市内しないの主おもな工藤くどう會かいの傘下さんか組織そしきの幹部かんぶは軒並のきなみ逮捕たいほされたことになります。

宮崎みやざき　壊滅かいめつ作戦さくせんにコマを進すすめているのでしょう。2018年ねん9月がつには、工藤くどう会かい壊滅かいめつ作戦さくせんを指揮しきしてきた福岡ふくおか県けん警暴対たい部長ぶちょうが「作戦さくせん以降いこう、工藤くどう会かいによるとみられる拳銃けんじゅうや刃物はものを使つかった凶悪きょうあく事件じけんは発生はっせいしていない。東京とうきょうガールズコレクション北九州きたきゅうしゅうが開催かいさいされたり、24年ねんぶりに地価ちかが上昇じょうしょうしたり、北九州きたきゅうしゅう地区ちくのイメージアップや経済けいざい活動かつどうの活性かっせい化かにつながったと考かんがえる。市民しみんや事業じぎょう者しゃの意識いしきが変かわり、被害ひがいの届とどけ出でや情報じょうほう提供ていきょうも増加ぞうかした」と自慢じまんしています。

　しかし、興味深きょうみぶかいことに、北九州きたきゅうしゅう市しの人口じんこうは総裁そうさいらが逮捕たいほされた「頂上ちょうじょう作戦さくせん」の2014年ねんから減少げんしょうを続つづけ、減少げんしょう数すうは国内こくない最多さいたとなっています。警察けいさつの理論りろんでいくと「最さい凶きょうヤクザのトップが逮捕たいほされれば、北九州きたきゅうしゅう市しは平和へいわになって人口じんこうが増ふえる」はずですが、これはどういうことでしょうか。街まちの活気かっきは不良ふりょうによってつくられたものかもしれない、と私わたしは思おもっています。

――判決はんけつの翌日よくじつに野村のむら総裁そうさいと田上たうえ会長かいちょうは控訴こうそしましたが、どう思おもわれますか？

宮崎みやざき　直接ちょくせつ証拠しょうこがないのに推認で死刑しけい判決はんけつが導みちびかれたことの問題もんだい点てんがどこまで論ろんじられるか、注目ちゅうもくしています。「国策こくさく捜査そうさ」なので期待きたいはできないのですが、地裁ちさいよりは高裁こうさいのほうが慎重しんちょうな審理しんりをする可能かのう性せいはゼロではないですね。

　以前いぜんもお話はなししましたが、九州きゅうしゅうの裁判所さいばんしょは「九州きゅうしゅうモンロー主義しゅぎ」ともいわれています。かつてモンロー米べい大統領だいとうりょうが「ヨーロッパの干渉かんしょうは受うけない」と宣言せんげんしたように、九州きゅうしゅうの裁判所さいばんしょは法務省ほうむしょうや検察庁けんさつちょう、警察庁けいさつちょうの意向いこうは忖度そんたくしないといわれているんです。

　暴力団ぼうりょくだんの裁判さいばんなので難むずかしいとは思おもいますが、裁判所さいばんしょの公式こうしきサイトには「刑事けいじ訴訟そしょう法ほうや刑事けいじ訴訟そしょう規則きそく等とうの法令ほうれいには、基本きほん的てき人権じんけんの尊重そんちょうを理念りねんとする日本国にっぽんこく憲法けんぽうの下した、被告人ひこくにんの人権じんけん保障ほしょうを全まっとうしつつ、適正てきせいかつ迅速じんそくな裁判さいばんを実現じつげんするための様々さまざまな規定きていが設もうけられています」とあるので、適正てきせいな裁判さいばんが行おこなわれることを願ねがっています。

（構成こうせい＝編集へんしゅう部ぶ）

●宮崎みやざき学がく（みやざき・まなぶ）
1945年ねん京都きょうと生うまれ。ヤクザの息子むすことして生うまれ、学生がくせい運動うんどうに身みを投とうじた半生はんせいを綴つづった『突破とっぱ者しゃ―戦後せんご史しの陰かげを駆かけ抜ぬけた五ご十じゅう年ねん』（1996年ねん）のほかヤクザや社会しゃかいの課題かだいをテーマに執筆しっぴつを続つづける。最新さいしん刊かんは『突破とっぱ者しゃの遺言ゆいごん』（ケイアンドケイプレス、2021年ねん）