銀行ぎんこうの振込ふりこみ手数料てすうりょうがまさかの値下ねさげ、その裏うらにある事情じじょうとは？公取委こうとりいがコスト構造こうぞうを問題もんだい視し

　手数料てすうりょうが引ひき上あげられた、優遇ゆうぐうサービスが改悪かいあくになる……そんなネガティブなニュースばかりが取とり上あげられがちな「銀行ぎんこう」だが、珍めずらしく利用りよう者しゃが歓迎かんげいすべきトピックが報ほうじられた。2021年ねん10月がつ以降いこうに、大手おおて銀行ぎんこうの他行たぎょうあて振込ふりこみ手数料てすうりょうが引ひき下さげになるという。

　今いまの振込ふりこみ手数料てすうりょうより下さがる額がくは、三菱みつびしUFJ銀行ぎんこうでは3万まん円えん未満みまんが66円えん、3万まん円えん以上いじょうが110円えん、三井住友銀行みついすみともぎんこうは3万まん円えん未満みまんが55円えん、3万まん円えん以上いじょうが110円えん（※11月以降いこう）、みずほ銀行ぎんこうは3万まん円えん未満みまんが60円えん、3万まん円えん以上いじょうが110円えん（みずほダイレクトは3万まん円えん未満みまんが70円えん、3万まん円えん以上いじょうが120円えん）。

　現在げんざい、三菱みつびしUFJ銀行ぎんこうのATMで現金げんきん1万まん円えんを振ふり込こむとすると440円えんの手数料てすうりょうがかかるが、それが374円えんと安やすくなる。さらに、インターネットバンキングを使つかう場合ばあいは今いまの220円えんが154円えんだ。

　ネット銀行ぎんこうも引ひき下さげに動うごく。ソニー銀行ぎんこうは現行げんこうの振込ふりこみ手数料てすうりょう220円えんを10月がつ以降いこうは110円えんとする。GMOあおぞらネット銀行ぎんこうは個人こじん口座こうざで157円えんが、法人ほうじん口座こうざで3万まん円えん未満みまん166円えん・3万まん円えん以上いじょう261円えんがかかっていたのを、一律いちりつ145円えんに引ひき下さげる。ただし、多おおくのネット銀行ぎんこうは取引とりひきに応おうじて手数料てすうりょうの無料むりょう回数かいすうが増ふえる優遇ゆうぐうステージ制せいを採用さいようしているため、インパクトは小ちいさいが、それでも安やすくなるのに越こしたことはないだろう。

　消費しょうひ税ぜいの10％引ひき上あげに合あわせてATM手数料てすうりょうがアップしたことはあったが、なぜ今いまのタイミングで引ひき下さげになるのか。その理由りゆうは「お上かみのひと声こえ」だ。

　直接的ちょくせつてきには、全国ぜんこく銀行ぎんこう協会きょうかいが銀行ぎんこう間あいだの決済けっさいをオンライン処理しょりする「全国ぜんこく銀行ぎんこうデでータ通信システムたつうしんしすてむ（全ぜん銀ぎんシステム）」の手数料てすうりょうを見直みなおすとしたからだ。このシステム上じょうで、銀行ぎんこう間あいだで送金そうきんし合あう際さいの手数料てすうりょうは3万まん円えん未満みまん117円えん、3万まん円えん以上いじょう162円えんとなっており、その金額きんがくはなんと40年間ねんかんも変かわらないままだった。各かく銀行ぎんこうはこの数字すうじをベースにして、自じ行くだり分ぶんの手数料てすうりょうを上乗うわのせし、おのおの振込ふりこみ手数料てすうりょうを決きめてきた。

　しかし、全銀協ぜんぎんきょうが2021年ねん10月がつから、一律いちりつでこれを62円えんに引ひき下さげる。ベース金額きんがくが下さがるならと、銀行ぎんこうも振込ふりこみ手数料てすうりょうの引ひき下さげに踏ふみ切きったというわけだ。

公取委こうとりいが銀行ぎんこう間あいだ振込ふりこみ取引とりひきのコスト構造こうぞうを問題もんだい視し

　しかし、今回こんかいの手数料てすうりょう見直みなおしは全ぜん銀ぎんシステム側がわが自主じしゅ的てきに行いったわけではない。外圧がいあつがあったからだ。

　2020年ねん4月がつに公正こうせい取引とりひき委員いいん会かいが各かく銀行ぎんこうからのヒアリングを含ふくむ調査ちょうさ報告ほうこくを出だしたが、その中なかで銀行ぎんこう間あいだ振込ふりこみ取引とりひきのコスト構造こうぞうについて問題もんだい視ししている。本来ほんらいなら、こうした手数料てすうりょうは相対そうたいの交渉こうしょうで決定けっていすることとされているが、現状げんじょうではすべてが3万まん円えん未満みまん117円えん、3万まん円えん以上いじょう162円えんの同どう一いち金額きんがくで、報告ほうこく書しょによると、昭和しょうわ 54 年ねん2月がつ以降いこうに現行げんこうの水準すいじゅん以外いがいの銀行ぎんこう間あいだ手数料てすうりょうが用もちいられていた事実じじつや、この調査ちょうさ開始かいしまでの期間きかんにおいて、いずれかの銀行ぎんこうが銀行ぎんこう間あいだ手数料てすうりょうの水準すいじゅんを変更へんこうするための交渉こうしょうを行おこなった事実じじつは確認かくにんできなかった――とある。

　慣習かんしゅう化かしたまま、「これは高たかいんじゃないか」と誰だれも声こえを上あげてはこなかったと、チクリと刺さしているようだ。

　いや、もっと手厳てきびしい。単たんなる送金そうきん手数料てすうりょうだけではなく、全ぜん銀ぎんシステムの構築こうちく費ひ、運営うんえい費ひ、維持いじ費ひを賄まかなうための経費けいひも含ふくまれるにしろ、銀行ぎんこう側がわからの「振込ふりこみを受うける際さいにコストが100円えんも生しょうじることはない」「紙かみベースで人件じんけん費ひがかかっていた時代じだいと同おなじ水準すいじゅんのままの手数料てすうりょうは高たかすぎる」との声こえも添そえて、公取委こうとりいは「（現在げんざいの銀行ぎんこう間あいだ手数料てすうりょうの水準すいじゅんは）事務じむコストを大幅おおはばに上回うわまわっているとの見解けんかい」とバッサリだ。

　ここまで材料ざいりょうを揃そろえられると、外堀そとぼりを埋うめられたも同然どうぜんだろう。全銀協ぜんぎんきょうとしてはもう下さげるしかないし、下さげられない合理ごうり的てきな説明せつめいは難むずかしい。銀行ぎんこう側がわも、ベース金額きんがくが62円えんに下さがるのなら損そんはないので、振込ふりこみ手数料てすうりょうの改定かいていに向むかうことにした。それが今回こんかいの引ひき下さげだ。

　とはいえ、公取委こうとりいがここまで口くちを出だしたのは銀行ぎんこうのためではない。この報告ほうこく書しょのタイトルは「QRコード等とうを用もちいたキャッシュレス決済けっさいに関かんする実態じったい調査ちょうさ報告ほうこく」となっている。コード決済けっさいの利用りよう者しゃが自分じぶんのアカウントへ銀行ぎんこうからチャージする際さいのコスト、またコード決済けっさいされた売上うりあげ金きんを加盟かめい店てんの銀行ぎんこう口座こうざへ払はらい出だす際さいの振込ふりこみ手数料てすうりょうなど、コード決済けっさい事業じぎょう者しゃが負担ふたんする費用ひようについても細々こまごまと調査ちょうさをしている。

　特とくに振込ふりこみ手数料てすうりょうがネックとなり、キャッシュレス加盟かめい店てんへの売上うりあげ金きんの振込ふりこみ頻度ひんどを月つき1回かいや2回かいまでに絞しぼる現状げんじょうがある。売上うりあげ金きんがなかなか振ふり込こまれないと店みせも困こまるが、事業じぎょう者しゃ側がわも振込ふりこみ手数料てすうりょうのコストがバカにならないので対応たいおうしにくい。つまりは、振込ふりこみ手数料てすうりょうが高たかいのがキャッシュレス導入どうにゅうの妨さまたげになっている、と暗あんに言いっているようなものだ。

　実際じっさいにキャッシュレス事業じぎょう者しゃからも、全ぜん銀ぎんシステムの手数料てすうりょうにメスを入いれてほしいとの声こえを聞きいたことがある。国くにの肝きもいり政策せいさくの一ひとつだったキャッシュレス推進すいしんのためには、現状げんじょうの「3万まん円えん未満みまん117円えん、3万まん円えん以上いじょう162円えん」にメスを入いれる必要ひつようがあった――と絵解えときができるのだ。携帯けいたい電話でんわ料金りょうきんにしろ、振込ふりこみ手数料てすうりょうにしろ、天てんの声こえはそれほど強つよいのか。

コストカットばかりでなく利用りよう者しゃ還元かんげんも期待きたい

　今回こんかいの手数料てすうりょう改定かいていは銀行ぎんこうのためではないと書かいたが、キャッシュレス化かは彼かれらの敵てきというわけでもない。コード決済けっさいを利用りようするためのチャージ方法ほうほうとしては銀行ぎんこう口座こうざ、クレジットカード，ATM を利用りようした現金げんきんチャージ等とうがあるが、先さきの報告ほうこく書しょによれば、最もっとも多おおく消費しょうひ者しゃが利用りようしている方法ほうほうは銀行ぎんこう口座こうざだとある。デジタルネイティブな若者わかものたちを未来みらいの顧客こきゃくとしてつなぎとめるには、キャッシュレス事業じぎょう者しゃと平和へいわ的てき共存きょうぞんしていく方ほうが賢かしこいだろう。

　むろん、振込ふりこみ手数料てすうりょうが安やすい方ほうが助たすかるが、我わが身みに置おき換かえると、家賃やちんを払はらう以外いがいに他行たぎょうへの振込ふりこみを利用りようする機会きかいは少すくない。また、今時いまどきはコード決済けっさいアプリのアカウント間あいだで送金そうきんし合あえば手数料てすうりょうもかからないし、割わり勘かんの支払しはらいも小遣こづかいも、銀行ぎんこうを介かいする必要ひつようなくお金かねのやり取とりが済すむ時代じだいになった。銀行ぎんこうが存在そんざい感かんを発揮はっきするシーンは減へっているようにも見みえる。

　マイナス金利きんり以降いこう、稼かせぐのが苦くるしくなったとばかりに銀行ぎんこうはATMや支店してんをどんどん減へらし、手数料てすうりょうも一部いちぶ値上ねあげしてきた上うえに、メガバンクを中心ちゅうしんに通帳つうちょうの有料ゆうりょう化かや2年ねん以上いじょう使つかわれてない未み利用りよう口座こうざへの管理かんり手数料てすうりょうも導入どうにゅうした。そして、今回こんかいの全ぜん銀ぎんシステムの手数料てすうりょう引ひき下さげで、銀行ぎんこうが負担ふたんするコストは軽かるくなるだろう。

　そんなにあれこれコストカットしているのだから、ぜひ利用りよう者しゃに還元かんげんできるサービスに振ふり向むけてほしいものだ。せめてコロナ禍かで厳きびしい環境かんきょうにある経営けいえい者しゃや起業きぎょうを目指めざす若者わかものたちへの融資ゆうし・サポートなど、銀行ぎんこうの本業ほんぎょう分野ぶんやで稼かせいでくれるように期待きたいしたい。

（文ぶん＝松崎まつざきのり子こ／消費しょうひ経済けいざいジャーナリスト）