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でこぼこ書店(埼玉) 本を介して人が集まり、学ぶ場所。元バスケ青年が始めた小さな挑戦|好書好日
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でこぼこ書店しょてん埼玉さいたま) ほんかいしてひとあつまり、まな場所ばしょもとバスケ青年せいねんはじめたちいさな挑戦ちょうせん

 JR三鷹みたかえき通過つうかするたびに、毎回まいかい毎回まいかいおもひとがいる。それは三波みなみ伸介しんすけだ。

 というのも三鷹みたかえき発車はっしゃメロディーの「めだかの学校がっこう」といえば、わたしどものころ東京とうきょう12チャンネル(現在げんざいテレビ東京てれびとうきょう)で放送ほうそうしていた「三波みなみ伸介しんすけ凸凹おうとつだい学校がっこう」のオープニングきょくだったのだ。だれもがるメロディーにわせて「凸凹おうとつだい学校がっこうはじまるよ~」のうたはじまるバラエティー番組ばんぐみで、うさんくささきわまりない、ちょびひげ&バーコードヘアがトレードマークの三波みなみ伸介しんすけ学長がくちょうと、レギュラーのずうとるびやゲストが、あてクイズの「エスチャー」などに挑戦ちょうせんするという内容ないようだった。同局どうきょく放送ほうそうされていた「ヤンヤンうたうスタジオ」や、いろいろな意味いみで「まいっちんぐマチコ先生せんせい」は周囲しゅういでも話題わだいだったが、いかんせん三波みなみ伸介しんすけである。友達ともだち話題わだいにできないのに、かれ絵心えごころとスタジオさばきのたくみさにひかれて、なぜかよくていた。

 三波みなみ伸介しんすけが1982ねんに52さい突然とつぜんくなり、番組ばんぐみまくじた。しかし「めだかの学校がっこう」をくたびに、たのしくわらえた日々ひび記憶きおくが、いまもよみがえってくる。

 そんなわたし三鷹みたか、ではなく埼玉さいたまけん北与野きたよのえきからあるいて10ふんほどの、そのも「でこぼこ書店しょてん」にいる。むかえてくれたのは、ちょびひげでもバーコードもでもない店主てんしゅ富井とみいわたる(わたる)さんだ。それどころかたかい! けば189㎝あり、学生がくせい時代じだい所属しょぞくしたバスケットボールは、インターハイにも出場しゅつじょうしたそうだ。

でこぼこ書店しょてん店主てんしゅ富井とみいわたるさん。身長しんちょうは『スラムダンク』の桜木さくらぎ花道かどうおなじ189㎝。

バスケから「おしえることのたのしさ」に目覚めざめる

 富井とみいさんは山形やまがたけんまれ、父親ちちおや仕事しごと都合つごう小学校しょうがっこうから高校こうこうまでを、埼玉さいたまけん蓮田はすだごした。中学ちゅうがく入学にゅうがくしてからはバスケえつつ、勉強べんきょう頑張がんばった。まさに文武両道ぶんぶりょうどう学級がっきゅう委員いいんちょうもしていたというから、さぞモテたにちがいない。高校こうこう電車でんしゃかよえる進学校しんがくこう春日部かすかべ高校こうこうまり、ここでも勉強べんきょう運動うんどうもバリバリやって成果せいか予定よていだった。しかし、

 「春日部かすかべ高校こうこうには近隣きんりん優秀ゆうしゅうたちがあつまっていて。うえにはうえがいたので勉強べんきょうちこぼれてしまって。バスケ入部にゅうぶ当初とうしょはBチームからがることができず、くさりかけていました。でもバスケまであきらめたらひととしてわってしまうがしたし、める勇気ゆうきもなくて。つづけていたら、1年生ねんせいふゆごろから試合しあいられるようになりました」

 おな学年がくねん仲間なかま2にんとともに主力しゅりょく選手せんしゅとして活躍かつやくし、2年生ねんせいときには創部そうぶ74ねんにしてはじめてのインターハイに、3年生ねんせいになったら埼玉さいたまけん選抜せんばつのメンバーにえらばれ、国体こくたいにも出場しゅつじょうすることができた。

「でもとにかく部活ぶかつきびしくて。バスケがたのしくなくなってしまったんです」

 高校こうこうでバスケには区切くぎりをつけ、大学だいがく卒業そつぎょう生命せいめい保険ほけん会社かいしゃ就職しゅうしょくした。浪人ろうにん時代じだい大学入試だいがくにゅうしセンター試験しけん直前ちょくぜん父親ちちおやたおれたが、生命せいめい保険ほけんをかけていたことで家族かぞくおおきな負担ふたんまぬかれたことがあった。母親ははおや生命せいめい保険ほけん営業えいぎょうをしていたことも、この業界ぎょうかいえらんだ理由りゆうのひとつだったが、ははとはちが会社かいしゃはいったそうだ。

 最初さいしょ配属はいぞくされた山形やまがた支社ししゃでは、営業えいぎょう職員しょくいん査定さていなどを担当たんとうしていた。営業えいぎょうはたけひとすじの支社ししゃちょうはとにかくいかめしかったものの、ひととして尊敬そんけいできる人物じんぶつだったとかえる。いそがしい日々ひびごしていたが、2ねんはんったら東京とうきょう本社ほんしゃ異動いどうまった。さらに2ねんはんち、おとうと中学校ちゅうがっこう教員きょういん採用さいようされるタイミングで富井とみいさんも転職てんしょくめた。

 「一浪いちろうしていたときから大学だいがく卒業そつぎょうするまで、おとうとかよっていた中学ちゅうがくのバスケコーチをしていたんです。おとうともバスケはいったといて試合しあいったのですが、顧問こもん先生せんせいがバスケにあまりくわしくなくて。アドバイスをもとめられたのでおしはじめたら、ハマってしまいました。その当時とうじはメチャクチャよわいチームだったのですが、みな一生懸命いっしょうけんめいで。なんとかしたいとおもって指導しどうしていたら、けん大会たいかいまであといち、というところまでびましたね」

2かいもフル活用かつようちゅうの、店舗てんぽ全景ぜんけいはこんなかんじ。

 おしえることはたのしい。そんな気持きもちから、山形やまがた支社ししゃでも後輩こうはい指導しどうにあたっていた。しかし東京とうきょう本社ほんしゃ山形やまがた支社ししゃ比較ひかくすると格段かくだん規模きぼおおきく、現場げんばはたら人達ひとたちとのかかわりもほぼない。あらためて教育きょういく現場げんばかかわりたいとかんじた富井とみいさんは、昭和女子大学しょうわじょしだいがく職員しょくいんになることをめた。入試にゅうし広報こうほう部署ぶしょに6ねん就職しゅうしょく支援しえん部署ぶしょに4ねん所属しょぞくするが、うち2ねん東大とうだい大学院だいがくいんとおったそうだ。大学生だいがくせいをサポートしながら自身じしん大学院だいがくいんかようなんて。さぞハードな日々ひびだったのでは?

 「東大とうだい教育きょういくがく研究けんきゅう大学だいがく経営けいえい政策せいさくコースというところでまなんでいたのですが、平日へいじつよる土曜日どようびはフルに授業じゅぎょうがあって。日曜日にちようび課題かだいをやろうとおもってもつかれてできなかったりと、かなり大変たいへんでした。でもなんとか、やりげましたね」

まな場所ばしょには、かならほんがある

 バスケできたえた根性こんじょうり、10ねんむかえたころに、今度こんど大学だいがくスポーツ協会きょうかい転職てんしょくする。体育たいいくかいけい学生がくせい勉強べんきょう卒業そつぎょうのキャリア支援しえんなどにかかわったが、ここは1ねんと3カ月かげつ退職たいしょくする。一般いっぱん企業きぎょう大学だいがく社団しゃだん法人ほうじんわたあるいてきたなかで、すべてに共通きょうつうする「おしえること」でなにかやってみたい。じゅく受験じゅけん対策たいさくコンサルティングなどもあたまかんだが、ひとつにしぼらないほうがリスクは分散ぶんさんできる。もともとほんきだったし、「」の保管ほかん集積しゅうせきしょだった大学だいがく図書館としょかんなど、まな場所ばしょにはかならほん存在そんざいしている。教育きょういくほんがある空間くうかんつくろうと、富井とみいさんは決意けついした。

 「2023ねんの6がつ仕事しごとめて準備じゅんびにかかったのですが、辻山つじやま良雄よしおさん の『本屋ほんや、はじめました』と、内沼うちぬますすむ太郎たろうさん の『これからの本屋ほんや読本とくほん』、ほん雑誌ざっし編集へんしゅうの『本屋ほんや、ひらく』をんで、書店しょてんいん経験けいけんがなくても大丈夫だいじょうぶだとおもっていました。でもおな埼玉さいたま県内けんない北本きたもと小声こごえ書房しょぼう南浦和みなみうらわに『ゆとぴやぶっくす』という個人こじん書店しょてんがあることをSNSでり、たずねたりもしました。するといではなかったのに、いろいろおしえてくださって」

1かい、2かいともにひろさは「7じょうぐらい」とぢんまりしてるなか、すっきりとほんならぶ。

 まなぶスペースは必須ひっすだったので、書棚しょだなをずらしてつくえ椅子いすけるひろさがある物件ぶっけんを、まずは埼玉大学さいたまだいがくちかくでさがはじめた。しかし、った場所ばしょ出会であえない。いろいろさがしているうちに、以前いぜん魚屋さかなやだったという2かいてと出合であった。周辺しゅうへんはマンションがならび、小学校しょうがっこうちかい。なのに界隈かいわいじゅく本屋ほんやもないので、近所きんじょどもたちがあつまる空間くうかんになるのではないか。いえから自転車じてんしゃられる距離きょりいま場所ばしょに、みせつくることにめた。

1かいにはしん刊本かんぽんならんでいるが、手前てまえ左側ひだりがわたなしスペースに。

 「どもたち地域ちいきひと気軽きがるれるほん中心ちゅうしんに、ジャンルはしぼらずく。ただしどキツい内容ないようのものやヘイトほんは、教育きょういくからはずれるので対象たいしょうがいで。そのうえで、どういうみせにしようか。いろいろかんがえていたときに、融資ゆうし相談そうだんをしていた日本にっぽん政策せいさく金融きんゆう公庫こうこ担当たんとうしゃから、『こういう事例じれいがある』と、奈良ならけんにある『Naramachi BookSpace ふうせんかずら』の記事きじいただいたんです。同店どうてん運営うんえいしている平田ひらた幸一こういちさんは人材じんざい教育きょういくコンサルタントとあり、早速さっそく連絡れんらくっておみせってみたのですが、無人むじん書店しょてんなのにたなしやイベントで、地域ちいきコミュニティーを形成けいせいする役割やくわりたしていて。『自分じぶんのやりたいことは、まさにこれだ!』とひらめきました」

2かいには2部屋へやあり、うち1部屋へや古本ふるほんコーナーになっている。

ひとあつめ、おしえるとして

 2023ねんの11月1にちにオープンして以来いらい、1かい新刊しんかん、2かい古本ふるほんならべている。在庫ざいこりをした古本ふるほんれてやく3000さつあるが、ちかくに幼稚園ようちえんがあることもあり、絵本えほん児童じどうしょさがしにひとおおいとかたる。

 またこの半年はんとしあいだ、「大学だいがくえらかた」や「オープンキャンパスのまわかた完全かんぜん攻略こうりゃく」セミナー、小中学生しょうちゅうがくせいけの「かい談話だんわかい」や鉱石こうせき標本ひょうほんのワークショップ、ちかくの公園こうえんりての運動うんどう教室きょうしつなどを開催かいさいしてきた。このはるからは富井とみいさんが塾長じゅくちょうとなり、小学生しょうがくせい対象たいしょう国語こくご教室きょうしつと、中学ちゅうがく3年生ねんせいまでの学習がくしゅうサポートじゅくはじまった。ネイリストの施術しじゅつなど、近隣きんりん住民じゅうみんけに2かいスペースのしもしている。

しずかにまなんだりごしたりできそうな2かいしスペースは、30ふん500えんからりられる。

 「本屋ほんやとしてると、ついでに場所ばしょがない住宅じゅうたくなので、立地りっちいとはけっしてえません。でも、ひとあつまる場所ばしょにはなりつつあります」

 あっ、お約束やくそく質問しつもんいてなかった。なぜ店名てんめいが「でこぼこ」なんですか?

 「バスケってチーム競技きょうぎじゃないですか。自分じぶんはシュートは苦手にがてですが体格たいかくいので、ディフェンスにてっしてきました。そんなかんじで、それぞれちがとつと凹が役割やくわりたすことで、おおきなちからまれてくるとおもうんですよね」

 そうかた富井とみいさんをていたら、ふと「れい凸凹おうとつだい学校がっこう、いや、みんなのでこぼこ学校がっこうはここにあったのだな」とおもってしまった。学長がくちょうにうさんくささなど欠片かけらもないのは、時代じだいながれということにしておこう。きっとあのころわたしのように、学長がくちょうかれてやってくるどもたちがいるはずだから。

 あおいひさしのもとにたくさんのひとつどい、ほんかいしてつながっていく。そんな未来みらいころにはきっと、わたしきざまれた「めだかの学校がっこう」の記憶きおくも、上書うわがきされることだろう。

新刊しんかんだい手前てまえにある、おみせのロゴがはいったサコッシュは人気にんき商品しょうひん。1100えん

富井とみいさんがえらぶ、そこにえがかれただれかとつながることができる3さつ

●『本屋ほんや、はじめました 増補ぞうほばん辻山つじやま良雄よしお(ちくま文庫ぶんこ
 わたしがでこぼこ書店しょてんというひととつながるつくるための、第一歩だいいっぽとなったほんでした。本屋ほんやをつくるためのノウハウはもちろんのこと、Titleをひらいた辻山つじやまさんの人生じんせいることができ、勝手かって将来しょうらい自分じぶんかさわせていました。

●『岩田いわたさん 岩田いわたさとしはこんなことをはなしていた。』ほぼ日刊にっかんイトイ新聞しんぶんへん(ほぼにちブックス)
 任天堂にんてんどうもと社長しゃちょう岩田いわたさとしが、生前せいぜんメディアでかたっていたことをさい構成こうせいしたほんです。技術ぎじゅつはたけ出身しゅっしんでありながら、社員しゃいんとのコミュニケーションを重視じゅうししていた様子ようすうかがえます。ほんおなじくらいゲームきなわたしにとって、神様かみさまのような存在そんざいです。

●『ふとったきみとやせたぼく』長崎ながさき源之助げんのすけ理論りろんしゃ
 小学生しょうがくせいときんだほんなのですが、なぜかいまでも強烈きょうれつ印象いんしょうのこっています。主人公しゅじんこうはタイトルどおりのにんなのですが、二人ふたりだけにせられた「夏休なつやすみの宿題しゅくだい」にチャレンジする姿すがたは、まさにつながりがちからかんじることができるいちさつです。

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