圧倒的あっとうてき競争きょうそうりょくをもつ会社かいしゃ長期ちょうき投資とうししリターンをる――この「長期ちょうき厳選げんせん投資とうし」はウォーレン・バフェットが手法しゅほうとしてもられています。日本にっぽんではめずらしくこの「長期ちょうき厳選げんせん投資とうし」を実践じっせんし、実績じっせきをあげているファンド、農林中金のうりんちゅうきんバリューインベストメンツの常務じょうむ取締役とりしまりやくCIO(最高さいこう投資とうし責任せきにんしゃ)である奥野おくの一成いっせいさんに、『ファイナンス思考しこう著者ちょしゃ朝倉あさくら祐介ゆうすけさんが、日米にちべいにおける企業きぎょう資本しほん市場いちばちがいなどについてきました。

企業きぎょう価値かちはかるうえで一番いちばん重視じゅうしするのは?

朝倉あさくら祐介ゆうすけさん(以下いか朝倉あさくら わたしがおいしている経営けいえいしゃには、創業そうぎょうからたたげでやってきたほうおおいのですが、みなさん、事業じぎょうやプロダクトについては自分じぶん第一人者だいいちにんしゃだという自信じしんをもっていて、実際じっさい非常ひじょうにおくわしいんですね。でも、こと資本しほん市場いちばはなしになると、だれおしえてくれるじんがいないから、そこの知見ちけんだけちているというのはつよかんじます。

なぜ日本だけ、バフェットのような長期投資の大成功者がいないのか奥野おくの一成いっせい(おくの・かずしげ)
農林中金のうりんちゅうきんバリューインベストメンツ(NVIC)常務じょうむ取締役とりしまりやくCIO(最高さいこう投資とうし責任せきにんしゃ
京都きょうと大学だいがく卒業そつぎょう日本長期信用銀行にっぽんちょうきしんようぎんこう入行にゅうこう長銀ちょうぎん証券しょうけん、UBS証券しょうけんて、農林中央金庫のうりんちゅうおうきんこへ。2007ねん現在げんざいのNVICの前身ぜんしんとなるプロジェクトをげ、長期ちょうき厳選げんせんがた自己じこ運用うんようファンドの運用うんよう開始かいし。2014ねん投資とうし助言じょげん業務ぎょうむとくしたNVICに移籍いせきし、現在げんざいいたる。ロンドンビジネススクールファイナンス学修がくしゅう修了しゅうりょう共著きょうちょしょ京都きょうと大学だいがく経営けいえいがく講義こうぎ いま日本にっぽん代表だいひょうする経営けいえいしゃかんがえていること』などがある。

奥野おくの一成いっせいさん(以下いか奥野おくの いわゆるバランスシート(貸借たいしゃく対照たいしょうひょう)の右側みぎがわ(負債ふさい資本しほん)にかんする知見ちけんは、下手へたをすると銀行ぎんこういんだとか、我々われわれ世界せかい人間にんげんのほうがっています。「エンゲージメント」とうと流行はや言葉ことばになってしまいますが、そのてんのアドバイスは色々いろいろさせていただけますよね。同時どうじに、バランスシートの左側ひだりがわ資産しさん)についても、プロダクトそのもののアドバイスではなく、イノベーティブな会社かいしゃがどんなみをしているのかをまとめたレポートをおちしたりはしています。

朝倉あさくら (投資とうしさきけのレポートをせてもらいながら)かなり詳細しょうさいなものですね。

奥野おくの 企業きぎょうというのは、お客様きゃくさま問題もんだい解決かいけつする公器こうきにすぎないので、たまたまお菓子かしつくっていたり、たまたま産業さんぎょう製品せいひんつくっていたりするわけですが、効率こうりつてきイノベーションをどんどんこす組織そしきにはおなにおいがするものです。そういうはなしをすると、我々われわれのエンゲージメントは企業きぎょうのビジネスじょう即効そっこうせいはないのですが、「面白おもしろいことを投資とうしがいるな」とおもっていただけるようで、コミュニケーションがつづいていくかんじはありますね。

朝倉あさくら 経営けいえいしゃとのコミュニケーションにあたっても、会社かいしゃがわ投資とうしがわでゼロサムゲームになるような提言ていげんはしない、ということですね。

奥野おくの どうすれば企業きぎょう価値かちがるのか、をかんがえます。まさに『ファイナンス思考しこういてあるようなはなしですよね。わたしたちが一番いちばんているのは、やはり参入さんにゅう障壁しょうへきですね。参入さんにゅう障壁しょうへきがあるから、資本しほんコストを上回うわまわるリターンを持続じぞくてきげられるわたしたち自身じしんとしても、どの投資とうしさきえらぶかが参入さんにゅう障壁しょうへきであって、経営けいえい戦略せんりゃくそのものですし。

日本にっぽんだけ、長期ちょうき投資とうしだい成功せいこうしゃがいない

朝倉あさくら アメリカの企業きぎょうにも定期ていきてき訪問ほうもんされるのですか。

奥野おくの 2ヵ月かげつに1かいはアメリカにって、経営けいえいしゃともってはなしをし、日本にっぽん会社かいしゃとアメリカの会社かいしゃとを公平こうへいくらべて、どちらがいいのかとつねかんがえています。
 そうやって実際じっさいあしはこんで、本当ほんとう日米にちべい会社かいしゃたしかめ、比較ひかくしてめられることが、わたしたちのファンドの参入さんにゅう障壁しょうへきにもなっていますし。わたしはこの会社かいしゃ経営けいえいしゃでもあるので、自社じしゃ競争きょうそう優位ゆういせいかんがえてうごいてます。アメリカの投資とうしさきのトップもってくれて、それなりの規模きぼでやれるファンドのチームというのは、日本にっぽんにそうないですから。1かいつくってしまえば、トラックレコードがこの運用うんよう業界ぎょうかいでは参入さんにゅう障壁しょうへきにもなりますしね。

なぜ日本だけ、バフェットのような長期投資の大成功者がいないのか朝倉あさくら祐介ゆうすけ(あさくら・ゆうすけ)
シニフィアン株式会社かぶしきがいしゃ共同きょうどう代表だいひょう
マッキンゼー・アンド・カンパニーをて、東京とうきょう大学だいがく在学ざいがくちゅう設立せつりつしたネイキッドテクノロジーに復帰ふっき代表だいひょう就任しゅうにん。ミクシィへの売却ばいきゃくともな同社どうしゃ入社にゅうしゃ代表だいひょう取締役とりしまりやく社長しゃちょうけんCEOに就任しゅうにん業績ぎょうせき回復かいふく退任たいにん、スタンフォード大学だいがく客員きゃくいん研究けんきゅういんとうて、政策せいさく研究けんきゅう大学院だいがくいん大学だいがく客員きゃくいん研究けんきゅういん。ラクスル株式会社かぶしきがいしゃ社外しゃがい取締役とりしまりやく株式会社かぶしきがいしゃセプテーニ・ホールディングス社外しゃがい取締役とりしまりやく。2017ねん、シニフィアン株式会社かぶしきがいしゃ設立せつりつ現任げんにん著書ちょしょに、しん時代じだいのしなやかな経営けいえい哲学てつがくいた論語ろんご算盤そろばんわたしダイヤモンド社だいやもんどしゃ)など。

朝倉あさくら あらたにできる米国べいこくかぶ運用うんようファンドに投資とうしするよりも、すでにNVICという実績じっせきげていらっしゃる会社かいしゃがあるんだからおまかせすればいいじゃないか、というはなしになりますよね。

奥野おくの そうです。それにくわえて、だれ日本人にっぽんじんいまからアメリカかぶ投資とうしはじめても、わたしたちはすでに6ねんのトラックレコードがあるので、おそらく10ねんさきぐらいまでだったら、この圧倒的あっとうてき優位ゆういせいになってきます。50ねんったら、じつはその優位ゆういせいかぎりなくうすれてくるでしょうけど(笑)。

朝倉あさくら アメリカと日本にっぽんかぶ両方りょうほう投資とうしされていて、資本しほん市場いちば洗練せんれん度合どあいや時間じかんじくちがいはどの程度ていどかんじられますか。また、そういった感覚かんかくが、そもそもファンダメンタルズや経営けいえいしゃ意思いし決定けっていにどのぐらい影響えいきょうあたえるとおかんがえでしょうか。

奥野おくの わたしは、そこのリテラシーに日米にちべいおおきなはないとおもいます。でも、アメリカのほうが長期ちょうき投資とうしをするひと一定いってい割合わりあいでいる、というのはかくです。そして、バフェットさんのようにだい成功せいこうしたほう当然とうぜんいる。日本にっぽんだけなぜかいない、とおもったほうがただしいかもしれません。
 投資とうしのリテラシー以前いぜんに、世界せかいえるんだ」という気持きもちのつよさというか、アントレプレナーシップをもってるひとは、アメリカのほうが断然だんぜんおおというのはつよかんじますね。先日せんじつも、インチュイティブサージカルという手術しゅじゅつロボットのダヴィンチをつくっている会社かいしゃってきたんですけど、あのダヴィンチも最初さいしょ保守ほしゅてき医療いりょう業界ぎょうかいふくめてものすごい反発はんぱつがあったはずですよね。でも、それをやりく。ああいうつよさですよね。でも、それって日本人にっぽんじんにないのかとえば全然ぜんぜんそんなことはなくて、日本電産にほんでんさん永守ながもり(重信しげのぶ)さんだって、日立ひたち東芝とうしばことわられてスリーエムにモーターをってくるわけですよね。だから、国籍こくせきじゃなくてパーソナリティの問題もんだいかなとおもいます。

朝倉あさくら 長期ちょうき投資とうしについて、景気けいき変動へんどうしずみがあるなかでも、いい会社かいしゃ投資とうしすればいつか帳尻ちょうじりうんだ、というのは理屈りくつとしてはそのとおりですが、だいたいどのぐらいの期間きかんてば、帳尻ちょうじりってくるものとおかんがえですか。

奥野おくの わたしたちの投資とうしさきは、結果けっかてきにですけど、時価じか総額そうがくちょうえん規模きぼ会社かいしゃおおいんです。そうすると、バリュートラップ(割安わりやすのわな)で放置ほうちされるような状態じょうたい発生はっせいしないですし、そんなにっていただかなくて大丈夫だいじょうぶだとおもいます。3~5ねんていただければ、企業きぎょう価値かち向上こうじょう反映はんえいした合理ごうりてきなパフォーマンスをおしめしできるとかんがえています。もし、100おくえん未満みまんのスモールキャップ・ファンド(時価じか総額そうがくちいさな会社かいしゃ投資とうしするファンド)だと(運用うんよう成績せいせき指標しひょう下回したまわる)アンダーパフォームがより長期ちょうきにわたるということもこりはなしかもしれません。
 あとは、逆説ぎゃくせつてきですけど、絶対ぜったい必要ひつようだという付加ふか価値かちがあって、圧倒的あっとうてきつよいという参入さんにゅう障壁しょうへきがあったら、そういう会社かいしゃで100おくえん未満みまん評価ひょうかいているかくりつはほぼゼロです。マーケットもかしこいですからね。

朝倉あさくら いくらキャピタリストが長期ちょうき投資とうしおこなおうとかんがえていても、景気けいき悪化あっかして株価かぶかがるたびにLPに解約かいやくされていたら、一番いちばんわるいタイミングで投資とうしさき株式かぶしき手放てばなすことになり、まった長期ちょうき投資とうし妙味みょうみられませんよね。その意味いみでは、長期ちょうき投資とうし実現じつげんするための環境かんきょうをつくりきるまでが、非常ひじょう大変たいへんなのではないかとおもうのですが。それが可能かのうとなった要因よういんは。

奥野おくの これはやっぱり農林中金のうりんちゅうきんが、もともとシード(事業じぎょうげるさい資金しきん)があるからですよ。いま3000おくえんですが、1000おくえん農林中金のうりんちゅうきんからですから。プロジェクトとしてげた時点じてんから、こういうてつけのプロジェクトができるとしたら、投資とうし余力よりょくからいって農林中金のうりんちゅうきんか、東京とうきょう海上かいじょう保険ほけんか、日本生命保険にほんせいめいほけんしかない、とおもっていました。これも参入さんにゅう障壁しょうへきです。

セカンダリーな投資とうし貢献こうけんとは?

朝倉あさくら すこっかけるような質問しつもんになりますが、セカンダリー市場いちば発行はっこうされた株式かぶしき債券さいけん投資とうしあいだ売買ばいばいされる流通りゅうつう市場いちばのこと。企業きぎょう株式かぶしき債券さいけん発行はっこうして資金しきん調達ちょうたつをする発行はっこう市場いちばをプライマリー市場いちばぶ)の投資とうしは、たして会社かいしゃにとってどのような価値かち貢献こうけんをしているとおかんがえでしょうか。過去かこ奥野おくのさんは、ある記事きじで「ライト兄弟きょうだい投資とうしがいなかったら飛行機ひこうきつくれなかった」というはなしをされていて、まったくそのとおりだとはおもったのですが、それは直接ちょくせつ会社かいしゃにリスクマネーを提供ていきょうする投資とうしはなしですよね。やっぱりプライマリーな投資とうしとセカンダリーな投資とうしちがうのではないかとおもいます。このてんはいかがおかんがえですか。

なぜ日本だけ、バフェットのような長期投資の大成功者がいないのかプライマリーな投資とうしとセカンダリーな投資とうしちがいとは?

奥野おくの 非常ひじょうまとた、いた質問しつもんですけれども(笑)、上場じょうじょうしていたら株主かぶぬし役割やくわりわるのか、たまたま上場じょうじょうしていただけとはかんがえられないのか、というてんかんがえてみていただいたらどうでしょうか。
 たとえば朝倉あさくらさんがベンチャーをつくって、それをだれかに売却ばいきゃくするとき、その会社かいしゃ経営けいえいしゃぬしわろうとも、現状げんじょう株主かぶぬしたいしてただしい経営けいえいをしようとかんがえますよね。当然とうぜん株主かぶぬしが「きちんと経営けいえいしろよ」とプレッシャーもかけてくる。これが、上場じょうじょうしたら関係かんけいなくなります、というほうが、わたしはおかしいようながしますね。たしかに、「○○さんがかぶっててくれるから」と恩義おんぎかんじるかといえば、なかなかむずかしい。そこは想像そうぞうりょく問題もんだいになってきます。
 そのてん、アメリカの経営けいえいしゃのほうが、そういうおんをきちんとかんじてくれますね。たとえば10ちょうえん企業きぎょうのスリーエムでも、わたしたちは微々びびたる株数かぶすうしかもっていませんが、長期ちょうき投資とうしとはビジネスを理解りかいうべきだ、ということでCEOみずからてこられます。

朝倉あさくら 経営けいえいしゃがどれだけ株主かぶぬし立場たちばおもいをせられるかということですか。
 最後さいごいちてんうかがわせてください。長期ちょうき投資とうしというのは、王道おうどうですし、ある意味いみではたりまえである一方いっぽうで、なぜそれが日本にっぽんづいていかないんでしょうか。

奥野おくの 長期ちょうき投資とうしをする場合ばあい投資とうしさきとしていい会社かいしゃえらぶのは、じつはそれほどむずかしくないおもっています。信越しんえつ化学かがくやファナックがいい会社かいしゃであることは、ともすると日本人にっぽんじん全員ぜんいんっているわけです。でも、マーケットのなみによっては、ファンドにおかねしている投資とうしのほうがえられなくなって解約かいやく相次あいつぐ、という事態じたいこりる。
 これをけるには、やはり投資とうしわたしたちの投資とうし理解りかいしてもらう」ことが大事だいじなのではないでしょうか。投資とうし哲学てつがく共感きょうかんしてもらい、投資とうしさき企業きぎょう状況じょうきょうやファンドとしての判断はんだん丁寧ていねいにレポートしていれば、マーケット状況じょうきょうがしんどいときでも、「まあこういうときだから、仕方しかたないよね」と理解りかいしてくださる。つまりわたしたちは、長期ちょうき投資とうしのできる投資とうしからおかねをおあずかりして、長期ちょうき投資とうしいている会社かいしゃにおかねあづけている、というすごくかぎられた世界せかいでやっている。かぎられた世界せかいではありますが、そのほうが社会しゃかいてきにもインパクトのおおきな投資とうしをすることができるかんがえています。