銀行・証券断末魔　その4_上

大手おおて証券しょうけん会社かいしゃが全国ぜんこくに張はり巡めぐらせた支店してん網もうと営業えいぎょう職員しょくいんが「収益しゅうえきマシーン」として機能きのう不全ふぜんに陥おちいる中なか、各社かくしゃはリストラに向むかって走はしり出だした。「銀行ぎんこう・証券しょうけん断末魔だんまつま」特集とくしゅう（全ぜん5回かい）その4は、上うえ・中なか・下した編へんに分わけてお届とどけする。今回こんかいのその4（上うえ）では、次つぎのビジネスモデルの構築こうちくに向むけてもがく大手おおて証券しょうけんの姿すがたを追おった。（ダイヤモンド編集へんしゅう部ぶ副ふく編集へんしゅう長ちょう　布施ふせ太郎たろう）

野村證券のむらしょうけんと地銀ちぎんの業務ぎょうむ提携ていけいは
事実じじつ上じょうの支店してんリストラか

　「新あたらしいかたちのリストラ策さくなのではないか」――。

　野村證券のむらしょうけんと山陰合同銀行さんいんごうどうぎんこうが8月がつに発表はっぴょうした業務ぎょうむ提携ていけいに、野村のむらで個人こじん顧客こきゃく（リテール）を担当たんとうする営業えいぎょう職員しょくいんの間あいだに動揺どうようが走はしった。

　両社りょうしゃの具体ぐたい的てきな提携ていけいスキームは、特集とくしゅうその2「地銀ちぎんの『余命よめい』ランキング、17行ぎょうが本業ほんぎょう不振ふしんで風前ふうぜんのともしび」の記事きじを参照さんしょうしてもらいたいが、野村のむらにとっての肝きもは、松江まつえ支店してんが担になっていた個人向こじんむけ営業えいぎょうを全面ぜんめん的てきに山陰さんいん合同ごうどう銀ぎんに移管いかんし、その代かわりに同どう銀ぎんが持もつ顧客こきゃく口座こうざの管理かんりを請うけ負おうという点てんだ。

　松江まつえ支店してんの営業えいぎょう職員しょくいん約やく30人にんは顧客こきゃくを抱かかえたまま同どう銀ぎんに出向しゅっこうするが、事実じじつ上じょう、同どう支店してんで手掛てがけていたリテール業務ぎょうむから撤退てったいすることになる。同どう支店してんは、名称めいしょうと役割やくわりを変かえ、金融きんゆう機関きかんなどの法人ほうじん顧客こきゃく向むけ業務ぎょうむの拠点きょてんとするものの、法人ほうじん業務ぎょうむは必かならずしも地域ちいき密着みっちゃくである必要ひつようはない。「事実じじつ上じょう、松江まつえ支店してんのリストラ。将来しょうらい的てきには撤退てったいするのだろう」と証券しょうけんアナリストは分析ぶんせきする。

　山陰さんいん合同ごうどう銀側ぎんがわも不振ふしんの証券しょうけんビジネスを野村のむらの力ちからを借かりて再さい構築こうちくするという意味いみでは、両社りょうしゃにとってWIN-WINの策さくになったといえる。

　ただ、野村のむらの営業えいぎょう部門ぶもんの職員しょくいんは、心こころ穏おだやかではない。一部いちぶの職員しょくいんは今回こんかいの業務ぎょうむ提携ていけいを「支店してん売却ばいきゃくスキーム」と呼よび、地方ちほうの不ふ採算さいさん支店してんを地元じもとの地域ちいき金融きんゆう機関きかんに譲渡じょうとする枠組わくぐみだと受うけ止とめているからだ。

　「支店してん売却ばいきゃくで済すむならまだしも、従業じゅうぎょう員いんを丸まるごと譲渡じょうとしてしまうのではないか」

　こうした不安ふあんとともに、支店してんの営業えいぎょう戦略せんりゃくを策定さくていする本社ほんしゃの営業えいぎょう企画きかく部ぶが、次つぎにどの支店してんをターゲットにするのかと疑心暗鬼ぎしんあんきが広ひろがっているという。

　山陰さんいん合同ごうどう銀ぎんへの職員しょくいん出向しゅっこうについて、営業えいぎょう部門ぶもんの経験けいけんがある幹部かんぶは「最初さいしょは松江まつえ支店してんの職員しょくいんを出向しゅっこうさせるにしても、人事じんじローテーションの中なかでどうしていくのか。さすがに力ちからのある営業えいぎょうマンは送おくれない。将来しょうらい的てきには二に線せん級きゅう以下いかにならざるを得えない」と打うち明あける。最終さいしゅう的てきに転籍てんせきを視野しやに人員じんいん削減さくげんにつなげるための布石ふせきではないかと、この幹部かんぶは解説かいせつする。

本丸ほんまるは人件じんけん費ひ、プロ採用さいようの
投資とうし銀行ぎんこうマンもターゲットに

　大手おおて証券しょうけんのリストラ策さくが具体ぐたい化かしてきた。対面たいめん営業えいぎょうの高こうコスト構造こうぞうの維持いじはもはや限界げんかいだ。大手おおて証券しょうけん5社しゃ（野村のむらホールディングス、大和証券だいわしょうけんグループ本社ほんしゃ、SMBC日興証券にっこうしょうけん、みずほ証券しょうけん、三菱みつびしUFJ証券しょうけんホールディングス）の業績ぎょうせきは、2017年ねんから坂道さかみちを転ころげ落おちるように急落きゅうらくしている。

銀行・証券断末魔その4_大手証券5社の純損益と日経平均株価の推移
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　株価かぶかが一定いってい水準すいじゅんを維持いじしていても収益しゅうえきに結むすび付つかず、金融きんゆう庁ちょうの幹部かんぶからは「もはや地銀ちぎんと並ならぶ構造こうぞう不ふ況きょう業種ぎょうしゅ」との評ひょうさえ出でる。

　野村證券のむらしょうけんは4月がつ、全国ぜんこく156店舗てんぽのうち、30店舗てんぽ以上いじょうを減へらす再編さいへん策さくを発表はっぴょう。三さん大都市だいとし圏けんにある25店舗てんぽを8月がつ以降いこう、順次じゅんじ統廃合とうはいごうする。

　三菱みつびしUFJモルガン・スタンレー証券しょうけんは8月がつ、地方ちほう拠点きょてんを中心ちゅうしんに国内こくない店舗てんぽの約やく2割わりに当あたる11店舗てんぽを削減さくげんし、国内こくない51店舗てんぽ体制たいせいにすると決きめた。みずほ証券しょうけんやSMBC日興証券にっこうしょうけんも今後こんご、追随ついずいするのは間違まちがいない。唯一ゆいいつ、相対そうたい的てきにコストコントロールがうまいとされる大和証券だいわしょうけんだけが、地域ちいきの重複じゅうふく店舗てんぽの整理せいりを進すすめる一方いっぽうで、小型こがた店舗てんぽを拡大かくだいさせる方針ほうしんを打うち出だしている。

　ただし、支店してんの統廃合とうはいごうはリストラの「本丸ほんまる」ではない。確たしかに、大手おおて証券しょうけんの地方ちほう支店してんは、すでに地域ちいきで自立じりつすることが不可能ふかのうな“限界げんかい集落しゅうらく”ならぬ“限界げんかい支店してん”であるものが少すくなくない。しかし、土地とち代だいが安やすい分ぶん、統廃合とうはいごうしても効果こうかは限定げんてい的てきだ。野村のむらの店舗てんぽ集約しゅうやく化かによるリストラ効果こうかは、営業えいぎょう部門ぶもんの年間ねんかんコスト3000億おく円えんの0.5％でしかない。

　結局けっきょく、リストラの最大さいだいの肝きもは、人件じんけん費ひにどう切きり込こんでいくかになる。だが、大だい規模きぼな人員じんいんカットができない以上いじょう、“ウルトラC”はなかなか見みつけられないのが現状げんじょうだ。

　冒頭ぼうとうに紹介しょうかいした支店してん売却ばいきゃくスキームが、他たの大手おおて証券しょうけんからも注目ちゅうもくを集あつめるのはそのためだ。

　現在げんざい、一部いちぶの大手おおて証券しょうけんが水面すいめん下かで検討けんとうしているのは、「年俸ねんぽう1億おく円えんレベルの高たかい給料きゅうりょうで引ひっ張ぱってきた投資とうし銀行ぎんこうマンをどう切きるか」（企画きかく担当たんとう役員やくいん）だという。

　「トップライン収益しゅうえきが伸のび悩なやむ中なかで、目標もくひょうにミートしない外国がいこく人じんトレーダーが居座いすわっている」（同どう）という実態じったいが、その背景はいけいにある。年俸ねんぽう制せいとはいえ、一度いちど入いれてしまえばなかなか退職たいしょくさせられないのが、日本にっぽん企業きぎょうだ。市場いちば環境かんきょうに依存いぞんする証券しょうけんビジネスだけに、人件じんけん費ひの固定こてい費ひ化かを回避かいひする手てだては、どの大手おおて証券しょうけんにとっても喫緊きっきんの課題かだいとなっている。